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在りか ~私の居場所と異世界について~  作者: 白之一果
第1章 旅の始まり
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第3節 豪雨と姫と精霊の名付け

 繋いだ手が光った。手首掴まれて繋がっているだけだが、問題はそこではない。今光っているのは少女ではない。私だ。体の中から光が溢れ、血管が透けて見える。


(何これ気持ち悪っ!!)


 大きく膨れ上がった光はあっという間に溢れ出て収束し、私達の頭上に人の形を成す。


 現れたのは、これぞお姫様、という白いドレスの女の子。膨らんだ袖、レースたっぷりのドレスを上下に分けるのは大きな水色リボン。アクセントの飾り花も水色。白のエナメルスナップ靴。ボブの髪と目は水色。何処の美少女戦士だ。

 そして幽霊少女より更に幼い。十歳くらいか。いやもう幽霊少女はしっかり地に足を付けて歩いていたし、寧ろお姫様の方が浮いている。


(この土の井戸狭いから助かるけど、ドロワーズ丸見えだよ!?)


 お姫様は一度にっこり私に微笑み、迫り来る炎に対峙する。

 そしてさっと手を挙げて言う事には。


『打ち滅ぼせ』


 その見た目で結構物騒な事を仰った。


 お姫様の手から大量の水が噴き出す。水は炎とぶつかりどんどん蒸発していく。


(いやいや、水滴落ちまくり!結構濡れるんですけど!水に飛び込む系のジェットコースターでカッパを着なかった時並みに!そして傷にかかってめちゃくちゃ沁みるんですけど!?)


 これは不味くないだろうか。こんなに密閉した空間で大量の水を蒸気に変えたりしたら、それはもう爆発するしかないのでは。


「これで死ぬのはない!夢なら夢らしく思い通りになってよ!!」


 壊れる姿を想像しながら思いっきり土の壁を叩く。思わず右手を出してしまって、叩いた瞬間激痛が身体を駆け抜けた。

 私が土の壁を叩くのが先か、膨張した水が爆発するのが先か、それとも声にならない悲鳴と同時だったか。


 土の壁が周囲に吹き飛び視界が一気に明るくなる。傍で起こった突風が視界の先で砂どころか家々を空へと巻き上げ、私を追い込んでいた村人共々吹き飛ばす。あるものは勢いよく地面に叩きつけられ、あるものは持っていた斧が運悪く体を傷付ける。そしてその瞬間瞬間に、村人達は光となって弾けた。光は妖精になり、何かを落としてあの大きな木に向かって飛んで行く。


 その時私はしっかりと幽霊少女に抱きしめられていた。触れている部分が温かい。でもそれは人の温もりではない。

 くっ付いた部分から私に何かが流れ込んで来る。それは私の中を巡り、身体からとめどなく溢れ出す。水も火も風も跳ね返す力。今私を守ったこれは、この子の力だろうか。


 辺り一面雨が降っていた。先程まであんなに晴れていたのに、小雨は徐々に滝になる。私は謎の撥水性を発揮していてちっとも濡れないんだけれど。


 私達の周りだけ、路地は広場と化していた。離れたところに村人が倒れている。さっきの風圧で飛ばされたんだろうか、向こうの路地の突き当りの壁にまで吹き飛ばされ、動かない人もいる。持っていた鍬や斧も手から離れ、家の壁に突き刺さっているものもある。


「何であの人達、消えちゃったの?」


 さっきの光は何だろう。この人たちも消えるのか。誰に問うでもない呟きが漏れる。

 私を抱きしめる優しい手。その声は確かに耳元で囁かれるのに、音は頭の中に直接響いて来る。


『命が終わったから、光と成って大樹に還る』


 子供を諭す様に、穏やかに私を包み込む少女の声。


 降り続ける雨を荒野は吸収しきれなくなったのか、地に伏す村人を隠す様に雨を湛え始めている。

 また一人の村人が光になり、光は妖精になって溜まった雨にぽちゃんと小さな石を落とす。

 大樹へ帰るという光を纏った妖精を追って空を仰ぎ見ると、火は既に消えていた。


 お姫様の手から放水車の如く噴き出す水が空を駆け上がり、村に雨をもたらしている。その内彼女の手から伸びる水は二匹の水の竜となり、屋根の上にいた一人の青年を追いかけ始めた。

 青年は屋根を飛び回り、必死で応戦している。今の私と同じか、少し年上だろうか、細身で小柄。

 それよりも黒髪、見覚えのある顔形。振るっているのは細い剣。あれは。


「日本刀?……アサギ、ミツヒデ?」


 竜は下界に大量の雨を降らせつつ青年を襲う。足場が相当悪いのだろう、青年は屋根から何度も滑り落ちそうになっている。水の竜は家屋を次々破壊している。


「ねぇ、あの子も死んじゃうの」

『そう』


 心臓が跳ねた。これではまるで、私が殺しているみたいだ。


(夢でしょ?ねぇ。これ、現実じゃないよね?)


 幽霊少女がささめく。


『だってあれは貴方を殺そうとした』


 彼が私を殺そうとした。あの火の事か。あの子がやったのか。


『私も彼女も貴女の精霊。貴方を守る。だからあれを滅ぼすと宣言した』


 少女の身体が離れる。しかし背にあった彼女の手は一度も私から離れる事なく肩から腕を伝い、自らの手に私の両手を重ねる。繋がった私達の身体を、何かがずっと循環している。

 これは力だ。この雨の水や、全てを吹き飛ばした土と同じもの。そして村人を傷付け、少年を亡き者にしようとしているもの。

 この力が彼らを殺すのだ。

 

「そんな願望ないわ」


 私はそんな残忍な人間ではない。これは私の妄想ではない。悪夢。きっとそう。きっと何時か目が覚めて、この光景を朝日が払拭してくれる。


「xxxx?」


 豪雨の中にあって、その声は明瞭に私に届いた。やっぱりその意味を理解する事は出来なかったけれど。

 カントリー風の服を着た幼い少女が立っていた。少女は路地の奥の壁でぐったりしている男に目をやり、何かを探す様に辺りを見回す。そして斧の前で来て立ち止まった。崩れかけた石の壁に刺さった、何の変哲もない刃物。少女はしゃがみ込み、水溜まりの中から何かを拾い上げた。


「xxxxxxxx?」

「え?」


 少女が空を見上げる。


「xxxxxミツヒデxxxxxx、xxxxxxx?」

「ミツヒデ?」


 少女は私に話しかけているんだろうか。そしてやはりあの青年がミツヒデなのだろうか。

 少女は拾った何かにそっとキスをして大事そうにポケットにしまい、徐に斧に手を掛ける。深々と刺さったそれを力任せに引き抜くと、家の壁だったものは崩れて形を失った。


「xxxxxxxxxxx!!」


 斧を振り上げて少女が走り来る。見合った少女は般若だった。雨の中でも泣いているのが分かったし、きっと叫んだ言葉も理解した。

 私に向けられているのは明確な殺意。光になって弾けたあの村人は、きっと少女の大事な人だったのだ。年を考えれば恐らくは父親。


 私は茫然と立ち尽くした。

 こんなに憎まれるなんて、本当に人の死を招いたのは私の中の意志かもしれない。

 少女が近づく足音に呼応する様に、脈は大きく波打っていく。

 傍らから私を覆う様に、着物の袖が視界を奪った。


「止めて!!!!」


 思わず叫んだ。良くない事が起きる。そう直観が告げている。

 私の声と共に、足音は止んだ。豪雨で書き消えた訳ではない。私の足元に荒々しく落ちた斧が水を跳ね上げる。

 雨は一体を覆っていて、既に地面は見えなくなっていた。


 着物の袖が下ろされて再び見えた世界にあったのは、先程の少女の代わりに地面から突き出した土のフォークだった。恐らく人を貫いて激しく雨に打たれてもなお、形を変える事のない農機具。そしてその先端から小さな光る石が二つ零れ落ち、とぽんと水に沈んだ。


 足が急に力を失い、身体を支えられなくなって私は水の中にへたり込んだ。

 何てリアルな夢だろう。

 幽霊少女も私を真似してかしゃがみ込む。着物の袖の牡丹の柄が、水の中で咲く本物に見えた。


「ねぇ、どうしたら止めてくれるの?」


 目線の高さは同じなのに、周りの景色同様ぼんやりして焦点が合わない。


『名前で繋がれば、私達は貴方の意志に従う。名前をくれれば契約は成立する』

「なら貴方に名前をあげる。『蘇芳』」


 それは固まり掛けた、血の色。


「それから『瑠璃』」


 大地を覆い尽くす水の色。


「彼を殺さないで」


 背後で派手に何かが水飛沫を上げた。


 掠れた声で私は呟いた。音になっていたかも怪しかったから、二人に聞こえたはずなない。でも雨はピタッと止み、あっという間に水が引いて地面が現れた。青空が広がった。大樹から光が降り注ぎ、大地を照らした。


 私は無意識に立ち上がり、崩れた壁から荒野に出た。前方に山が見える。なら左に行けばいい。今度は幽霊少女も邪魔しなかった。

 濡れた大地の砂利が張り付き足が悲鳴を上げたけれど、それで立ち止まる事は出来なかった。私は暫く無言で荒野の先を目指し続けた。


 鐘が鳴った。そろそろ辺りが暗くなり始める。

 もう夢でも地獄でもいい。早く覚めて、この状況が幻だと言ってほしい。涙が自然に零れ落ちて止まらない。


(神様、私何か悪い事をしましたか?こんな目に合う程、お気に召さない子でしたか?謝ったら帰してくれますか?)


 私は荒野に突っ伏して、本当は神様に何を願ったんだろう。助けてほしいのか、帰りたいのか、それとも……。


 次の鐘が鳴るまで私は泣き続け、荒野に水分を供給した。泣くのはとても体力を使う。多分そのまま疲れて寝てしまった。

 黒豹のせいで寝られなかった事なんて頭から吹き飛んでいて、傷がズキズキと痛むのも大して気にならないくらいに、心は疲弊していた。







 鐘の音で目が覚める。妄想の中で九日目。流石に長すぎるのではないだろうか。どれだけ想像力豊かなんだ私。この音が身体に馴染んで来ている。

 昨日の事は夢だっただろうか。いや、そもそもこれ自体夢みたいなものではなかったか。

 今日は少し頑張って歩こう。まだ薄暗いけれど、早くもっとあの村から離れたい。心がモヤモヤする。

 夢と現実、妄想、幻覚。何かいろいろごちゃ混ぜになって、私の思考を乱す。

 取り敢えず起き上がろうとして、私は柔らかい感触に気が付いた。


「起きました?」


 優しく髪を撫でる柔らかい手。何より枕が。


「!!?」

「あら、蘇芳の膝枕はお気に召しませんでしたか?」


 目の前に座るドレスの女性が微笑みながら、私の頭を撫でていた。


(何これどういう状況?)


 起き上がって、働かない頭でゆっくり振り返る。


「おはようございます」


 黒い着物の女性が無表情で朝の挨拶をして来た。


「…………………」


 親子というか、そっくりさんというか、どう考えても二人とも本人だこれ。恰好から察するに、白いドレスの女性はあの村で光の中から現れた十歳くらいのお姫様。私に膝枕していたのは、黒い着物の幽霊少女。服も一緒に成長するなんて流石夢。

 ではなくて。いつの間に大きくなった。流石にそんなに寝てないぞ私。

 二十前後の女性が二人、様子を伺う様に私をじっと見ている。


(あれ?二人の髪ってこんな色だっけ……)


 色味が透明に近づいたと言うか。


「この姿ですか?貴方がそう望んだからです。慈しみ包み込む暖かい母の様な、敵を退け守り抜く強く大きな父の様な存在を。だから私達は大きくなりました。貴方の為に」


 心の奥底で求め、結局言葉に出す事が出来なかった私の願い。それを聞き届けたとお姫様が言う。

 もしそれが本当であるなら二人は人ではない。疲れているんだろう。


「二十八にもなってイマジナリーフレンド……」

「フレンド?私達は貴方の精霊です」


 異世界の弾幕が脳内を掛ける。妄想に侵略される。


「私は水の属性を持つ知識の精霊、瑠璃」


 お姫様がスッと立ち上がる。

 大雨を降らせ町をあれだけ水浸しにして、そういえば手から水の竜を出していた元少女。


「私は土の属性を持つ生と死の精霊、蘇芳」


 着物の女性も裾をさっと払い、隣に立った。

 荒野を剣山に変え恐らくあの黒豹達を倒し、高い土の壁を出現させたかと思えば、恐ろしい強度のフォークを器用に作り出していた元幽霊少女。


「「以後良しなに」」


 幻覚も幻聴も妄想もここまでくれば本望だろう。何だこの完成度の高過ぎるVRは。


(ただの中二病なんじゃ……)


 でもこの方がいい。モヤモヤするのは嫌だ。早く忘れたい。昨日の事はなかった事にしたい。これに浸っていればきっと、直ぐに忘れられる。

 私は何か大事な物を捨て、精霊と名乗る女性と会話する事を決めた。


「私に何か用、ですか?」

「特に用事はないですけど」


 ではなぜ私が起きるまで膝枕でここに。


「名前付けたから?」

「確かに頂きましたわ。私は昨日から瑠璃です」

「私は蘇芳」


 何かかみ合わない。これは拾って来た子犬状態か。蘇芳と瑠璃が仲間に加わった!的なあれか?


「歩きながら話しても?」

「構いませんわ」


 立ち上がろうとして痛みでふらつき、蘇芳さんに支えられる。そして自然に離れ、私の後に続いて歩き出す。瑠璃さんも歩くん様だ。昨日は浮いていたのに。


「二人共、後ろ歩かれると話しにくいです。並んでもらえますか」

「……貴方がそう仰るなら」

「蘇芳さんも」

「蘇芳でいい」


 足が痛いので歩く速度は本当にゆっくり。でも二人は合わせてくれる。

 小高い丘を一つ越える時、振り返って追手がない事を確かめる。昨日の村はもう見えない。

 良かった。それに、話をする相手がいるだけで少し安心する。この荒野に一人ではないと。

 景色は相変わらず。山と大きな木と高い壁。この夢が始まってから見続けている景色だ。


「どうして二人とも歩くんですか?最初は……」


 浮いていましたが。


「貴方がそう望んだからです。貴方が同じ形を欲したから私達はそれに答えるんです。貴方は私達を選んで、名前を下さいました。だから私達は貴方に出来る限りの事をしますよ」

「名前を勝手に付けただけです。そこまでして頂かなくても」

「トーコ様、敬語は結構です。私達は言わば主従。貴方は私達に自由を与えて下さったのですから」


 主従。私が主で、この二人が従。


(いやいや、見た目的にも力的にも、明らかに私が下じゃない?)


 何かをあげた覚えもなければ、そもそも名前を教えた覚えもない。


「自由って、何ですか?」

「トーコ様、敬語は必要ありません。貴方は私達の主人です。誰よりも偉いのです」


 笑顔だけれど反論を許さない強い言葉。これは絶対に私が上ではない。


「いやでも年上?だし」

「トーコ様」

「……自由って、何」


 話が進まなそうなので妥協してぎこちなく聞き直すと、瑠璃さんは満足そうに頷いた。


「私達精霊は通常、生命が生まれてから光に還るまでずっと、その器の中にいます」

「器?」


 瑠璃さんが私の方を見ている。器とは身体の事だろうか。それとも独白の「さん」付けがお気に召さないんだろうか。


「はい。器とは大気中の神力を集め、コントロールし、神法として放出する為のもの」


 あながち間違いでもなかった。異世界の特殊器官か。精霊回廊的な。


「シンポウって?」

「神法とは神の法。私の出す水や、蘇芳の土がそうですね。殆どの生命はコントロールが出来る程の大きな器を形成出来ません。なので精霊が代理で神法を行使するのですが……」

「自由がない」

(おおっ、蘇芳さんが喋った。瑠璃さんに比べて大分無口な精霊だわ)


 一人の時はもっと喋ってくれていた気がするけれども。無表情は相変わらずだ。


「私達には何の自由もないのです。生命が神法を願うと精霊はその意志に引っ張られて、神法を強制的に発動させられます。そこに私達の意思は介在しません。願われれば四六時中、本当に言葉通りその生命の一生、私達は器の中で生命が願う瞬間の為に大気から神力を集めて待機し続けます」


 一生、身体の中で。心臓の辺りをイメージする。何か狭くて暗そうだ。


「通常は精霊が器を作り自らその中に入るのですけど、トーコ様の器は神がお創りになった特別な物。神が入る訳には参りませんし、自身で神力をコントロールする事が可能な上、精霊も入れる優れものなのです」


 何となく解りました。


「つまり、貴方達は神法という特殊技術を使える人材で、軟禁されない素敵な職場環境に魅力を感じて私と雇用契約を結んだのね?」

「まぁそうですね。制限なく外に出られて、姿形も変えられて、主と意思疎通出来る上に、これだけ沢山の神力を自由に使えるなんて、こんな事他では絶対ないですわ!」


 瑠璃さんも蘇芳さんも目が輝いている。

 外出自由、服装自由、休憩自由、行動も自由。それは雇用されて働いている状態なのだろうか。


「そんなに嫌なら働かなければいいのに」

「そんな事したら間違いなく消される」


 蘇芳さんが重々しく告げる。瑠璃さんの笑顔が怖い。


(…………独白の敬語も止めろと。そうですか)


「精霊は大樹に生み出され、大樹の神力を持って生命のところへ行き器を作るのが仕事です」

「?じゃあ、働かずに大樹で休んでたら?」

「生命が誕生しません。そんな事は神がお許しになりません。拒否したらあっという間に光になって、大樹に吸収されてしまいます。せっかく自我を持っているのに、それではあまりに悲しいではありませんか」


 それは一大事。拒否権なしとか結構シビアな職場だ。

 それにしても、精霊が器を作って生まれるとは、なんてファンタジーな生れ方。妊娠しないんだろうか。

 ここで生まれた訳ではないけれど、私もなんだかんだ言って土の塊を砂にするくらいは出来たのだし、程度の差こそあれこの世界の人全員が神法を使える訳だ。


「ちなみに主が光に還った後は器を形成していた神力を持って大樹に戻り、また次の主を探します。これは何度か見ましたね、トーコ様」


 光になった村人。大樹に還って行った妖精は精霊。

 浮ついていた気持ちが、一気に現実に引き戻される。


「そしてこれが」


 瑠璃さ……瑠璃が蘇芳の手を取って、袖の中から小さな石を取り出した。

 そこにあったのは、あの砂山に乗っていた鈍色の石だった。村でも確か渡された。叩き落とされてしまったけれど。


「精霊は大樹に還る時、少しだけ器に使っていた力をこうして形にしてこの世界に落とします。精霊からの贈り物です」


 あの黒豹も多分全部、蘇芳の神法で光に還った。


「ちなみにこれを使用して神法を行使すると、より大きな力が使えるでしょう」


 家を破壊する水竜より強い力が一体いつ必要なのだろう。

 蘇芳が立ち止まり、全部拾って来た、と事も無げに言って袖を傾けた。出て来る出て来る。


(その石全部そこに入れてたの!?)


 どんな袖だ。


「取り敢えず今必要ないから、仕舞っておいてくれる?」


 頷いて蘇芳が石を拾い始める。手伝おうとしたら、瑠璃に止められた。


「トーコ様はあまり触れられません様に」

「危ないもの?」


 もう触ってしまったが。


「これは魔石です。浄化して神石にしないと生命の身体には害になります。ただ、魔石は私や蘇芳では浄化出来ませんので」

「どうやって浄化するの?」

「光の属性を持つ精霊なら浄化出来ます」


 益々使い道がない。いや、そうでもないかもしれない。


「利用価値があるって事は、もしかして売れる?」

「そう言えばあの神もそんな事を言っていた」

「!?」


 精霊は神様と話出来るのか。


「あの、神様に頼み事とかも、出来たりする?」

「出来ない。神がいつ話しかけるか分からないし、あれは世界の理を知らない神の様な何かだった」


 神の様な何か。他に何が。


(神様の代理……)


 私は不図、藤さんを思い出した。

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