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在りか ~私の居場所と異世界について~  作者: 白之一果
第1章 旅の始まり
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第29節 白石と塩とアクアリウム

(えぇぇぇ――…………)


 瑠璃が伸ばした手の先、三角砂浜の先端から対岸の先端に向けて、モーセの如く瑠璃が海割りを披露する。

 多分ここは河口なので、丁度海と河を隔てた格好だ。流石に対岸には届いていないが、向こう岸までの五分の一程度、それでも数十キロは水がなくなっているのではないだろうか。器に比例して、私達の神力の効果範囲はかなり広いのだ。


 海が割れて現れたのは渓谷だった。水深がかなり深かった様である。見える範囲でも優に百メートルを超えている。とても降りられる高さではない。

 平らならトラベレーターに椅子でも設置して進もうかと思ったけれど、そんなに上手くは行かなかった。

 対岸に届かないとなると橋もかけられない。


「瑠璃、神力が吸い取られてるんだけど、これ後どれくらい持つの?」

「飛んでも向こう岸に着くまでは持ちませんわね。日が変わるより前にトーコ様の器が空になると思います」

(駄目じゃん)


 流石にこんな広い河は渡れないのだろう。


「海を元に戻して普通に飛べば渡れますよ?飛ぶくらいでしたら自動回復の神力で補えますし」

「でも大樹までは飛べないんでしょ?」

「あれの幹は神力を吸い取りますから」

「そうなの?」


 生気を吸い取る木なんて、神様は何て恐ろし気なものを作って下さったのだ。


「幹の部分で神力を吸って、根や葉から送り出す事で大気の神力を循環させるんです。だから近づくなら空か海ですが……」

(葉がある辺りって……流石に宇宙は無理)

「海にはあれを守る神獣がいます。大樹の上からでも分かる程度の蛇ですので、トーコ様には少し大きいかもしれません」


 暇な時よく眺めてましたの、何て瑠璃は笑っているが、あの上から見て見える程度の蛇が大蛇で済むはずがない。


「あれは竜だ瑠璃」

「あら、根から神力を搾取する様な神獣ですもの。蛇で十分ですわ」

 

 どの道近づける気はしない。


「ご自分で飛ぶのがお辛いなら、私が抱いて飛びましょうか?」


 瑠璃が手を差し出して来た。若干隠し切れない欲望を感じるが、まぁ確かに瑠璃に抱かれて飛んだ方が酔わないとは思う。私が自分で飛ぶと微妙にフラフラするので上下運動が結構来るのだ。お陰で今気持ち悪い。瑠璃はそんな事はないだろう。

 しかし加速や減速、谷の上という不安定な状況から来るストレスで自律神経が乱れる事は想像に難くない。

 それでも一縷の望みを持って聞いてみる。


「瑠璃と一緒に飛んで、それでどれくらいかかるの?」

「神法の効果範囲ぎりぎりまで近づいて遠くから白い石を掘削するとしても、トーコ様のお屋敷からここまでの距離の半分。往復して同程度と言ったところでしょうか」

「戻って来きたら明日の一の鐘が鳴る頃になりますわね」

「そんなに遠いの……」

 

 絶対に無理。吐いて途中で気を失うのが落ちだ。


(見えてるのに遠すぎじゃないの?)


 障害物がなくてもそんなに遠くまで見えるものなのか。飛ぶにしても車並みのスピードでは飛んでいると思う。ここまで来るのにかかった時間は鐘二つ弱。半日とは言わないが、結構な時間だ。


(どうするかなぁ)


 見えているのに諦めきれない。白い石は欲しい。家を作る程とまでは言わない。せめて表面を満遍なく塗って白い家に見せる分くらいの分量は欲しい。砂浜に転がっている分だけでは足りない。

 でも気持ち悪い。また来るには結構遠いし、頻繁に来たい距離ではない。


「でも私のお家……白いオシャレな洋館……」


 対岸の白い断崖絶壁は、大樹に照らされて少し青みを帯びて見える。綺麗な家が出来るに違いない。


「分かった……」


 私は覚悟を決めた。


「萌黄、大きな竜巻が欲しい」

「はい?」

「巨大竜巻で河の水を吸い上げて、あの崖にぶつけて壊すのよ」


 目が据わっていたと思う。深夜で可笑しなテンションだった事も認めよう。気分が悪くてもう若干どうでもいい等と思っていたのも事実だ。


「良いよ!」


 萌黄が新しい玩具を見つけた子供の様に弾んだ声で答えた。


「瑠璃は水の流れを調整して、崩れた岩をこちらに引き寄せて。蘇芳はアシストしてね。直接神法が届かなくても出来るでしょ?」


 冷静になって考えたら結構な無茶ぶりである。


「結構な神力を頂きますよ?」

「構わないわ。やって」

(出来るんかい……)


 瑠璃と蘇芳が顔を見合わせる。


(地形が変わる?大丈夫よ。崖を少し貰うだけだもの。あんな植物も育たなさそうな危ない場所に誰も住んでないでしょ)


 私は自らの行いを正当化した。これは仕方のない事なのだ。こうしないと私があの白い石を手に入れられないのだから。


(船でこっちに上陸されても面倒だし、川幅広がって丁度良いじゃん)


 精霊達に日本人間的な道徳観念がなくて助かった。三人は頷き合って対岸に臨む。


「ではトーコ様、先にこの水戻しますわね」

「うん」


 瑠璃が神法を解くとせき止められていた水が一気に流入し、左右からぶつかって激しく波しぶきを上げた。海がうねりを伴って砂浜に押し寄せる中、今度は萌黄が風を起こす。風は波が海岸に到達する前に水を巻き込み、次第に河に途方もない大穴を空ける。膨大な量の水を吸い上げて、竜巻は空を掛けた。自然界ではあり得ないそんな動きも、神法さえあれば容易く起こせてしまう。


(あれ、これ尋常じゃないくらい神力減ってくんですけど。何分持つの?)


 神力が思った以上に吸い取られていく。蘇芳も何か始めた様だ。地鳴りがする。益々神力の減りは激しくなる。

 立っているのが辛くなって、私はその場にしゃがみ込んだ。


(やば……ほんとに吐くわこれ)


 砂浜に打ち寄せる大波は瑠璃が止めてくれているので、私の身の安全は図られている。

 巻き上げられた水が対岸へ押し寄せ、当たって岩が砕け散る。


(ちょっと、粉々にして回収出来ないとか止めてよ……)


 水が崖を崩し岩を砕き、対岸を削る。波に寄せてこちらへ届けてくれる事を願うばかりだ。

 こんなに大気も海も暴れているのに、大樹は我感ぜずと海の中に立っている。


(あれから見たら些末な事か)


 荒れ狂う風景を遠目に見ながら、私は堪え切れなくなって嘔吐した。キラキラのモザイクをかけてもらわなければ。

 こんなに具合が悪いのは、まさか天罰ではあるまい。漂う神力も精霊も、大樹の光も、何も変わる事はないのだから。


(表面だけとかなし……宮殿が建つくらい貰ってやる…………)


 なのに右手が熱い。神の刻印が熱を持つ。あまりの気持ち悪さに冷汗が止まらない。脱水症状かもしれない。目の前がちかちかして来た。激しい頭痛と耳鳴りがする。


(もう無理……)


 しんど過ぎて周りの事等どうでも良くなった私は、後を全部お任せしてその場で力尽きた。




 結局起きたのは一の鐘だった。いつの間にか白いベッドに寝かされている。眠気眼で見えたのは、


(お姫様ベッドだ)


 砂浜の真ん中にアンティークアイアン調の白いベッドが置かれ、真っ白の布団で寝ていた私。勿論綺麗な状態で。昨日のキラキラモザイクは幻だったかもしれない。


「おはようございますトーコ様。お風呂になさいますか」

「うん」


 念の為瑠璃に再度洗ってもらい、萌黄に乾かしてもらう。柔軟剤のCMみたいに爽やかな風に包まれ、すっきりした気分で私は覚醒した。

 ベッドの前には巨大な白い立方体が五つ。対岸の石を蘇芳が集めて成形したのだろう。私は漸く白い石を手に入れたのである。


「トーコ様、五分の一もあればお屋敷を復元するには十分ですが、如何程お持ち帰りになりますか?」

(宮殿とはいかなかったか)

 

 それでも上出来である。


「全部持って帰る」

「全部ですか?増築でもなさいます?」

「家具も揃えたいし、材料は多い方が良いでしょ。余ったら保管しておいて」

「畏まりました」


 蘇芳の不思議な袖が、次々と岩を飲み込んでいく。ポケットと違って着物の袖は伸びそうにないのに、ファンタジーな妄想は侮れない。

 私は一部欠片を頂いて、白いテーブルセットを作ってみる。操作性は茶色の土と何も変わらない。

 辺りを見回すといつの間にか岩は全て仕舞われて、白い砂浜と背後の森だけになっていた。海も風も穏やかだった。対岸が丸く抉れていたが。


(良い採掘場ね……まだまだ取れそう。足りなくなったらまたあそこから貰おう)


 あれだけあるのだ、もう少しくらい頂いても良いだろう。

 右手がちくっと傷んだ気がしたが、気のせいだと思う。


「じゃぁ帰るか」


 朝食を食べ終えた私は、白いテーブルを蘇芳に仕舞う様にお願いする。

 家までの距離を考えるとちょっと気が重い。


「……瑠璃、抱っこ」

「はい!」


 瑠璃が嬉々として私を抱き上げる。肩に手をかけるのも慣れてしまった。蘇芳が狡いと言ったが仕方がない。抱いて飛ぶのを先に提案したのは瑠璃である。


「三の鐘には間に合わないよね。ミィとの約束夕食にしといて良かった」

「四の鐘までに帰れば良いのでしたら、昼食はゆっくり森で取りましょうか?」

「んーそうねぇ。食べれそうな木の実とか、瑠璃が色を取れそうな明るい植物とか探しながら帰りたいな。いい場所があったらお昼もそこで食べよう」

「お任せ下さい」


 蘇芳が自信満々に頷く。そうではない。良い感じの場所を作って休みたい訳ではなく、元からある日当たりのいい場所とか、切り株が印象的な場所とか……。


(ないか。普通に雑然とした森だし)


 まぁないなら造るのもやぶさかではない。蘇芳と瑠璃がいれば日当たりも切り株も思いのままだ。情緒はないが、快適に過ごす為なら仕方がないと割り切ろう。

 早く帰って休みたい気もしたが、せっかくここまで来たのだし、少しくらい無理をしたところで明日何か用事がある訳でもない。食料の賞味期限が心配な時期に来たのでご飯は調達したいが、一先ず水と、森にお肉はある。野菜が欲しい。


「…………そうだ、魚!!瑠璃、海に魚いる!?」

「海の生物なら色々いましたよ?」

「海、切り取って持って帰ろう!」


 水槽を作るのも良いし、庭に池を掘っても良い。土地ならいくらでもある。


「いや、堀に放せばいいか。瑠璃、この海の水広場を囲ってる堀に入れて、そこを海みたいな環境に出来る?魚を泳がせて、食べたい時に取るの」


 生け簀である。


「では水と魚だけではなく地形や生態系も一緒に持って帰りましょうか」

「うん!」


 まさか生態系なんてものを精霊が理解しているとは思わなかった。流石は知識の精霊。

 料理が出来なくても最悪ワイルドに塩焼きすれば魚は美味しいと思う。


「あ、塩も取って行こう」


 海の水から塩を分離してもらう。小瓶など持ち合わせがないので、ぎゅっと固めて岩塩モドキを作る。粗塩の塊なのかクリスタルソルトなのかよく分からないが、どうせ料理もしない素人である。


(あれば何でもいいのよ!)


 塩が掛かってさえいればいいのだ。何せ初めての調味料である。思いも一入。塩だけに。

 この海や川が綺麗かは分からないが、これだけ未開の地なのだ、恐らく綺麗だろう。

 ミィが料理を作る様になったら削って使ってもらおう。


(ナイフがいるな)


 一立方メートル程の岩塩を蘇芳に預け、瑠璃に海を千五百立方メートルくらい切り取ってもらう。一辺二十五メートルの立方体の角を、人差し指の上に軽々と乗せた瑠璃。立方体の中には土砂が堆積し、石や岩や海藻や折れた木々が入っている。まるでアクアリウムだ。各種魚の外にも、大きな亀が一匹と……。


「……瑠璃、竜が入ってるんだけど」

「神獣の幼体ですわね」

(このサイズで?神獣ってあれだよね?大樹を守ってるやつ)


 体長七、八メートルはありそうな竜が、水槽が狭いと言いたげにうねうねと泳いでいる。瑠璃曰く大樹の神力を搾取する蛇、の赤ちゃんである。


「こんなの堀に入れたら狭いでしょ。大きくなられても困るし」

「番犬にでもすれば宜しいのでは?」

「番犬はもうヨモギがいるし」

「じゃぁヨモギにあげて~。あいつ何でも食べるよ」

「却下」

「え~」


 少しも残念ではなさそうに萌黄が抗議する。


(可愛いな、もう……)


 瑠璃のアクアリウムに手を突っ込んで干渉し、竜だけぽいっと海へ還す。キャッチアンドリリース。


(あとの魚は食べるけどね)


 亀はこれ以上大きくならないと言うから鑑賞用に連れて帰る事にした。


「瑠璃はこれ持ったまま飛ぶの?」


 若干神力が自動回復を超えて減っている気がする。気がするというくらい微々たるもので、帰るまでに特に問題ないとは思うが。

 それにもう片腕は私を抱えている。飛び難くないだろうか。


「平気です!」

(そんなに慌てなくても)


 蘇芳に取られるとでも思ったのか。萌黄は私より小さいから論外だし。


「平気なら良いや。そろそろ帰らないと約束に遅れる」

「では飛びますよ、トーコ様」

「うん」


 一斉に飛び上がる面々。森の木は昨日から道を作ったままだったが、瑠璃のアクアリウムがつっかえるので道幅を三十メートル程に拡充してもらう。海水が触れて枯れても嫌だし。まぁ海の傍に立つ木なので杞憂かも知れないが。


 飛行中、いくつかの実を見つけた私は染料として瑠璃に抽出を依頼し、キューブにした見本を一つ一つ貰った。今後の色指定の参考兼インテリアである。ちなみに私は寝てしまうので、抽出液をキューブに保っているのは瑠璃だ。

 三の鐘で快適な日差しを作成しお昼の休憩を取り、予定通り四の鐘が鳴る前に漸く広場にたどり着いく。


「疲れた……」


 瑠璃に抱かれて特に何もしていないが、今日は早く寝たい。

 堀を渡って海を入れようとしたところで、私はそこに見知った魚を見つけた。羽の生えた空飛ぶ黒い飛び魚、ンルザントである。しかし小魚程度の大きさしかない。本当にンルザントだろうか。あれは一メートルは越えていたはずだ。

 

「全滅させなかったっけ」

「ヨモギが生み出したのでしょう。回復していましたし」

「何で小さいの?しかも水の中で泳いでるの?」

「風の神法が使えないもん。飛べないでしょ。生まれたばかりは小さいし、そのうち大きくなるよ」


 では今は普通の魚という事か。


「お帰りなさいませ!」

「おかえりなさ~い」

「がうぅぅ!!」


 ヨモギが走り寄って来るだけで振動が凄い。擦り寄って来る姿は可愛いのだが、この調子で夜遊ばれたら困る。


「ただいま。変わった事はなかった?」

「はい」

「ミィはちゃんと食事した」

「頂きました。ありがとうございます」


 遅れてやって来た紅とミィは、出かける前と変わらない態度だった。瑠璃が指先に海を乗せている事を華麗にスルーするとは凄い。


「ねぇ、ンルザントが泳いでるんだけど」

「いろいろ試しておりましたの」


 紅が何だか楽しそうに手を叩くと、ンルザントの一匹がまさしく飛び魚の如く水面から飛び出し、火を吹いた。


「いかがです?」

「……凄いね」


 芸でも仕込んでいたのだろうか。可愛い。褒め言葉と取った紅が嬉しそうにしている。


「でも魚と火はあまり相性が良くありませんわね」

(そりゃあ水の中にいるからね)

「それより力で水の中に引きずり込む方が良いかと思います」


 今何か紅が怖い事を言った様な気がする。小魚サイズでそれが出来るとはやはり神獣の眷属は凄い。


「なのでもう少し堀を深くして頂きたいのですが」


 紅は一体何を目指しているのだろうか。


「そんな事したら危ないでしょ?」


 紅が目をぱちくりする。ミィ以外の全員が何故かきょとんとしている。何故だろう。ミィは可愛いが。


「でもトーコ様。御身を守る壁は多い方が宜しいですわ」

「そうです。そう思ったので堀を倍の深さにしてみました」

(蘇芳!)

「これも入れられますし、丁度良いですわね」


 どうやら精霊達は私を守るものを増やしてくれているらしい。幅約十メートル、深さ約二十メートル。ヨモギとふざけていて落ちたら確実に死にそうな堀である。水面が遠すぎる。それに登り口などない絶壁の堀なのだ。


「ってちょっと瑠璃!それ入れて大丈夫なの!?ンルザント泳いでたよ!?」

「何がです?」

「だって海水!」

「あぁ、神獣の眷属が水質くらいで光に還ったりはしませんわ。ご安心ください」


 指先に乗っていた四角い海の端から海水が堀へと流れ落ち、堀の水位はあっという間に半分を超えた。一緒に落ちた土砂や木を上手く配置する為に水流を起こし、堀が流れるプールに早変わり。ある程度混ぜたら水の流れを止めて、砂が沈殿するのを待つ。

 砂が落ち着くと堀の中には海が出来上がっていた。澄んだ水のお陰で綺麗に整えられた海底や泳ぐ魚の姿がはっきり見える。アクアリウムそのままだ。

 

(こんなにいるなら何匹か貰ってもいいかしら。あれちょっと食べてみたいかも)


 魚の事なんかよく知らないし、ましてや想像の空飛ぶ魚である。飛び魚の味がするかは定かではないが、普通の魚と食べ比べてみたい。神獣の眷属と言うくらいだ、絶対特別においしい気がする。小さいから揚げ物にしてはどうだろうか。

 水面に手を向けると、私の視線を感じ取ったのか近くにいたンルザントはすいーっと泳いで行ってしまった。

 それにしても攻撃して来ない。まぁ水面からここまでは大分距離があるから仕方がないかもしれないが、海の中でも何かを襲うそぶりは見せない。堀の中は見事な共存環境が整えられていた。

 もしかして私が仲良くしてほしいと思っている事が分かるのだろうか。身内になった事だし……私のペットの眷属だから身内で良いだろう。魚の身内というのもあれだが。


「ミィ、食べたくなったら釣りをしてご飯にしましょう。魚捌ける?」

「はい。ただ、切るものが……」


 そうだった。


「じゃぁナイフを買うまでは丸焼きして、これで味付けして」


 蘇芳に取り出して貰った岩塩モドキに、ミィが目を見張る。


「これ……これってもしかして…………」

「?潮だよ。削って使ってほしいけど、削るものもないか、困ったな。まぁ何でも良いから頑張って砕いて使って」

「こんな高級品を焼き魚にですか!?」

「焼き魚に塩もないんじゃ味気ないでしょ?」


 ミィが呆れた様にため息を付いて頷いた。


「じゃぁ蘇芳は白石で家を再築して」

「はい」


 家はあっという間に元通りに再建された。本当に時間は短縮していた。

 塩はキッチンのテーブルに置いてもらった。ミィが感動して泣いていた。




 その夜の事である。

 時刻は五の鐘が鳴る少し前。神力を分け与え、大人しく庭で休む様に厳命していた筈のヨモギの、暴れる振動で寝入りを邪魔された。


「煩い……」

「沈めてまいります」

「そうしてくれると助かるわ」


 いらいらしながらそう言うと、瑠璃が寝室の水の窓を消す。三精霊がそこから外へと飛び出して行った。瑠璃は残り、私の傍に寄り添ってバリアを張る。


「そんなに深刻な状況?」

「紅と萌黄は好奇心だと思いますわ。音を遮断しましたのでお休みになって下さい」

「あ、そう」


 では気を取り直して寝よう。私はふかふかのお布団をかけて眼を閉じる。

 瑠璃に頭を優しく撫でられながら、今度こそ眠りに着こうとした時。


「「「トーコ様!!」」」


 部屋に舞い戻って来た精霊三人が大声で私を呼んだ。


「…………瑠璃、遮音は?」

「まさか貴方達がトーコ様の眠りを妨げようなんて……」


 瑠璃が真顔で三人を睨む。


「しかし瑠璃、トーコ様の判断を仰がなくてはいけない事態だ」


 私の不機嫌な顔を見た蘇芳が慌てて言い訳をする。


「何?」

「侵入者です」


 侵入者。私の広場に忍び込むとは、あの壁や堀を超えたという事か。一体どんな獣だ。

 私が欠伸をしていると、紅がとんでもない情報をくれた。


「トーコ様、人種の侵入者だそうです。どうされます?」

「………………人?」

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