第一話 馴れ馴れしい人
私の名前は安藤ユズキ。
超平凡な高校一年生。
だけど・・・超平凡だから、部活動も超平凡というわけではなかった。
そう。それはたった一週間ほど前の、入学式のことだった。
私は、入学式が終わって軽い自己紹介も終わったので、家に帰ろうと校舎を歩いていたときだった。
ヒラリと、私の足元にチラシのようなものが落ちてきたのだった。
私はそれを拾い上げ、声に出して呼んだ。
「希望するおもしろい部活がなく、帰宅部決定になりそうな人はコチラ!今は使われていない放送室でお待ちしています・・・」
そのチラシは、私にとっては好都合だった。親には「帰宅部は避けろ」とうるさく言われていたが、希望する部活がなかったから。
私は、さっそく使われていない放送室へむかった。
しかし、放送室のドアには、「来週の月曜日(つまり、この日から一週間後)まで休業です!新しく入る人は、待っててね!」という張り紙が張ってあった。
その日の私は、仕方ない、待つかと考えていたけれど。今となっては、待たないほうが吉だった。
そして現在。私は放送室の前にいる。
そして、パイプ椅子に腰掛けた男子が言う。
「ようこそ、期待の新人君!」
私はすべての疑問に首をかしげた。
「あなたは誰ですか」
パイプ椅子に腰掛けた男子と、周りにいた男子たちが目を丸くした。
そして、周りにいた男子その一が、私に言った。
「あー、君。人に名を聞く前に。自分から名乗ったらどうかね。」
「あ、すいません。一年の、安藤ユズキです。で、あなたたちは誰ですか?」
私はパイプ椅子に座っている人を見つめた。
「む、む、ゴホン。私は2年の園村マキだ。よろしくな、ユズキ。」
いきなり呼び捨てなんて、なれなれしい人だなぁ。
そうすると、男子その二が言った。
「あー、マキねぇ、動揺してるんだよ。自分が世界一有名だと思ってるから。」
「へぇー・・・で、あなたは誰?」
すると、男子その二はちょっと引き下がった。
「2年の東カオル。」
私は向きを変え、男子その一に言った。
「で、あなたは?」
「あ、俺?2年の空野カイ。よろしくな、ユズキ!」
「あぁ・・・よろしくお願いします」
私は、この人たちはどこまでも馴れ馴れしいなぁと思った。
「自己紹介は済んだか?よし、じゃあ、我々の部活動の説明をするから、よーく聞け。」
マキ先輩が言った。
そういえば、何をする部活なのか聞いてなかったな。
「大雑把にいうと、この部活はアニメをつくる部活だ!」
「なかなかの暇つぶしになりそうですね」
私が言ったとたん、マキ先輩、カオル先輩、カイ先輩の顔つきが変わった。
そして、カオル先輩は私を指差しながら言った。
「ユズキぃぃぃ!!!!!!貴様、何を言ったのかわかっているのかぁぁぁ!!」
「え?」
次に、カイ先輩も私を指差して言った。
「ユズキぃぃぃ!!!!!さっき言った言葉をもう一度言ってみろー!!!」
「え・・・なかなかの暇つぶしになりそうですね、と・・・」
そして最後に、マキ先輩が私を指差して言った。
「その考えが間違っているのだぁぁぁ!!!!!ただの暇つぶしではなく!!まじめなアニメ製作部なのだぁぁぁ!!!!!」
「はぁ・・・すみません」
その時だった。
放送室のドアが開いて、3人の男子が入ってきた。
そして、私を指差していたマキが、その三人に言った。
「遅かったではないか!こちら、一年の安藤ユズキだ!入部が決定している!」
三人の内で一番背の小さい男子(おそらく143cmくらい)が、私に向かって歩いてきた。
「あ、一年の安藤です。よろしくお願いします」
「二年の初山楓だよ、よろしくね。杏仁豆腐さん」
その会話に、3人の中で一番背の高い男子が割って入った。
「俺、二年の柊冬馬。よろしくな、杏仁豆腐」
「はぁ。よろしくお願いします」
そして、残りの男子が私に言った。
「2年の広山欅。」
「よろしくお願いします・・」
私がパイプ椅子に腰掛けると、マキ先輩が私にペンを握らせた。
「?何するんですか?」
「ユズキがどれだけ絵がうまいか確かめるんだ。何でもいいから、書いてみろ」
「あ、はい」
私は、小学生のときに思いついたオリジナルキャラクターをかいた。こんな感じで、こんな感じだったはず。
「できました」
私が絵をみせると、楓先輩が身を乗り出してきた。
「すごーい!杏仁豆腐さん、うまーい!」
本当に二年生なのかな、この人。
「うめーじゃん!杏仁豆腐!」と、冬馬先輩。
「うむ!合格だ!ユズキ!」と、マキ先輩。
私は手を止めた。
「合格って?」
「決まっているだろ?今日からユズキがアニメの絵を描いて、昼にテレビで学校中に放送するんだよ。」と、カオル先輩。
「ぇ、えええええええええええ!!!???」
「何で驚くんだよ、杏仁。」と、カイ先輩。
「あ、その呼び方、やめてください。・・・だって、私、この程度の絵しかかけませんよ。」
すると、欅先輩が言った。
「絵の担当は俺だから・・・杏仁はアシスタント」
「その呼び方、やめてください!!」
「なんでー?かわいいよーう?」と、楓先輩。
「そうだー、かわいいぞー」と、冬馬先輩。
「ま、決まったことだからな、杏仁!」と、マキ先輩。
そんなこんなで、私には「杏仁豆腐」が定着してしまった。
私・・・ここでやっていけるのかなぁ・・・。