表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様な彼女  作者: Uma
8/20

神様からの呼び出し

「遅い!」

 いつもの怒声を聞いて公園の敷地内へと入った。時和と小学生たちが出迎えた。

「悪かった。で、いったいどうやって飛ばしたんだ」

 反論は「言い訳するな」の一言で言い包められるのでもうしない。

 それよりもこの紙飛行機の謎が知りたい。

「決まっているでしょ。それも神様だからできるのよ。縁くんに届くように飛ばせば造作ないわ」

 と胸を張って威張る。「これが本当の神業ね」なんてくだらないジョークも呟く。

「それでここに呼んだ要件は?」

「うん、実はこの子たちと鬼ごっこをすることになったんだけど、人数が少ないのよ。だから縁くんにも参加してほしいの」

「…………」

 今までで一番くだらない用事で呼ばれた気がする。だいたい人数が少ないからってなんでお前が集めるんだよ

 まぁ、そんなことを言って納得する相手なら苦労はしてないんだが。

「どうしたの、縁くん? もしかして鬼ごっこ知らない?」

「それぐらいは知ってる」

 鬼ごっこを知らない奴なんているのか?

「ふーん、そのぐらいは知ってるんだ。じゃあ、やったことはあるの?」

「…………」

 うるさい。そうだよ。やったことないよ。同級生がやってるのを見たことあるだけだよ。文句あるか。

 なんて心の中で悪態を吐いていると、小学生たちが時和の周りに集まって来た。

「ねぇこの人がお姉ちゃんのお友達?」

「そうよ。縁くんっていうの」

「えにし? 変な名前」

「おいえにし。お前足速いんだろうな」

「ダメだよ、タケくん。年上の人にそんなこと言っちゃ」

「だってコイツ速そうじゃないんだもん」

「でもお姉ちゃんの友達にしてはパッとしないね。もっとカッコいい人かと思ってた」

「期待外れだったね」

 総勢五人の小学生たちが好き放題言ってくれる。

 この頃、罵倒されてばっかりだな。

「ほら、そんな言っちゃいけません。見た目はパッとないけど、こういう見て縁くんも役に立つんだから」

 時和も時和で結構失礼なこと言ってるけどな。

「じゃあ何できるの?」

 当然の疑問が時和に投げかけられる。

「え? そうね、縁くんは皮肉とか厭味を言うのが得意だわ」

「なにそれー」

「簡単に言うと人の悪口よ」

「じゃあ、えにしは嫌な奴なんだ」

「そうね。縁くんは嫌な奴よ」

「どうしてフォローに入ったお前が罵倒する側に回ってるんだ!!」

 まるで時和が五人いるみたいだ。ドッと疲労感が押し寄せる。

「鬼ごっこやるんだろ。さっさと始めるぞ」

 まったく鬼ごっこをやる雰囲気じゃないので話を進める。

「じゃあ、鬼を決めようぜ」

「じゃんけんで決めよ」

「じゃあ、いくぞっ。じゃんけんぽんっ」

 男の子の掛け声で一斉に手が出される。

 その結果、

「うわーえにしが鬼だー」

「逃げろ、えにしが追ってくるぞー」

 俺一人がチョキで、他の全員がグー。必然的に俺が鬼だ。

 鬼じゃなければテキトーなところに隠れて時間を潰そうと思っていたが、鬼になってしまったらそうはいかない。

 とりあえずさっさと誰かに鬼を変わってもらうことにしよう。

 辺りを見渡せば、何人かがこちらの様子を伺っている。

 俺が思うに鬼で大切なのは、相手に自分の居場所を悟られないことだ。そして気を抜いている相手に一気に襲いかかる。

 これが鬼の鉄則。

 まぁやったことはないんだけど。

 とりあえず最初の数分は、誰も追わず、どこにも現れず、一か所でジッとしている。

「ったく、えにしのやつぜんぜん追ってこないな」

「マジつまんねー」

 と得物が近くを通りかかった。こっちには気付いていない。

 今がチャンス、と一気に駆けだす。

「タッチ」

 そして一番近い男の子の背中を叩く。

「えぇ!!」

 驚きの声を上げている間に逃走する。

 完璧だ。完璧な戦術だった。

「姑息だわ、縁くん」

 自分の戦術に自画自賛していると、時和が顔を出す。

「戦術と言ってくれ」

「どっちでもいいわ、そんなこと。でも、早く逃げた方がいいわよ。子供たちは負けず嫌いだから」

 なにを言っているんだ、と返そうした時、「えにし、どこだー」と言う声が公園に木魂する。

「な、なんだ?」

「ほら、早く逃げないとまた鬼になるわよ」

 と時和は早々に逃げ出す。

「あ、いたっ」

 発見された。

 男の子はこっちに向かって全力疾走してくる。

「やばぃっ」

 悲鳴なような声を上げて、俺も遅れて逃げ出した。

 しばらくして、鬼ごっこは終了した。

 最後まで鬼だったのは、なぜか俺。

「はぁはぁはぁ」

 久しぶりに全力で走ったせいか、心臓がこれまで感じたこともない速さで鼓動している。

「えにし使えねぇ」

「なんで大して走ってないのにそんな疲れてんだよ」

「体力なさすぎ」

 結果は散々なものだった。最初の方は好調に逃げていたが、後半体力がなくなり即座に捕まった。

 というか、鬼ごっこってこんなに疲れるものなのか。

 子供の遊びを舐めていた。

「縁くんはもうダメね」

 うるせぇ。

「それだとまた人数少なくなっちゃうよ」

「そうよね」と腕を組んで悩みだす時和。

 しばらくして「名案が思いついちゃったわ」とでも言っているかのような自画自賛している顔を浮かべた。

 悪寒がする。

「鬼ごっこにピッタリな人をしっているわ」

 と言った後、「人じゃないけど」とボソッと呟いた。

 おい、もしかして。

「え、ホント!?」

「誰だれ?」

「ふっふっふっ。彼を呼べば、鬼ごっこは、本物の鬼ごっこになるわ」

 時和の奴、百目鬼を呼ぶ気だ。

「さっそく呼びましょう」

 と辺りを見回す時和。

「待ったっ!!」

 時和を慌てて制止する。

 百目鬼を呼ぶのはまずい。あの俺以上の無愛想で、無表情な男が、子供たちと鬼ごっこをしたら、傍から見たら誘拐しようとしているようにしか見えない。

 下手をすると、警察を呼ばれる。

 自分の学校の理事長が捕まるなんて御免だ。

「俺はまだできるから、別に呼ばなくてもいいぞ」

「え? でも膝が震えているわ」

 視線を下に向けると、膝が笑っていた。

 我ながらなんと非力な。

「大丈夫、武者震いだから」

 と強がる。

「そうなの? じゃ、大丈夫ね。みんな、縁くん、まだできるみたいだから、もう一回やりましょうっ」

 そして地獄が始まった。

 二回目の鬼ごっこは足が攣るかと思った。

 喉の渇きを潤すために公園内にある自販機へと向かう。どれにしようか迷っていると、一人の女の子がジッとこちらを見ていた。

 なんだその物欲しそうな目は。

 溜息を吐く。子どもの前で飲み物を買おうとした俺が間違っていた。

「どれがいい?」

「え?」

「飲みたいんだろ。どれがいいんだ。買ってやるよ」

「でも、お母さんが知らない人から物を貰っちゃいけないって」

 二回一緒にケイドロやっただけじゃまだ知らない人なのか。世知辛い世の中になったものだ。

「一緒に鬼ごっこやっただろ。それに俺の名前も知ってる」

「うん、えにし」

 女の子にまでも呼び捨てにされるのか。

「なら、君の名前は?」

「ユウカ」

「よし、ユウカ。これで俺たちは知り合いだ。ほら、何が飲みたい」

 そういうとユウカは目を輝かせてリンゴジュースを指刺した。

 金を入れてボタンを押すと、リンゴジュースが出てくる。それを手渡すと、嬉しそうに小学生たちの輪に戻って行った。

 やれやれと自分の分を選び始める。

「ずりー、なんでユウカだけジュース飲んでんだよっ!」

 この声を聞いた時、ユウカにジュースを買ったことを本気で後悔した。

 結局八人全員にジュースを買う破目になった。

「優しいのね、縁くん」

「別に優しくない。一人に買っちまったんだから全員に買わないと不公平なだけだ」

「かっこつけちゃって」と頬をしきりに突いてくるので「うぜぇ」と言ってその手を払った。

「でも、その優しさを私にも分けてほしかったな」

 嫌な予感。

「ジュース私も飲みたいわ」

「ダメだ」

「あら、どうしてみんなには買ってあげたのに私にはくれないの?」

「なのな。もう金がないんだよ。俺も結局飲めないんだぞ」

「そうね。私たちは保護者として子どもたちが美味しくジュースを飲んでいる姿を暖かく見守りましょ」

「おい、かなりの語弊があるぞ。なんで俺たちが保護者なんだ」

「え? そういう役回りじゃないの?」

「なんだ、役回りって。初耳だぞ」

「設定は縁くんの隠し子が――」

「設定とかいいから!」

 怖くなったから時和の言葉を遮った。俺の隠し子ってなんだよ。

 疲れて俯いていると、ユウカが俺の前に立っていた。

「どうした?」

「これ、あげる」と言ってリンゴジュースを差し出してきた。

 久しぶりに感じた優しさに少し感動した。ユウカが天使に見える。

「いや大丈夫だ。家に帰ればあるから」

「でも……」

「それはユウカのだからユウカが飲め」

 そこまで言ってユウカは納得したように頷いてジュースを飲む。

「縁くんってロリコンなの?」

「…………」

 どうしてコイツはそういうどうでもいいことは知ってるんだ。

「断じて違う」

「え、でも小さい女の子に優しい男の子はロリコンだって友達が言っていたわ」

 その友達とやらと一度真剣に話合わなくちゃいけないような気がする。

「あのな、子どもに優しくない人なんてそれこそ冷血漢だ。お前だって子どもには優しいだろ。それと一緒だ」

「そうなの? それなら安心だわ」

 そう言うと時和は子どもたちの輪の中へと向かった。

 時和と小学生たちを見つめる。小学生たちは時和を慕っているようで、時和も小学生たちと話している時は生き生きとしている。学校での清楚なお嬢様じゃない。

 子どもを相手にする方が楽なんだろう。子どもは良くも悪くも人の表面を見てその人物を認識する。だから時和も臆病になることなく接することができる。高校生くらいになると、人の裏側、人には知られたくない秘密なんかには興味津々だ。人の噂は絶えることはないし、憶測が毎日のように飛び交っている。

 だが、本当にそれだけなのか。百目鬼が言ったような器が時和にあるなら、学校の生徒だって友達になれるはずじゃないだろうか。それとも神様と人間にはそれだけの深い溝があって簡単には相容れないのか。

 しかしこれは俺が考えてもしかたないことだ。結局は時和が勇気を出して一歩前に踏み出せるかどうかだ。それは人間の俺には計り知れない勇気がないとダメなのかもしれない。けど人間の世界で友達を作りたいならやるしかない。

 学校で本当の時和を見ることができる。そんな日が来るのだろうか、と考えていると一人の男の子が目の前に立っていた。

 名前は確か――

「タケだっけ?」

 女の子がそんな風に呼んでいた。

「それはミホが勝手に呼んでるだけ。俺の名前はタケシ」

「それは悪い。で、タケシはみんなのところに行かないのか?」

「お前に聞きたことがある」

 と隣に座る。

「お前ってお姉ちゃんの彼氏か?」

「いや違う」と即答。

「じゃあ好きなのか?」

「ぜんぜん」と即答。

「じゃあ人を好きになったことはある?」

「……人を好きになったこと?」

 一度もなかった気がする。

 というか人を好きなることってどういうことだ? そういった経験も体験もないからわからない。

「ないな……」

 呟くように答えるとタケシはあからさまに舌打ちした。

「つっかえねぇ」

「なんだ。そういうタケシは人を好きになったことあるのか?」

「お、俺は別にないよ……」

 言いながら視線が小学生たちの方へと向く。正確にはその中にいた女の子に。

 あの子がたぶんミホだろう。で、タケシの意中の人か。

「そうか。まぁ出来たら優しくしてやるんだな」

 たぶん恋愛相談みたいなことをさせようとしたんだろ。でも完全に人選を間違っている。俺にその手の話をしてもまったく気の利いた言葉も言えない。

「男二人で何やっているのよ」

 みんなが俺たちの周りに集まっていた。その中にはとうぜんミホもいるわけだ。

「な、なんでもねぇーよ」

 タケシはぶっきらぼうに答えると立ち上がった。

「ほら、一回やるぞ」

 タケシの掛け声で、みんなが円を作った。

「え、まだやるのか?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ