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在りか ~私の居場所と異世界について~  作者: 白之一果
第1章 旅の始まり
46/67

第45節 魔女ファミリーの反省会

本日3節更新(予定)。このお話はその2節目です。

 ガダールを先頭に、エルザーニス達領主一行が門を出て行く。

 既に四の鐘が鳴っている。これから暗くなるのに、徒歩でろくな武器も持たず獣の散開する森を歩き通すのは大変だと思う。しかし、送ろうと言う申し出をエルザーニスは断ったのだ。


「貴方がここに住まうなら、我々は正確な位置を把握しなければなりませんので」


 正直にそんな事を言われてはどうしようもない。

 攻め込む為の道を記録するつもりかもしれないし、私達の神法で送られる事への不信感も勿論あるだろう。

 私達の住居を永久に不可侵領域にしてくれるとは流石に思っていない。

 最後にもう一度精霊を呼び出そうと、今度は自分でトーダリィに干渉してみる。その瞬間伝書鳥が一際大きく鳴いて精神統一を邪魔してくれた。


 結局精霊契約には持ち込めないまま、整列したエルザーニス達の前に蘇芳が橋を架ける。立ち並んでいた巨木が脇に避け、門が出来る。

 ゆっくりと、その橋の丈夫さを確かめる様に慎重な彼等が通り過ぎると、巨木は寄って自然に閉じ、私達は元の静寂を取り戻したのである。


「トーコ様ぁ、結構良い金が取れましたわ~。これ私が貰っても宜しいかしら?」

(…………静寂とかなかったわ)


 紅がここぞとばかりにおねだりして来る。締め出したのを根に持っている様だ。


「好きにしていいわよ」


 どっと押し寄せる疲れに、最早抵抗する気力などない。

 庭にはまだ、鉄格子の檻に入った捕虜がいる。


(あー……本当に余計なものを手に入れちゃったわぁ……)

 

 目を背けたい。


「蘇芳、紅。彼等を牢に戻して。その檻は……蘇芳、保管しておいてくれる?何かに使えるかもしれないわ」

「「畏まりました」」


 兵士の力ではどうにも出来なかった檻だが、紅が触れると簡単に形が変わる。適当に液状化したそれを、蘇芳の袖に流し込む。いろいろ大丈夫なのだろうか。まぁ心配してもどうしようもない。精霊達が平気そうだから良い事にしよう。


「紅、その食糧は捕虜達のにするから檻の中に全部入れておいて。それで暫くは持つでしょ」

「あら、折角集めましたのに?」


 毒でも入っていたらと思うと、自分の口には入れたくない。

 疑心暗鬼になり過ぎているかもしれないけれど、今は無理だ。


「ミィ、食事は私達の分だけ用意すれば良いからね」

「はい」


 ミィも疲れたのだろう。力なく頷いた。

 さっきまで来ていた上等なメイド服が、いつの間にかブランケットの貫頭衣に戻っていた。

 屋敷へ戻ると、漸く皆寛いだ様子を見せた。


「どうなる事かと思いました」


 やけに実感の籠った声のホノライ。


「本当にね」


 執務室に全員で座り、お昼寝から起きていたノハヤが準備していた夕食を食べながら反省会が始まった。


「本当に返してしまって良かったのですか?」

「良いのよ。あんなのを飼うだなんて危なすぎるわ。食事や部屋だって与えなきゃいけなくなるし」


 飢えて私の手にすがり付くエルザーニスを想像してしまった。良い。凄く良い。


「部屋?」

「こっちの話……じゃなくて、大体何で精霊を呼び出せなかったの?器は私達より小さかったんでしょ?」

「そうですわね。でも確かに弾かれましたわ」

「私も干渉出来ませんでした」

「僕も~」


 どうやら精霊達は勝手に向こうの精霊を呼び出そうとしていた様である。


「何でだと思う?」

「人種は小細工が上手ですもの。何かよからぬ神法でも籠めたアイテムを所持していたとか」


 組み替える紅の足に視線が行く。そう言えば前に金縛りにあう神法の手紙を掴まされた事があった。


「大きな神力を持った相手が向こう側にいると言う事も考えられます」


 蘇芳の発言に、萌黄の目がギラッと光る。これは非常にまずいのではと思ったが。


「そんなのいないって知ってるでしょー?」

「まぁそうね」


 自ら否定して輝きを失う黄緑の瞳。


「そう言うの分かるの?」

「生命は私達が器を創造しますもの。大樹から生命を生む為に貰う神力は決まっていますから、大体の限界値は…………そうですね、ヨモギ程度ですわね」

「でもトーコ様みたいに急に現れるって事もあるかもしれないわよ?」


 確かに、召喚や転移で異世界から呼ばれただろう私は特殊だ。日本では一大ジャンルが出来る程蔓延っているが。


「そんなの例外中の例外でしょ?いっその事全員光に還しちゃえば良かったのに」

「冗談止めて萌黄。更に面倒なのに目を付けられでもしたらどうするの」


 まだアカリ・アリサカやミゼア・セラドニの情報は何一つ手に入れていない。今は何事も穏便に済ませておくのが一番だろう。


「え~?そんなのいないし、いたら支配でも何でもすれば良いじゃない」

「私は世界征服したい訳じゃないのよ」

「何でー?」

「何でって……」


 萌黄だけではない。心底不思議そうな精霊達。あろう事かホノライ達人間側まで驚いた顔をしている。納得いかない。


「征服して人間全部の面倒見るの?それ何が楽しいのよ。疲れるだけ……寧ろ苦行でしょ。私は貴方達の事を考えるだけで精一杯なのに」

「僕達だけ?」

「そうよ」


 物凄く嬉しそうだ。皆が尻尾を振る子犬の様に見える。


「でもさぁ、トーコ様ってば涎はないよねぇ。何エルザーニスに性癖見破られてんの?」

(性癖!?)


 あどけない顔でそんな事を言う萌黄。口からお茶が出てしまった。


「流石に私もどうしようかと思いましたわ」

(瑠璃まで!)


 言葉とは裏腹に、嬉々として私の口元を拭う瑠璃。


「確かにあの場であの表情と言動は場違いだった」

「エルザーニスも領主に有るまじきあざとさだったけどさぁ」

「それにまんまとかかって」

「本当に、そう言うところだけ欲望に忠実と言うか?」

「悪かったわよ!!」


 言いたい放題言わせておけば。と言っても私が醜態を晒したせいなのだが。


「次からは気を付けてよねぇ」

(次があってたまるか!)


 目や心の保養的には嬉しいが、こんな神経を擦り減らす会談など二度とご免である。

 これ以上旗色が悪くならないうちに話題を変えよう。


「それより結界石ってさ、そんなに凄いものなの?」

「私もまさか領主様が捕虜の命と天秤にかけるとは思いませんでした」

「私も優れたお人だと聞いていましたのに」


 ホノライとノハヤが乗ってくれた。流石は大人。


(それが本当なら何か向こうにも事情が…………あれ?何も捕虜の命と秤にかける必要なくない?)


 ふと思い付く。別に捕虜と交換するのは石ではなくて、他のものでも良かった筈だ。パンの木や食料以外の物資、例えば家財道具や鉱物など、身体に害がなさそうなものを要求しても良かった筈だ。

 ここにもう人を入れたくなければ、森の入り口まで取りに行く事も出来た。


(テンパってたにしても、もう少し冷静に話を勧められなかったの?)


 俯瞰して臨む為に瑠璃に会話を任せたと言うのに、思い返せばボロボロである。今更ながら良い様にあしらわれた感が半端ない。流石は交渉官と言うか。


(私が浅はかだっただけか……)

「……もぉ、瑠璃もホノライも全然役に立たないじゃない」


 自分の事を棚に上げ愚痴を溢す。


「あら、そんな事ありませんわ!気後れするトーコ様の代わりに沢山お喋りしたじゃありませんの!人種にも完全に合わせて、私ったら優秀だと思いますわ。褒めて下さいませ!」

「ホノライには無理じゃないの~?エルザーニス何かしてたっぽいし」

「何かって何よ」


 勝手に私の手を頭に置いた瑠璃をなし崩しにもしゃもしゃ撫でながら、私は萌黄を睨む。


「さぁ?よく分かんないけど神力が漏れてた。ねぇホノライ」

「はい。その、領主様から言い様のない圧を感じまして」

(何だそれ)


 ホノライも緊張で我を忘れていたのだろうか。


(そんなの私も一緒だよ!)


 でも子供みたいだからこれ以上言うのは止めよう。ミィがいるから何となく。


「そう言えば瑠璃、エルザーニス達の神力の話だけど、五千だっけ。精霊は弾かれたのに良く読めたよね?」


 トンっと瑠璃の頭を突き放して手を戻す。瑠璃が名残惜しそうに此方を見ている。


「そうですわね。それは器に直接干渉して大きさを調べたのですけれど…………そう言えば内には少し空きがある様でした。蘇芳の箱の中で騒いでいた様ですので、その時使った神力分、内部に空きが出来たのでしょうね。何かに阻まれたので空きがどれくらいかははっきりしませんでしたけれど」


 精霊は器の中。恐らくその阻んだ何かの先にいたのだ。だから彼等の精霊を呼び出せなかった。


「自動回復は?」

「しておりませんでした」


 器が大きければ精霊が外に出る事が出来る。精霊が外に出ていれば、神力は自動的に回復する。精霊が大気の神力を集めコントロールして取り入れるからだ。

 器の中にいる精霊は、生命の意志が強過ぎて、生命が眠っている間しか大気の神力とコンタクトが取れない。だから器の小さな生命の神力は眠らないと回復しない。


(回復していなかったとなると、精霊が何処かに隠れていた訳でもなさそうだし、彼等の器は本当に小さいのね)


 人間の頂点にいるガダールでもその程度だ。


(だったらこの世界の人の神力だけなら大した脅威にはならない?)


 ちなみに神獣であるヨモギは精霊が外に出ているので自動回復能力がある。但し精霊の人数が少ないので私の器と比べると格段に回復は遅い。


「器が小さいから神法で攻撃を仕掛けて来なかったのかな?ガダールがちょっと何かしようとはしてたけど」

「そうです!全く油断も隙もない!」


 蘇芳が憤慨している。自分はきっちり仕掛けておいて良く言う。


「攻撃でなくても精神操作系の…………もしかして使われてた?」

「そんな事はありません。まぁ愚かなりに敵わない事が分かったのでは?」

「そうなの?」

「さぁ、どうでしょう?」

(そこは肯定してくれないのね)


 もしそうなら何を以て此方の器を判断されたのだろう。まさかキーニーズの報告書だけを鵜呑みにした訳ではあるまい。見捨てられた事からも、キーニーズがそれ程信用を得ている人物とは思えない。


「神力がバレる様な事したかな?神力計は近くになかったと思ったけど」

「ヨモギがいるではありませんか」

「あー……」


 神獣を従えている時点でアウトか。


「もしヨモギを倒そうと思ったら、どれくらいの神力がいるの?」

「少なくとも十万は必要かと」


 絶望的である。


「いや、二、三十人いたら勝てたんじゃない?」


 因みにエリート集団第八隊の平均値は四千六百、近衛師団の平均値は四千三百程度との精霊からの申告である。


「どうでしょう。神獣を攻撃するなど出来るでしょうか。精神的にストレスがかかれば威力も落ちますし」

「ホノライは槍で突き刺してたじゃない」

「あれは修行ですので」


 流石、調教されているだけの事はある。紅が誇らしそうにこっちを見る。


(でもそれって、人間置かれた環境によっては神獣も攻撃出来るって事よね)


 捕虜達がヨモギに耐性を付ける前に何とかしなければ。


「ヨモギは兎も角、人同士ならそんなに神力いらないんじゃない?普通の戦闘って神法で攻撃したりしないの?」

「さぁ?」

「どうかしら」

「しますよ。人種の戦争は少しの拙い神法と、大部分の武器での攻撃で成り立っていますもの」


 戦いに関してはやはり紅が詳しい。精霊にもやはりそれぞれ個性があり、―ー大樹から驚くべき視力で下界を覗き見て―ー興味のある事だけを覚えている様で人としての知識にはとても偏りがあるのだが、流石は武を司る精霊と言うべきか、紅の興味はその方向にある。

 まぁ精霊達はそもそも特定の生命にあまり興味がない。私がここへ来るまで三百五十年間もあったのに、生命の中に閉じ籠っている期間が長くて外の事を殆ど知らないくらいなのだから、少しでも人間の事を知っていると何だか凄く理解がある様に感じる程度には、私も精霊に慣れて来た。

 因みに知識の精霊である瑠璃の知識とは、主に精霊や神力等の神に由来するこの世の理についてであって、人間社会の知識ではない。


「人同士でなくても、魔獣とか獣相手でも神法で攻撃したりしますよ」


 紅の返答よりも、人への理解に嬉しくなって頷き返す。

 精霊の回答が一段落すると、回答権はホノライ達に移る。


「トーコ様の様に人を光に還す強い攻撃でなければ、神力消費が千程度の神法でもかなりの攻撃力が見込めます。小規模なものなら五百程度でしょうか」


 流石は元軍人である。


「そんな単位じゃ神力直ぐなくならない?」


 ホノライの神力の器は三千六百。戦闘時に七回、大きな神法なら三回しか使えないと言う事だ。ノハヤは三千五百、ミィに至っては二千しかない。

 戦争も戦も経験した事がないが、そんな回数しか攻撃しないものなのだろうか。

 更に器の小さいメルイド達の様な町人は、殆ど神法の攻撃等出来なくなってしまう。


(あーだから討伐とかに冒険者を雇うの?)

「私は神石で攻撃の神力を上乗せをしたりしていました」

「上乗せねぇ。でも神石って確か五百程度のものでも大銀貨六、七枚したよ?そう何個も買えるものなの?」


 答えたノハヤは元孤児。アドバンセチア家に拾われて使用人になったとしても良くて平民止まりだ。

 そう思ってノハヤを見ると、ノハヤの視線がホノライに向き、ホノライはそれを受けてにっこり微笑んで補足した。


「五百もある様な大きい神石はそうそう出回りませんよ。そんな魔獣を倒せるのは神法師団か高ランクの冒険者パーティーだけですし、凶悪な魔獣の方もレザーヌ領にはあまりいませんから」

(…………ノハヤに神石買い与えてたのね。懐柔しちゃってまぁ)


 懐く訳である。

 私がノハヤに浄化させている魔石も五百。勿論ホノライはそれも知っていて発言している。

 本当にここ一週間程度で彼は強くなった。否、元々素質があったに違いない。腐っても貴族だ。


「それ程のものは、貴族でも戦争時に数個使用するかどうかと言うところですね」

「そうなの」

「そもそも戦闘時における神法と言うのは、前衛を援護したり隙を作ったり、軍の進行を補助したりするものが多いのです。トーコ様達の様にそれ単体で殲滅や各個撃破するものではございません」

「そうなの?」


 自分達が常識から外れていそうな事は薄々感じてはいたが。


「でもそうなると心許ないわね」

「何がです?」

「だって神石を持った人達が攻撃して来たら、貴方達自分の身を守れないって事でしょ?」


 今後万一善からぬ輩にここが狙われる様な事があれば、精霊契約でここから出られないミィ達は自分で身を守れるのか。


「神力の器って広げられないの?」

「器は生れた時から決まっていますよ?」


 ノハヤが空いたカップを見てさっとお茶を入れながら教えてくれる。最近ノハヤはますます犬に見えて来た。笑顔で言う事を聞くし、怒れば真剣に怯える。私達に従順な犬。ミィの事は妹とでも思っているのか、手助けして仲良くやっている姿は微笑ましい。ミィも何だか嬉しそうだし。


「私も増えると言うのは聞いた事がありません」


 ホノライがそれを見守る目が優し過ぎて萌える。


「そうですね。一度作った器を広げた事はありませんけれど、トーコ様ならいつか出来るのでは?」

「そんな適当な」


 どうやら増やす方法はない様子なので、この際ホノライ達に幾つか神石を持たせておく事にすべきか。

 そうそう盗まれる事もないだろうし、万一の保険である。


「保険と言えばミィ、アデル呼べる?」

「はい」


 最近ミィは瑠璃の指導の下神力を扱う練習をしていて、自身の精霊に語り掛けて外に出て来てもらうと言う人間離れした特技を身に付けた。今はもっぱらその状態で会話したり、神法を使う方法を試している様である。


「アデル」


 ミィの言葉に答えて、小さな精霊が器より現れる。これならミィに負担は全くない。


「お久しぶりねアデル」


 精霊が小さく頷いてミィの肩に留まる。アデルのサイズは手のひらに乗る妖精サイズだ。瑠璃達と違って可愛らしい。


「早速だけどアデル、契約内容を一部変更するわ」


 私が人差し指を近づけると、前とは違って怯える様子はなく、寧ろその小さな手を伸ばして私の指を握った。めちゃくちゃ可愛い。


「行動範囲の限定を削除しましょう。貴方達に私が守ってもらいたいのは、私を故意に気づ付ける様な事をしないでほしい、これだけね」

「トーコ様」


 ミィの顔が歪む。


「何泣きそうな顔してるのよミィ。今まで通り破れば痛い目に合うし、アデルを縛っている事には変わりないのよ?」

「でも、私の事信用してくれたって事ですよね」


 まぁそうなんだと思う。万が一の時に逃げ出せないのは可哀想だと思ったから条件を削除したのだし。

 それでも精霊契約を全て解いた訳ではない。さも良い人そうにミィの頭を撫でておいて申し訳ないが。


(悪い大人……)


 一回りも年下のミィを騙しているみたい。


「ホノライとノハヤはもう少し頑張ってね。まぁ貴方達元軍人だし、この場で自力で身を守りなさい」

「「はい!!」」


 何を勘違いしているのだろうか、嬉しそうな返事が聞こえる。


「流石はトーコ様です。飴と鞭を使い分けるとは」


 そんなつもりは断じてない……と思う。


「まぁこれで一先ず落ち着けるかな」


 エルザーニスとの交渉は当初予定していた目標の半分もこなせていないが、収穫がゼロだった訳ではない。

 その場にいた者の神力の器は全て計ったし、賢者にも出会えた。美青年で妄想も出来た。


(いや、それは目的じゃなかったけど)


 ぼた餅はいつでも歓迎だ。

 猫を被った美青年領主と、怖そうな老人賢者、腹黒そうな交渉官、脳筋なだけではない護衛。アカリとミゼアは不明だが、四人の人となりは兎も角面識は得た。見た目だって立派な情報だ。

 彼等の目的については報告書の審議を確かめる事とグリーセントメリベの実情を把握する事と言う、まぁ当たり障りのないものしか分からなかったし、欲しかった結界石も住居も大工も食料もその他様々な物資も手に入れられなかったが、捕虜の数が増えなかっただけ良しとするべきだろう。


(…………あれ?これって結構惨敗じゃない?)


 事実を並べると、良かった事の割合があまりにも少ない事に気付いて愕然とした。

 五の鐘にはまだ少しある。他に捕虜の事も考えなければいけないが、明日でも遅くはないだろう。誰に咎められる訳でもない。


「今日はもう寝ましょうか。疲れたし。ミィももう寝なさい。ホノライとノハヤは、私が起きるまでは捕虜を説得しても良いわ。寝たかったら寝て頂戴」

「私も宜しいのですか?」


 魔石浄化の為にお昼寝まで強制されているノハヤが驚いて声を上げる。その声色は興奮が混ざっている様にも聞こえる。


「ホノライだけにそんな精神的負担を押し付けたりはしないわよ。ここはホワイト企業だからね」

「「ありがとうございます」」


 責任の所在があいまいになる様に、判を押す人数は多い方が良いのだ。私は疲れたから参加しないが。

 するとミィがもじもじしつつ、私に視線を送って来た。


「ミィも徹夜したいの?」

「はい…………あの、お二人をお手伝いしたくて…………」

(二人、ねぇ?)


 俯いている顔が赤い。微笑ましい事である。

 私を裏切らない内は。


「いいわよ。でも明日はきちんと仕事をして貰うからね」

「「「はい」」」


 まぁ建前だけだ。明日は休日にしても良いし、別に今夜中に説得しなくたって直ぐに光に還したりしない。まだこっちの方針も気持ちも固まっていないのだ。


(万一エルザーニス達に攻め込まれた時、生かしておいたら盾になるかもしれないし)


 全員でなくても良い。寧ろ食料等を考えるならもう少し少人数がベストだ。

 非人道的だとは思うが、自分の命がかかるとなると話は別である。私は多分そんな勇気はないが、精霊達なら確実に実行出来る。


(それをさせようって言う私は酷いよね……)


 捕虜の説得にしたってそうだ。ホノライ一人が三人に増えたところで、立場の弱い従者にその命を背負わせる様な事をさせているのだ。


(悪役って虚しいな……)


 何の生産性もなければ、楽しさも喜びもない。

 私がしたかった事はこんな事だっただろうか。何の為にこんな苦労をしてここで生きようとしているのだろうか。


(もっと良い案がないか……な…………)


 その日はいつの間にか寝落ちしていた。







 その夜の事である。


 屋敷に大きな影が落ちる。

 精霊達が一斉に空を見上げた先、大樹の光に照らされた大きな鳥が、銜えていた何かを落とした。

 その何かは紅に叩き起こされたヨモギの尻尾によって空高く返される…………かと思われたが、触れた瞬間に眩い光で辺りを包んだ。

 光は広場の空間を満たす。

 

 精霊達が、動きを止めた。

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