突然の
振り向くとそこには時和が仁王立ちしていた。
あれ、なんか怒ってる?
「お! もう一人の当事者登場」
それとは逆に高根沢は嬉しそうだ。
「高根沢さんどうして縁くんに抱きついてるの!」
「な・い・しょ」
更に怒りが増した気がする。
後ろにある異様なオーラは俺だけに見えるのか? 妖怪が見える目を持ってるから見えているのか?
「そういうことを人前でするのは不謹慎だと思うわっ!」
「けど五月女くんは喜んでるよ?」
「俺がいつ喜んだ!」
思わず怒鳴ってしまった。
すると高根沢は今にも泣きそうな顔をして上目遣いで見つめてくる。
「五月女くんどうしてそんなこと言うの。さっきはあんなに私のこと口説いてくれたのに……」
爆弾を放り込みやがった。
時和は顔を耳まで真っ赤にさせてぷるぷると震えている。
なんでお前が赤くなってんだ。
「え、縁くん、私は口説かないのに高根沢さんは口説くのね!」
そして爆弾を放り込み返しやがった。
次第に会場の生徒たちの視線が集まってきているのがわかる。
そろそろ悪ふざけも潮時だ。
「おい高根沢、頼むからあんまり時和を刺激するな」
注意すると「しょうがないな」と言ってすんなりと離れた。
「時和もこれは高根沢の冗談だ。本気にするな」
「え、冗談?」
「そ、時和さんと五月女くんの関係が知りたくてね。悪ふざけが過ぎたよ。ごめん」
あっさりと謝るので時和も「そ、そうだったの」と苦笑い。
「でも予想以上に二人は愛し合ってるんだね」
「げほぉっげほぉっ」
飲んだジュースを思いっきり気管入れてしまった。
「どうしてそうなる!」
「だって時和さんはかなり嫉妬してたし、五月女くんも時和さんに悲しい思いをさせたくないから止めたんでしょ」
「だからどうしてそうなる。俺は視線が気になったから注意しただけだ」
「わ、私はただ不謹慎だから中止しただけで、そういう意味じゃないわ」
俺と時和の声が被る。
「うん、息もピッタリ」
これは何を言っても無駄だな。
新しいジュースを取りにいったん離れる。
「どうだった、幸里の感触は?」
ニヤニヤしながら篠崎が聞いてきた。
「うるさい、裏切者。なんで助けに来ないんだ」
「いやいやあそこに割って入るのは無理だろ。とてもそんな雰囲気じゃなかったから」
役立たずめ、と心の中で悪態を吐く。
「でも決まりだな。時和さん完全にお前に惚れてるよ」
「ブゥーーー」
この度は飲んでいるジュースを吹き出してしまった。
「うわぁ、汚な! なに吹き出してんだよ」
「お前がいきなり変なことを言い出すからだろ!」
慌ててテーブルにあったナプキンで床を拭く。
「いきなりって。お前さっきの時和さん見ただろ。あれは完全な嫉妬だ」
「そうだな、嫉妬だ」
「それってつまりお前のことを好きだからだろ」
「それは違う」
「はぁ?」
篠崎が納得してなさそうな顔をする。
だけど時和は俺に恋愛感情なんて抱いてない。なんていったってアイツは神様だ。人間の俺なんかをそんな風に見ているわけない。あの時は唯一の理解者を取られたとでも思ったんだろ。
「まぁそういうわけだ。時和は俺のことなんて眼中にないよ。なんせ時和だぞ。もっと他にいい奴がいるだろ」
そこまで言うと篠崎も「それもそうだけど」とまだ納得してない様子だ。
篠崎と時和たちの方へ戻ると、二人はまだ何か話していた。
なぜか時和は顔を真っ赤にして。
「いや、それにして時和さんがこんなに話しやすい人だとは思わなかったよ」
ジュースを飲みながら高根沢が呟いた。
その言葉に俺は声にこそ出さなかったものの「おお!」と心の中で叫んだ。
これはいい流れだ。
「そ、そうかな?」
「うん、なんか新たな一面を見た感じだよ」
高根沢の何気ない一言。けどそれは確実に時和の中で大きなものとなった。希望と言ったら大げさだが、もしかしたらという気持ちを持たせてくる。
時和もそれを感じたのか、嬉しそうに高根沢と喋る。
しかし次に高根沢が言った一言がとんでもない波乱を起こす。
「だってこの企画があるのに参加してくれるとは思わなかった」
と高根沢が新鮮を向けた先には役員っぽい男子が立っていた。
「それではメインイベント。親睦会限定プチミスコンを始めたいと思いますっ!!」
マイクを片手に高らかに宣言すると、会場は異様な歓声が上がった。
「み、みすこん?」
時和が首を傾げる。
俺は頭を抱える。
「おい篠崎。こんなミスコンがあるなんて聞いてないぞ」
「あれ? しおりに乗ってなかったっけ?」
俺はポケットにしまい込んだしおりを広げ、プログラムを確認する。
「乗ってねぇぞ!」
「あっれー、おかしいな。印刷ミスかー(棒読み)」
ワザとか。これのために俺を使って時和を呼び出したのか。
篠崎を睨んでいると時和が話しかけてくる。
「縁くん、ミスコンってなに?」
説明しようとすると篠崎が横から割って出た。
「え、時和さんミスコン知らないの?」
篠崎の勢いに押されて、引き気味に頷く。
「ミスコンっていうのは一番綺麗な女の子を決める大会だよ。今回は会場にいる男子が誰が可愛いか投票するんだ」
「それって私も出るの?」
「出たい人だけが出来れば時和さんは出てほしいな」
「そう……」
時和が複雑そうな顔をする。
これは時和を誘った俺の責任だ。篠崎が何か企んでいることぐらいちゃんと気付くべきだった。
罪悪感が肩に重く圧し掛かる。
「時和は出たくないなら出なくてもいいだぞ」
助け舟を出すも時和は首を横に振った。
「大丈夫。こういうイベントには出ておきたいし、それに……」
言葉を止めて、俺をジッと見つめる。
なんだ?
「それでは女子のみなさんはステージ前に集まってください」
司会から呼び出しがかかる。時和は続きを言うことなく、ステージ前へと向かってしまった。
「やっぱり五月女に頼んで正解だったな」
「なにを?」
「時和さんを誘うのだよ。他の奴なら来なかっただろうし、来たとしてもミスコンには出てくれなかっただろうな」
「まるで俺がいたからミスコンに出たみたいな言い方だな」
「実際そうだ。見ただろステージに行く前の時和さん。どう見ても五月女が誰に投票するか気になってた顔だぜ」
あー羨ましい、と投げやりに言う。
何を言い返す気が起きなかった俺は黙ってステージを見つめる。参加者たちはすでにステージに上り、その左側に時和はいた。その胸には四と書かれた札が付けられている。
そして会場にいる奴らにも何か紙とペンが手渡される。そこには一から八までの番号が書かれていた。
要するに気に入った人の番号に丸を付ければいいのか。
「で、どうするんだ。もちろん時和さんに入れるんだろ」
ニヤケた顔で篠崎が訊いてきた。
「まさか、俺が入れなくてもアイツは勝つだろ」
「勝ち負けの問題じゃない。時和さんはお前が入れてくれるのを望んでるんだぞ。入れるのが男ってもんだろ」
またその話か。コイツも好きだな。
「はいはい、勝手に言ってろ」
軽く受け流す。
ミスコンというから何をするのかと思ったら、自己紹介と質問をして終わりだった。
篠崎曰く「水着審査までしたかったけど流石に無理」
まぁここで水着になれと言われてなれる奴はいないだろ。そこまでいったら本当のミスコンだ。高校生にはレベルが高い。
ミスコンは順調に進みついに時和の順番となった。マイクを司会から受けとる。
「では、四番の方、自己紹介をお願いします」
そう告げられるとビクッと肩を揺らした。
かなり緊張してるな。
「は、はひ!」
あ、噛んだ。
会場から笑いが起きる。時和は顔を真っ赤にしている。
「ろ、六組の時和天音です」
「それでは時和さんに質問していきたいと思います。好きな食べ物は?」
「えっと、甘味だったら何でも好きです」
パフェをあれだけ食べられるんだからな。
「じゃあ逆に嫌いな食べ物は?」
「食べ物ではないんですけど、炭酸飲料が苦手です」
たぶん俺のメロンソーダが原因だな。
「炭酸飲料?」
「はい、あのピリピリした感じが苦手で」
「そうなんですか。では住んでるところは何処ですか?」
「えっと、時和湖の近くです」
流石に時和湖に住んでいるとは言えなかったようだ。
「ほぅ、苗字も同じ名前ですが、もしかして何か関係があるんですか?」
「はい。詳しいことは知らないんですが、そうらしいです」
時和って意外と嘘が上手いな。
「なるほど。では、次の質問」
と司会はどんどん質問を投げかけ、時和もそれに答えていく。
五つ目の質問が終わると司会は「最後の質問です」と告げる。
「ずばり彼氏はいますか」
会場がざわめき出す。九割の視線は時和に向けられ、残り一割は噂のお陰で俺に向けられていた。
「彼氏ってなんですか?」
会場の全員が心の中でこけた音がした。
「えっと、お付き合いしてる人です」
「お付き合いですか……」
時和はマイクを握り締めたまま、それ以上何も言わない。やがて顔を俯けて、傍から見れば辛そうだ。
そして沈黙が長くなると、司会が場の空気を察してか時和に声を掛ける。
「えっと時和さん、答えたくないなら無理して答えなくていいですよ……」
反応はない。俯いたままだと思った瞬間、時和は顔を上げた。
会場を見渡して、俺と目が合うとそこで目線を止めた。
時間にして三秒。時和と俺は見つめ合った。
やがて時和の方から視線を外し、マイクを少し上げる。
「そういう方はいませんが、結婚を約束した人はいます」
会場から音が消えた。




