第3節 再会と木材屋集団失踪事件
6/23 タイトルの漢字を間違えておりました。
ヤトーとの約束の日は、奇しくも神の季節の最終日、第十週の光の日であった。
日本で言えば夏に相当する神の季節は大樹のオレンジ色の光が最も長い季節で、次の実りの季節を経て沈黙の季節が訪れる頃には、青い光の時間と丁度反転すると言う。
但し光は光なので、幻想的な時間が長くなるだけで、新月の様に暗くなるという訳ではない様だった。
さて、その日は我が家に初めて正式に来客があると言う事で、従業員一同それなりに緊張して朝を迎えた。
「トーコ様ぁ、おはよぅ」
(…………いや、これに緊張感とかないわ……)
平然と私の隣、毛布の中から萌黄が姿を現す。
「……出なさい、萌黄」
「えぇぇ」
(あざといくせに可愛いんだよなぁ)
何時ものやり取りと共に目覚めのお茶を済ませ、サクッと山吹と本日の予定を確認した後手短に朝ごはんを済ませる。とは言っても、私と蘇芳がここを離れると屋敷は白い粉に戻ってしまうので、屋敷の中の物の移動で何時もと同じくらいの時間はかかってしまった。
「忘れ物はないよね~?」
「はい。水も満タンですし、問題ありません」
「でも早く帰って来て下さいね」
ミィが可愛い事を言う。
当初出かける時に問題だった水は、瑠璃に海水を生成させ真水を作らせ、ホノライ作の水瓶に貯め置く事でクリアした。どうせ一日もせず返って来るのだ。真夏日という訳でもなし、衛生面でもそんなに心配ないと思う。そもそも町では井戸で生活している世界なのだ。
因みにトイレ用にバケツにも沢山水を汲んでいる。
そこまで確認して、漸く木材団地に向けて出発である。
「そう言えば待ち合わせの時間決めてなかったよね?」
「左様でございますか」
聞いておりませんでした、と山吹が抑揚のない返事をする。
家から団地までは精一杯飛んでもかなりかかる。今からだと確実に三の鐘は回るだろう。それでも馬や馬車で行くよりは遥かに速いのだが。
「待たせておけば良いのですよ。トーコ様がお気になさる事ではありませんわ」
頷く精霊達は相変わらずである。でも今は時間が惜しいので反論しない。ヤトー一家が約束を重く受け止めて日付が変わる頃に来ていたら申し訳なさ過ぎる。
来ていない、と言う選択肢はそもそも存在しないだろう。他人の精霊を体内から無理矢理引っ張り出して強制的に契約を結ぶ様な輩に逆らったらどうなるか、彼等だって分かっていると思う。
(ちゃんと私に物資を届けたら首輪もその内外すって伝えてあるし)
これは精霊契約の範囲外のお願いなのだが、そんな事彼等には分かるまい。ばっちりかかった保険に、あの時の自分を褒めてあげたいくらいである。
「良いからサッサと言って帰って来よう。私だって暇じゃないし」
「はーい!」
運良く?私に付く日だった萌黄が軽快な声を上げる。まぁ紅の番だとしても駄々をこねて変わるに違いなかったが。
「じゃぁ紅、申し訳ないけど後頼むわね」
「お任せ下さい」
何時もの様に文句も言わず留守番を引き受けた紅に微笑みつつ、ヨモギもね、と彼の頭に手を置いて少し神力を流す。
十分言って聞かせているのでないとは思うのだが、途中でお腹が空いて捕虜を食べられては敵わない。ペットのする事だ。何があるか分からない、と言う体でリスクヘッジしておく必要がある。
「狡いですわ!」
「僕も僕も!」
「駄ぁ目」
「えー」
気持ち良さそうにするヨモギをポンポンと叩く。騒いでいる萌黄と瑠璃は無視する。私の神力は美味しいらしいので多分欲しいのだろう。
しかしヨモギと違って彼女達は私と器を共有しているのだ。与えても神力はただ私達の間で循環するだけ。それが気持ち良いとか言われると、何だか変な趣味に目覚めそうなのでご褒美以外では上げない事にしている。
それが終わると、私達は従業員と捕虜達総出の最敬礼を受け、森に道を開いた。
今回は土で道を作りつつ、最近編み出した水と光の複合技「光学迷彩」を使用して姿を隠し、更に風を使って飛んで行く事にしている。
いつ脅威が現れるとも限らない、神法や神石と言った不思議アイテムがごろごろ転がっている世界だ。移動時間も無駄には出来ないので、この時間を神法の並列処理の訓練に当てる。
私にとって身を守る手段の確立は、まだ常に高い優先度を誇っているのだった。
(まぁ今は精霊の調整の補助がないと出来ないけど、これで少なくとも人の目から逃げる算段は付いた。後は…………紅と山吹がなぁ)
ちらりと山吹を横目に見やる。彼の性格はまだ掴み切れない。
一番落ち着いていて、人種のTPOに合わせて発言も出来るし、使用人に対しても言葉は丁寧だ。
しかし如何せん、自己主張が乏し過ぎるのだ。
(瑠璃と萌黄は分かり易く主張があって損をするタイプ。蘇芳は素直に口に出さない分私の罪悪感を煽るけど感情は駄々洩れだし……)
だから彼女達はある程度コントロール出来る。
一方紅はと言うと、昨日の下げ渡し発言で信頼度パラメーターが急降下していた。彼女は割と最初から文句も言わず私の意図を汲んでミィを守ったりしてくれていたのだが、裏を返せばそれは、瑠璃達とは違って私もミィも大差ない生き物として認識しているのかもしれなかった。
落ちてしまった信頼と言うのは中々どうして、元には戻らない。そこは精霊も人も何ら変わらない。
(まだ時間が必要だよねぇ……)
人を見る目だって大して持ち合わせていないのだ。会って間もない精霊をある程度コントロール出来そう等と烏滸がましい事を考え、私は何様だと思いながら皆に声を掛けた。
「じゃぁ行って来るから、留守番よろしくね」
「「「はい」」」
使用人達の声とガダールが頷くのを確認し、私達は屋敷を後にした。
私達が森へ入ると、門や橋になっていた木々が所定の位置に戻り、広場の外壁を埋める。更に森を進むと何れ神法の効果範囲から外れ、屋敷は白い粉へと戻るだろう。
この「神法の効果範囲」と言うのは、私と精霊が離れられる距離でもある。私達「人」は、精霊がこれ以上離れると光に還るらしい。
(多分精霊が行う神力のコントロールって、神法の発動だけじゃなくて何らかの生命維持活動も担ってるんでしょうね。異世界人の私がこの原則に当てはまるのかは分かんないけど)
勿論その真偽を確かめた事はない。怖くて出来ない。
そんな事は良いのだ。重要なのは、この範囲が器の大きさに比例すると言う事である。
「神力の器を増やせればいいのに」
少なくともグリーセントメリベをカバー出来るくらいあれば、後二人は屋敷に残せた。木材団地へ行く程度で四精霊も随伴させるのは、どう考えても過剰戦力なのだ。
(繋がってれば精霊の状態もいる方向も何となく分かる様になって来たし)
その精霊を介して間接的に拠点の状況を把握出来れば、面白い事優先の紅やヨモギが勝手な事をしない様に見張る事くらいは出来るだろう。
他にも、精霊と離れる事でその属性が使いにくくなったり、効果範囲を離れ過ぎて光に還るという最悪の事態も緩和出来る。
精霊と離れられる距離が増えれば、アカリ・アリサカの精霊ミドリの様に偵察に出したり、二手三手に分かれた攻撃など戦術の幅も広がると言うものだ。
「難しいですわね。器は生まれる時に決めてしまいますし」
「そうなんだよねぇ」
この世界の生命の器は精霊が作る。ただ、異世界生まれの私の「生まれた時」と言うのが一体いつなのかは不明であった。
(最有力候補はあの神に落とされた時だけど……)
神の器と評される私と器を共有する精霊達の神力は他の人より遥かに大きいが、それでもグリーセントメリベをカバーするには到底及ばない。
離れて壊れた屋敷を再建するのは直ぐだが、それでも家具や捕虜を移動させたり、その間の従業員達の棲み処をどうするかという問題はずっと付きまとうのである。
この世界へ来て雨なんか一度も降っていないし、そんな日はないとも聞いている。庭には影も出来るし、今のホノライとミィの技術があれば、紅に森から木と植物を伐り出して来てもらい簡易のテントくらい作れるだろう。万一夜を越す場合は、ヨモギが体を丸めて囲い守ってくれもする。
しかし、やはり家があるという安心感は手に入れたいと私は思っている。
「家の建築も自前で出来ればいいんだけどね」
「まだ無理だよ。トーコ様構造計算とか出来ないじゃん」
「……良くそんな言葉知ってるな。この文化レベルでそんなものあるのか?」
「何―?」
「何でもない」
どんどん後方へ消えて行く広場を想い呟く。
一度はエルザーニスに大工を頼みかけた事を思い出す。結局彼等から供されるものなど何一つ信用出来ない事に気付き諦めた住宅の建設。あんな事は恐ろしくてもう出来ない。彼等から物を受け取るとすれば、それはもう強奪した物品か何かだろう。
飛行する事にも慣れて来た。酔う事はもうあまりない。過ぎて行く木々の向こうに獣がちらほらと見える。
私達にとって魔物は生活費を生む金の卵、獣はお腹を満たす食糧であって既に脅威ではないが、グリーセントメリベはそもそも神力の乏しい人々にとって踏み入ってはいけない場所であった事を再認識する。
ここは結界がなくなった今でも、未だ危険で神聖な森には違いないのだ。
(そう言えば、前はお金なくて冒険者になろうとしたんだっけ)
冒険者ギルドを思い出す。異世界なんて信じていなかったくせに、よく考えればギルドを見て冒険者になろうとする程度に私の脳は侵されていた。
しかし、あの頃と状況は変わった。冒険者になれば薬草や獣の売買、冒険に必要な知識の指南等受けられるが、それが今優先事項かと言われればそうではない。
(ヤトーみたいな便利な行商人さえいれば、取り敢えず現金も食料も確保出来るし)
後はギルドの有用性と人の中へ飛び込んで我が身を晒す危険性を天秤に掛ければ、町へ行く必要性をあまり感じない。
(あ、でも光と水がもっと上手く仕えれば、神力計を誤魔化せたりしないかな。若しくは風で町の人やギルド職員の方をどうにかして誤魔化せば……)
私はそこまで考えて、思考を止めた。
必要に迫られた時の為に認識阻害とか、偽装する系の神法を練習するのは有意義だろう。しかし人の心を操る神法は本当に最終手段だ。
心理学は比較的好きだったけれど、神の法でそんな事が自在に出来たらそれこそ、私は人が信用出来なくなってしまうと思う。
そもそも人や町との接触で、自分より器が大きいかもしれない最重要危険人物アカリ・アリサカに情報を与える機会を増やす事は、自殺行為だと思えた。
私達が森の入り口に到着したのは、予想通り三の鐘が鳴って少し経った頃だった。
丁度飛びながらミィの持たせてくれたサンドイッチを頬張り、瑠璃の入れてくれる紅茶を飲むと言う荒業をこなし、満たされたお腹を擦っていた時である。
「トーコ様、流石に見た目が見難いですわ」
精霊に所作を注意され、口元を拭われる。
行儀が悪い、ならまだしも、何となく引っかかる言い方である。
「飛びながら優雅には無理」
「無理?」
「…………努力する」
「それはご立派です」
走り込みの時間に鬼軍曹と化す蘇芳を一瞬思い出し、私は特に裏もなく聞いたであろう山吹にそう返す。最後の言葉も多分嫌味ではないのだ。隣で瑠璃が満足そうに微笑んでいるところを見ると、この回答は正解だったと言える。
「トーコ様、ヲールがおりましたわ」
「やはりもう来ていたか」
「当然だ」
「トーコ様をお待たせしたら僕がただじゃ済ませないからね!」
精霊達の誘導で、体調の悪そうな顔色のヲールと傍に座ってその背を撫でる女性を発見する。恐らくヲールの母親、ヤトーの妻であろう。
それにしても、二十代男性を撫でる四十代後半の母親の図は、あまり外で見るものではない。
(過保護な。あれじゃ自立出来ないんじゃないの?一人っ子かしら)
幼い頃から割と放任が基本生活スタイルだった私には、何だか違和感を覚える光景だった。
私達は姿を隠したまま木材団地へ侵入した。
「じゃぁ手筈通り、このまま私が光学迷彩を広げて二人と荷馬車を囲むわ。瑠璃は二人の視界を遮って、萌黄は浮かせるのを補助してね」
「畏まりました」
「はーい!」
ここで姿を現す必要はない。事情を知らない団地にいる木材屋や冒険者に知られずにこの場を去りたいのだ。
「蘇芳は森の道を開いて全員が入ったら直ぐ閉じて、山吹は周りの警戒を……」
そう思っていたのに。
「お待ち下さい!!」
二人を光学迷彩で覆った途端、とても大きな女性の声が団地に響き渡った。
その声で示し合わせたかの様に、木を切っていた木材屋が手を止め、ログハウスの中にいた冒険者までもが外に出て一斉に此方を見たのである。
その手には各々武器を持っていた。
(何事!?)
異様な空気が流れる。私はその瞬間に思い出した。最初の村で見た、悪夢の様なあの光景を。
武器を持った大人達が詰め寄り、私を取り囲む。村人に襲われ、逃げ惑う恐怖。そして、彼等を光に還す私自身。
身体が震えた。体温が一気に下がり、冷汗が伝う。
「トーコ様!」
私を呼ぶのがどの精霊の声か判断すら出来ない程、私は凍り付いていた。
イメージと意志の強さで出来ている繊細な神法は、私の精神の崩壊と共にあっけなく形を失くす。
「トーコ様、落ち着いて下さい!大丈夫です!!」
光学迷彩が解けると同時に辺りは風が荒れ狂い、木材団地を人ごと空へ舞い上げる。
蘇芳から生える細い土の帯が網目の様に交差し、落ちてきた人々を次々とキャッチして最後に口を閉じる。
背後で轟音を立て避けるログハウス。それが落下し、辺りには瓦礫の山が出来上がる。
最後に完全に球体と化した土の網が重力に従って真下の地面へボトリと落ち、転がった。
遅れて人々の悲鳴が木霊した。そんな目の前の光景は、私の目には映らなかった。
私が状況を把握したのは、私を抱きしめる瑠璃の感触が伝わって来て、山吹の温かい光で包まれ徐々に治まる動悸を自覚した後だ。
その頃になって漸く私は、皆の視線がヲール達から自分達に向いている事を知った。
(あー…………またやっちゃったんだ……)
時既に遅し。壊滅した木材団地と共に目に飛び込んで来る唖然とした冒険者達の表情。怯えて震える木材屋達の小ささに、私は自分と一体何が違うのだろうかと一瞬考える。
蘇芳が手慰みに球体を転がしては、中の人達が慌てふためくのを楽しんでいる。
「……止めて蘇芳」
「はい」
蘇芳が私の小さな声も聴き取って素直に戻って来ると、漸く山吹の癒しの光が薄らぎ、瑠璃が私を離した。それでも守る様に私の傍に立つ。萌黄も私の手を握っている。
「こんな予定じゃなかったんだけど……」
「でもトーコ様を傷付けたもん!」
風を起こしたのは私ではない。萌黄である。暴走しそうな私の風の神力は、萌黄によって抑えられていた。多分ヲール達に危害が及ぶのを防いだのだ。
その上で萌黄は他の者達を攻撃した。
「そうですわ。当然の報いです」
「きちんと彼等の生は留めました」
「結果としてはトーコ様のご希望にも沿うかと思いますが」
精霊達はこの結果を当然と見ている。私が精神的に追い詰められたのは、彼等に攻撃されたからだと思っているのだろう。
そして精霊達は、私がこうした戦闘時に彼等にお願いした事はきちんと守った。何も言わなくても光に還さなかった。
だからと言って私が望んでいた結果では決してない。この精霊達ならもっと上手くやれた筈だ。
(いや、そんな指示しなかったもんね……これは私が悪い。仕方がないんだ……)
私は精霊達に、他の人に見つからない様にこっそり二人を連れて来たいとは言わなかった。光学迷彩で姿を消して、二人を森へ招待するという具体的な方法を示しただけだ。
そして音や声を遮断しろとも言わなかった。これは単純なミスである。
それで意図が伝わったと思い込んだ私が悪いのだ。
そもそも人間を何の脅威とも思っていない精霊に、隠れてこそこそする意図を汲み取れと言うのは無理な話かもしれない。
私を守る事を最優先し、私のお願いに忠実に動いた結果こうなってしまったのだから、ここで憤っても仕方がないのだ。
(はぁ…………)
「トーコ様?」
「…………何でもない。取り敢えずどうしよう、あれ」
浮力が急に切れて地面に投げ出され、尻もちを付いているヲールとその母。此方はこのまま荷馬車ごと屋敷へご招待するので良い。
問題は残りのあれ、網目の球体の中の木材屋と冒険者達である。
「光に還さないのなら、全員契約して有効活用致しますか?」
(有効活用の方法が咄嗟に思い付かないわ)
山吹は何か案があるのだろうか。何せ人数がそれなりにいる。ざっと見て五十人程は。
それに木材屋と世襲の冒険者である。エリート集団の師団ですら神力四千五百前後。有効活用どころか森の中ではお荷物である。
「…………もしかして、建築の知識があるんじゃ」
今まで見たこの世界の建築物は、石造りや、煉瓦と木が合わさったものだったが、これだけ森の木を切っているのだ。木造建築だってあるに違いない。
「ナイスよ山吹!」
「お褒めに与り光栄です」
「でも契約まで必要ある?」
正直面倒だ。あれは一人ずつしか行えないし、精神的な疲労もある。
「連れて行きさえすれば他の捕虜と同等で問題ないのでは?」
「そうよね!?」
欲しい答えをくれた蘇芳を撫でつつ私は満面の笑みでそう答え、気を取り直して網の中の木材屋に話しかけた。
「この中で家を建てられる者はいる?」
勿論そんな唐突な質問に最初から答える人物はいなかったのだが。
「トーコ様がお聞きになっているのに、どうして答えが返って来ないのかしら」
「光に還りたいのか?もっと転がすか?」
「このまま答えないなら、また空へお帰り頂くかもしれないな」
「僕お手玉得意だよ!」
睨みを利かせる精霊と、転がされる球体に恐れをなした者達が徐々に話し始める。
虚勢を張る一部冒険者もいるにはいたが、些細な事である。
「トーコ様のご希望に沿えるなら、それなりの待遇にもなるかもしれないよね?」
「捕虜となるか使用人となるかはそれぞれの能力によるぞ?」
畳み掛ける精霊の言葉に、最終的には家具職人三名と、建築や加工の知識、技術がそこそこありそうな木材屋が五名、そして偶然取引先の伐採現場を見学に来ていた大工一名が見つかったのである。
元々木を伐採する目的でここに来ている集団なのだから、この成果は上々ではないだろうか。
(でも敵の前で主人の名前を連呼するのはそろそろ止めさせないと不味いかしら)
そんな訳で結局私は、そこにいた全員を家へ連れ帰る事にしたのであった。
正直に言おう。この時私は舞い上がっていた。出来ないと思っていた我が家の建築の目途が立ったのである。
私はウキウキと網の中にヲール達を放り込み、申し訳程度に瓦礫を粉砕して片付けた。そして大地を整地し直し、意気揚々と帰路に付いたのである。
そう、私はこの後それがどんな事になるかこの時考えもしなかったのだ。
この日、木材団地から人が消えた。建物も跡形もなく消えていた。
調査の結果、失踪した木材屋と冒険者は五十二名に上った。現場から見つかったのは、切り倒そうとしていたのだろう、森の木に刺さったままの斧が唯一本のみ。
戦闘の後もなく、何か自然災害的な事象が発生したのだと、後に調査隊は結論付けた。
事件の発覚から少しして、その場所には新たな建物が立つ。それは木材屋や冒険者が寝泊まりする小屋ではなく、警備兵の為の割と立派な駐在所であった。
そして元々結界があった場所には高い柵が張り巡らされ、森のへ唯一の入り口である門は綺麗に整備されて、大きな看板が建てられた。
看板にはこう記されていた。
『魔女と神獣の森。何人も立ち入るべからず。いかなる理由があろうともこれを侵したものは厳罰に処す。レザーヌ領四代目領主エルザーニス・R・ランファレ』
トーコがこれを知るのはもう少し先の話である。




