第25節 神力分与と注文住宅会議
そうこうしている内に、四の鐘が鳴った。少し早いが夕飯にしよう。
「夕食……神獣って何食べるの?」
見るからに肉食だが、神の獣である。精霊の様に何も食べないのが一番経済的で助かるのだが。
「生肉が好きだそうです」
そんな都合良くはいかない様だ。
「今までは森の獣を適当に食べていたそうですが、どうしましょう?」
「どうしましょうと言われても」
そんなグロテスクな場面を折角作った広場で繰り広げられては困る。
「餌などあげなくても構いませんわよ」
「瑠璃、あんたそれは酷いわよ」
「いえトーコ様、神獣は本来神力が満たされていれば空腹にならないのです」
「そうなの?」
「ええ」
「そうですわトーコ様。私が酷いんじゃありませんのよ!」
蘇芳のフォローに瑠璃が心外だと膨れてみせる。
「ごめんごめん」
「ではぎゅーっとさせてくださいませ」
最近スキンシップ過多な精霊である。
「まぁいいけど」
それで気が収まるのなら安いものだ。別に嫌ではないとか思うところが危ないかもしれない。
瑠璃に抱きしめられながら、私は横目で大人しく伏せている神獣と恐竜精霊を見る。
「さっき神力結構使ったよねぇ。あの子回復するまでにどれくらいかかるの?」
「……今ほぼ使い果たして欠乏寸前なので、鐘四つか五つかかるそうです…………早いですね」
流石神獣です、と呆れか関心かよく分からない表情でミィが通訳してくれる。
少なくとも食事三回分。嫌だ。この神獣が満足する三回分の食事なんて、広場が血で染まる予感しかしない。
「どうしたものかなぁ」
「生肉を与えたくないのですか?ではトーコ様の神力を与えるのはいかがでしょう?」
「蘇芳!!」
「何?そんな事出来るの?」
そんな神力の使い方は初耳である。
「貴方なんて事言いますの!!トーコ様の貴重な神力を下げ渡せですって!?失礼にも程が……」
「瑠璃、耳元で煩い」
「…………すみません」
「トーコ様がこれに餌を与えない方法をご所望だ」
「でも!」
どうやら蘇芳と瑠璃はその方法を知っているらしい。ミィが今度ははっきりと呆れた顔でため息を付いている。最近頻繁に見せる表情だ。慣れてくれるのは嬉しいが、会って三日で呆れられる程私が何をしたと言うのか。
紅と神獣達は好奇な目を向けて来る。どうやら紅は好奇心旺盛な精霊らしい。
「蘇芳、分けるってどうするの?」
「額に手を置いて、神力を流し込めばいいです。メルイドに一度されましたでしょう?」
「メルイド?」
そんな事をしただろうか。額に手を……。
(あ!神力計の数値が合わなかった時!)
思い出した。いや、半分しか思い出していないが、確かに回復の数値がおかしい事があった。確かあの時は睡眠の取り方が良かったのかなどと考えていたが、そう言う事ではなかったのだろう。
いつメルイドの額に手を置いたかは全く思い出せないが。
(……瑠璃はこの事知ってて言わなかったのね)
蘇芳は必要性を感じなければ聞いていない事は喋らないだろう。瑠璃は故意に隠していた節がある。まぁ瑠璃はそういう奴だ。薄々分かっていた事ではある。
しかしそう言う事なら満タンにしてしまおう。幸い私はそこまで神力を消費していないし、今も順次自動回復中だ。
「そう言えばこの子も精霊が出てるよ?もしかして昼間も回復してる?」
「そうですね。ただ、一つの属性しか持ち合わせていませんので回復量は知れていますよ」
「そうなんだ」
私は今精霊が三人いるので、自分を合わせて人の四倍回復している。ならこの神獣は二倍。まぁミィが早いと言っていたから、それだって十分な筈だ。普通なら。
(いろいろチートだなぁ私)
私がこんな状態になっているのはチートのせいかもしれないが、それでもここまで生き延びた事を考えれば捨てたものでもないと思う。
「じゃぁご飯をねだられる前にさっさと回復させてしまおう」
瑠璃の手を解き腕から解放されると、私は伏せして待っている神獣に触れる距離まで近づいた。神獣の気が変われば一瞬で食べられそうだが、大丈夫という確信は取り敢えず自分でバリアが張れるからだろうか。
手を伸ばしてそこから触れられるのはせいぜい顔の先の鼻。伏せていても大き過ぎて額に届かないので、私は一応神獣に断ってから、蘇芳に抱っこで頭の上に運んでもらった。
(瑠璃はヒールだから可哀そうだもんね)
蘇芳なら草履だし、私の布の靴はぺったんこだ。紅もサンダルだが、まだよく人となり?が良く分からないから選択肢は蘇芳一択。
(あ!!そう言えばミィの靴頼むの忘れてた!!)
ミィが全く気にしていないところを見ると奴隷は普通裸足なのかもしれないが、それとこれは別。やはり一人だけ靴がないと言うのは可哀想だ。
私は蘇芳の腕から神獣の頭にそっと降り、ゆっくりと額に近づいた。神獣は私が歩き易い様に顎を上げ、歩く所を水平に保ってくれる。とても賢い生き物らしい。
額に着くと私は膝と両手を付いた。神獣の毛で覆われた身体は犬や猫と遜色ない肌触りで気持ちいい。面積が広い分絨毯の上にいる様な錯覚を覚える。
(良いなこの絨毯。そうだ、ミィをこれに乗せておけばいいんじゃない?)
高い所が苦手でないと良い。後はスピードと上下運動に付いて来られるか。
(駄目かも)
ガンゼットから支柱跳びで逃げた時、二人してダウンした事を思い出す。あれは最高に気持ち悪かった。ではあの精霊はどうだろう。馬の代わりにあれに乗っておけば足も痛くないだろう。
チラッと地面を見下ろすと、皆が此方に注目していた。恐竜精霊とも目が合う。
(…………無理だな。あれはあれで気乗りしない事はしなさそう)
瑠璃とは違ったこだわりの強さと言うか、何処となくポリシーを感じる。自分の決めた事を押し通そうとする強い意志があり、そして人の話を聞かない。まぁ今は本当に会話が成り立っているのか怪しいから微妙だが、我儘というよりは天然という雰囲気がひしひしと伝わって来るのだ。ミィを乗せる事に同意するとは思えない。
「蘇芳、神力をゆっくり流し込むだけでいいんだよね?」
「はい」
私は視線を手元に戻し、無意識に額の毛を弄んでいた手を停めた。私の神力的にも、神獣の神力的にも、急激な変化は良くないだろう。精霊を呼び出す時の様に器に干渉するのだ。無理矢理こじ開けたり、許容量以上に神力の道を広げるのも論外だ。
(集中しなきゃ)
メルイドの時は無意識だった。あの頃はまだ神力の扱いが分かっていなかったので、一歩間違えればメルイドを壊していた。それだけではない。神力を注ぎ込み過ぎて魔獣化させる事も十分あっただろう。
知らないという事は何と恐ろしい事か。
「蘇芳、この子が満タンになったら分かる?」
「それは本人に聞いてみないと」
「本人て、この子に?」
「はい。それか、あの精霊に合図でもさせますか?」
精霊は器を共有しているから分かるのだろう。
「その方が良いか。蘇芳、ちょっとあの精霊連れて来てくれる?」
「畏まりました」
蘇芳は高さをものともせず神獣から飛び降り、つかつかとミィに近寄った。そして少し話をした後、神獣精霊を呼び寄せ目にも留まらぬ早業で尻尾を鷲掴み、そこから大きくジャンプして此方に戻って来た。相変わらず無茶苦茶な脚力である。
恐竜精霊がキィキィと抗議の声を上げ、尻尾を勢いよく蘇芳の手から引き抜く。蘇芳が抵抗する事なく手を離した為シッポガ神獣の頭にバシッと当たる。神獣がグゥゥッと低く唸った。
「トーコ様、神力が満たされたら尻尾で合図するとの事です」
「分かった。ありがとう。それと蘇芳、危なくなったら助けてね」
「はい」
何が危ないのかよく分からないが、初めての経験だ。念の為そう伝えておく。
つくづく神力計未購入な事が悔やまれるが、そもそも神獣だって相当な器の持ち主だ。五桁の神力計で計れたかどうかは怪しい。
私は全身を巡る神力を手に集め、神獣に注いだ。
神力は暖かい。温度も気持ちも、そう感じさせる何かがある。私の神力がゆっくりゆっくり神獣に侵入し、器を探し当てる。細い、光の糸で繋がるイメージ。
(気持ちいい……)
温かくて眠くなる。意識が持っていかれる。そう、炬燵の魔力の様な何か。
ゆっくりだけれど確実な喪失感。体内の神力が減って行くのが分かるのに、何時もと違ってこの満たされる気持ちは何だろう。
(ずっとこのままでもい……)
ぺしんと手を叩かれて、私は我に返った。見れば目の前に恐竜精霊の尻尾がある。満タンの合図だ。私は慌てて手を額から離した。
一体どれくらいそうしていたのだろう。一瞬の様な気がしたのに、辺りは薄暗くなり始めていた。まぁでも次の鐘までにはまだ時間がありそうだ。
神力も減るには減ったが、どうという事はない。直ぐ回復するだろう。
蘇芳に抱かれて地面へ降りると、神獣が顔を私に擦り付けて来る。サイズ的に、私は全身でそれを抱き止めて受ける。どうやらお礼を言っているらしい。
「ほんとふわふわで気持ちいいわね」
寧ろ自分の為にした事だ。あまり無邪気に喜ばれるとちょっと罪悪感が湧く。
「とても美味しかったそうです」
「美味し……」
神獣に複雑な感想を貰った。丸ごとパクッと食べられないか心配になる。勿論そんな事はさせないが。
でもこれで一安心。広場が血溜まりと化すのは阻止出来た。
「私達もご飯にしよう」
「はい」
私はテーブルセットを出して、ミィと食事をした。神力を分けていたおかげで多分時刻は丁度良い頃だ。お昼はバタバタしていたせいで食べられなかったので、結構お腹は空いていた。
ちなみに携帯食はまだ四十二食分もある。しかし流石に一度に二食分も食べようと思う程美味しいものではない。中身にいくらかのバリエーションがあるとはいえ、所詮はパンとチーズと干し肉のセット。そう味が変わるものでもないのだ。
それより問題なのは賞味期限。ヲールが一、二週間持つと言った日から既に二日が経過している。後三日から八日でこの量をどうやって消費するのか。ここで食品表示は見た事がないし、賞味期限の考え方自体もあるのか怪しい。ヲールの期限は多分食べられるぎりぎりのラインを差したものに違いない。
(日数を盛られてたらお手上げだけど)
そもそも、普段あまり衛生的とは言い難い暮らしで鍛えられた胃袋と、日本の清潔すぎる環境で育って来た私の胃袋が同じ筈がない。明らかに耐性値が違うだろう。
(出来れば三日以内に食べたいけど、無理だよねぇ。その後の事もあるし)
ヤトーと次に会うのは二十四日後。木材団地まで出向けば八日に一度商会が来るらしいが、前にいつ来たかを知らないので最悪の場合八日会えない事もありうる。
(今日からは落ち着くだろうし、きちんと毎食食べて消費していかなきゃ)
そしてこの携帯食が全部なくなる前に何か手立てを考えなければ。
人口の明かりが全くないので夜の大樹はとても明るく感じられる。まだ少し早いけれど、どうせ暗くなっても星は一つも見えないだろう。ここに来てから見続けて来た、幻想的な光で満ちた夜空。
いつの間にか精霊達は淡く発光を始めていた。四人も集まればそれはちょっとした見物である。
(幽霊に囲まれてるみたい……)
守ってくれる事を考えれば、寧ろ守護霊に近いだろうか。
「取り敢えず今日はここで寝よう。家は明日考えるって事でいい?」
皆が頷くのを確認する。もう否定される事なんか考えていないし、別に聞かなくても私の気持ちは決まっている。それでも聞いてしまうのが女子というものだ。
(同意されると安心するからね)
後は仲間意識が芽生える。様な気がする。
手元はそろそろ暗い。ランプの中で図面を作成するのは大変だろう。図面と言ってもお絵描きレベルだけれども、蘇芳にイメージを伝えるには言葉よりも絵や模型の方が明確だ。
気分的にも家の工事は昼の明るい内に行いたい。晴れ渡った空の下で、光に照らされた家の竣工を見たいと思う。
(晴れの日って言うくらいだしね)
やはり大事な節目は晴れ晴れとした気持ちで温かい日差しの中不安なく迎えたいではないか。晴れの日がそう言う意味かは知らないが。
広場の真ん中を、何時もの様に円形に囲む土の壁。その真ん中にポツンと一つのベッド。ここが私の寝室だ。ちなみにミィのベッドは相変わらず円の端の方にあるが、これはミィが主張した結果である。主と同じ場所で同じもので就寝など考えられないとの事だが、瑠璃がにこにことミィを見ていたので実際のところは誰の希望なのかよく分からない。
その後は静まり返った森の中で、順番がどうだとか神獣も洗おうだとか姦しく騒ぎながらお風呂タイム。
「「「「トーコ様が最優先です」」」」
皆が当然だと言うので、先ず私が瑠璃に洗われる。出来れば、嫌がっている神獣を押さえつけて悪戦苦闘しつつお風呂に入れた後、その汗を流す為に最後にやり切った気持ちで清々しくお風呂に入って就寝したかったのだが、そんな気持ちは誰にも理解されなかった。
水の神法に包まれて一瞬揉まれる。バリアのお陰で外見が汚れていないから忘れそうになるが、昨日は火事騒ぎに遭遇したのだ。疲れて寝てしまったからその後お風呂に入らず仕舞いだったのである。常時では考えられない。
水が通り過ぎで頭の上で何かに吸い取られる様に消える。ここまで済ませ、私は今、風が使えることに気が付いた。
「ミィ、神獣にふわっと送風で乾かしてもらえないか、頼んでくれない?」
「はい」
「くれぐれも送風でね」
「はい」
神獣が尻尾をブンブンと降っている。どうやら仲間に加われることが嬉しいらしい。
快諾した神獣は、私を細やかな神力でそれでもかなりぶわっと勢い良く乾かしてくれた。私を包む風は爽やかですっきり気持ちよかったのだが。
「……神法の微調整は必要ね」
台風の後の様に前髪も何もかも後ろへ追いやられた私の髪を、瑠璃が手串で整えてくれる。まぁ最初から上手くはいかないだろう。瑠璃達と違って神獣と神獣の精霊は私と器が繋がっていないので、私が自分でイメージして風の神法は使えない。上手く口で伝えていくしかないのだ。
何時もは少し湿った状態止まりだったが、完全に乾いた事は喜ばしいのだから。
「じゃぁ次はミィね」
その後ミィを洗って乾かす時は、もっと力を弱く抑えてもらった。でもまだ強い。まぁミィの髪は肩を少し超すくらいなので、前からガっと掻き上げる仕草をしたくらいでいい感じに整っていた。
瑠璃がいつも精霊は何時も大気の神力に清められていて清潔だと言い張るので、主にビジュアルの為だけに全身洗濯させた。一応紅に大丈夫かは先に聞いておいた。
そして最後は神獣の番である。
「ギャウ!!ギャウギャウガウゥゥゥ!!!!」
蘇芳の土の蔓で体を地面に押さえつけられつつ暴れる神獣。
「何、この子お風呂嫌いなの?」
「未知の経験が怖いそうです」
「そんな子供みたいな……」
サイズさえ無視すれば、その態度は完全に子犬だ。それでも押さえつけてしまえば抵抗など無意味だった。
煩いので神獣が抵抗を諦めるよりも前に一気に水に包む。
(これ、結構神力使うな)
お風呂くらいで自動回復を上回る神力を使用したのは勿論初めてだ。やはり大きいだけの事はある。まぁすぐに戻るから心配はいらない。
すっきりした神獣は、解放された途端べろべろと身体を舐め始めた。
「ちょっとぉ……」
折角洗ったのに台無しである。神獣は一心不乱に毛を舐めている。これでは触るのに躊躇してしまいそうだと思っていたら、舐めた傍から毛がふわふわと風になびき出した。どうやら舐めながら直ぐ自分で乾かしているらしい。器用だ。これが綺麗かは認識の違いがあると思うが。
まぁ猫だって自分で舐めて毛繕いしているのを私達は撫でている。それと同じと言えば同じなのだが、如何せん大きいのでその面積に若干の忌避感を思える。
「しょうがないのかなぁ」
結局諦めたのは私だった。生き物の生態にまで口を出せる程私は偉くもなんともない。
昨日殆ど寝ていないせいだろう。まだ五の鐘が鳴る前に睡魔が襲って来たので、私はベッドに横になった。
大樹は綺麗だが、こうも毎日同じ空だと少し味気ない。快晴は曇りや雨があるから晴れ晴れとした気持ちになるのであって、季節を感じる情緒ある雲も星も何もない空はただのっぺりとした天井と同じだ。
(部屋の窓から大樹が見えると良いな……)
明日はいよいよ家造りだ。
翌朝、一の鐘で何時も通り目覚める。昨日はぐっすり寝たので快調な朝である。
一人朝風呂の後、ミィときちんと朝食を食べる。食材は無駄にしてはいけない。
テーブルに着く二人と四精霊。ちなみに神獣の恐竜は、飛んで来た鷹の様な鳥と戯れている。まぁ一方的に鳥を追いかけまわしている様に見えなくもないが。土の壁の中ではしゃがれるとこっちの身が危険なので、壁を壊して神獣が広場全体を駆け回れる様にしている。追いかけっこの振動が凄い。
「会議を始めるわ」
私はそんな神獣を横目に、重々しく皆に告げた。そう、これは今後の人生を左右する、一大プロジェクトである。
(まぁ建て替えが直ぐだからそんなに構えなくても良いんだけどね)
それでも念願の棲み処だ。家があるのとないのとでは全く心の持ち様が違う。漸くホテル暮らしの仮住まい生活とおさらば出来るのだから、期待も一入だ。
「じゃあ先ず間取りだけど、キッチンとダイニング、浴室とトイレ、後は各自の部屋。これ以外に希望はある?」
「部屋を分けるのですか?私はトーコ様と同じ部屋が良いですわ!」
「私も」
蘇芳が力強く頷く。
「私は貰えるなら部屋欲しいです」
「使用人に個人部屋なんて恐れ多い、です」
「キィ!」
恐竜精霊も何か希望があるのだろうか。
「ミィ?」
「あの、どうせ契約するのだから自分も部屋が欲しいと言っています」
「そうなの?」
まぁ面積的には人と変わらないから一部屋あっても良いのかもしれない。
「でも姿形が違うからなぁ。部屋の作りって同じじゃ不便かなぁ?」
「同じ精霊ですもの、気にする必要ありませんわ」
「そうです」
「きぃ!」
「そう?じゃぁ……各自一人部屋で、瑠璃と蘇芳の意見は却下」
「「そんな!!」」
「そんな……」
瑠璃と蘇芳の抗議の声は無視するとして、ミィはそんなに怯えなくても良いと思う。奴隷生活のお陰で贅沢に慣れていないらしいのは分かるが。
「なら間を取って、瑠璃はミィと相部屋にする?」
「はい!」
「トーコ様!」
「瑠璃はミィの教育係をお願いね」
ミィが早く神力をコントロール出来るようになれば、何かあった時に自分で身を守れる。
嬉しそうなミィとは裏腹に、瑠璃のすべすべのほっぺは膨れている。随分と人間らしくなったものだ。蘇芳が勝ち誇った顔をしているが、勿論蘇芳だって私の就寝中ずっと観察するのは止めて頂きたいので私と同室にはしない。
「蘇芳は紅と相部屋ね」
「!!」
「はぁーい」
残念そうな紅の返事に私だけ一人部屋で申し訳ない気もするが、同じ家に知り合ったばかりの人――精霊だけれども――が住むのだ。一人部屋で何かされたら困る。そこまで私はお人好しじゃない。信用出来ないのだ。
瑠璃と蘇芳に裏切られるのも怖いが、どうせ私は寝てしまうので就寝中の行動制限までは出来ない。それなら新しい従者を監視させた方が効率が良いだろう。そして私は自分の部屋が欲しい。
「貴方は瑠璃とミィと相部屋で」
蘇芳に紅を任せたから、恐竜精霊は瑠璃に任せる。ミィもいるし意思疎通にも丁度良い。瑠璃は相当不服そうだが。
皆私が一人部屋な事に反対はない様なので、それについては言及しない事にする。
「部屋割りはそれでいいとして、設備は何か欲しいものないの?」
「特には」
精霊は食事も排泄もしないし、常に神様の力で清められているらしく汚れもしないからお風呂もいらない。趣味や興味がある訳でもなさそうだし、正直こういう人が住む家自体必要なさそうだ。
「ミィは?他に欲しいものとか、必要な物って思い付く?」
「大きなお屋敷にはゲストの為の部屋があるかと思います。欲しいものは、特にありません」
「ゲストの部屋か」
お屋敷に住んだ事がないのでよく分からないが、そう言えばヤトーには会う約束をしている。家まで呼ぶとなると部屋が必要だろうか。
(でも来るのって奥さんとヲールでしょ?泊まるかな?)
寧ろ私が泊める気になるか。商談用の部屋は必要かもしれないが。
「じゃぁゲストルームと、玄関の奥は少し大きめのホールにでもするか」
ホールで商談が住めばそれで良し。部屋が必要な雰囲気だった場合に備えて念の為ゲルトルームを一つ用意しよう。どうせ今のところ人に会う約束はそれだけしかないし、使わなければ何かに転用すればよい。
他に意見も出なかったので、取り敢えずそういう感じで一先ず造る事にする。
「足りなければその時に考えればよいのですよ」
「そうですわ。軽い気持ちでなされば宜しいのです」
そんな精霊の声援を受けながら、私達は広場の中央から移動した。家は広場の真ん中に建てるつもりだ。大体の大きさを決めて、私は十センチ程度の土台を作って見せる。
「蘇芳、これくらいの広さで家を作って頂戴ね」
「はい」
「取り敢えず模型を作るね」
「模型?」
「小さい家よ。それと同じものをこの範囲に大きく造って、住めるように維持し続けてほしいの。出来る?」
「勿論です」
何気に鬼畜な事を言っている気もするが、蘇芳の表情はとても頼もしい。私はその返事に満足し、意識を切り替えた。
想像するのは住みたい家。
(さて、作るよ!私達の棲み処を!!)
次は内覧会です。




