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神様な彼女  作者: Uma
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できること

 その後俺は授業を受ける気にもなれず、無断で早退した。

 家に帰るとじいちゃんに調子が悪いと言って自室で横になった。だが眠れるはずもなく、頭の中にはずっと時和のことがぐるぐると駆け廻る。

 あれだけ突き離されたのにまだ俺は懲りてないようだ。

 考えるな、と頭の中で連呼する。これ以上考えったって俺にしてやれることはない。だから考えるな。

 だけどそう思えば思うほど、まるで底なし沼に嵌ったように抜け出せなくなる。

 そんなことを繰り返すうちに時は過ぎて、外はすっかり日が沈んでいた。

「おい、縁。飯作ってくれ」

 扉を隔ててじいちゃんの声が聞こえる。時計を見れば七時を過ぎていた。

「わかった。ちょっと待ってて」

 そう言って起き上がって部屋から出る。

 縁側に出ると、外が一望できる。流石に時和湖は見えないが、工事の音はここからよく聞こえるのだ。

 だが、もう音は聞こえず、虫の鳴く音だけが響き渡る。

「じいちゃん、悪いけど飯は納豆だけで食べてくれ」

 茶の間に向かって告げるとしばらくして「仕方ないのぅ」と返事がくる。

 俺は玄関で靴を履いて、外に出た。

 目指しているのはもちろん時和湖。

 自分のバカさ加減が嫌になる。あれだけ自分に言い聞かせたのに結局これか、と。だけど、工事の進行状況を見れば時和があとどれくらい持つのかわかるかもしれない。もし、もう残り少ないならせめて時和が望んでることを……。

 曲がり角を曲がる。ここまでくれば後は一本道というところで、道の先に人が倒れているのが見える。

「まさか!」

 それに向かって駆けだす。そしてそこにいたのは案の定時和だった。

「おい時和!」

 抱きかかえて呼びかけると時和はうっすらと目を開ける。

「縁くん……」

 弱々しい声で俺を呼ぶ。かなり衰弱してる。

 そのまま時和を持ち上げて家へと目指す。家に行ったって時和の調子が戻るわけじゃない。でも、屋根がない場所で寝るよりはましだと思った。

 家に着くと急いで自室に寝かせた。さっきまで寝ていたから布団が出しっぱなしで都合が良かったのだ。

「おい、縁。騒々しいぞ」

 じいちゃんが部屋に入ってくる。

 そして時和を見て、目を鋭くさせる。

「じいちゃん、頼む。黙ってコイツを家に置いてくれないか」

 頭を下げてお願いする。

 普通なら救急車を呼ぶべきなんだろうけど時和に人間の治療で治るわけがない。せめて時和湖に近いこの家に置いてやりたいんだ。

「その子、飯は食ったのか?」

 それがじいちゃんの答えだった。

「わからないけど、目覚めたら訊いてみる」

「連れ込んだからにはしっかり面倒みてやれ」

 そう言ってじいちゃんは部屋から出て行った。

「……ありがとう」

 俺はそう小さく呟いた。

 それから三時間が経ったが、時和に変化はなかった。顔を蒼白にして穏やかに眠っている。寝息をしていなかったら死体だと間違えそうだ。

「五月女」

 百目鬼が部屋の隅に表れる。

「どうしてあの状態で時和を帰らせた」

 そう静かにしかし怒りを込めて言う。

「すまない。本当なら学校の保健室で眠らせようと思ったのだが、私が目を離した隙に抜け出したらしい」

 本当は言いたいことは山ほどあった。しかしこの時和の顔を見て大声で怒鳴る気にはなれない。

「時和はこれからこの家に置く」

「そうしてくれると助かる。ここは時和湖から近い」

 それから会話はなくなった。微かな時和の寝息と虫の声だけが聞こえる。

 黙って時和の姿を見守る。

 すると時和から声が漏れた。ゆっくりと目が開き、目が合う。

「縁くん、ここは……」

「俺の部屋だ。お前が倒れてたからここまで連れてきた」

「そう、縁くんの……」

 時和は首だけを動かして部屋を見回す。

「なんにもないわ……男の子の部屋はもっと散らかってるものだと思ってた」

「悪かったな。何もなくて」

 他愛無い会話。だがそれをするのさえも時和には辛そうだ。

「なぁ、時和。教えてくれないか、どうしても他の場所の土地神になる気はないのか」

 そう言うと時和はゆっくり頷いた。

「……うん、ない」

 二度目の否定。

「そんなに時和湖と一緒に消えるのが大事か?」

「違うわ。時和湖が消えるから私も消えるの……」

 止めよう。これだと保健室と同じだ。これ以上時和を喋らせるのはよくない。

「お前の考えはわかった。とりあえず今は寝ろ。疲れただろ」

「ええ、そうさせてもらうわ」

 そう言って時和は再び目を閉じた。

 その日、俺は一睡もせずに時和を見続けた。昨日の夜はずっとどうしたら時和の考えを変えられるか考えていたのだ。

 そこには百目鬼もいたが、朝になるといつの間にかにいなくなっていた。

 洗面台の鏡で顔を確認すると目の下に酷いクマが出来ていた。しかしそのお陰で一つの方法が思いついた。

 この世に時和が残りたいと思えば考えを変えてくれるんじゃないか、と考えた。そしてその手段も考えてある。

 早朝、すぐさまコンビニによってマジックと色紙を買った。この色紙に今まで時和と関わって来た人全員のメッセージを入れてもらおうと考えたのだ。正直言ってただの悪足掻きにしかならないかもしれない。だが、やってみないよりはマシだ。

 まず向かったのは学校すでにみんな登校している時間だ。これなら全員分書いてもらえる。まず向かったのは俺のクラスである三組。そこには既に篠崎の姿があった。

「篠崎!」

 叫ぶようにして俺が呼ぶと、肩を揺らせてびっくりした。

「なんだよ、五月女。びっくりしいたな。ていうかお前昨日どうしたんだ。途中から学校抜け出して」

「これ書いてくれ」

 と色紙を取り出して、事情を説明した。

 と言っても殆どは嘘だ。

 昨日時和が倒れた後、百目鬼と一緒に病院にいったがその結果が悪くて手術をすることになった。けど時和は手術を怖がっているから勇気づけたい。みたいな感じだ。

 だけどこれだけだと信憑性に欠けるので「理事長に聞けばわかる」だの、殆ど百目鬼を出しに使った。

 それを訊くと篠崎は信じられないような顔をする。

「昨日倒れたって聞いたけどそんなに酷かったのか……」

「アイツのために頼む」

「わかった。おい、この中にも時和さんと友達の奴いるだろ。書いてくれ」

 と篠崎がクラスに呼び掛けると殆どの人が色紙に集まった。

 俺はそれを唖然として見守る。こんなにも時和と関わっていたなんて知らなかった。

「おい、他のクラスにも呼びかけた方がいいじゃない?」

 誰かがそんなことを言う。

「じゃあ、俺ちょっと呼び掛けてくる」

 と言って一人の生徒が出て行く。

 それを機にして三組に次々と生徒が集まってくる。

「おいまだか。書き終わったやつはさっさと代われ」

「おい、もう色紙にかく場所ないぜ」

「あ、私新しいノート持ってるからそこに書けばいいじゃん」

「なら早くもってこい。朝のホームルーム始っちまう」

 おいおい、と思わず俺は呟いた。

「百目鬼、本当に俺は時和の友達作りに必要だったのか……」

 俺がいなくても時和は立派に友達を作ってただろう。ただ本人が気付いてないだけで。

 時和へのメッセージ書きは昼休みまで掛かった。なぜか二年と三年の先輩まで来た時は驚いた。何処まで人脈を伸ばしたんだ。

 そして色紙一枚と一冊のノートにびっちり時和へのメッセージが書かれた。それをバックに仕舞い、椅子から立ち上がる。

「おい、何処に行くんだ」

 篠崎が昼食のパンを食べながら訊いて来い。

「時和のところだよ。この色紙とノートを見せてやるんだ」

「それならこれ使え」と言って篠崎が何を投げる。胸の前で捕るとそれは自転車のカギ。

「お前、自転車持ってないだろ。断然そっちの方が早い」

「悪いな」

「いいよ。その代わりよろしく伝えておけ」

「わかった」と手を上げて返事をすると、教室中から声を掛けられた。

「時和さんによろしく」

「ちゃんと渡せよ」

「しっかりね、五月女くん」

「時和さんに頑張れって伝えて」

 顔すら知らない奴まで俺に話しかけてきた時は驚いた。

 やっぱりこれも時和の人望だろう。


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