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さて、この残念お嬢さまをどうしようかと模索していると潤が口を開いた。
「アリスはね、好きでもない人と結婚させられそうなんだって」
死ぬほどどうでもいい情報をありがとう。しかし、この年で結婚だなんて気が早いなと疑問にも思う。
まぁ、結婚できる相手がいるだけましだろう。彼女すらまともに出来たことがない俺から言わせてみれば将来安泰でいいことじゃないか、我が儘言うなと言いたいところだ。
「どんなやつなんだ?」
まぁ、顔が悪かったらその気持ちはわからなくもないんだがな…………。
「これですわ」
そう言ってスマホの画面を見せてくる。
…………………………………………。
「イケメンじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁあああッッ!」
「「うるさい」」
イヤイヤイヤイヤイヤイヤ、これどこの王子様だよっ!
顔はかなり整っていて、雰囲気がもう優男ですよと言っているようなものだった。
おまっ…………、俺が女だったら惚れてたぞ、絶対。
クソッ…………、俺の周りにはなぜこんなにイケメンがうじゃうじゃといるんだ。
「私としては結婚するなら潤様と…………」
とりあえず潤に中指を立てておく。なんで?って顔されたけど察しろ、鈍感。
「あー、はいはい。とりあえず俺からの答えを聞かせてやる。とりあえず、ネカフェ行け」
「お兄ちゃん心せまーい」
「同意せざるを得ませんわ」
「いや、これが普通の反応だから。むしろ感覚的にズレてるのお前らだから!」
冷静にツッコミを入れるとアリスは何か諦めたようにため息を吐いた後立ち上がった。
「こんなところにいても埒が開きませんわ。ネカフェ行きます」
「おう。そうしな」
「お兄ちゃん女心わかってないなぁ…………、心の広さを示さないとモテないよ?」
「お前らがおかしいだけで、俺の心は大海原だから」
「男子便所の洋式トイレの水が溜まってるところくらいだと思いますわ」
「お前はさっきから俺を貶しすぎだアリス」
アリスは俺の返答も聞かないで玄関まで歩いていく。俺もその後ろをついていく。ちなみに潤は俺んちに泊まっていくらしい。
靴はいて外に出てアパートの階段が降りたところくらいでアリスが口を開く。
「いや、なんで付いてきますの?」
「夜道に女ひとりだと危ないだろ。家まで送る」
「私からすればあなたが一番危ない人ですわ。それに、今日はネカフェです」
なにそれ、ひっど。さっきから俺につんつんしすぎじゃね?そろそろデレください。
アリスはそんな、俺の心を察してか逃げるように走り出した。
向こうから車が来ているにも関わらずだ。ちょっと馬鹿なのか心配になる。
そんなこと思っている間にも反射的に俺は走り出していた。
プーー!!とアホみたいなクラクションが響いた。
俺はアリスを突き飛ばしその体を抱くように倒れた。もちろん俺が下だよ。
当然肺から空気が漏れ出す。「あぶねぇだろ!」と捨てゼリフを吐いて車はまた走っていった。だが、そんな言葉でさえ俺は反応できないほどクラクラしている。いわゆる脳しんとうってやつ?
「だ、大丈夫?ねぇ、大丈夫!!??」
「お、おう……」
しばらく休むとクラクラもなおってきた。そして俺は思い出す。アリスを抱きしめた時のおぱーいの感触を。
まさか、着痩せするタイプだとは思わなかった。うん。
「そ、その。ありがとう」
………………。
残念ツンツンが初めてデレてくれた。
「その笑顔でおあいこだな」
そんな、くっさいセリフさえ吐かなければきっといい関係を気づけていたんだと後から後悔するハメになるとは、この時思いもしなかった。
まぁ、こんな状況だしアリスも泊めなきゃいけないなぁと、そんな他人事のようなことしか考えていなかった。