3
うっす。
「んで?断ったのか?」
「………まあな」
「本当にもったいねぇな!」
俺の友人。寺山斎は腹を抱えて爆笑している。
ネタは勿論今朝の事だ。
「だいたい、ああいう女は遊びでポンポン男を作っているに違いないんだよ。………例外はあるけど………」
斎はさらに笑う。終いには地面を叩いていた。
この話に何の面白さがあると言うのだろうか?
「ひひひひ、ひー、…多分そんなこと思ってるのお前だけだぜ、絶対………ブホッ………!」
いつまでも笑っている斎にボディブローをかました。そのまま腹をおさえてもがく斎。
「………突然それはねぇよ、優………息できねぇ………」
当然だ。息を出来なくさせたんだからな。
………まったくこの話の何処に面白さがあるんだ?
俺の愚痴を聞いて笑うとか頭でも打ったのか?
いや、元からだったな………。
だが、このケースは初めてだ。斎はウザくても人をバカにするような事はしないやつなのだ。
じゃあ、何故笑ったんだ?
もしかして――
「――隙あり!」
間抜けな声が隣から聞こえた。
いつの間にか復活していた斎にウィンナーを盗られた。
あっ、そう言えば今は昼飯食ってたんだった。
すっかり、毒気を抜かれた俺は斎の弁当から卵焼きを盗ってやった。
◆ ◆ ◆ ◆
午後の授業というものはどうしても眠くなるモノだと俺は思う。
俺は垂れ下がってくる瞼に渇をいれて、寝ぼけ眼を指で擦った。
………よりによって社会か。
ただ聞いているだけの授業。これ程までつまらない科目は国語と社会の二つだけだと俺は思う。
「ぐー………」
隣からデフォルメな寝息が聞こえてきた。
潤だ。残念ウザメンがデフォな寝息を………!
誰トクだよッ!
女子はこんな男子の行為を可愛いと思うみたいだが、これの何処が可愛いのだろうか。
解せぬ。
「おい、潤ッ!起きろよ。今は授業中だぞ」
あっ、怒られた。ざまぁ………!
っと言いたい所だが、社会科の教師は女だ。
何が言いたいかって?
「あー、すいませんー」
「まったく………次はないからな」
お前の次は一体いつなんだ。
多分、教室にいる男子の全員が思っているだろう。
今年に入ってその台詞を少なくとも50回は言っているような気がする。
つまり、言いたいことはこうだ。
教師のフラグ回収済みなので、学校には彼の敵が居ない、と。
こんな些細なことで気がたってしまう俺は短気なのだろうか。
◆ ◆ ◆ ◆
あれ以来、彼は私を見なくなった。
私は見ているのに、彼は私が見えていないかのようだ。
私に近付いてくるのは下心だけのクズ共だけ。
一人違う人は居たが、私自身を見ていない。まるで多人数の中の一人になんとなく話しかけるような、そんな感じだった。
私は彼に見てもらいたいのだ。
お前らなんかに見てもらいたくなんてない。
汚れる。
しかし、本音を言うわけにはいかないので、取り繕った笑みを浮かべておく。
それだけでクズ共は色めき立つ。バカらしい。
私が何をしたら、彼は見てくれるのだろうか。
「はぁ………」
人知れず私の苦悩は増えていくようだ。
◆ ◆ ◆ ◆
【帰り道】
あー、と。どうしようか………。
喉乾いたからコキ・コーラを買って飲んでいたのだが、どうやらナンパの場面に出会してしまったようだ。
「やめてください!」
「そんなつれねーこと言ってないで俺達と良いコトしようぜ」
「最初は痛いかもしれねぇけど、後から気持ちいいからさ」
「や、やめて………いやぁぁぁッ!」
あぁ、ナイスちんぴら!ブラが見えた!
心の中でサムズアップしておく。
………いや、助けようと思ったよ?
でも、男の子なんだもん。仕方ないよね。
「あっ、まて………!」
その女の子はちんぴらの隙をついてスルリと抜け出してきた。
………あれっ、何でこっち来るの?
「た、助けてくださいッ!」
やっぱりぃぃぃぃぃッッ!
「嫌だよ!こっち、来んな!」
「待って、置いていかないで………!」
女の子は追いかけてくる。
当然、ちんぴらも追いかけてきた。
来るなよ。
「右に行けっ!」
二股の道が来たのでそう言ってやる。
俺はこの地区を知り尽くしている――
――なので、左に曲がった。
「何でぇぇぇぇッ!」
女の子の叫びが聞こえた。
大丈夫。そっちにいけば行き止まりだから。
最高に気持ち良いコトをしておいで。
「ふぅ………、なんて迷惑な女だ――」
「――逃がしませんよぉッ!」
ここまで来ると執念を感じる。
「テメッ、なんで来たんだよ!」
「ヤられるなら、道ずれに………!」
俺にそっちの気はない!アーッ♂とか言わないからね!
「待てやゴラァァァァッ!」「にげんなやぁぁぁぁッ!」
ちんぴらが走ってきた。
あぁ、めんどくさい。
「痛い目見たくなかったらその女をおいてけ」
「あっ、どうぞ」
「即決!?」
俺は関係ない。オマエ、オレ、シラナイ。
すると急にちんぴらが話し始めた。
「おい、誰かに言われたらヤバいぞ!」
「………確かに」
うんうん、ヤバいぞ~。だからどっか行ってくんない?
ほら、俺争いとか暴力は嫌いだからさ。
「じゃあ、口を聞けなくなるまでボコボコにするか」
そうそう、だからどっか行ってt………………はい?
目の前を見れば指をゴキゴキと鳴らすちんぴら。
ちょ、何で!?
何でそんなやる気なんなん!?
隣を見れば女は建物に隠れていた。
否。多分逃げたな。
………………………クッソォォ!あの尻軽女めぇぇぇぇッ!
「お遊びの時間だ、哀れな地味男」
ちんぴらが主人公っぽい事言っても似合わないからぁ………!
あぁ、めんどくせぇ!
◆ ◆ ◆ ◆
乙女を見捨てようとした彼には制裁を与えなければ。
そう思い私は建物の陰に隠れた。本当はそのままに逃げてもよかったが、少し気になったので一部始終を見ることにする。
ちんぴらは携帯を取り出して、誰かと話し始めた。どうやら仲間を呼び始めたようだ。
これには彼も耐えれないだろう。なんせこれから暴力を振るわれ力尽きるまでヤられるから。
私は知っている。
あのちんぴらはどちらもイケると。
そして絶望に染まる彼の顔を見ておきたかった。
しかし、あろうことか欠伸をした。そして小指で耳を掃除し始めた。
なんと呑気なのだろうか。もしかしてそっちの気があるのだろうか?
ばっちこい、かもーん!的な。
少し経つとちんぴらの仲間がやって来た。
皆、屈強そうだ。
さて、彼がどう調理されるのかじっくり鑑賞しましょうか。
次回は土曜日。