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8.妖精族の過去

 隣のレーズンの部屋のドアをノックする。


「レーズン。ミヤコだけど、今大丈夫?」


 しばらくしてドアが開いた。顔を覗かせたレーズンはやはり、元気の無い顔をしているような…。先程からの先入観があるからだろうか?


「大丈夫だけど」

「話があるんだ、えっと…」

「いいよ、ボクの部屋で話そう」

「ありがとう」


 部屋の中に進んで、一つしかない小さな椅子に座らせてもらった。レーズンは私に向かいあうようにベッドの上に座る。


「あの、話ってのはね、レーズンがさっきからあんまり元気無さそうだなーって思って…気になって訪ねてみたのだけど…」

「…そんなにボク、元気なさそう?」

「うん、お風呂でも薬湯について一言も解説しなかったし…」


 真剣に話せば、レーズンにぶはっと吹き出された。何故に。


「…ボクってばそんな解説したがる感じに見えるの?」

「薬とか、妖精族の話に関しては、そう思いましたけど」


 笑われたのに、少しだけ不服。あからさまにもごもごと話してみせた。


「まあね、確かに…。好きだからね」


 優しい笑みだ。…まあ、笑えるならいいんだ、こちらもついつい、つられて笑みを浮かべてしまった。

 気を取り直し、姿勢を正す。


「じゃあ何で解説してくれなかったの?…ん?よく分からない言い方になったな。…なにか他に、気になるような事でもあった?」


 元気が無い訳ではないのかもしれない。それに頷いたレーズンに一息ついてから「何が気になってる?言いたくなかったらいいけど、出来れば知りたいなあ」なんて聞いてみる。


「んー…ちょっと物思いにふけていただけ」

「故郷を離れて、謎の勇者について行くのが不安とか…?」


 懸念していた事を恐る恐る呟けば、レーズンは首を振った。


「そんなんじゃないって!キミの事は別に、怖くもなんともないから安心して」

「おお、…そりゃあ良かった」


 ほっと息をついていると、レーズンは頷いた。


「まあいいか、話しても…。頑張るイザベルの姿を見て、昔のボク達のことを思い出してたんだ」

「ボク達?」

「妖精族の事」


 今では村を観光地にして、人間たちがお金を落としに来てくれるけど、(率直な物言いである)昔はそうじゃなかったんだ、と言い、レーズンは目を伏せた。


「昔はね、妖精って魔法は最低限使えるけど、力が弱かったからさ、いいように蹂躙されてきた過去があるんだよ」


 レーズンは語り出す。

 ある妖精は人間の好奇心のせいで捕まえられた。人間の子供のペットのように扱われた。

ある妖精は羽をちぎられ、羽を身を飾る道具に使われた。

 弱い者は淘汰されてきたのだ。

 レーズンみたいな子たちに、こんな酷いことができるのか…と思ったことを呟けば、実は妖精って手のひらサイズなんだよ、と衝撃の事実を告げられる。


「長様みたいに長く生きた方々はこれ以上人間の被害にあわないためにも、自分達でなんとか知恵を絞った。その一つにボク達の姿を人間の子供のような見た目にする事だった」


 愛らしい子供に姿を近づければ、罪悪感が湧いたのか、自分達に対する悪事も減ったという。

 …確かに、手のひらサイズの、人間とは明らかに大きさが違う妖精と、子供の姿の妖精では、手の出しやすさが違うと思った。自分達と違うものは怖い。だからといって彼らを好き勝手していい訳はない。


「みんな、必死に生き延びる為に知識を身につけていったんだ。その経過の中で薬や鍛治、工作、加工なんかも出来るようになった。その技術を生かして商売を始めたのも被害に合わない、自分の身を守る為のもう一つの方法って訳」

「…そうなんだ。…じゃあレーズン達は子供の姿をやむなく保ってるって事?」

「まあ、そういうこと」

「…なんで、レーズン達は悪くないのに、そうしないといけないんだ…」

「まあね、…でも、子供の姿も悪くはないよ。材料を買うときはオマケしてくれる時もあるし、みんな優しいし…」

「……」


 そんなの「悪くない」の範疇にいれていいものじゃない。…言いようのない感情が頭の中を熱く駆け巡る。何を言えば、この感情に名前が付けられるんだろう。

 私の様子を察して、ミヤコが元気無くすとは思わなかった、ごめんね、とレーズンに謝られる。

 「違う」と首を振るが、「ボクは大丈夫だから!」と頬を小さな手で挟まれた。柔らかな感触に、より不甲斐なさが生じていく。


「…でね、悪い見方だと思うけど、そんな昔のボクたちが、イザベルと重なっちゃってさ。でも、そこにミヤコが自分のすきなこと、得意なことしたらいいじゃんって言葉がでてきた。…ボクでいうと、商売とか、製薬だなあって、腑に落ちたというか…」


 いきいきと好きなことに関して語り出すレーズンが頭に浮かんだ。


「だから、昔のボク達みたいに悩んでるイザベルを、なんとかしたげたいなって思って」


 その言葉に、レーズンがスリングの材料を集めて、一から作ることを提案し、妖精仲間に制作してもらった事を思い返した。


「結果、イザベルは戦えるようになった。ありがとね、ミヤコ」

「…うん」

「もう、ボクの事はいいからさあ〜、明日のこと考えようよ明日のこと」


 ぐにぐに、頬を揉まれて、言葉にならない「うん」を口にした。

 レーズンにも、辛い過去があったんだ…。


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