7.挑戦、成長
打倒スライム、逆襲の時である。
イザベルちゃんと共に再び村の入り口の狩場に戻ってきた。手頃な石と、スリングを握りしめたイザベルちゃん。その背中を見守るように、私達は気に障らないような位置に下がって彼女を見つめる。
こういう時になんと言えばいいのかな、と考える。「頑張れ」は既に頑張っているので言っても意味がない気がする。行動してる分さらに頑張っている。私は「生きてるだけでみんな頑張ってる」という思考の人間である。
私がなにか言ったところで彼女がスリングを引き絞るのに変わりはない。結果はどうあれ、行動するのだろう。
横にいるレーズンも何も言わず、彼女を見つめている。私も視線をイザベルちゃんへ向け、戻した。
スライムに衝撃が走った。
イザベルちゃんの前を軽快に跳ねていたスライムが、一匹弾け消えた。それを示すように、銅貨が地に落ちる。
「あ…」
イザベルちゃんが銅貨を見つめている。息をつめ、無意識にガッツポーズしてる、私。
私達に振り返ったイザベルちゃんは顔を真っ赤にして目を潤ませていた。
体が自然と飛び出した。
「やったぁー!イザベルちゃん、やった!!」
「はい…!やりました…!お二人のおかげです…!!」
「よかったじゃん…!」
手を取り合い、はしゃぐ私達。
入り口の騒ぎに、なんだなんだと妖精や観光客がやってきて、不思議そうにこちらを見つめていた。
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その後もスライム狩りをし、スリングの腕をつけていったイザベルちゃん。黙々と経験値を積み、すぐにスライムをロックし、石を放つ技を身につけた。
私もスリングを貸してもらってスライムに放ってみたが、近くは簡単だけど、離れるとかなり当てるのが難しいことが分かった。レーズンもまたしかり。
かなり離れていないと、敵に反撃される際、次の石をセットして放つまでに距離を詰められてしまう。
弓矢で練習してきたこともきっと活かされているのだろう。遠距離で、正確にスライムに石をぶつけていくイザベルちゃん、最高にカッコいい。
「本当に、ありがとうございます」
「そんな深々と頭下げないでいいんだよ」
日も暮れてきたので、妖精村の宿屋で一泊することに。私やイザベルとちゃんは、スライム狩りで得たお金で泊まる事が出来た。これが、自活?なんだかじーんとくるものがある。
そんなことより、イザベルちゃんもそう思わないかい?と聞けば「確かにそうですね…!生活できてる、私…!」とお互いに頷きあった。分かる…!超分かる…!!
それぞれシングルの部屋に泊まることにした。初対面同士が同じ部屋に泊まるのはどうかなあと思ったし、一人の時間も欲しかったから。提案したら二人も賛成してくれた。
「…イザベルちゃん。改めて、私は魔王城まで行って修行コースだけど、大丈夫?」
確認、大切。
絶対途中で色々と話すから…!(勇者云々)それまで一緒にいてくれるとこちらも心強い。
イザベルちゃんは頷いてくれた。
「ええ、大丈夫です。一緒に修行させてください!レーズンさんも一緒ですよね」
「あ…ボクはサクラギで別れると思う。商業について学びたいんだ」
「そう、ですか…。でも、また会えますよね」
「うん」
そうそう、会おうと思えば会える。
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今日はのんびり力をつける事ができて良かった、と振り返る。
木造の大浴場にみんなで入り(効能は毎日変わるらしい、すごいね!今日は肩こりによく効くお湯だった)寝る準備も出来た。ふかふかのベッドに転がる。
いつ来るか分からない災厄に急かされても仕方ない。そう思える機会を貰えて、逆にこちらこそイザベルちゃんにありがとうである。
寝る前に、レーズンが泊まっている隣の部屋を訪ねることにした。
考え事をしているのか、あまり喋っていないのが気になっていた。
お風呂では、薬湯だったからこそ、お湯の効能について語り出しそうなのだが、黙って浸かっていたし。
やはり、災厄の事が心配なのだろうか…。大人びた話し方や、妖精の仲間へのテキパキとした指示を見て、勝手にすごいなあと思っていたけど、彼女は子供だ。一人で見知らぬ勇者(?)についてサクラギとやらに行くのも大変だろうしなあ。