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おとしもの。  作者: くくのち
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Scenes from a Memory


ーーー何のために、生きているんだろう。


そう考えだしたのは中学生の最終学年。

中学受験は、人生で初めての挫折だった。


自分から言いだしたのにも関わらず勉強もしないで学習塾から逃げだして、当時を振り返れば受験に失敗するのは当然の結末だと思う。

最後の最後にお情けで合格した学校、挫折を経験した自分はそこでも何も変わらなかった。


私立の中学校に電車で通学しだしてから勉強もせず遅刻を繰り返し相変わらず気分は小学生。

教師からも同学年からも疎まれるのは必然の出来事で、現状に気がついたときはもう手遅れだった。


そこから自分は現実から逃げてしまう。

学校から逃げて不登校になり家から逃げて街を彷徨う。


だが現実は自分を逃さない、容赦なく迫ってくる。

親と教師は現実から逃げる自分を許しはしない。


だが時間だけは自分の味方で、学生が学校に拘束される時間に自分は逃げることによって自由になり人生のことやこれからどうするかを考える時間はいくらでもあった。


自分を変えなくちゃいけない。

その頃はようやく自分の現状について認識することが出来て、将来的な焦りが生まれ言い訳を考えては現状を正当化しようとしていた。


自尊心と自己嫌悪に揺れ精神が不安定になる。

最後の方は学校が嫌だから”行きたくない”では無く、学校にはもう居場所はなく行きたくても”行けない”に変わってしまった。


自分は何をしているんだろう?


自分は何がしたいのだろう?


なぜ自分は、生きているんだろう?


悩みに悩んだところで何も解決せず実行すらぜず、それでも時間は進んでついには高校へ進学することすら絶望的になる。


それでも、現実から逃げていたが何も考えて居なかった訳ではなく、中学生最後の夏になる頃には人生これからどうするかは決めており、開き直ってからは学校にも通えるようになっていた。


そうして久しぶりに学校に行ったある日、自分の人生にとっての大切なことに出逢う。



自分のこと平山陽一の人生は一度そこで、終わっていた。



朝の日差しが教室に溶け込み生命の音色が聞こえた。


身体を少しばかり動かす、そこで違和感を感じる。

目を開けると見える天井は良く知っていた。


「教室...?」


不思議な感覚と湧き上がる疑問で眉に皺を寄せる。

なぜ俺は教室に寝ているだろうか?


日頃から非常識だ破天荒だのと貶されているが、理由もなく外で夜を明かす経験はしたことがない。


疑問を解消しようと記憶を辿るも思い出せない。

あいつらが登校してくる前に逃げないといけない。


そう思い立ち上がると、こちらを見ている少女がいた。


『やっぱり、わたしが視えるかしら?』


気安く話しかけくる少女のことは何も知らなく、自慢ではないが入学してから殆ど女子と話したこともなかった為に名前すら覚えているのは数人しか居ないが、少女が着ている黒いセーラー服は学校指定の制服ではない。


頷くと少女は文字通りに宙を舞い、俺の目と鼻の先に綺麗な顔を寄せやさしく微笑むものだから、不覚にも倒れそうになった。


しかしこんな美少女がキスしそうな距離まで近づいても、不思議と何もときめく事はなかった。


引きこまれる大きな瞳に整っている鼻筋と柔らかそうな唇、腰まで綺麗な黒い髪で残念ながら胸がないから古風な制服も相まってこれぞ和風美少女なのだが、俺はどこかでみたような既視感に囚われていた。


「息苦しいんで、離れてください」

『...』


美少女は絶句しているが、後ろに下がり距離を置く。


なんせこいつは俺の目の前に、アクロバットでは説明つかないほどの跳び方でふわっと天使が舞い降りるように着地したのだ。


明らかに非現実的で夢のように思う、ただでさえ記憶があやふやで足が地に着いている気がしない。


「えっと、お前こと...知らないんだけど...」

『わたしはあなたの事を知っているわ、それでいいじゃない?』


そうだな、となぜか妙に納得した。

先ほどから思い出そうと捻り出そうとしているのは、どこかで見たことのある美少女の名前ではなく、俺がなぜ教室で目を覚ましてその前に何をしていたのかということだった。


とても大切な、大事な記憶だったはずなんだ。

それがどこかに忘れて来てしまったかのように思い出せない。


『今に思い出す時が来るわ、あなたの未来が開けるにつれて』


少女は明らかに何かを知っていた。

少女は自分のことならなんでも知っている、見透かしているかのような視線はまるで我が子を見ているのかと思うほど、穏やかで暖かかった。


「教えて欲しいんだ、何があったのか...」

『現状を認識するのが遅いのは、相変わらずなのね』


ドアが開かれる音がし、現れたのは同学年の藤森だった。

身体に緊張感が走り胸が苦しくなる。


窓の外を見ると、学校へと送迎するバスの始発が到着しており生徒が登校して来る時間になっていて、教室に怠そうな挨拶で矢部と石井がやってくる。


そこでようやく俺は違和感の正体を知ることが出来た。



誰も、俺と少女がいるのに、気づかない。



『わたしが視えるのは、同じ存在だけ』



少女の姿が透けて視える。



『あなた、幽霊になっているわよ』



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