滅びの竜
― 始元を創った種は争いを望まず世界と在った。
創世を識らぬ種は争いを好み奪い合った。
争いを嫌った種はいつしか数を減らし、争いに明け暮れた種はいまだ大地の覇権を争う。
無知なる人間が英知である竜を狩り、価値なき闘争が価値ある血脈を滅していく
いつしか創世の竜が姿を消し、世界を覆うのは無恥なる人間となる。―
―スフォルトゥナ・トリステアの書
「始章」の節より―
かつて咆哮轟く谷に、水を愛し竜種が在す。
地に水を喚びし種の末流であったが、遺された竜もわずか2頭。
ひとつは、咆哮轟かぬ谷で子を遺した母竜。
ひとつは、まだ世界の光も識らぬ遺された卵竜。
だが、世界に2つの灯もいまや暴風に晒されている。
無恥なるものに負わされた傷は母竜を冥闇へと誘い、
無知なる世界へはなたれようとするはずの卵竜は喪う。
価値なきものが価値あるものを奪い、価値ある幼灯も価値なき愚者に吹き消されいく運命。
絶え逝く血脈を救う術は残されていない。
―スフォルトゥナ・トリステアの書
第一章 滅びの竜より―