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現在

 あれから半年が過ぎ、自分はまだ刺身は任されていないものの、切り身をきっちり余すことなく切れるようになった。興味を持つと、過集中がオンになる発達障害の特性が生かされた形となった。


 住まいは、公設市場の近くの下宿に移り、目覚まし時計で何とか起きている。通勤時間が少なくなり徒歩で通えるようになったのは有難い。


 相変わらず上司の稲留さんには怒られているが、度重なる癇癪はADHDによるものだと、最近聞いた。発達障害持ちでも、あそこまで上がれると知り、やる気が出てきた。もっとも上司は薬が効果的だったという。だから、自分の仕事のできなさぶりを疑問に思っていたのだという。

 先輩社員の北村さんや田坂さんは、定型発達者のようだ。間近で、リアルを見ているから、対応は掴めているのだと思う。パートの天童さんに、丁寧に教えてもらったおかげで、商品パックもやっとこさ上手くなりつつある。


 不便な町は相変わらずだが。休みの日に映画を見ることがいい娯楽になっている。前の世界で見た映画のクオリティには負けるが、アナログには手作りの良さがあると思う。TVはまだ高根の花だが、いつか昇給したらローンでも組んで購入したいと思っている。


 自分がここまでこれたのはジョブパートナーの中村さんのお陰だ。中村さんいつもありがとうございます。

何より、脱出者にならずに良かったと思った。ここを追い出されたら行くことがなく、前の世界に戻されて

生活保護を受ける身分になっていたからだ。自分の働きで生活できるのは、発達障害者が持つ大いなる不安が消えるので、素晴らしい。


 高木氏と別れる少し前に、気になることを言っていた。この町の住民が昭和三十年代レベルの給料で生活が成り立っているのは、政府からの莫大な補助金によるもので、ここは隔離するだけの町だと考えているという。

隔離はありえるかもしれない。前の世界では数年前にクローズ(発達障害を雇用主に黙って就労すること)で雇用された人たちが、会社でミスを乱発し、インターネットの掲示板をにぎわせていた。政府は企業に発達障害者の雇用を推進していたが、現場の混乱は大きいものだったのだろう。相互理解が得られないなら、障害者側を隔離して、業務の正常化を目指すのは十分あり得そうだ。

 

 自分としては、仕方がないと思っている。世代的に療育も受けられず。定型発達者の会話のルールや常識を知らずに育った“支援からこぼれ落ちた世代”なのだから、前の世界では、十分な教育やソーシャルスキルトレーニングを受けた発達障害者たちが、定型発達者と良好な関係を築いているのだと思う。ただ自分たちの存在が、国の財政に大きな損失を与えているのは、たとえ仮説にせよ気分のいいものではない。

だからといって、良策があるわけではない。もし、あのまま前の世界にいたとしたら、未来は生活保護かホームレスしか見えなかったのだから。


 さあ、もう就寝時間だ。そういえば聖書も読まなくなって大分経つ。自分には奇跡が起きたのだが、願わくば全ての発達障害者に奇跡を起こしてもらいたい。神よ。

 


 

最後まで、読んでいただいてありがとうございました。

ちょっと理想っぽい終わり方で、現実はこんなに甘くないと思います。

ただ、あんまりバッドエンドにはしたくなかったので、こうなりました。

最初三人称視点で書いていて、途中から一人称視点になってしまいました。以後気を付けます。



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