えぴろーぐ
――目が覚めると。
「……知らない天井だ、とでも言うと思ったかっ!?」
言うわけねーだろ。俺寝るときは横になるか、うつ伏せだからそもそもウチの天井どんなだか覚えてねーんだよっ!
って、誰に向かってしゃべってんだろうな、俺。
がばり、と起き上がって周りを見回す。
見覚えのある、俺の部屋だった。
「……んあ。ってーなぁ」
ずきずきとおでこが痛む。
どうやら何かがおでこにぶつかって、気を失っていたようだ。見回すと、床に燃え尽きたロケット花火が転がっていた。
窓があいている。
あぶねーなぁ、火事になるとこじゃねーか。
幸い、少しばかり床にススを付けた程度で済んだようだ。
窓から飛び込んできたロケット花火に驚いてすっころんで気を失った、って感じか?
俺、何やってたんだっけ? 頭打って、記憶が混乱してんのかな?
ええっと、俺の名前は半津太郎。てけとー勤務のサボリーマンだ。
年齢は魔法使い。職業じゃないぞ? 年齢が魔法使いだッ! ほっとけー。
えーっと、確か、ぱんコレでガチャ引いてて……。
でもって窓から何か飛んできて……ロケット花火がおでこにぶつかって倒れた、のか?
……って、なんか変だな?
一瞬、何が変なのかわからず、しかし猛烈な違和感を感じてぐらんと身体が揺れる。
――あれ、俺、ぱんつになったんじゃなかったっけ?
もう一度、部屋の中を見回す。
マンガやラノベが詰みあがった机。
ぱんコレのフィギュアやプライズ商品がならんだコレクション棚。
パソコン。ベッド。テレビ。
記憶にあるとおりの俺の部屋だった。
思わず自分の掌をじっと見つめる。
普通の人間の手だった。
鏡を探して覗き込んでみる。
見慣れた、ショボイおっさんツラがそこにはあった。
「……夢、だったのか?」
何年も過ごしたような気はするのに、さっきまで何をやっていたのか明確に思い出せるということは。実際にはほとんど時間がたっていないってことか?
テレビやパソコンを付けて、今日がいつかを確認する。
日付は俺がガチャを回していたあの日のままで、時間的にはおそらく三時間も経ってはいなかった。
……美少女のおぱちゅになってウハウハな人生を夢で見るとか、我ながらぶっとんでんなー。
てか、ようやく美少女になったさっちゃんに穿かれて、これからって時に目が覚めるとかちょっとあんまりだろう。
はぁ、と深いため息を吐く。
「夢オチとかふざくんなーっ!!!」
とりあえず叫んでおいた。
……オイ、まさか、ガチャで白ブリーフちゃんでたのまで夢じゃないよな?
ふと気になってスマホを探すと、俺が倒れた辺りの床に転がっていた。
ロックを解除すると、ぱんコレが立ち上がったままで。
「――なんだ、これ?」
見たことのない、ぱん娘が画面に表示されていた。
いや、正確に言うならば、見たことがないというのは正しくない。
「髪の毛アップにしてるし、着てる服も違うけど、これ夢で見た……さっちゃん?」
名前は「女神のぱんつ」。
女神のような、天使のようにかわいい美少女がちょっとはにかんだように微笑んでいる。
そして、ぱん娘であるにも関わらず、下半身は長いスカートが覆い隠していてどんなぱんつであるのかよくわからない。
「……え?」
こんなぱん娘がいるなんて聞いたことないし。
それに、なんでこんなのが画面に表示されてるんだ?
……って、あ、そういやあと二回だけガチャ回そうとしてて、白ブリーフちゃん出た時点で残り確認してなかったっけ。
「……って、え?」
これ、もしかして、ウワサでしか存在が確認されていないっていう、「女神のぱんつ」?
いや、ネットで公開されていたのと見た目が違うぞ?
いや、服は似てる気もするけど。
だいたいぱん娘なのにぱんつ見えないイラストってどういうこった。
これは夢で見たさっちゃんだよな。
……いや、逆か? もしかして、見たことのないこんなぱん娘を引き当てた瞬間に頭打って気絶して、あんな夢をみちゃったってことなんだろか。
「……」
なんとはなしに、画面をタップしてみる。
すると。
画面のなかの美少女がアニメーションしてくるりと一回転した。ふわり、とスカートがめくりあがり。髪の毛がほどけて独特な形に広がって。見たことのあるイラストに変わってゆく。
あ、これ、ネットで公開されてたイラストや。
――さらに名前が変わる。
『めがみは、ぱんつ穿かないのー』
やや舌っ足らずな声でキャラボイスが流れて。
ネットで公開された画像の通り、下半身にはモザイクがかかっていた。
そのぱん娘の名前は。
「”のーぱん”は、ぱんつじゃ、ねーだろーーーーーっ!?」
声を大にして言いたい。
声を大にして言いたいっ!
誰かモザイクを消す方法を教えてくださいッ!じゃなかった。
ぱんつ穿いてないおにゃのこが、ぱん娘とはこれいかにッ!?
実は肌色のぱんつ穿いてる可能性が微レ存ッ!?
――しかしなるほど、落ち着いて考えてみると。
夢の中で「女神のぱんつ」に進化して、結果を見ることなく目が覚めてしまったのは、見たことのないぱんつだったから想像できなかった、のでなく。
穿いてないから、あの世界から俺が消えてしまったってことなんだろうか。
それとも見えないけれど俺はまだあの世界にいるのだろうか。
もういちど、画面をタップすると。
再度アニメーションして、スカートを穿いた「女神のぱんつ」状態に戻った。
「さっちゃん……」
ちょっとだけ流れてきた心の汗を袖でぬぐった。




