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神様な彼女  作者: Uma
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視えない溝

 会場にいた全員が時和の言葉に驚き唖然としている。物音しない会場でいち早く我に返ったのは司会だった。

「え、えっとこれは意外な回答ですね。それはつまり許嫁というやつですか?」

「いえ、お互いに口約束しただけです」

 その受け答えをきっかけに会場に音が戻る。静かだった時間を取り戻そうと一気に会場中が話声で満たさせる。

 だが俺だけはまだ放心状態だった。

 最初は冗談じゃないかと思ったが、あの時和の顔はそんなことを言ってる風には見えなかった。本当結婚を約束した相手がいるんだ。

 時和にそんな奴がいたことを知らなかった。百目鬼の顔が浮かんだが、アイツはどちらかというと親の立場だ。間違っても時和とそういう関係になることはない。

 じゃあ、誰だ。

 やっぱり神様だから神様同士と結婚するのか。それともあの宴会の中にいた妖怪の誰かか。いや、時和はそういう方がいないと言った。つまり近くにいないってことじゃないか。遠くにいてあまり会えないってことだ。

「おい、五月女!」

 急に肩を掴まれ、我に返った。横を見ると篠崎が深刻そうな顔で俺を見ていた。

「どうしたんだ。さっきから呼んでも返事しないし、顔も真っ青だぞ」

 ぜんぜん気付かなかった。

 ステージを見るとすでに時和たちはいなくなっている。

「ほら、もう全員の紹介終わってるぞ。投票用紙さっさと書いちまえよ」

 促されて投票用紙を見る。そこにはもちろん時和の四番も含まれている。

 時和のあの発言を聞くまではこの四番に丸を付けようと思っていた。それ以外の女子とは話したこともないし、それが無難だと考えて。だけど今の俺にはそんな気が起きない。なぜか、ちゃんと顔も見たことない六に丸を付けて役員の持ってきた投票箱に入れた。

 結界は当然時和が一位だった。しかし、思っていたより票が割れた。俺と同じようにあの発言で変えた奴がいるんだう。

 最後のイベントであるミスコンが終わると、閉会式を挟んで親睦会は終了となった。それまで時和と話す機会はなく、帰り道でミスコン後初めて二人きりとなった。

「今日は楽しかったわ」

 辺りは真っ暗になり街灯のない道で時和が口を開いた。

「千円払ったんだから楽しんでもらわないと困るけどな」

「それには感謝しているわ。ありがと、縁くん」

 そう面と向かって言われると恥しいものがある。

「でも、縁くんも結構楽しんでいたわ」

「まぁ千円分の料理はしっかり食べさせてもらったから、楽しんだって言うなら楽しんだな」

「そうじゃなくて高根沢さんに抱きつかれて随分と楽しそうだったわ」

 コイツ、なんでか知らないが根に持ってるらしい。

「お前は何処をどう見ればそんな風に見えたんだ。どう見ても困ってただろ」

「困っているなら無理やり振り解けばいいじゃない」

「女相手にそんなこと出来るわけがないだろ」

「へぇ~」と意味深な笑みを浮かべる。

 嫌な予感がする、と思った時には遅かった。

 時和はすでに動き出し、俺の腕に抱きついた。

「なっ!」

 一瞬のことで避けることはもちろん驚いて声が出せなかった。

「本当に無理に振り解こうとしないわね」

 厭味な目線を送りながらそんなことを言う。

「離れろ」

「無理に振り解けば?」

 思わず舌打ちした。

「これで縁くんは私のことを異性として認識しているってわかったわ」

 コイツ調子に乗りやがって本当に無理やり振り解いてやろうか。

 なんて思ったが止めた。また怒らせると面倒だし、何よりコイツには許嫁(?)がいるらしいから、彼女が他の男にぞんざいに扱われてたらいい気分がしないだろ。

 いやそれは他の男に抱きついてても同じか。

「ほらそろそろ離れろ」

「嫌よ」

「お前、結婚を約束した奴がいるんだろ。ソイツにやってやれ」

 時和は何秒か黙って後で「そうね」と言って俺の腕から離れた。

 その後、時和から話しかけてくることはなかった。

 俺は一度、その許嫁について訊こうとしたが止めた。なんだか訊いていい気分にはなれなそうだ。



 それ以降、時和からのあの手紙と呼ぶにはお粗末なメモが下駄箱に入っていることはなかった。前にも一度時和を怒らせてこんなことがあった。今回はまったく怒らせた覚えがない。

「そういえば最近、時和さん変わったよな」

 昼休み珍しく教室で俺と一緒に昼食を食べた篠崎が呟いた。

「変わったって?」

「なんていうか話しやすくなったかな。親睦会が終わった後からよく飛鳥と遊んでるらしいんだけど。結構気さくな感じで冗談も通じるらしい」

 それは変わったんじゃなくて本性が表れただけだ。

 ともあれ時和を親睦会に誘ったのは正解だったらしい。

「でも一番変わったのはお前だと俺は思うけどな」

 と言って俺を指差す。

「って俺?」

「そう。入学した時は人を近づかせない雰囲気放ってたけど、今じゃあ普通に話しかけられるよ。この頃、お前の冷血漢の噂流れてこないし」

 そういえばこの頃篠崎からそんな噂を聞かなくなった。

「たぶん時和さんとの噂が流れたあたりからだな。やっぱり時和さんと関わると人生違ってくるんだろうなぁ」

 たぶんそうだ。時和が変わろうとしているのを見て俺も影響されたんだろう。

「お前が思ってるような関わり方はしてねぇ」

「またまたぁ~。あ、でもこの頃、時和さんとの噂も聞かなくなったな」

 それはそうだ。この頃碌に顔も合わせてないんだから。

「親睦会での発言が原因か。あの時和さんの許嫁。お前じゃないんだろ」

「ああ、違うな」

「それでギクシャクしてるんだろ。五月女が一方的に無視してるじゃないだろうな」

 その逆だ。

「そんなわけないだろ。それにもともと俺と時和はそういう関係じゃないって何度言えばわかるんだ」

「でも、友達以上恋人未満だし。そろそろ次のステップに昇格していい頃じゃない?」

「俺に訊くな」

 とそんなくだらない問答をした日の放課後、意外な訪問者が表れた。

「五月女くんいますかー」

 教室に聞き覚えのある声が響く。

 教室の入り口を見ると予想通り高根沢がいた。

「お、五月女くん発見っ!!」

 親睦会の時と変わらないテンションで俺のところへと来る。

「やーやー、親睦会以来だね」

「そうだな。で、なんのようだ」

 素っ気なく返すと「連れないなぁ」と悲しそうな顔をする。

「ちょっと五月女くんに話があってね。ちょっと屋上まで面貸せや」

 となぜか不良のような文句で俺を呼び出した。

 高根沢と屋上へと出る。時和に呼び出されて以来の屋上はその時と全く変わっていない。

 ま、当たり前か。

 高根沢は少し俺と距離を取ると振り返った。

「単刀直入に聞くよ」

 バシッと俺を指差す。

「時和と何があったの?」

「いや別に何もないけど」

「嘘だね」

 バッサリと俺の言葉は切り捨てられる。

「五月女くんも感じてるでしょ。天音っち、この頃元気ないし、五月女くんの話してもなんだかはぐらかすし」

 天音っち……。あだ名で呼ぶくらい親しくなったらしい。

 神様相手にあだ名で呼ぶなんて、知らぬが仏とはこのことか。

「親睦会の時は五月女くんのこと話してるとなんと言うかこう乙女って感じだったんだよ。それが今じゃあお通夜みたいな顔しちゃって。絶対なにかあったよ」

「そんなこと言われて本当に心当たりもなし、原因も知らないんだよ」

「そうなの。うーん、五月女くんでもないとなると私にも心当たりないな。でも絶対五月女くん関係なのは間違いないんだよな」

「どうしてそう言い切れるんだ?」

「恋に憧れる乙女の勘」

 あてになるのか?

 だが俺に関係しているのは確かだ。

「でも、絶対何かあるはず。天音っちと最後に会ったのはいつ?」

 と高根沢による事情聴取が始まった。

 とりあえず親睦会での帰り道のことを話した。

 すると高根沢は確信したように頷いた。

「それだね」

「今ので何かわかったのか?」

「ずばり五月女くんが素っ気なさ過ぎるのが原因だよ」

 と再び俺を指差す。

「いやそれはいつものことだから」

「……自覚あったなら直そうよ」

 呆れたような目で俺を見る。

「そうじゃなくて、親睦会の天音っちの爆弾発言覚えてるでしょ」

「彼氏はいないけど結婚を約束した人ならいるってやつか?」

「そうそれ。あれは天音っちが五月女くんに構ってほしかったんだよ。いつも素っ気ないからたまには心配してほしいみたいな、ねっ!!」

 いや、「ねっ!!」と言われても……。

「そんな感じじゃなかったぞ。本当にいるみたいだったし。そういう人がいるから俺と距離を置こうとしてるんじゃないか?」

 いや実際そうだろ。

「いや違う。あの発言は五月女くんへのメッセージだよ、ぜったい!!」

 また乙女の勘ってやつか。

「とにかく五月女くんできるだけ天音っちに話しかけてね。原因の方は私で探ってみるから」

「じゃあね」と言って高根沢は去って行った。

 まるで嵐が過ぎ去ったあとのように屋上は静かになった。

 と言われても時和と話せる機会なんてそうそうない。廊下で見かけた時は大抵誰かと一緒にいるし、こちらから呼び出して話をするってほどのことでもない。

 だからそんなチャンスは当分こないな、と思っていた矢先、時和とばったり廊下で出くわした。しかもあっちは一人だ。

「よう、こんなところで何やってんだ」

 この廊下は普段人通りが極端に少ない。

「縁くん。図書室行ってたの」

 と言う時和の手には一冊の本がある。

 なるほど確かにこの廊下は図書室に行くのに一番近い。

「そうか、じゃあまたな」

「うん」

 とお互いに別れた。

 ほんの数秒ほどの会話だが特に変わった様子はなかった。

 そのことを高根沢に伝えると、

「はぁ? 五月女くんってバカ?」

 軽蔑するかのような目で罵倒された。

 俺と高根沢は再び屋上で話しあっていた。どうも何か情報を仕入れたらしい。

「女の子舐めてるでしょ。そんな数秒程度話しただけで相手に気持ちを知られるような子はいないわよ。五月女くんってあんまし女の子と喋ったことないでしょ。やっぱりこんな鈍感で素っ気ない男に捕まったことが運のつきだったのかな」

 酷い言われようだった。

「それは俺が悪かった。それで高根沢の情報ってなんだ?」

「うん? いやこれは関係あるのかないのかわからないんだけど。天音っちって時和湖の辺りに住んでんだよね?」

「そう言ってたな」

 実際は時和湖“に”だが。

「実は今、時和湖を埋めて、そこに私営プールを作るって計画があるらしいの。そこで立退きを求められてるとか?」

 聞き捨てならない言葉が聞こえてくる。


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