第十五話 ゴールデンウィーク一日目
姉とマキ先輩が何を企んでいるのかもわからずに、5月1日がやってきた。
5月1日、金曜日の午後3時。
私は買い物から帰ってきた。
「ただいまー」
私は買い物袋を玄関に置いた。
「・・・・お姉ちゃん、いる?」
私は玄関のドアを開けた。
「あぁ、お帰りユズキ!」と、お姉ちゃん。
「お帰り〜ユズキ!」と、マキ先輩。
居間には、マキ先輩もいた。
「あれ、先輩来てたんですか?前もって言ってくれたら、ケーキとかつくったのに・・・」
「やめとけ、自分絶対炭ケーキつくるやん。マキ君腹こわすで!」と、姉。
「・・・・・お姉ちゃん、料理は一に愛情、二によい食材、三に腕、四に味よ。」
私はそれだけ言うと、マキ先輩に向き直った。
「マキ先輩は何で居るんですか?欅先輩たちは?」
「ん?・・・あぁ、実はだな、私の両親が二人で勝手に旅行に行ってしまってだな・・・連休世話になることになったのだ。」
「そうなんですか?でも、マキ先輩なら料理もそこそこできるでしょ?」
姉は笑いながら言った。
「実はやな、ユズキ。マキ君、ユズキ以上に料理ができへんらしいで!」
「そうなんですか?・・・って、お姉ちゃんは出かけるの?」
「せや。ちょーっと用事ができてなぁ。夜までには帰るで。ほな、さいなら!」
姉は家をもうダッシュで出て行った。
「あのー・・・マキ先輩。」
「な、何だ杏仁?」
「料理、教えましょうか?」
私はキッチンに、バーゲンで売っていた卵を並べた。
「いいですか?今からオムレツをつくります。マキ先輩、そこそこはお料理できないと困りますよ?」
「はぁ・・・」
「では、まずは卵を割ってください。」
「う、うむ。それっ!」
グチョァッ
「あの〜・・・マキ先輩?卵割るのは、別に額でなくても・・・」
「う・・・・うむ。今のは少し失敗しただけだ!」
「じゃあ、次はこっちの卵を溶いてください。」
「うむ。それ!」
ビチャビチャビチャッ
「先輩!とんでます!!卵、とんでます!」
「う・・・・うむ。それで、この溶き卵をどうするのだ?」
「はい、卵をこうしてこうして・・・」
「・・・そういえば、杏仁って料理下手じゃなかったか?」
「悪かったですね、料理下手で。・・・実は、オムレツは、大好きだった祖母に教えてもらった料理なんです。祖母が大好きだったし、オムレツも大好きだったので、これだけはうまくいったんですよ。」
「そうだったのか・・・道理で・・・アツゥ!!」
「・・・炊飯器の煙に触れるなんて、何年学生ですか、先輩。」
「辛辣な言葉!大丈夫?とかの一言も無いのか!?」
「・・・呆れて何も言う気になりません」
午後5時、やっとオムレツ(×2)が完成した。
「・・・そういえば、マキ先輩って連休中はずっと一人なんですよね」
「そうだぞ〜」
マキ先輩は、ソファに寝そべりながら言った。
「夕飯には早いですけど、一緒に食べませんか?」
「えっ!?」
マキ先輩は、いきなり起き上がった。
この人は、ひとつひとつの反応が面白い。
「だって、クヌギさんが・・・」
「あの人なら、食べるもの見つけて食べますよ。ですから、一緒に食べましょう」
「・・・じゃあ・・・」
私と先輩はテーブルについた。
オムレツを口に運び始めてからしばらくして、私は口を開いた。
「・・・先輩は、ペットとか飼っているんですか?」
「んぁ?ペット?・・・飼ってないぞ」
「飼ってみればいいのに。ポメラニアンとか、可愛いですよ。」
「・・・それはコロだけだろ?」
「でも、コロ以外の犬だって、見ている分は可愛いですよ?」
ピロリロン♪
「あ・・・メールです」
私はケータイのメールを開いた。
姉からだった。
『スマンスマン、夜までに帰れへんかもしれん。マキ君にも伝えといてや〜
クヌギ』