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困惑

 雨月は荷物が来る時間をどうして知ればいいのか困っていた。予定が判らないと混乱して不機嫌になってしまう。特性なのだから仕方がない。程なくして荷物が来たと知らされた。搬送口に向かうとトラックが横付けしていて、運転手が降りてきた。彼から手渡しで荷物を受け取るのだが、積み方が分からない。大分アンバランスな積み方になってしまい、台車から荷物が落ちそうになる。必死で崩れそうな箱を押さえつつ、のろのろと進む。先輩社員の北村から「何やってるんだ! 遅すぎる!」との声がかかる。


 雨月は怒鳴られまくりで精神的ダメージは大きい。雨月は思った。果たしてこの人たちは、発達障害者の指導をした経験があるのか疑問だった。やっとのことで、作業場に着き、冷蔵庫に商品を積み込む。ひたすら重い。腰が砕けそうになる。水や氷が入っている発泡スチロールの箱を棚に乗せるだけだが、雨月にはその体力がなかった。


 慣れない力仕事をして、冷蔵庫から出ると、いつの間にか女性がたくさん来ていた。パック作業のためのパートさんだ。「今度来た雨月君だ」と軽く紹介されて、パックの仕事を手伝うように言われる。

天童さんという女性がいて、パートのリーダーらしい。見よう見まねでやってみるが、タイミングが悪いのか、手早くはできない。雨月は不器用なのは昔からだが、アルバイト経験がフラッシュバックしそうになった。パックのビニルが緩んで中身が漏れ出す。周りの視線が気になる。誰も雨月には注目していないと思ったら、上司が仕事ぶりを見に来て、苦虫を噛み潰した顔をして去っていった。


 雨月のストレスが大きくなってくる。まだ工場の方がましかもしれない。いや、立ち仕事だから同じか。睡眠不足は薬のせいで、それほどの影響はないが、効果があるのは眠気だけで、注意力は散漫なままである。パック作業から外れろと言われて、いよいよ包丁を握ることになる。初めて魚をさばく。まずは別の先輩である田坂のふるまいをよく見るのだが、魚臭さに閉口し、そこから雨月の頭の中では半魚人への連想が始まり、思考が半魚人で占領されたところで、一連の動作が終わったことに気づく。


 早速やってみろと言われるが、脳内データーは半魚人の妄想しかなかった。とりあえず頭を落として腹を割くぐらいまでは、勘でやってみた。しかし血合いを取ることを忘れていたので叱られた。「きさま、動作見ていないだろ」と言われた。きさま呼ばわりは精神的につらいものがある。しかも、雨月は人一倍不器用なので、包丁を使うのが難しいのだ。血の臭い、内臓の色と臭いも苦手だ。


 やっと昼食時になった。上司と食堂へ向かう。食堂では、カレーライスが出た。雨月の好物なので心が休まる。

ジョブパートナーも遅れてやってきて、「仕事はどうだい」と尋ねられ「慣れないことが多くて大変です」

と優等生的に答える。雨月の心の中では、これ以上はできないと思っていたら、上司から今日は半ドンだと伝えられて驚く。「スケジュール表に書いてなかったか」と問われて、改めてそんなものが存在したことに気づいた。


 雨月は急にうれしくなり、町中を散策したくなった。本屋で予算の許す限り本を買うぞと思い始めたら止まらなくなった。振動式の目覚まし時計のことは完全に忘れていた。


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