第二十話 記憶消失のチョコレート、再来?
妙に長かったような気がする五日間は終わり、普通の日常がやってきた。
でも、気になる点がひとつ。
何だか、マキ先輩が変。
変と言うか・・・いっつも変なんだけど、ゴールデンウィークの2日目の動物園+水族館から帰ってきたときから、いつもより遥かに変だった。
内容はうまく説明できないけど、目をそらしたり、変にどもったり・・・。
いつもなら傲然と胸を張って、うざったいくらいに自分を主張する人なんだけど・・・。
私は下駄箱を開け、靴を取り出して履いた。
ぱこん、と音をたてて、下駄箱は閉まる。
私は玄関を後にし、(無駄に)長い廊下を歩き始めた。
・・・・何だか、おかしい。
マキはそう感じていた。
当たり前である。
好きだと言って、相手も自分を好きだと言ったのに、相手はいつもどうりに話しかけてきて、何も進展はないのだから。
(もしかして・・・軽く流された?)
マキは眉間に皺を寄せた。
考えられなくもない疑問である。
マキはパイプ椅子から立ち上がり、マイティーをコップに注いだ。
キィィィ・・・
不審な音をたてて、ドアが開く。
ドアの影から、ユズキの顔がのぞく。
「あ、マキ先輩。居たんですか?」
「・・・ゴホン。う、うむ。あ、朝のミーティングなのだ」
ユズキはおかしそうに言う。
「ミーティングって・・・先輩一人しかいないじゃないですか」
「む、むむ、朝の精神統一なのだ。」
「そうですか。・・・この前のアニメ見て分かったんですけど、先輩たちって女声じゃありませんか?」
「そ、そんな事はないぞ。私だってこんなに野太い声が・・・」
マキは、声が低くなるように頑張ってみた。
「あははは。そうそう、マキ先輩。描けって言われてたアニメの下絵、出来ましたよ」
「う、うむ。ご苦労だったな」
マキは、受け取ろうと手を伸ばす。
その時。
「あっ・・・・・」
手が触れ合った。
マキは、反射的に変な声を出してしまう。
しかし、ユズキはそんなこと屁とも思っていないようで、
「あ、すいません。・・・私、もうすぐホームルームなんで帰りますね〜」
なんて言って、明るく笑いながら去っていった。
マキは、心底「チャンスを逃した!」と嘆いていた。
そんなマキを、電線の上のカラスだけが慰めてくれていた。
放課後の放送室。
珍しいことに、今日の放送室には活気が欠けていていた。
「・・・思うんだけど、この小説って『部活を主に書く小説』なんだが・・・ゴールデンウィークで引っ張りすぎてその辺が曖昧になってないか?」
と、カイ先輩。
「先輩、作者もその辺はよく分かってますから、ナメクジに塩をかけるようなことはしなくていいですよ」
「まぁそうなんだが・・・。で、あのじめじめ野郎はどうする?」
カイ先輩は、マキ先輩を指差しながら言った。
私はマキ先輩に歩み寄った。
「マキ先輩・・・?」
マキ先輩は虚ろな目をして、何やら呟いている。
「マキ先輩、アテレコ・・・」
返答はなし。
「・・・まぁ、いいや。杏仁、アテレコやろうぜ」
冬馬先輩がそう言ったとき、マキ先輩はいきなりグデンと倒れこんだ。
「マキ先輩!?」
私がそう呼びかけたとき、部屋の隅にはたくさんのチョコレートがあったことに気づいた。