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在りか ~私の居場所と異世界について~  作者: 白之一果
第1章 旅の始まり
27/67

第26節 完成披露会と私の棲み処

ほぼ家の説明です。私が一番欲しい神法ってこれかもしれない。

 これは注文住宅なのかセルフビルドなのか。私のイメージ通りに出来た肩幅程のサイズの茶色のドールハウスを元に、蘇芳の土の神法が目の前に家を創造する。


(こんなに簡単に家が出来る……)


 3Dプリンタの様に、下から徐々に形が出来上がっていく。森を再生した時にも似た様な光景を見た。まるで家が地面から生え、成長している様だ。


(流石生と死の精霊)


 この家は生きている。神の力で形作られた土の家。スピードから見て私がミニチュアを作った時間より早く出来上がりそうだ。やはり慣れが必要か。


 私が十センチ程立てておいた外枠の長方形を基準に基礎が立ち上がり、その手前、南の外側に玄関ポーチの階段が下から出来上がっていく。階段は全部で五段。五段目に出来たポーチはかなり広い。ここにいる神獣以外の全員が入っても余裕だ。何せ幅十メートル、奥行き二メートルくらいになる計算だ。まぁイメージなので長さはそんなに正確ではないかもしれない。

 長方形のポーチの四隅には柱が立ち、家の半分ほどの高さで屋根が出来る。半分と言っても三メートルくらいは高さがある。これで雨の日荷物が多くても安心だ。一応南が木材団地とか中央都市とか人のいる方角なので玄関にしたが、ここの光は北東の大樹から来るので常に日陰だ。


 外観は東西に長い洋館。四角い箱の平屋に三角の屋根が乗っている。天井高は低い所で五メートルとかなり高め。私は狭いところが落ち着く正確ではないので、好きに作れるなら広い方が良い。天井が高いと何となく高級感があるし。どうせ掃除はクリーニングで済むのだから大きくて困る事は何もないのだ。


(神法の家って結構完璧じゃない?)


 ポーチの奥には両開きの大きな玄関扉が見える。開けた後の事を想像していたら、家は大した時間もかからず屋根の天辺まで完成していた。

 今逆光だけれど、大樹の光を浴びる、私の家。


「出来た……」

「「「「おめでどうございます」」」」


 従者達が声をそろえる。作った蘇芳にまでお祝いを言われた。

 外観は私の想像通り、細かい所まで完璧な洋館だった。しかしどうしたものだろう。満足気な従者達とは裏腹に、感動で打ち震えると思っていたそんな私の期待は打ち砕かれていた。


(こういうのじゃなくて……)


 思い描いた通りには、家は完成しなかったのだ。


(だって全部茶色……全然完璧じゃない)


 それはまさしく土の家だった。私の作ったミニチュアと同じ、この広場とも同じ濃い茶色一色。窓を相当広い範囲で取っていなければ中の印象が暗くて仕方がない。


「蘇芳、色も付けて欲しいんだけど」

「今は色違いの土も鉱石も持ち合わせておりません」


 私が色を指定しなかったからかと思ったが、そう言う事ではない様だ。

 意気消沈する私の様子を察したのか、精霊達が少し慌てる。


「神石と魔石は?幾つか持ってなかった?」

「あれはトーコ様のものですし!魔石はトーコ様のお身体に触りますので使えません。神石は家にするには数が圧倒的に足りませんし……」


 別に蘇芳が言い訳する事ではないのだが。

 資産管理をきっちりしてくれるのも有り難いが、そう言う事ではない。


(どうしてくれるの、このテンション……)


 やはり神法の家は万能ではなかった。

 しかし神石も魔石も百個ずつくらいはあったと思ったが、家の材料としては少ないらしい。


(まぁ体積を考えたらそうだよね。神石魔石はお金に換えた方が良いか)


 皮算用しつつ、ガラスのはまっていない窓枠を見る。


「取り敢えず瑠璃、窓のところに水の膜を張ってくれる?光と空気は通してね」

「分かりました」


 瑠璃が張り切って神法を行使する。関われるのが嬉しいのか、私の期待に応えようとしているのか。

 ちなみに窓枠は必要ないがオシャレな感じで作ってある。見た目は大事だ。水で出来た窓のガラス部分は、風の量をその都度調節すれば空気の入れ替えも出来るし、割れる事も人が通る事も禁止した、触れれば気配を察知できるという地味に完璧な防犯装置だ。


「じゃぁ中を観ていこうか」


 テンション低めにそう言って、皆と共に階段を上がる。幅が十メートルもあるので、何処かのプロモーションビデオの様に全員横並びでも上がれる。

 玄関ポーチに立つと、すかさず瑠璃と蘇芳が両開きの大きな扉を左右から開けてくれた。私はお礼を言いそうになって瑠璃の笑顔を察知し、自分は主人だと言い聞かせてそのまま手動式自動扉から中に入る。

 扉の向こうは天井の高さも相まって、かなり広いホールになっていた。


「凄い」


 後ろから入って来たミィがため息と共に感動を口にする。


(でも茶色……)


 折角の我が家なのに、緑の館と比べて自分の家が数段見劣りする事に私は思ったよりかなりがっかりしていた。ホール広さは勝っていると思うが、それだけなのだ。もっと素敵な建物を幾つも知っている現代日本人としては、これで満足出来るという事はない。期待していた分落胆が大きかったのかもしれない。手に入るとなると欲が出る、それが人間だ。私ももちろん例に漏れない俗物である。


 ホールはポーチと同じ十メートル幅。ただ両サイドに二メートル幅の廊下がくっ付いているのでポーチより広く感じる。一応廊下とは何本かの柱で仕切られている。天井は思ったよりかなり高い印象だ。ホールは奥行きも十メートル程はある。宮殿には負けるが、数人が住む屋敷には十分。ヤトーが荷馬車いっぱいの荷物を広げても問題ない。

 他にも万一誰か来た時はここで対応する。敵も味方も。戦うには相当神力を抑える必要があるけれど、招かれざる客を捕らえておく場所としては十分。ここまで侵入させるつもりは毛頭ないが。


「大っきなシャンデリアでもあると、ちょっとは様になるかなぁ」

「シャンデリアとは?」

「こういうの」


 私が水で大雑把なサンプルを作ると、瑠璃が完璧で繊細ゴージャスなシャンデリアを天井にかけてくれた。意外と私の事を分かっている。


「もう少し大きめで」

「これくらいですか?」

「もう少し……いい感じ。ところでこんな事してて神力平気?自動回復で補える範囲を超えたら教えてね?」

「心得ておりますわ」


 まだ余裕はありそうだ。

 シャンデリアは掛けたが、光源となる光の神石はランプ用の小さいの一個と緑の館で手に入れた少し大きめのものが五つしかない。しかもランプを分解でもしないと神石が光る仕組みが分からない。


(そんなの私で分かるの?)


 ホールの向こうには同じ幅の部屋があるので、ホールの北側には窓が取れない。しかしホールとその部屋を左右から挟む広い廊下の南北の突き当りには天井まで届く大きな窓があり、玄関ポーチの天井の上も大きな窓になっているので昼間のホールはそこそこ明るかった。

 問題は夜だ。


「灯なら私が付けましょうか?」


 紅から思いがけず声が掛かる。


「水のシャンデリアだけど、出来るの?」

「問題ありません。干渉しない様にしますので」


 紅が掌の上に赤い火の玉を出して見せる。丸い炎がゆらゆらと立ち昇る様子はデフォルメされたお化けの様で可愛い。

 瑠璃に電球型の下向きなシャンデリアを蝋燭型に上向きに作り替えてもらっている間、紅は炎を小さくして人差し指の先に移動させ、会話する様に遊んでいた。


「あそこに火を」


 私の言葉で、紅が指先に灯っていた炎をフッと軽く吹いた。シャボン玉のように飛んで行った炎が、水の蝋燭の先端に吸い込まれるように治まる。紅が手を開くと今度は五本の指全てに火が点き、紅の意思で次々とシャンデリアに飛んで行く。

 マジシャンみたいだと見ていたら、面倒になったのか紅が腕を振った。それに合わせてシャンデリアの全ての蝋燭が一気に点灯する。


(魔法少…………少女はアウトだわ)


 炎の大きさを良い感じに調節してもらえば、見た目は完璧なクリスタルなシャンデリアが完成した。まぁ紅が何処にでも火の玉を出せる事が分かったので、照明器具はただの飾りである。


 楽しそうな紅のお陰で少し気持ちが持ち直した私は、見上げていた視線を向かいの部屋に移す。次はホール奥の部屋を見てみよう。

 ここにも大きな両開きの扉が付いている。実はこの屋敷で一番大きな、私の部屋である。

 扉を開けてもらい中に入ると、瑠璃と蘇芳だけが付いて来た。


(一応主の部屋だから?遠慮してんの?今更?)


 部屋の広さはホールと同じ幅十メートル、奥行きは六メートル程度。現代の住宅事情から考えれば相当広い。そこを仕切って広めの執務室とベッドルームに分けてある。どちらも奥は一面大きな窓で、大樹の光が燦燦と降り注いでいる。


(明るくていい部屋ね)


 はるか向こうに大樹も見える。

 執務室は窓を背に大きな執務机、その前の広いスペースに応接セット、奥の壁は一面本棚。

 ベッドルームはお姫様仕様の天蓋付きベッド、サイドテーブルに衣装ダンス。窓辺はベンチになっている。座って外を眺めるのに丁度良い。


(あとは照明と……暖炉があれば様になるかも)


 執務室の天井には瑠璃に小ぶりなシャンデリアを付けてもらう。ベッドルームにはランプを置けば良いだろうか。実用的な物を買ったのであまり形が可愛くないが。

 ベッドルームと執務室の境の壁に背中合わせにマントルピースを設置して、紅を呼んで火を点けてもらう。蘇芳の土の家は完全耐火性を備えているから安心だ。一体どういう仕組みだろう。


「見た目は良いけど……熱いね」

「火ですからね」

「そうよね」


 それを考えると、熱を持たない神石のランプは優秀だ。

 そもそもここは裸同然のミィが野宿をしても寒くないほど暖かい気候なのだ。暖炉は必要ないだろう。私は見た目を考えて炎だけを消してもらい、マントルピースは飾りとして残す事にした。不図神様の宮殿を思い出したが、何となく寒気がして思考から追い出した。

 紅は瑠璃と違って面白くなさそうな表情はしなかった。そもそも彼女は何を言っても特に気にした様子はなく、何時も豪快に笑っている。実に男らしい。大人しくしている姿はとても妖艶なのだが。


「そうだ紅、このランプ、形変えられない?」


 私は実用性の高い小型のランプを差し出した。


「光を出す機構は触らないで、外観だけを変えられないかな?」


 金属の様に見えたので、熱でどうにかならなかと思ったのだ。


「出来ますよ」


 案の定、紅が快諾してくれたので、何の変哲もないキャンプ用のランタンは私の希望で鳥かごの形に変貌を遂げた。中に留まっている鳥が光る感じだ。アンティーク調な洋館には最適な小物ではないだろうか。

 完成品をベッドサイドの小さなテーブルに置くと、私は満足してホールに戻った。


 屋敷の両サイド、ホールから見て廊下の向こう側には部屋が三部屋づつある。東側には北からダイニングキッチン、浴室、トイレ。西側には北からゲストルーム、蘇芳と紅の部屋、一番南に瑠璃とミィと恐竜精霊の部屋。平屋なので部屋としてはこれで全部だ。


 先ずは東側北から視察しよう。

 私はこの世界のキッチンを見た事がないので、取り敢えずアイランド型の大きなシステムキッチンと食器棚、食品棚を作ってある。換気扇はなし。構造が分からないから風の神法でどうにかする事にする。

 ガスコンロも仕組みが良く分からないし、ましてやかまど何て使うのが大変過ぎるのでIHのプレート風の板を設置した。これを火の神法で温めて使うのはどうだろう。完全耐火だから出来る技だ。

 大き目のシンクには蛇口がない。水を使うには神法がいる。タンクを作って貯めても良いが、その都度出す方が衛生的だ。冷蔵庫も箱だけは準備した。上に氷を入れるタイプの昔の冷蔵庫だ。使うには水属性の神法で冷やすか、氷を出す必要がある。

 だから少なくともこのキッチンを快適に使うには、風と火と水の神法が使える人材が必要なのである。

 ちなみにお客と食事をする事は想定していないので、ダイニングルームは設けなかった。私とミィだけならキッチン横のテーブルでもいいし、私の部屋でもいい。外にガーデンテーブルを作ってパラソルを差して食べるのでもいい。


「ここまで作っておいてなんだけど、私は料理出来ないからね」


 肝心な事を言い忘れていた。私は電子レンジでチンするとか、パスタや出来合いのソースを茹でるくらいしか料理をしない。食事をしない精霊が出来るとも思えない。


「トーコ様がする必要はありませんわよ。そう言うのは使用人の仕事です」


 本当に瑠璃はこういう知識をどこで覚えて来るのか。人間みたいな事を言う。


「ミィは出来るのでしょう?」

「一通りは出来ます瑠璃様。でも庶民の料理しか作れません。それにこんな上等なキッチンの使い方は分かりません」


 申し訳なさそうに私を見るミィ。


「十分よ。使い方は教えるから」


 ほぼ一択でキッチン担当はミィに決まった。これでIHプレートは大丈夫だ。しかし、今は食材がない。調理器具もないので出来る事は特にない。


「暫くは携帯食があるしね。調理器具はヤトーに揃えてもらう事にして、食材はなぁ…………そうだ!広場の一部を家庭菜園にするか!」


 我ながら良い案を思い付いた。蘇芳が協力してくれればあっという間に収穫が出来るだろう。


「後で実の生る木でも探しに行こう」


 食糧問題の解決の兆しに気を良くした私は、いそいそとキッチンを後にする。次はバスルームだ。

 脱衣所は洗面台と衣装ダンス等、温泉施設風にゆったりと作ってもらっている。浴室は瑠璃がいれば必要はないが、そろそろ湯船に浸かりたくなって来たので作ってみた。浴槽は三メートル四方の正方形。水は神法で出し入れするので排水はない。


「結構広いね。一緒に入ろうねミィ」

「!!?」

「入った事ある?」

「ないです……」


 そこそこ広さがあるのでミィと一緒に入ってものんびり出来る。楽しみだ。ミィが真っ赤になっている。裸同然の格好で生活しているのに何を恥ずかしがっているんだろう。


「蘇芳、浴槽の周りに木とか生やしてみてくれる?」


 実は少しジャングル風呂にあこがれていた私。言われるがまま、蘇芳が植物を生やしてくれる。


(あれ、想像よりジャングルになっちゃた……)


 如何せん土で出来た家なので、オシャレなジャングル風のお風呂、ではなく本格的なジャングルの中に偶然出来た湯溜まり、みたいになってしまった。ワニとか出て来そうでちょっと怖い。ここは観葉植物程度で押さえるべきだった。

 蘇芳に頼んだら、木を消すのではなく枯らして、根本から新しい植物を生やしてくれた。まるで命を繋ぐその光景にちょっと感動していると、枯れた木は干からびて粉になってあっという間に消えてしまった。何処へ行ったのだろうか。家が茶色過ぎてゴミが目立たないのは長所であり短所だ。まぁ蘇芳の事だからきちんと始末はしているだろう。

 ジャングルにさえしなければ、風呂場にも窓があるので他の部屋と同じ様に明るい。


「でも外から丸見えね。瑠璃、この窓すりガラス風か色ガラス風に出来ない?」

「出来ますよ」

 

 ガラス部分の水が緑色に変わる。後ろから光が当たって間接照明みたいだ。


「ありがとう。何か緑色のものとか持ってたの?」

「外の木から抽出してみました」


 そんな事も出来るらしい。そう言えば水属性の精霊は、染めた水の服を纏ったりする。瑠璃は普段、服の色付けには水に色を映したりすると言っていたが。


「もしかしてあの森も映せる?」

「森をですか?出来ますわよ」


 緑のガラスが森の風景に変わる。まるで本物を写し取ったかの様な、精巧な森の模写。


「鏡!?凄い!鏡だ!!」

「はい?」


 はしゃぐ私に、何がそんなに嬉しいのか分からないと言った様子の瑠璃。


「こっち来て初めて鏡見たよ!瑠璃、私の姿を映せる!?」

「はい、どうぞ」


 初めてはっきり見る自分の姿。長い黒髪。細身で可愛い女の子がそこにいた。


(うん、普通に可愛いわ)


 ちなみに私の自己評価は気分次第で幾らでも変わる。常に自意識過剰な訳ではない。


「じゃぁ脱衣所と洗い場と、洗面台にも鏡付けなきゃ!」


 うきうきと設置しようとしたら、ミィが真っ青になっていた。


「何ミィ、鏡嫌い?」

「いえ…………」


 映りたくないという人はたまにいるが、どうやらミィは鏡のある生活に慣れておらず怖いらしい。若干震えている。


(そこまで?じゃぁ……使う時は自分で出すか。しょうがない)


 無理維持するつもりはない。私は理解ある主人なのだ。

 練習がてら、瑠璃を真似して鏡を自作してみる。反射の仕方が悪いのか写らない。力業で写してみる。歪んで上手く写らない。


(あーあれね、相当な繊細さが要求される作業な訳ね)


 服で失敗したのを思い出す。


「大丈夫ですわトーコ様。お風呂に入る時は私がご一緒致しますので」


 今までもそうだったのだから、まぁそう言うだろう。それならまぁ良い。

 私は早々に自作を諦めて、瑠璃に窓を緑色に戻してもらった。森だと何だか不安になったのだ。外から見られている気がするし、殺人事件が起こっていそうな森だったので。

 もし窓がなくても風の神法さえあれば換気はばっりだ。カビの心配はなさそうで助かる。


「次はトイレね。使うのは私とミィだけだから、一個にしてみたけど……」

「「「いけません!!」」」


 何故か全員から反対された。いや、紅と神獣達は置いておいて。ちなみに精霊は食べないし排泄もしない。ファンタジーだ。


「使用人と同じ何て有り得ません!!」


 ミィの強い主張に負け、トイレを二つに分ける。個室ではなく別々の部屋になる様に壁を作り空間を分けた。更に瑠璃が広さに差を付けるべきだと言い出した為面倒になって言われるままに壁を寄せるたら、私用は幅四メートル奥行き六メートルの部屋にトイレと洗面台という無駄に広い何をするのかよく分からないスペースになってしまった。流石に広過ぎるので、トイレスペースを削って浴室を広げるべく壁を一メートル程ずらしてもらう。神法の家ならではだ。一瞬で脱衣所と浴槽が一メート広がった。

 ちなみにミィのトイレは浴室と私のトイレ部屋の間に合って、奥行きは同じ六メートル。だが幅は一メートルしかないというウナギの寝床状態。勿論洗面台は付けてある。鏡は私の方にだけ付けてもらった。

 下水は良く分からないが、水の神法で何となくいい感じに処理される構造だ。深くは考えまい。


 最後は屋敷の東側。北のゲストルームは六メートル四方あるが今のところ応接セットが一つあるのみ。人が来たらその時整えれば良いと思う。使うか分からないし、ホールに続く何でも部屋になりそうな予感がする。

 真ん中の蘇芳と紅の使用人部屋は、二段ベッド一つと書き物をする机と椅子が一つずつ。


「私達は必要ありませんよ?」


 紅の言葉に蘇芳も頷いたけれど、何となく私の使用人部屋のイメージはこんななのだ。何もないというのも流石に味気ない。


「人間体験セットよ」


 もっともらしく言ってみたら、それなら必要だと蘇芳は納得した。ちょろい。

 南の、瑠璃、ミィ、恐竜精霊の部屋は三段ベッド。天井高に余裕があってよかった。恐竜に人間用のベッドが必要かはともかくとして、精霊は飛べるので梯子はない。後はミィ用に衣装ダンスと作業机。


「あっ、ありがと…ござい、ま……」


 こんな事でミィに感動して泣かれた。


 とまぁ、これが屋敷の全貌だ。確かに広くて素晴らしい造りのではある。ちょっとテンションも上がって来たが、如何せん土なのである。見た目も色も。


「早く何とかしないと」


 私のモチベーションが持ち直している内に。


「そうですわね。では早速色を探しに行きますか?」

「そうね…………でもその前にご飯だな」


 丁度三の鐘が鳴っている。内覧会を漸く終え、私達は外にガーデンテーブルを作って昼食をとる事にした。

 外に出ると、木の葉が一本だけ真っ白になっていた。瑠璃に色を抜かれたのはどうやらあの木らしい。木が枯れないか心配だが、枯れたら生やせばいいとか思ってしまうあたり、私も大概この世界に染まって来ている。


「蘇芳は石があれば色が付けられるんだっけ」

「そうですね。鉱石等そのものでしたら色は綺麗です。瑠璃の様に植物や抽出液を混ぜても構いませんが、ここの土は元が濃い色ですからあまり染まらないかもしれません」


 色砂を作る時は染料、顔料や着色料を使った気がするが、それは白い砂に色を足して混ぜるものだった。ここの土は濃い茶色。染めても暗い色になってしまう。


「色落ちも心配だし、やっぱり白い岩がベストか」

「ご心配なら瑠璃にバリアで包んでもらえばよいのではないでしょうか」

「バリアってコーティングも出来るの?」

「出来ますわよ」


 瑠璃が得意げに答える。本当に神法とは感心するほど何でも出来る。これも神様の器あっての事かとは思うし、沢山の属性が集まっているから相乗効果もあるとは思うが。


「そう言えば椅子なども白をご希望でしたね。柔らかいものは淡い色と」

「うん。明るい家にしたいんだよね。あと序に家庭菜園を始めようと思うから、食べれる草や木の実があったら集めて来たいんだけど」


 精霊達が困った顔をした。人が食べれるものが分からないのだろう。正直私も分からない。キノコは危ないし、山菜なんか取った事がない。そもそも山菜をそんなに食べた事もない。


「ミィは分かる?」

「少しなら多分」

「まぁ分かるのがあればでいいよ」


 後は見た目で決めよう。


(ヤトーに今度種でも依頼しようかな)


 食事を終えた私達は、屋敷の北側に回った。来る時は食べれる様なもの見た覚えがないので、更に森の奥へ行ってみようと思うのだ。屋敷の北側の広場ではその時、神獣が鷹の羽を毟り取っていた。


「ちょっと何してるの!!止めなさい!!」


 叫んだ私の代わりに蘇芳が飛び出し、ジャンプして武器で神獣の頭を叩いて沈めた。神獣が硬い広場にめり込んでいる。凄い音がしたが大丈夫だろうか。


「蘇芳、何ですの?それ」


 瑠璃が珍しく武器に興味を示す。


「トーコ様に教えてもらった鉄扇だ」


 正確には全長二メートルの土扇だが、恐らくこの状況から強度は鉄扇よりも硬い。どれだけ土を圧縮したかは知らないが大きい分だけ重いと思うし、瞬時にそれを作り出し蘇芳のスピードに乗せて振るえば最強だろう。


「狡いですわ」


 瑠璃も水で似た様なものを試行錯誤しているが、これは蘇芳の方が向いている気がする。


「じゃぁ貴方はそこで反省してなさいね。鳥は……」


 言っている傍から鷹は光に還ってしまった。


(良かった、血も消えた)


 造ったばかりの広場に血痕があるなんて嫌だ。精霊の贈り物はしっかり頂くが。

 気を取り直して、私達は森へ視線を移す、ジェットカッターで木を一本切り倒し、表面を平らにして左右に階段を作り、上手く堀を渡る橋にした。大雑把でいいなら私だって初めてでも出来る。


「じゃぁ神獣と精霊はお留守番ね。ここから何かが入って来ない様見張って、屋敷を死守してね。これも契約のテストに含めるから」


 キィッと甲高い鳴き声と、項垂れた神獣を尻目に私達は森へ入った。

 

 森の中は特にこれまでと変わる事無く、巨大な木々で鬱蒼としていた。暫く歩き回ったが、食べられそうな植物も実も発見出来なかった。


「あの魚さえいれば……」


 つくづく黒焦げにしてしまった事が悔やまれる。


「そうだ。海があるんだっけ」

「ええ。行かれます?ただ端まで行くとなると、夜になってしまうかと」

「うーん。じゃぁ明日の朝から行こうかな。暗くなる前に家に帰りたいし」


 こんな森の中で迎える夜は不安しかない。さっきも獣にあったばかりだった。それこそ神話に出て来そうな巨大な蛇と虎に。まぁ三精霊が瞬殺してしまったので脅威にもならなかったが。

 ちなみに光に還ってしまったので、肉は手に入らなかった。


「そう言えば死んだら光になっちゃうのに、お肉ってどうやって取ってるの?」

「切り離して暫くしたら光には還らないですよ?それまで傷口を火で焼いて、生かしておけば大丈夫です」


 爽やかな汗を滴らせながら、ミィが笑顔でそう教えてくれた。


(それは何の苦行?)

「風の神法で眠らせますし痛みはないから大丈夫ですよ」


 動物愛護団体から苦情が殺到しそうな案件ではない様で安心した。ちょっとグレーな気もするが、文化が違うと考え方も違うだろう。あまり余所者がどうこう言うものではない気がするので止めておく。


 結局その日は食べられそうなものは何も発見する事は出来ず、良い感じの石も見つからなかった。

 暗くなり始める四の鐘が鳴る頃、私達は屋敷に返って来た。尻尾を振って近寄って来る神獣は慣れると結構可愛い。

 夕食の後、夜に備え私は広場の東西南北に少し大きめの松明を準備した。焼肉屋で昔よく見た飾りの様だが、火は本物を使う。橋にした木をウオーターカッターで細かくして燃料にし、紅に火を点けてもらうと広場はかなり明るくなった。大樹の光でも勿論明るいけれど、折角家が出来たのだ。ちょっと人工的な?光も見たい。


 土の家の肌触りは木の質感そのものだった。土足なので私はあまり触らないが、裸足のミィが感動していた。

 けれどもやはり濃い茶色の家。印象が暗い。夕方は猶更だ。私は――実際には紅が――家の中にも明かり取りの為に無数の火の玉を準備した。バリアさえあれば熱さは気にならない事に気付いたので、家の中の火の玉は透明バリアで囲んだ。火災の心配は一切ない。


(あれ?意外とこの家万能じゃない?ちょっと神力使うけどどうせ回復してるし)


 ランプを使用しなくても自前で済むなんて省エネだ。


(ヤトーの奥さんまで呼び出したの悪かったかしら。充電出来るに越した事はないけど)


 赤々と燃える温かい我が家。初めて入る家なのに、何処かほっとする。

 私はこうして漸く、棲み処を手に入れたのである。


 この世界に来て二十三日が経ったその日、私は初めて手に入れた自分の家で眠った。まだ夢から覚める方法も見つからず、起きる様子もないこの世界で、私はもう日数を数えるのを止める事にした。

そろそろ第一章を佳境に持っていきたいです・・・。

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