第18節 木材屋と領街道と行商人
久々の更新です。
さて、街道に出た私達は、近づいて来る行商人と思われる馬車を待ちつつ街道を歩いていた。
まだ肉眼では砂粒ほどの点だけれど、意識を集中したら土が何か大きなものが此方にやって来るのを教えてくれる。
次第に姿を現すそれを見て、私は違和感を覚えた。
「なんか、思ったより遅くない?」
「以前あった行商人の馬車とは様子が違いますわね」
そう、なんというか馬車と言うよりもっと重たい音がする。
それは行商人の馬車よりもゆっくり距離を詰めて来る。
「作業車?」
馬車の荷物は商品ではなく、伐採した丸太が積まれた荷台の様だ。
(いや、商品かもしれないけどさ。ガンゼットじゃなくて森の方から来たから追手ではないと思うけど、まさかあの丸太、緑の館の修復用じゃないでしょうね)
神法の水の道を舟で来た私達より、早い交通手段があったらどうしよう。若しくは連絡手段、例えば電話やネット的な何かがあったら。ここは神法がある。特に風の神法とか、声を遠くに届ける的な使い方が出来ても驚かない。
そう考えている間にも荷馬車は着実に近づいて来た。もう確実に御者に視認されている。ここはちょっと勇気を出して、潔く情報収集すべきだろう。
精霊達の様子を窺うと、瑠璃も蘇芳も特に慌てた様子はない。両手を広げて馬車の前に飛び出してみようかと一瞬考えたけれど、それでは私の身が危ないので思い留まる。
(土で壁を作って街道を塞いでみる?いやいや、冒険者が出来ないって言ってた事をするのは良くないかも。あ、そうか)
意識を目の前の石畳に集中する。微妙な力加減で土を砂に変えて、街道に敷かれた石を幾つか地中に沈める。少しずつ暗くはなっているけれど、気前良く一気に破壊すればまぁ流石に気付かれるから、不審に思われない程度に上手く、車輪が嵌るくらいの穴を作る。これで馬車が停まってくれれば話が聞けるし、何かあった時に逃げ出せる。荷物を置いてまで追いかけては来ないだろう。来ないでほしい。
こういう時大げさな呪文も動作も必要ない神法は便利だ。私はただじっと街道の石畳を見ているだけでいい。御者に神力の流れを読まれない限り、私が何かしているとは思われない。
蘇芳がいつも通り、近づいて来る荷馬車から私を隠す様に立つ。
「これくらいすれば停まるよね?」
「停まらなければ止めるまでです」
「いやいや。穏便にしようとしてるんだからね?」
「はい」
(本当に分かってるかな)
一抹の不安を抱えつつ、更に接近する荷馬車を待つ。ガタガタと結構煩い音がしている。
「蘇芳、人は何人乗ってる?敵意はある?」
「三人ですね。御者と、後ろに二人。荷を押さえています。敵意がある様には感じられません」
それなら多分私達の事はまだ伝わっていないんだろう。何かあっても三人くらいなら身は守れると思う。
目の前を通り過ぎる荷馬車。御者と目が合う。あった瞬間、荷台はガクンと下がり、石畳に引っかかった。よし、計画通りだ。
「うわぁ!!」
「なっ何だ!?」
「ぎゃぁ!木が転がる!!」
荷馬車に乗っていた男達が、三者三様に大声を上げる。強く手綱を引かれた馬が前足をこれでもかと上げて、これから飛び立つペガサスの如く空へ向かって嘶いた。
「何だ何だ!?何が起こった!?」
「親方!車輪が落ちてますぜ!!」
「何だと!?」
御者台から親方と呼ばれた厳ついおじさんが下りて来る。親方は後輪が石畳の間に嵌っているのを確認すると、何故だかそのまま私達の方へやって来た。
「てめぇ等がやったんじゃな……奴隷?」
「トーコ様」
私の前に立ちつつも怯えるミィ。大分腰が引けているけれど、これでも蘇芳を真似て私を守っているつもりらしい。何かそんな姿を見たら、私がしっかりしないとと思う。ミィ相手に何故だろう。
「トーコ様に向かって何て不遜な!頭を下げなさい!」
(瑠璃さーん。穏便にって言ってたばっかでしょうが)
相変わらず空気を読まない瑠璃。
「貴族様でしたか、これは大変な失礼を」
(貴族?奴隷を連れてるから?あぁ、また何か余計な……いや?これはこれで良いかもしれない?)
「親方ぁ、これ駄目ですわ、どうします?……うわっ!奴隷だ!何でこんなところに」
「奴隷?こんなところにいる訳ないだろ。まさか逃亡奴隷か?」
荷馬車を回って此方へやって来た従業員と思われるこれまたガタイの良いお兄さん二名がミィに気付き、そして三人に守られている私と、親方を見る。
「お前らさっさと座れ、貴族様だ!」
へへーとでも効果音が付きそうな感じで、片膝を立てて頭を垂れる親方の後ろに土下座する二人の男。
土下座とは、こんなにポピュラーなものだったか。此方に来てから一生分の土下座を見ている気がする。後どれくらい見るんだろう。
それにしても裸同然のミィを見ても欲情する素振りは一切ない。親方はともかく二人は二、三十代に見えるのに凄い自制心だ。それとも奴隷とは、そういう対象にすらならないのだろうか。
「これから何処へ何をしに行くの?」
「ガンゼットに木を売りに行くところで御座います」
「あの森の木を切ったの?」
「はい」
受け答えする親方は、私を貴族という割に怯えた様子はない。それは私達が小娘の集まりだからかそれとも普段から付き合いがあるのか、どっちだろう。
後ろの二人は、好奇心が先行しているもの一人、それより恐怖が先に立つもの一人。微妙だ。
「あれは貴方の森?」
「とんでもない!私は領主様より森の入り口付近の伐採許可を頂いて木材屋を営んでおります」
(領主?ここって領なの?)
そう言えば、神様の境界を乗合馬車の御者はリョウ界と呼んだ。領の境。ならその外側には他の領があるだけなのではないか。
(夢の出口じゃないの?)
「木を切ったら森がなくなってしまうじゃないの」
瑠璃の言葉で我に返る。そうだ、今は其方の方が大事だ。今からそこに隠れ住もうと思っているのにそれでは困る。
「グリーセントメリベは広大です。我々が切る程度ではなくなる事はないでしょう。それに木材屋が許可を頂けるのは森南端の入り口付近と領界の詰め所を結ぶ小道以南のみです。それより北は領主様の土地ですので立ち入れません」
立ち入れない。それは良い事を聞いた。私も立ち入れなかったらそれはそれで困るけれども。
ちらっと精霊を見る。困った様子はない。大丈夫そうだ。
グリーセントメリベは恐らく森の名前だろう。境界に人がいると瑠璃が言っていたから、多分その領界の詰め所に人がいて、そこから領外に出られるのだと思う。
位置関係も少し掴めた。
北にグリーセントメリベ。森の南の方に詰め所までの小道があって、それより南は伐採が許可された地域。
今いるのは、その森とガンゼットを繋ぐ街道。南にガンゼット、ガンゼットの東に中央都市。西側は領界の壁。
ガンゼットの南にロド。恐らくロドより南東の方から私は来た。その辺りは山と領界に挟まれていたから、山も領界も北西から南東に向けて伸びていた事になる。山を無理に超えれば中央都市に行けたのかもしれない。
「ガンゼットから森の入り口まで、どれくらいの時間がかかる?」
「大体三週間くらいでしょうか。木材を乗せていない時はもう少し早いですが」
三週間という事は十五日。結構な距離だ。森は見えているのに遠い。
馬車よりかなり速いスピードでここまで来たとはいえ、流石に十五日分も進んではない。
領という単位は正直、集まったら国になるんだよね?くらいの知識しかないけれど、広さ的にも日本じゃなくてアメリカとかを想像していた方が良いのかもしれない。州みたいなものだろう。
「買い物をしたいんだけど、この辺りを商会の馬車は通る?」
「はい。ネネキから来た、街道を一周する商会と森の入り口ですれ違いましたから、そろそろこちらを通るのではないでしょうか」
「そう。商会って森にも行くの?何か仕入れるものでも?」
「森の入り口付近には伐採中の木材屋の他に、詰め所の兵士の方もいろいろ買いにいらっしゃいます」
それはそれは。森に隠れ住んでも食料を調達する術があるとは好都合だ。でも立ち入り禁止の森から毎回出て来ると不審かもしれない。それさえどうにかすれば森での食糧事情はとてもよくなる筈。現金があればの話だけれど。
それにしてもちょいちょい新しい名前が出る。街道で結ばれているようだから、ネネキと言う場所も恐らく大きな都市か何かなんだろう。
地図が欲しい。切実に。
「ありがとう。もう行って良いわ」
遠慮しつつ木材屋達が荷馬車へ戻って行く。
「おい!馬車を持ち上げて…………ん?」
「親方、車輪、落ちてませんでしたっけ?」
「だからさっさと持ち上げろ!」
「いや、それが、何処にも落ちてないんすけど」
「は?」
どうやら蘇芳が石畳を元に戻しておいてくれたらしい。
木材屋達は頭にクエスチョンマークを浮かべたまま荷馬車に乗り込み、深々と礼をして去って行った。
「さて、じゃぁ行商人が通るまで歩くよー」
「「「はい」」」
もう直ぐ通ると言っていた親方の言葉を信じて、私達は街道を歩き出す。早く行商人に合わないと、辺りはもう暗くなり始めている。大した緊張感もなくこんなところを歩けるのは、自分の神法に自信が付いた訳ではなく瑠璃や蘇芳がいるからだ。たから二人からは絶対離れないぞという気持ちでせっせと歩く。
暗くなるのはやっぱり不安だ。ベリーシエが襲ってこないとも限らない。自然と隣を歩く瑠璃の服に手が伸びる。
「どうぞ」
何を察したのか、瑠璃は微笑んで私に手を差し出した。どうやら手を繋いで歩いてくれるらしい。
(完全に子供扱いね。まぁ繋ぐけれども)
蘇芳が恨めしそうにこっちを見ている。でも駄目。流石に捕まった宇宙人的なのは遠慮したい。
そろそろランプを灯そうか考え始めた時、森の方から漸く行商人の馬車が近づいて来た。
「蘇芳、停めてくれる?」
ランプを渡してそういうと、蘇芳は頷いて街道のど真ん中に陣取り、ランプを付けて行商人に合図を送る。きちんと私の意志を理解して、穏便に停めてくれそうだ。
「瑠璃はミィを隠しておいて」
「分かりました」
名残惜しそうに手を離した瑠璃は、街道から少し離れてスカートの後ろにミィを隠す。
この暗さで喋らなければ、よく見ないと分からないだろう。
「まいど!何かご入用ですか!?」
蘇芳の少し前で停止した荷馬車の御者台から、行商人の声が降って来きた。しかし行商人とは、何故皆こんな恰幅が良くてターバンを巻いた人ばかりなのだろう。制服だろうか。それに喋り方、言葉の抑揚が似ている気がする。何だかカジュアルな服屋の店員のコントを思い出す。商業ギルドがマニュアルでも出しているのかもしれない。
まぁいい、些細な事だ。さぁ買い物を始めよう。
蘇芳に近寄って手を握る。蘇芳も嬉しそうだ。良かった。
「品物を見せてもらっても良いかしら」
私は背伸びする子供の様に、行商人に声を掛ける。
「それは勿論いいが、お嬢ちゃん達だけかい?」
行商人が訝しむ。こんな時間、こんな場所に女性二人に子供だけ。怪しいのは分かる。
「近くに家はなかったと思ったが、お使いかい?」
「えぇ、森の方に行くの」
「森に?」
「お父さんがいるの」
「そうか、偉いね」
本当にこんないい訳で納得してくれたんだろうか。この辺に民家がないのにどうやってここまで来たんだとか、いろいろ思うところはないんだろうか。
「でも危ないよ。この辺は村も町もないし、乗合馬車も通らない。方向が同じなら乗せて行ってあげるんだけどね」
「良いの。気にしないで。この二人は強いから」
折角の好意を無にして悪いが、正直自分達で行動した方が早いし楽だ。
「へぇ。お姉さん達、変わった格好だが冒険者かい?」
行商人の目が光る。何だか二人を値踏みされている様でちょっと怖い。
蘇芳が答えに迷ったのか私の方を見るので、私は取り敢えずそうだとでも言わんばかり行商人に微笑んでおいた。
「そうか、でも早くお父さんのところへ行った方が良いよ。いくらここが安全だといっても、いろんなものがいるからね」
「分かった。そうするわ」
行商人が満足げに頷く。
「じゃぁ商品を見るかい?お嬢ちゃんは荷台に乗って構わないよ。乗れるかい?」
「ありがとう。大丈夫よ」
私は蘇芳の手を引いて荷台の方へ回った。蘇芳に抱き上げてもらって、荷台の幌の中に入る。そこには息子だろうか、もう一人乗っていて商品が入った箱の蓋を開けてくれた。幌に吊るされたランプだけで中は結構明るい。
さて、食料は一体どれくらい買えばいいだろうか。
「お兄さん、街道を往く馬車ってどれくらいの頻度で走ってるの?」
「うちの商会が次にここを通るのは一季節半くらい後だね」
「そんなに遅いの?」
「僕達は街道を一周しているからね、補給とホームで休む事を考えるとそれくらいはかかるよ」
「一周って?」
「領の街道を一周だよ。中央都市からネネキを回って、森の入り口を通って、ガンゼット、それから中央都市に戻る」
「ロドは通らないのね」
「ロドは街道の輪から外れているからね」
一季節はあのカレンダーで五十マスあった。五十日だとすると、一季節半で七十五日にもなる。森からガンゼットは馬車で十五日。ガンゼットから中央都市が十日。ネネキが遠いのか休憩が長いのかは分からないが、いくら携帯食が日持ちするとは言ってもそんなに持つのだろうか。携帯食のラインナップは結構ある様だが。
「この携帯食ってどれくらい持つの?」
「一週間か二週間くらいかな」
全然ダメだ。
私は一旦携帯食の箱から目を離し、隣の箱を覗く。携帯用の食器にナイフ。その隣は、松明?まぁ所狭しとキャンプ用品が入っている。テント様だろうか、緑色の生地もある。布は他に見当たらない。
確かにキャンプへ行くなら軽い食器は重宝する。ただ、食器は水で作れる。そもそも携帯食はそのまま食べられる様に出来ているから必要がない。ナイフは、水の神法でどうにかなりそう。ウォーターカッターは鉄とか金属も切れた。頑張れば果物も切れる気がする。
「他の商会は通る?」
「この辺りは木材屋しか通らないと思うよ。森の入り口まで行けば、中央都市と森を往復する商会があるね」
「頻繁に森に来るの?」
「八日に一度くらいだと思うよ?」
八日に一度。それならまぁ何とかなるかもしれないが、森から出て行くのは得策ではない。
今は現金がない。一日二食で我慢するとして、二食×八日×二人分でも三十二食分。仕方がない。これぐらいは買おう。それからさっき見た緑色の少し厚手の生地。若干忌避感が無きにしも非ずだが。
「他の布はある?あと裁縫道具はない?」
「売り物はあとこのナイフしかないね」
ないなら仕方がない。適当な大きさに切ってもらって、ミィには取り敢えず羽織らせればいいか。色が嫌なら蘇芳に仕舞っていてもらおう。
「魔石の買い取りはしてる?」
「神石しか買い取れないよ」
「そう」
ならこれはまだいい。神石は使い道を検証してから、必要なら別の商会で買ってもらっても良いだろう。
ランプ用の光属性の神石は、蘇芳が五つ持っている。あれがどれくらい使えるかだが。
「神力計はある?」
「神力計?持ってないの?」
「…………失くしてしまったの」
「それは困ったね。でも、神力計は町に行かないと売ってないよ。行商で売れる様なものじゃないからね」
「そうなの?」
紛失はそんなに珍しい事だろうか。割と頻繁にある様な気がするけれど。まぁ神力計は高かったし、そういうものなのかもしれない。
「お兄さんの神力計、少し借りられる?私の持ってる光の神石、後どれくらい残ってるか知りたいんだけど」
「あぁ、ランプ用のだね。ここで使ってくれるなら良いよ」
お兄さんが腕輪を外……したと思ったけれど、手錠みたいに輪が二つ付いていてチェーンで繋がっている。一つはお兄さんの腕に嵌ったままだ。盗難防止だろうか。ちょっと別の事を想像してにやけそうになってしまった。危ない涎が。
「どうぞ」
「ありがとう」
片方の輪を受け取ると、側面に数値が浮かび上がる。私は慌ててお兄さんから表示を隠した。表示は「00000/00000」。今まで見た神力計と変わらない。
ランプから光の神石を取り出して、腕輪に近づけてみる。数値が動き出し、表示は「38/50/100」に変わった。この神石を買った時は「50/50/100」だった。使って減るのは分かる。
「お兄さん。この50と100って何?」
神石から腕輪を離さない様に、お兄さんに表示を見せる。
「…………」
「どうしたの?」
「…………いや、何でもないよ。50は神石の大きさ、100は使用出来る回数だね」
「使用出来る回数?」
「神石は百回を上限として神力を補充出来るんだよ。回数が0になった神石を使い切ったら、その神石は光に還ってしまう」
「神石が光に還る?」
「君は…………余程のお嬢さん、なのかな?いつも新しい神石を使える環境にいたんだね。光に還るところを見た事がないの?」
お兄さんが少し呆れた様子でそう言った。
さっきからちょいちょい言葉に詰まるのは何か含むところでもあるんだろうか。
「…………他にも測りたいのがあるんだけど」
まぁ私も答えられないから言葉に詰まる。私はお兄さんの質問には答えず、振り向いて荷馬車の後ろで待機している蘇芳に声を掛けた。
「蘇芳、光の神石と魔石出して」
「魔石もですか?」
「そんな顔しないで。ちょっとだけだから、ね?お兄さん、魔石も計っていい?」
「魔石?……少しだけ……だよ?」
「分かってるわ」
緑の館で手に入れた光の神石。神力計は「250/250/100」を映し出す。使ってないから上限の100なんだろう。あの館の人の神石はどれも似たり寄ったりの大きさだったから、多分同じくらいの神力を内包していると思う。前に別の行商人から買った光の神石は50だったから、その五倍の大きさだ。50で十四日ランプが持つとするなら、この250の神石五個あれば暫くランプの光には困らない。
(神石は買う必要ないな。使ったら充電してもらうので今は十分だね)
そしてベリーシエの魔石。大き過ぎて珍しいとメルイドに言われたから、出来ればこれもお兄さんには見て欲しくない。手の中に握って隠しつつ、神力計を当てる。「500/500/100」。想定通りだ。神石と魔石で表示の違いはないらしい。
(にしても魔石って、本当に何か嫌な感じがするな)
触っていないのに、お兄さんの表情も心なしか険しい気がする。
(いや、険しいというか……これって)
お兄さんは明らかに怯えていた。
私は慌てて腕輪を魔石から離し、お兄さんへ返そうと前へ出す。
「ひっ!!」
(何をそんなに怯えてるの?)
不図伸ばした手の中の腕輪の表示を見る。
(しまった!!)
お兄さんに見られた。でもそれだけではない。
そもそも、お兄さん側にある腕輪にも同じ表示が浮かび上がっていたのだ。
 




