6.完成!
合成でも出来そうな大層な機械のある部屋へ素材の手のひらいっぱいのゲルを持っていく素材屋さん。ドラム式洗濯機のように正面にある蓋を開け、洗剤を入れるように素材のゲルを中に投入した。洗濯を始めるように蓋の隣の赤いボタンを押すと、機械の上部から湯気が吹く。中身が超回転し、内部が光り始める。
「これが合成…」
こぼれた呟きはレーズンに拾われる。
「ええっ!?エンチャントといい、これも知ってるの?」
「まあ、なんとなく…」
ゲーム的な意味で、と付け加えるのを止しておく。なあにそれ?と返されてうまく説明する自信がない。
「ミヤコの驚く顔が見たかったんだけどなあ」
「…驚いてるつもりなんだけどな。でも、イザベルちゃんのが滅茶苦茶驚いてるけど」
隣のイザベルちゃんは大きくきらきらした目をさらに開いて、口を開けて、夢中で起動している機械を見つめているのが分かる。
回転は次第に遅くなり、中に入っているものが茶色いゴムの塊となっていた。
素材屋さんが取り出したゴムを見て「わあ!」と声を上げている。新鮮な反応!何故かレーズンが胸を張っている。
「妖精のみんなで作り上げたんだよ!」
「ええ、懐かしいですねえ」
「凄いです!普通ならもっと時間がかかるのに、素材をこんな簡単に加工できちゃうなんて!」
そうなのね。時間はかかるけど他の手段で加工できるものなのか。
その間に爆弾の材料である火薬と凝固剤をまたも放り投げ、爆弾も合成。小石ほどに小さい、黒くて丸いものになっている。導火線は見当たらないが、どう爆発するのか…。ちょっとの刺激で爆発するのではないか、と身構える私の事なんて構わず、レーズンは手掴みでそれを回収し、私の背後のカバンへ詰めていく。
「や、やめてー!」
「大丈夫、一定以上の速度で何かにぶつからない限り爆発しないよ」
「本当?本当だね??」
「さあ、後はこれを細長く切りましょう」
装備屋さんはゴムを前の作業場へ持っていくと、大ぶりな包丁で丁寧に、時間をかけて細長く切る。
レーズンが作業台に置いてあったY字の枝をタイミングよく渡すと、枝に加工を施していく。枝に穴を開け、ゴムを結びつけ、簡単に取れないようにカバーで固定する。
「はあい、完成です!」
レーズンはイザベルを前へ押し出す。戸惑う彼女を私も前へ押し出す。
「お二人とも…」
「どうぞ、お嬢さん」
「あ…ありがとうございます…!」
ナッツからおずおずとスリングを受け取るイザベルちゃん。
景気の良い効果音とともにイザベルはスリングをゲットした!とテキストウィンドウが出てきそうだ。
「ええ、ええ、ところでお代金は…」
「はいはい」
いかにも含みのある目配せを向けるナッツ。レーズンがショルーバッグからがま口ザイフを取り出し、代金を支払った。
イザベルちゃんは二人のやり取りを深刻そうな顔で見つめていた。その内、口をぎゅっとしぼった後、声を出した。
「あ、あの!レーズンさん…!」
「うん?」
「代金、ありがとうございます…!私、魔物を倒せるようになったら、ちゃんと返しますね…!」
「そう、気にしなくていいのに。分かった、返済待ってるよ」
やさしい笑みだ。イザベルちゃんも弾んだ声で「はい!」と応える。彼女も笑顔だ。
「その気持ちさえあれば、すぐにでも倒せるようになるよ。…試しに行ってみる?」
「…はい!」
大丈夫だ、イザベルちゃん。私も笑ってみせた。