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在りか ~私の居場所と異世界について~  作者: 白之一果
第1章 旅の始まり
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第11節 精霊契約とギルドと納税

 この町に来たばかりの昨日、私と並んで歩いていたメルイドが今、瑠璃の三歩後ろを付かず離れず付いて来る。


(たった一日でこんなに人の関係って変わるのか)


 抱っこされた私は瑠璃の肩越しにメルイドを見る。視線が合ったと思ったら直ぐに俯かれてしまった。何か結構グサッと来るのは否定しない。


「ねぇ、神力計売ってるとこみたい」


 メルイドの首にかかる紐を見て、そんな事を言ってみる。でも本当は彼の気を引きたいだけかもしれない。メルイドは独身でない分、女性の扱いを分かっている気がする。私が気になるのはいつもそういった青年だった。


(腐ってるけど恋愛したくない訳じゃないのよね。逆ハーレムも歓迎ですよ)


 なのに何故だろう、従者が同性とは。


(いや、二人が嫌いな訳じゃないよ?でもねー異世界転移の定番でしょ?ハーレムとか逆ハーレムとか。何で私は王道を外れるかなぁ)


 それはここが地獄だからかもしれない。微妙に精神削られる系の地獄。


(何の嫌がらせだ、それ)

「では日用品店に行きましょう」

「日用品店?神力計って日用品なの?体温計じゃなくて温度計的な立ち位置なの?」

「オンドケイ?どうでしょう?」


 どうやらここに温度計はないらしい。

 私達はそのまま日用品店へ行った。日用品店は石屋の並びにあった。石屋と似た様な間口の店に入ると、勝手知ったるとばかり店主に挨拶したメルイドが、神力計のコーナーに案内してくれる。

 大通りの向こうの店や町並みはヨーロッパみたいなこじゃれた感じだったけれど、石屋や宿屋は簡素な木の家といった内装だった。だから此方側にあるというだけで日用品店も石屋と同じ内装を何となくイメージしていたのだけれど。


 この店はその並びにあって何と言うか、内装が見えないくらい兎に角品物が多くて、まるで違うものに見える。所狭しと並べられた品物を避けつつ神力計コーナーを目指す。陳列も凄く煩雑で、例えるなら中国のアンティークショップだろうか。


「神力計ってペンダント以外にもあるのね」


 ようやく辿り着いた売り場には、指輪型や腕輪型の神力計も並んでいた。結構可愛い。普通にアクセサリーだ。


(そう言えば指輪どうしたっけ?)


 藤さんに左手の薬指にはめられた指輪。そう言えば藤さん共々すっかり忘れていた。


(まぁこんな状況だし仕方ないよね……)

「他には?どんなものがあるの?」

「この店はここだけです。通りの向こうには価格帯の違うものがありますが、機能的には同じです」

「いや、形の話」

「しっ、失礼しました!これ以外ではその、特殊なもので足枷型や首輪型というのもあります。その筋の店では取り扱いがあるかと思いますが、貴方様がおいでになる様な場所では……」

(その筋ってどの筋よ。そんな言いにくい事まで言わなくていいよメルイドさん)


 軽く幾つかに触れてみる。他にお客さんがいなくて助かった。誰かに見られたくはない。

 どれも表示は五桁まで。全て「00000/00000」で止まったので、まぁ間違いという事はないのだと思う。形が可愛いだけに残念だ。


「そうだ、瑠璃は自分の神力がどれくらいか知ってる?」


 小声で聞いてみた。


「今はトーコ様と同じですよ?」

「同じなの?」

「ええ。私も蘇芳もトーコ様の器を使って神力を集めますから」

「そうなの?なら数字で幾らか分かる?」

「さぁ?私共は感覚で分かりますし。人種は鈍いですから分からないのですね」


 ナチュラルにディスられた。でもそうなのか。人はここでも鈍いのか。


(精霊ってどっちかっていうと動物に近いのかな)


 感覚が鋭いのだろう。

 私は徐に神力計を一つ取り、瑠璃にくっ付けてみた。数値は「00000/00000」で止まった。多いからといって割れたりしないのは助かる。


「でも瑠璃も私も神力使ってるよね?少し減っててもよくない?」

「私達はいつでも神力を集められますからね」

「寝てなくても?」

「ええ。普通生命の意志は強いので、器の中の精霊は生命が眠る間しか大気の神力とコンタクトが取れません。その点私達は元々外に出ていますので」

(それって何?自動回復的な?)

「ちなみにトーコ様は御自分でも神力を回復されていますよ?私や蘇芳も別々に同じ器に神力を集めておりますから、まぁ単純計算で三倍の速さで回復しますね」

(通常の三倍!と言うか、私神力集めてたんだ?初耳なんだけど)


 本当に良く出来た器だ。流石は神様が作った特別な器。


「神力計って皆持ってるの?」

「さぁ?人種の事は分かりません。メルイド?」

「大体は持っています。通常は学院に入学する前に親が買い与えます。神力が総量の1パーセントを切ると酔って自分の意志ではどうしようもなくなくなるので、それを防ぐ為に初めて神法が発動した時期に神力計を身に付け始めます」


 貴方様程神力の多い方はあまり気にならないのかもしれませんね、とメルイド。

 まぁ入学祝は分かる気がする。値札に書かれた金額は大銀貨五枚。年収が大銀貨百二十枚の平民にとって、そこそこする金額だろう。ましてやそれより貧しいものが買えるのか。


(お高いランドセルみたいなものなのね、きっと)


 お店を一通り案内されながら見たけれど、結局五桁以上の神力計は見つからなかった。

 神力の回復薬的な何かもなかった。まぁこれは日用雑貨ではないかもしれない。

 小声とはいえ、こんな公共の場でする内容の話ではなかった気がする。お店に人はいなかったけれど、万一という事もある。もっと気を使うべきだったと思いつつ店から出る。


「薬局とか病院とか教会とかはないの?」

「無知で申し訳ありません。聞いた事がないですが、どういったものですか?」


 メルイドが真面目に聞き返してくる。どれの事だろう。


「薬局って知ってる?」

「すみません」

「病院は?」

「すみません」

「協会は?」

「申し訳ありません!どれも存じません!」


 日用品店の前で勢いよく土下座されそうになって慌てて止めた。具体的には右手を突き出してメルイドの額を抑えた。手が大きかったら頭を鷲掴んでいるところだ。今丁度瑠璃に抱っこされていて目線の高さが近かったから、止め易くて助かった。


(人前で止めて頂戴。目立つわ)


 手がじんわり暖かい。


(あれ、この感覚ってなんか……)

「トーコ様。手をお離し下さい」

「あ、そうね。ごめんメルイド」


 直ぐ手を離して瑠璃に捕まり直す。取り敢えず石屋へ帰ろう。往きより少し縮まった距離で、私達は歩き出す。


「じゃぁ神力を使い果たして倒れたり、怪我したり病気になったりしたら何処へ行くの?」

「医療ギルドです」


 ギルドか。


「そう言えばギルドには特別な神力計があるらしいです」

「そうなの?じゃぁギルドに寄ってみたい」

「申し訳ありません。この町にギルドはありません。支部でしたらそろそろククルが納税に行く頃でしたが……」


 メルイドが言い淀む。


「何かあるの?」

「いえ、その、店を続けないのでしたら必要がなくなるので」

(あーそっか、どうしよう。私ここに住むつもりなかったんだけど、お店があるんだよねぇ)


 石屋へ戻ると、土が綺麗になくなっていた。騒ぎにもなっていない様だし、蘇芳が上手くやったらしい。扉にはcloseの札が掛かっていた。

 店に入るとカウンターで書き物をしているククルと、傍でそれを眺めている蘇芳が此方に気付いた。


「お帰りなさいませ!」


 蘇芳が駆け寄って来る。ククルもペンとインク壺を手早く片付けてやって来た。


「お帰りなさいませ」

「ただいま。何してたの?」

「帳簿を整理しておりました。明日からギルドの納税が始まりますので」

「その事でちょっと話があるんだけど。今良い?」

「はい」


 瑠璃が私を応接セットのソファーに下ろす。


(いや、誰か隣に座ってよ。流石に一対四は話し辛いわ)


 向かいのソファーに腰を下ろした瑠璃と蘇芳は兎も角、メルイドとククルは床に膝間づいてる。

 結局私を挟んで瑠璃と蘇芳、向かいにメルイドとククルで落ち着く。これを定位置にしたい。


「貴方達、本当に私に着いて来るの?ここに生活があるし、付き合いだってあるでしょ。ここでお店を続けたくはないの?」

「それは……」

「トーコ様、この二人をここに置いて行くなど賛成致しかねます。何があるか分からないんですよ?」


 それはそうなのだけれど。


「瑠璃、私はここに住むつもりないし、かと言って二人を養うだけの貯えもないでしょ」

「そんな事は些細な事です。蓄えはこの店に少しはあるでしょうし、お金がないなら用意させれば良いではないですか」


 店のお金は既に瑠璃の中では私の財産らしい。そうは言ってもとても夫妻が精霊に付いていけるとは思えない。それに、この誠実さなら大丈夫じゃないかとも思わなくもないのだ。本当に少しだけれど。


「この二人なら喋らないでいてくれるんじゃないかな?」

「喋りません!」

「勿論です!!」


 二人が力のこもった声でそう訴える。


(見てこの澄んだ目。あんたの濁った眼とは…………駄目だ)


 精霊の目は澄んだ水晶みたいに綺麗だった。


「神様とのお約束を破るなんてそんな恐れ多い事絶対に致しません!」

(いや、だから神様じゃないって。あんたも満足そうにしてないで瑠璃)

「仕方ありませんわね」

(おや、許可が出た?)


 瑠璃が立ち上がり、テーブルを回ってククルに近寄る。


(瑠璃?)


 それは一瞬だった。

 瑠璃の伸ばされた手が、服も皮膚も無視してククルの胸に入る。比喩ではなく物理的に。


「瑠璃!!」

(どうなってんのよそれ!!)

「トーコ様、よく見ていて下さいませ」


 瑠璃がゆっくり手を引き抜くと、握られた精霊がバタバタしながら一緒に出て来た。


(またあんたは何する気!?)


 瑠璃の目の前まで持ち上げられた精霊が、その水色の綺麗に瞳に捕らえられて硬直する。

 ククルが茫然と…………ククルは割と平然としているけれど、メルイドは完全に固まっている。


「良くお聞きなさい。二人がトーコ様の事を少しでも許可なく喋ったら、お前の主人は光に還るわ」


 精霊が慌てて何度も首を縦に振る。瑠璃が掌を開くと、精霊は急いでククルの中に戻って行った。


「トーコ様、これが精霊との契約です。この約束は世界の理によって確実に果たされます。まぁこの方法はかなりの器の差が必要ですので上位の神獣には通用しないかもしれませんが」

「確実にって……」


 約束と言うよりもうこれは強制だ。それは最早呪いか何かではないだろうか。


「メルイドで練習なさいますか?」

「しないから!!」

「そうですか?では二人供、離れるからと言ってお前達がトーコ様のものでなくなる訳ではない。今はこう仰っておられても、トーコ様のご意思が変わればその限りではない。肝に銘じておきなさい」

「「はい」」


 何だかんだで私の秘密は守られる事になった。この方法、私が恨まれないだろうか。


「じゃぁ、二人はこれからもここでお店を続けて行くって事でいいね?」


 ククルは平然と、メルイドは真っ青な顔で頷く。安心していいのかどうなのか。

 まぁもう終わってしまった事を悩んでも仕様がない。私は諦めて建設的な話題に切り替えた。


「さっき言ってた納税って、具体的にはどういうもの?」

「店を営む者は皆商業ギルドに加入しておりまして、季節ごとに儲けの四十パーセントを納める決まりです。季節の第四週が納税の週ですので、明日行く予定でした」


 ククルが答えた。納税は彼女の仕事の様だ。

 それにしても四十パーセントとは、北欧の税率並に高い。


「ギルドって何処にあるの?」

「支部は役場の一階にあります。ギルド自体は中央都市まで行かないとありません」

「明日行くなら、私も一緒に行っていい?」

「はい」


 ククルは快く頷いてくれる。

 商売をするつもりは今のところないけれど、後学の為に見ておこうと思う。


 その日はそのまま宿に帰り食事をして、瑠璃と蘇芳に部屋から出ない様にお願いしてから普通に寝た。

 石屋に泊まっても良かったかもしれない。広いし。でもベッドがないし、いくら精霊の契約があっても石屋夫妻をそこまで信用したかというとそうでもない。まだ三人だけの方が気が休まる様な気がした。




 翌日、一の鐘で起床した私は食事の後、蘇芳に抱っこされて石屋へ行った。

 そう言えば折角町に来たのに、昨日も一昨日も一食しか食べていない。もう少し食べた方が良いかもしれない。ここに来るまで何も食べてなかったので割と満足していたけれど、栄養やカロリー的に良くない気がする。身体は子供なのに。まぁ懐的には大分助かっている。


 今日石屋は二の鐘から通常通り営業するが、ククルは私と役場に納税に行く。役場も二の鐘からの営業だ。

 役場は朝から人でごった返していた。一階は良く見ていなかったけれど、銀行の窓口の様なブースがいくつか並んでいて、冒険者ギルドも商業ギルドも医療ギルドもそこに窓口を構えていた。それぞれの窓口の下には税金の額が大きく明記してある。明朗会計だ。

 私は取り敢えず、ククルが商業ギルド支部の窓口で貰った申告書を記入するのを眺める。支払いは大銀貨十九枚。十九万円。確定申告みたいなものだろうか。税金関係は会社任せだったから正直良く分からない。

 書類出してお金を支払う。書き方も難しい事はなかったし、ここでの納税はこれで終わりらしい。思ったよりしっかりした組織だ。自己申告が何処まで正確かは分からないけれど。


「ねぇククル、あっちは?」


 窓口の向かいは店舗になっていた。


「あちらは、各ギルド支部の専用スペースです。商品販売や取引を行っています。見て行かれますか?」

「うん」


 最初に入ったのは医療ギルドのスペース。回復薬や衣料品の販売はなく、ベッドがある。


「怪我はここで治療してくれますよ。少し高いので私達には手が出ませんが」


 ククルが私の手を見てそう薦めてくれた。ここがメルイドが言っていた病院の代わりだろう。高くて周辺住民が来られない病院に意味があるのだろうか。内装は病院と言うよりマッサージ店である。


「あの人達はお医者さん?」


 制服ではないのでお客さんと見分けがつかない。


「オイシャサンかどうかは分かりませんが、彼らは聖属性の神法使いですね。光属性を極めると使える様になります」

「ククルも光属性だよね?傷の手当とか出来るんだ?」

「とんでもない!私程度の神力では聖属性には成れません」


 エリートという事だろうか。やはり何処も医者には一部の人しかなれないのだ。

 料金表を見る。傷一箇所大銀貨二枚。傷が治るんだから高くないのかもしれないけれど、今の所持金からすると手と両足を直したらこの後の生活がかなり心配になる。人生には何があるか分からない。いや、本当に。

 

(手の傷の方が酷いけど、両足を先に直すべき?それともいっそ全部……)

「その手なら大銀貨五枚はかかりますね」


 お兄さんに声を掛けられた。大銀貨五枚は無理だ。


「足の傷はいくら?」


 ベッドに座って見てもらう。こっちは大銀貨二枚ずつで計四枚。仕様がない、必要経費だ。四万円で足が治ると思えば安いものだ。これからの旅が格段に楽になるだろう。


「じゃぁ足だけ」

「分かりました」


 瑠璃が残念そうな顔をしているが無視する。

 お兄さんが手を翳すと、光が集まって来た。少し暖かい。美容院でシャンプーの後首に熱いタオルを当ててもらっている時の様な、凄く幸せな感じがする。


「終わりましたよ」


 十分くらいで治療は終わった。凄い、本当に傷がなくなっている。痛くない。何なんだこの凄い世界は。


「ありがとう」


 自然とお礼の言葉が出た。瑠璃はあまりいい顔をしなかったけれど。だからその後歩こうとした私を、靴がないという理由で抱き上げた瑠璃には何も言わないで、大人しく抱っこされておいた。そしたら今度は蘇芳が拗ねた。いい大人が子供みたいな。


 商業ギルドのスペースにも売り物はなく、小さく仕切られたスペースに応接セットが幾つか見えた。


「商業ギルドも何も売らないの?」

「ギルドは卸なので、小売りはないです。ここは商談や、加入する為の試験を受ける場所です。随時受け付けていますよ。有料ですが試験前の勉強も見てくれます」


 確かに料金表が置いてある。


「試験の内容ってどんなもの?」

「ギルドが定めた商いのルールを問うものが多いです。共通事項の流通に関するルール、自治問題は現在の主なものの相場、最近は流行の読み方の法則とかも出る様です。専門分野では、例えば石屋なら神石魔石の買い取りや浄化の価格等でしょうか。価格はギルドが定めた範囲内でなければなりませんので、適正かどうかを問う問題と、計算問題も出ます」

「ククルは受けたの?」

「はい。石屋の試験を受けました。合格しなければ商いが出来ませんので」

「メルイドも?」

「はい」


 普通に資格試験だ。受かる気がしない。ここの人達は実は結構頭が良いのではないだろうか。識字率もかなり高い様に見える。


 それから冒険者ギルドのスペース。ここは冒険の戦利品の買い取りと販売をしていた。全てに値札が付いている。買取価格表もある。税込みだろうか。

 武器に防具、植物、鉱物等いろいろある。短剣等は買えなくもない金額だけれど、取り敢えず必要はない。鞄はここで買っても良かったかもしれない。アイテムボックス的な、そんな魔法みたいなものはなかった。流石精神削られる系の地獄。地味に私に厳しい。


「ここは卸じゃなくて売ってるのね。町には武器屋さんとか防具屋さんってないの?」

「町で武器の販売などされたら危ないです。子供も多いですし」


 ごもっともだ。


「ここなら常に大人の目がありますし、セキュリティーがしっかりしているので盗難の心配もありません」


 まさかククルの口からセキュリティーなんて言葉が出るとは思わなかった。


「此方は冒険の戦利品で、彼方の棚は商業ギルドが抱える鍛冶職人が作ったものですね。新品の武具や防具は商業ギルドから一括して冒険者ギルドが買い上げて販売します。修理も冒険者ギルドの窓口で請け負ってくれますよ」


 植物や鉱物は兎も角、冒険の戦利品の武具や防具というのがいまいちよく分からない。魔獣を倒しても魔石以外がドロップするのは見た覚えがない。深くは考えていなかったけれど、あの村では光に還った人の服も一緒に消えてなくなった様な気がするのだ。


(半殺しで盗るとか?でもその人が後で死んで武器が消えたら意味なくない?まさか所有権が移る?)


 何処かのノートみたいな話になって来た。


「戦利品って、呪われたアイテムとかじゃないよね?」

「呪われた?いわく付きのものはあるかとは思いますが、危ないものは販売されないと思いますけど」


 いわくは付いているらしい。ククルは冒険者ではないので、あまり詳しくは知らなかった。必要なら冒険者ギルドの人に聞く事にしよう。

 掲示板には「冒険者の派遣、戦術指南は窓口まで」と書かれてある。ここにもしっかり料金表がある。騙される心配がないのは有り難い。


「戦い方まで教えてくれるの?」

「はい、地下が指南場です」


 しかも新設設計。初心者、初級、中級とランク分けがある。パソコン教室みたいな感じだろう。

 もう一方の掲示板には冒険者への依頼等の大量のメモが張られている。


「あの依頼は誰でも受けられるの?」

「ギルドに登録すれば受けられます。買い取りも登録者だけしか受け付けてくれません」

「登録は試験がある?」

「冒険者登録は試験がないので直ぐに出来ると思います。別の町にも行かれるのでしたら登録しておいて損はないかもしれません。買い取りなどは何処の町でもしてもらえますから」

「そっか。ならしてみようかな」


 手っ取り早くお金を稼ぐにはやはりこれかもしれない。私は兎も角瑠璃や蘇芳は戦える。戦ってくれるかは分からないが。

 魔石もあまり売れないし、税金は収入に応じて払う仕組みの様だから、登録して困る事もないだろう。


(あ、後で他の石屋さん紹介してもらわなきゃ)


 私は冒険者ギルドの窓口で登録用紙を貰った。


「貴方だけ?そっちのお二人は?」

「いらない」


 受付のお姉さんに不審がられつつ、用紙を記入する。


(名前、トーコ。年齢?十……五くらいでいいや。こんなに髪長かったの中学か高校くらいの時だし。属性は水と土?)

「あら、二属性持ってるの?優秀ね!」

(そうなの?)


 居住地、本拠地、神力と、項目はまだまだ続く。


「……これ、全部書かなきゃダメ?」

「駄目ではないけど、神力は低すぎると危ないから測らせてもらうわ」

「神力計、見せてもらっても?」

「いいけど……はい、どうぞ」


 お姉さんに見えない様に神力計を握る。数値は「00000/00000」で止まった。駄目だ。


「二千五百ある?」

「…………」

「ないか、じゃぁ残念だけど」

「お姉さんはあるの?」

「一応ね。職員も冒険に出るから。でも気を落とす事はないわ。ない人だって沢山いるんだから」


 別に慰めてほしい訳ではない。

 登録に二千五百必要というなら諦めよう。高過ぎて不審に思われたくはない。二属性も優秀らしいし、目立つのは嫌だ。私は色々失敗した事に今更ながらに気付いた。

 でもお金を稼ぐ手段が減ってしまった。残念だ。


「あれ、宿屋さん?」


 冒険者ギルドの窓口から離れた時、役場の入り口を出て行く宿屋さんを見た気がした。


「どうかされましたか?」

「何でもない」


 まぁ用事はないからいい。

 それにしても、ギルドは独立行政法人とか協同組合とか何かそんな感じの組織かと思っていた。実際やっている事はもっと幅広い気がする。意外と見応えがあって良かった。


「そうだククル、石屋って他にもある?魔石をお金に換えたいんだけど」

「ありますが、あの魔石ですか?」


 ククルが小声になる。あまりここではしない方が良い話かもしれない。なら取り敢えず役場出よう。

 外に出るとククルは周りを少し気にしつつ、やはり小声で私に答えた。


「あの魔石をこの町でお売りになるのは少し控えられた方がよろしいかと。噂になっています」

「もう?売ったの一昨日だよね?」

「はい。番人との関連を疑う声はまだない様ですが、売るとなるといろいろ聞かれるかと思います。本当に珍しい神力量でしたから」

「いくつか販売しちゃったの?」

「昨日全て売れました」

「早いな」


 それなら仕方がない。しかし困った。手持ちは常に心許ない。

塔子の現在の所持金:大銀貨8枚、小銀貨2枚、大銅貨5枚(=82,500円)


ちなみに仕立て中のドレスや靴の代金は、まだ半金しか払ってませんが相殺済みです。

後二泊分の宿代が支払い済みですが、魔石は換金出来そうにないので、82,500円がなくなる前に現金を得る手段を探さなければなりません。

家もお金も仕事もない不安定な生活、精神的に結構辛そう……。

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