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在りか ~私の居場所と異世界について~  作者: 白之一果
第2章 魔女の棲み処
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第6節 商談と言う名の何かその2

ちょっとショタな萌えがあれで……。

「別に取って食べたりしないわよ。貴方達が大人しく私のお願いを聞いてくれれば、ちゃんと返してあげるわ。貴方も、ヲールもね」

「……本当で……ござい、ます……か?」

「これは決定事項だよ」

「お前が採れる行動は頷く事だけだ、フィユカ」

(そこまで言わなくても良いんだけど……)


 消え入りそうなフィユカの声に、相変わらず容赦のない精霊達が追い打ちをかける。


(これ以上萎縮されたら面倒……いや、まさか貴方達、私をからかってるんじゃないでしょうね?)


 最近はかなり私の想いを汲み取る様になって来たのだ。疑っても無理はないだろう。精霊は空気を読めないのではなく、読まないのだと。

 

(紅ならやりそうではあるけど、まさか山吹まで!?)

「トーコ様、大丈夫だよ。フィユカは神力のない唯の人だけど、これくらいで壊れたりしないよ?」


 萌黄が私の膝に跨って、耳元で甘く囁く。


(一番やりそうな悪魔がここにいたわ……)


 紅が意味なく気まぐれに嘘を吐くタイプなら、萌黄は計算しつくして全てが罠、と言うタイプである。

 だがしかし、例え性格があれでも、何故こんなに美少年は愛おしいのか。私が萌黄をきゅっと抱きしめると、萌黄も遠慮なしに首に絡み付いて来た。


(大丈夫と言うなら信じてもいい……いいかなぁ本当に……)


 うだうだ考えていると、流石に瑠璃の視線が痛くなって来た。もう少し美少年の柔らかさを堪能したかったのだけれど、仕方なくぺりっと萌黄を剥がす。


「あんっ」

(あんっ、じゃありませんわ!匂いを嗅ぐのをお止めなさい!羨ましい!!)


 瑠璃の本音ダダ漏れな心の声が聞こえて来る。

 いやいや、快楽に浸っている場合ではない。早くこの話し合いを終わらせて寝なければ。


「進めて山吹」

「畏まりました。では、合計で小金貨五枚、大銀貨四枚、小銀貨八枚ですが、この金額を魔石で支払われると言う事で宜しいですか?」

「え?そんなにするの?」


 油断していたら、素で言葉が出てしまった。多分精霊以外には聞かれていなかったのでセーフとしよう。精霊に聞かれたからアウトとも言うが。

 締めて五十四万八千円。ヤトーがフィユカの浄化出来る五百の魔石四つを、浄化代込みで十九万八千円で買い取ると言っていたのでそれくらいを見込んでいたが、予算オーバーどころか予定金額の二倍以上である。ヤトーとの約束以降にも大分金銭は使用しているし、手持ちが圧倒的に足りない。本と地図が思ったより大分高額なのが痛い。


(色を付けてとか言ってる場合じゃなかったかも)


 しかしもう遅い。小心者の私は「やっぱり無理」等とは口が裂けても言えないのだ。虚栄心もある。

 貨幣は手持ちが大銀貨二枚、小銀貨七枚、大銅貨五枚。日本円にして二万七千五百円。何かあった時の為に少しは残しておきたい。


「……それで良いわ」


 全然良くはないが。


「では、十二個浄化してもらう必要がありますね」

「!!?」

(十二個くらいなら市場に下ろしてもいい……わよね?)


 どうせ浄化させるのだし、それくらいなら問題ない筈だ。思ったより少なくて安心等と思っていると、フィユカが目を見開いていた。口も開いているし、女性としてその顔はどうだろう。十代二十代の乙女なら兎も角、流石にフィユカはいい大人だ。


「ではフィユカ、お前が本日からする事は先ず魔石の浄化だ」

「たしか一日四つは出来るのよね?なら四日……」

「トーコ様、フィユカの神力は二千程度。四つも浄化すると昏倒してしまいますわよ?その後の活動に支障が出るのは困るのでは?」


 瑠璃の指摘に蘇芳が無理矢理フィユカの腕を掴み、これから買う予定の神力計を当てて数値を私に見せる。フィユカは反射的に手を引こうとしたが、当然というかビクともしない。

 ちなみに精霊達は自力で他人の神力を大体計れるが、神力計ははっきり数値としてみられるから私としてはそちらの方が安心する。まぁ精霊達がほぼ正確に把握しているのは分かっているのだが。


「一日四つは無理か……」

「浄化させる事は可能ですが、家事の実践と、商業ギルドについての質問にも回答させるのですよね?」


 そう言えば、裁縫に料理、ギルドの規定や売買される商品リスト、季節の売値等商業ギルド関連の知識なんかも教えて欲しいと使用人達から要望が出ていた。しかしフィユカ達の滞在時間は限られている。


(作業を分担させる?でもヲールは頼りなさそうなのよね、お店の事もヤトーほど知識がない様だったし。役に立たないのなら畑組一択だけれど……)

「それに僕達とは違って神力の回復も遅いんじゃなーい?」

「…………あぁ、そうだったわね」


 持っている属性数、即ち付いている精霊の数が少ないと、それだけ大気の神力の回収が少なく、回復が遅い。私は自分でも回復が出来る上、精霊が四人も付いているので、一晩あれば全回してしまうから失念していた。一属性しか持たないミィやホノライも回復は遅いのだ。ノハヤは二属性ある分少し早い。


(私が神力分与するのはなんか違う気もするし、瑠璃も萌黄も蘇芳も嫌がりそうだし……)

「フィユカ、貴方普通に生活してどれくらいで神力が全回するのぉ~?」

「……一週間はかかります」


 流石にそれでは時間がかかり過ぎる。ここに置いておくのは二週間、十日の予定なのだが。

 紅が軽い感じで質問するのと、蘇芳が神力計を押し当てているヲールから緊張気味に目を離して答えるフィユカを見て、私はもう此方の優位を確信していた。


(フィユカの滞在時間を延ばしても問題ないかしら……)


 とても脅威になるとは思えない。そうなると、今度は何だかフィユカへの興味が薄れて行くのだが。


(『人』に興味が持てないって、ちょっと問題なのでは?)

「…………トーコ様?」


 どうしたの?とあざとく首をかしげる萌黄と視線がぶつかった。私は容易く欲望に負けて萌黄を再び抱き寄せる。


(可愛いは正義!!)


 見た目の可愛さや柔らかさだけでなく、神力に触れると安心するのだ。これで体温が感じられれば最高なのだが、精霊に人肌の体温はない。


「使用人の睡眠時間は通常の町の鐘より少し短いからな。二週間で十個が限度と言ったところか」

「補充までは回らないですわね。まぁ二つ程ならノハヤの浄化分で補えば支払いには困りませんわ」

「そうだな」


 瑠璃と山吹がサクサク話を進め、粗方の話は終わった。後は待遇をどうするかくらいだろうか。


「貴方が約束を違えなければ、二週間程度で解放してあげるわ」

「勿論、仰る通りに致します!ですから、どうか……」

「それは貴方達の心がけ次第ね」


 こんな状況になっても自分の事よりヲールを心配するフィユカに、関心を通り越して私は少し呆れた。ヲールはもう成人しているのだ。もし私に子供がいたのなら、感じ方は随分違っていたのかもしれないけれど、自分の母親なら容易に私を突き放したであろう事を考えると何だか腹が立ってきた。


「トーコ様、精霊契約はいかが致しますか」

「返す時に考えるわ。それとフィユカ、あまり余計な話を他の捕虜達としない様にね」

「…………はい」


 フィユカから、待遇についての質問は出ない。それに、帰すと言っても森に放り出されたらどうするつもりなのだろうか。ヤトー程度が迎えに来たところで、獣の跋扈する神獣の森を抜けられるとは思えない。


(どうとでもなるわね)


 そう、どうにでも出来る。私は彼女の危険度を下方修正した。どういう状況下であっても、先の事まで交渉する程度の知恵があればまだ危険と判断したに違いなかったが、その必要はなさそうだった。


(中級市民程度って言うのもあながち間違いではないのかも)


 もうフィユカは私の脅威の対象ではなくなっていた。

 それにまだ彼女には、ヨモギと対面すると言う試練が残っている。


(どんな反応をするかしら。折れて使えなくならなければ良いけど)


 流石にお荷物まで囲う余裕はない。

 元々持っていた道徳や倫理観はもう、ここまで来たら役には立たなかった。ここはもう、違う世界なのだ。


(本当に「悪役」になっちゃったなぁ……)


 人として、私は確かに変わってしまったのだ。


 こうして「商談」とは名ばかりの一方的な交渉が終わったのは、神の季節の最終日であった。

 勿論この後フィユカは予告通り光の魔石の浄化をさせられた。一つ凡そ十分。ノハヤの三、四倍はかかっていた。




 交渉の翌日、実りの季節がやって来た。第一週、神様と精霊の恩恵がある、豊作と生命の誕生の週、火の日。これから徐々に次の沈黙の季節まで、大樹から発せられるオレンジと青の光――元の世界で言うところの昼と夜――の時間配分が徐々に変わって行くのだと言う。


 この日から新人捕虜達、具体的には冒険者と木材屋達、フィユカとヲールの捕虜生活が始まった。牢に一泊した後、私の起床に合わせて他の捕虜から遅れて地上に連れ出された彼等はそのままヨモギと対面し、神獣の棲み処から逃げる事がどういう事なのかを理解させられる。


「捕虜から使用人に格上げされる様に頑張りなさい。働きによってはトーコ様から地上に部屋を賜る事もあるかもしれないわ」


 紅が値踏みでもする様に皆を眺めながら飴を撒いている。新入りの捕虜達はヨモギのお陰で殆ど聞いていなかったが、後で兵士達がいろいろ話してくれるだろうと思う。


「では早速、捕虜達を作業に混ぜても構いませんこと?」


 瑠璃に頷くと、直ぐにガダールが呼ばれた。捕虜の面倒を見させるのだ。

 ちなみに新人捕虜達はこの日の朝食は抜きである。まだ働いていないのに与える必要はないと精霊以外の使用人からも進言があったので、そう言うものかと納得する。


「では冒険者十一名は師団隊長、副隊長と手合わせし実力を見て訓練に組み込む。実力不足の者と一般市民は畑仕事に組み込むが良いか、紅」

「いいわよ~」


 許可を求められた紅は、のんびりした何時もの調子でそれに応じている。

 この時まで知らなかったのだが、どうやら捕虜のスケジュールについては紅から指示があるらしかった。その紅は瑠璃にいろいろ言われている様で、瑠璃は山吹と打ちあわせている様子だ。


 ガダールが捕虜を幾分か連れて行った後、残されたのは期待の新人、大工一名、建築加工技術者五名、家具職人三名。後はフィユカとヲールである。


「お前達、トーコ様に名乗りなさい」


 大抵傍観している蘇芳が、久しぶりに喋ったと思ったら、意外と良い事を言う。

 そう言えば名前を聞いていなかった。いつまでも技術者では呼びにくいだろう。しかし、一気に九人も覚えられるだろうか。確実に覚えられそうな少年はいるが。


「だっ、大工のナハト……です」

「建築の加工をしておりますルクスです」

「……同じく、ユグ、です」

「俺は……ヒジキ」

(ヒジキ!)

「どうされました?」

「何でもないわ山吹、続けさせて」


 確実に一人は覚えた。


「俺はキトセ、こっちは弟のココ」

「俺は、家具を作っているフェムリア」

「俺も家具職人。名前はトリトー」

「シチカだ…………です」


 精霊の目力に怯むシチカ。

 それにしても、件の少年ココは犬っぽい。名前がではなく見た目が。成人しているかどうかと言った年かもしれない。


(久々に受けキター!大勢の捕虜に紛れて今まで気が付かなかったなんて私もまだまだだわ!キトココだわこれは……いや、モブココかな?総受けだよね、あれだけモブマッチョがいるんだから楽しい事に……)

「トーコ様」

「聞いてるわよ、ちゃんと」


 久々に妄想が止まらない。瑠璃の溜息が聞こえた。


「取り敢えず、皆言葉遣いから教えた方が良さそうですわね」

「そうだな。一先ずトーコ様と直接お話しする機会はないにしても、聞かれた質問にこれでは話にならない」

「トーコ様の使用人になれるレベルじゃないね~?」


 萌黄が殊更ココを牽制している。ココはさり気なくキトセの後ろに隠れた。


(くーーー!!萌える!!)

「トーコ様!僕の方が可愛いからね!!」


 萌黄が頬を膨らませて服を引っ張るので頭を撫でてやった。それとこれとは別腹、等と思いながら。


 大工のナハトは42歳。棟梁らしい、がっしりとした身体の壮年男性である。最初は食ってかかって来ていたが、それなりに分を弁える事が出来る大人と言うイメージだ。大分不服そうではあるが。

 建築加工技術者最年長四十八歳のルクスは物腰が柔らかで、言葉遣いもそれなりに良い。技術や役割的には一級建築士、と言ったところだろうか。見た目はスポーツ経験の無さそうな「普通のおじさん」である。

 三十歳のユグはインテリアコーディネーター。少しお洒落を意識した服を着ている。ヒジキ二十歳、キトセ十八歳の二人は内装工事が専門の青年で、見習いのココ十三歳は、兄キトセの手伝いをするそうだ。

 家具職人はフェムリア三十三歳、トリトー二十八歳、シチカ二十二歳。三人とも線が細く身長は高め。シチカは悪ガキがそのまま大人になった様な印象を受けた。


(それにしてもココ!十三歳!?少年と言っても過言ではないわ!何てラッキーな!!)


 何がラッキーかはさて置き、私のテンションが上がった事には違いない。こうもマッチョな男ばかり見ていては、特別な美少年でなくても可愛く見えてしまうのだ。

 

「では蘇芳、大工と建築加工の技術者を頼む。家具職人はノハヤ、お前に任せる」

「はっ、はい!あの、よろしくお願いします」


 呼ばれたノハヤが家具職人に挨拶をする。敵の使用人が捕虜に丁寧に接するのはどうなんだろう。家具職人はノハヤを侮り、睨んでいる。


「大丈夫なの?」

「心配する事ないと思うよー?だって家の中は瑠璃の管轄でしょー?」


 まとわり付いていた萌黄と小声で話していると、指摘通り瑠璃から注意が入っている。


「ノハヤ、貴方の方が立場が上なのです。お前達も身の程を弁えなさい」


 神力に当てられた家具職人の一人が後退り、一人は足がもつれたのか尻もちを付いている。

 やはりここは完璧な階級社会なのだ。


「程々にね瑠璃。後は……」


 私は残ったフィユカとヲールを見る。


「そう言えばフィユカ、昨日捕虜と一緒に寝たのよね?」


 冒険者は全員男性だったので、フィユカは捕虜の中で唯一の女性である。女性があんなマッチョ兵士や冒険者達の中で一人……。


(トイレとかどうしたのかしら)

「あら~、気になりますぅ?昨日は寝られなかったかしらフィユカ~?」

「紅お止めなさい。貴方も仕事があるでしょう。さっさとお行きなさい。トーコ様、お気になさる事ではありませんわ」


 そう言われると気になる。

 捕虜達はガダールやヨモギによる地獄の訓練で、毎日割と力尽きている感があるし、精霊に監視されているこの状況下でそう言う問題は起こらないのではないかという気もするのだが、どうやらここは一妻多夫も一夫多妻も問題ない様な雰囲気なのである。性に対しての感覚があまりに私と違っているので、どう問題が起こるのか、そもそもそう言った事が問題になるのか判断がつきかねるところではある。


「……風紀が乱れそうだから、フィユカは部屋を分けるわ」


 ヲールが途端に悲壮な顔をする。


(えぇー個室用意して責められるのー?)


 後から聞いたところによると、トイレについてのみミィにお願いがあったらしい。お風呂については元々平民が毎日入る習慣がなかった為か、水で体を拭く程度でも不満は特にない様に見受けられたが、私は瑠璃を通じて使用人トイレの使用と、瑠璃の神法による簡易風呂を半ば無理矢理許可した。

<現時点でのトーコさんの資産> 主に作者のメモ欄


 ・魔石 

  光「500/500/100」×36

 ・神石

  火「0/460/100」×20、「0/430/100」×5、「100/250/100」×10、

  水「0/460/100」×20、「0/430/100」×5、

  風「0/460/100」×20、「0/450/100」×1、「0/430/100」×5、

   「100/250/100」×10

  土「0/460/100」×20、「0/430/100」×5、「250/250/100」×10、

  光「500/500/100」×23、「0/460/100」×11、「0/430/100」×5

 

 ・大銀貨2枚、小銀貨7枚、大銅貨5枚(=27,500円)

 ・負債(未払金)548,000円


 ・白亜の屋敷、材料の白い石

 ・労働力

  精霊6、従業員4、ペット1、その眷属100

  捕虜91(内師団48、冒険者11、木材屋32)

  大工1、建築加工技術者5、家具職人3、一時預かり2


 ・自作の教本(一般常識、貴族教養)

 ・本

  レザーヌの歴史書、グリーセントメリベと神獣の本、神と精霊の絵本、律法、

  アルゼンナーエ中央都市学院教本「教養」「神法」「剣術」「騎士養成」、

  冒険者用の森探索の心得を纏めた本 等


 ・レザーヌ領の地図

 ・神力計(一般的な11桁表示「00000/00000」)


 ・衣料品(平民服、上等な服、外套など一式。靴、鞄等)

 ・その他裁縫道具、布、カレンダー等の雑貨

 ・食料、茶葉、塩(岩塩モドキ)

 ・調理器具(鍋、フライパン、包丁等)※紅が生成可能

 ・食器、家具類 ※ノハヤを中心に木材を加工して自作中 

         ※水の神法でも作成可能

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