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神様な彼女  作者: Uma
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姦し娘登場

 百目鬼が連れてきたのはパーティー会場の裏手にある控室だった。

「これを着ろ」

 百目鬼が差し出したのは黒いスーツだった。

「まさかスペア?」

 毎日のように黒いスーツを着ている百目鬼のことだ。スペアの一つや二つ持っていたところで驚きはしない。

「違う。このホテルの貸衣装だ。パーティーだというのに一人だけ制服では目立つだろ」

「どうしても着ないとダメか?」

 スーツなんて俺には似合わないし、今更着替えるのも恥しい。できるなら最後まで制服いさせてほしい。

「ダメだ。親睦会の参加条件にもできるだけ礼服でと書かれてあっただろ」

 確かに後で受け取った親睦会のしおりには書いてあった。だから俺は時和にドレスっぽい服装でと忠告したんだ。

「いやでも制服は冠婚葬祭に着ていけるだろ」

「これではどっちが教育者で生徒かわからないな。普通、こういう時生徒は制服を嫌がるものじゃないのか?」

「どうでしょうね。俺は普通の生徒じゃないんでわかりません」

 冷血漢だからな。

「とりあえず着ろ。もうホテル側から借りてしまったし、それに天音の隣にいる者として服装はちゃんとしてもらいたい」

 珍しく百目鬼が俺に優しいと思ったらそういうことか。天音のことになるとこの鬼は親バカっぽいな。

 渋々スーツを受け取る。

「制服のYシャツの上から着ればいいか?」

「ダメだ。全部着ろ」

 厳しい。

 制服からスーツに着替える。なんだか着慣れてないせいか、落ち着かない。

 本当にこれで合っているのか?

「よし、次行くぞ」

 と言って百目鬼は控室から出て行く。

「え、おい。まだ何処かに行くのか」

 その後を急いで追う。

「今度は近くにある美容室だ。そのボサボサの髪を整えるぞ」

「はぁ! そんなことまでするのか! 時間がないだろ!」

 千円分料理を食べないといけないんだ。

「黙って付いて来い。もう予約してしまった。それに時間のことは心配するな。店にも事情を話してあるから、十分で終わらせてくれるそうだ」

 そういう手回しだけは本当に早い。

 結局、パーティー会場に戻って来れたのは、百目鬼につれられて十五分後。しかし、格好は十五分前とは全然違う。制服は黒いスーツに変わり、ボサボサだった髪は綺麗に整えられている。

 元の場所に行くとまだ篠崎がいた。

「まったく酷い目にあった」

 と声を掛けるとなぜか篠崎は呆然と俺を見つめる。

「えっと、五月女か?」

 何言ってんだコイツ?

「それ以外に誰に見えんだ」

「マジで五月女か!」

 目を見開いて驚かれた。

 そんなに変わったか?

「いやすげぇーな。ここまで変わるもんなんだな。髪も切ってるよな?」

「ああ、理事長に連れ回された」

「まるで違うわ。雰囲気に陰気さがなくなってるよ」

 それは褒めているのか?

「理事長もすげぇな。短時間でここまでするなんて。うん? でもなんでだ?」

 時和のためとは言えず、「さぁな」と返した。

「おーい、大樹」

 それから篠崎と料理を食べているとなんとも元気溌剌とした声が聞こえてくる。

「おー、幸里」

 声と共に女子が一人こっちに来た。そして篠崎と話しだす。

「この後のビンゴ大会なんだけどさ。司会の子が病欠しちゃってさぁ。大樹司会やってくれない?」

「俺が? でもビンゴの時、俺番号書きだしていく役だぜ」

「そっちは私がやるよ。司会誰もやりたがらなくて、私がやってもいいだけど、ルール説明私だしさ。大樹しか頼める相手いないの。お願いっ」

 と女子は頭を下げて両手を合わせた。

「わかった。司会進行の内容わかるか」

「それはもちろん。紙に書いてきたよ」

 ほら、と言って篠崎に手渡そうとしたところで、その先にいる俺と目が合った。

「うん? 初めて見る顔だな。何組?」

 目線で俺に言ってるとわかる。

「三組だ」

「三組? おっかしいな。何回か行ったことがあるからこんな上玉見逃したってことはないはずなんだけど……」

 と腕組みして考えだした。

 その横では篠崎が口を抑えて笑っている。

「幸里、ソイツ五月女だよ」

「え! 五月女ってあの五月女縁!」

 俺ってそんなに有名なのか?

「嘘っ! だって五月女くんって言ったら長い前髪の間から目を光らせて、人に対しては絶対優しさを見せないって噂の冷血漢でしょ。それがこの人?」

 そんな尾鰭まで付いてたのか。

 疑いの目でまじまじと見てくる。うっとうしい。

「イメチェンした?」

「してない」

「今さっきな」

 俺と篠崎の声が被る。

「おい篠崎、余計なこと言うな」

「事実だろ」

「理事長が勝手にしたことだ」

「はいはい、ケンカしちゃダメだよ。まだ私と五月女くん、お互いに自己紹介もしてないんだから。ケンカならその後して」

 女子が俺と篠崎との間に右手を入れて割って入る。

「ケンカじゃねぇーよ。俺たちはいつもこんなもんなの」

「はいはい、わかった。えっと、五月女くんでいいよね。私は六組の高根沢幸里たかねざわさとり。この親睦会の役員やってるんだ。そこにいる大樹とは中学からの腐れ縁」

 と篠崎を親指で指差す。そういえば篠崎の名前は大樹だったな。今まで忘れてたけど。

 六組ってことは時和と同じクラスだ。俺は見たことないが時和は面識があるな。

「俺の自己紹介は必要か?」

「大丈夫。五月女くんの噂はいろいろ耳に入ってくるから」

 ほぼ全部が良い噂じゃないのは確かだ。

「でも思ってたより悪そうな人じゃないね。見た目が変わったから?」

「五月女はこう見えても結構いい奴だぜ。ただかなり無愛想で、人に無関心なだけで。話してみると結構面白いところもある」

「へぇ、大樹が言うなら本当なんだろうね」

「ああ、いつも噂と本性のギャップに笑わせてもらってるよ」

 そういえば篠崎と喋っていると偶に笑いを堪えている時がある。たぶんあの時ギャップとやらを見つけたんだろう。

「うーん。じゃあ噂が全部ホントってわけじゃないんだね」

「いや、殆どガセだぜ」

「話し掛けてきた女子を睨みつけて追い返したっていうのは?」

「おい、そんなことした覚えはないぞ」

「それは五月女が寝起きで目が細かったから女子の方が勘違いしたんだろ」

「なんでお前が知ってんだよ」

「隣で見てたから」

 見てたなら教えろ。

「じゃあ、体育教師の顔面を殴ったってのは?」

「……それ、もう謹慎レベルだろ。謹慎になってない時点で嘘だって気付けよ」

「ハンドボールの授業中、五月女の投げたボールが当たったんだよ」

 ああ、そんなこともあった。相手のチームの人数が足りなくて教師が混ざったんだっけ。確かゴールキーパーやってたな。

 そこまで確認したところで高根沢はつまらなそうに口を尖らせる。

「なんだ殆ど嘘なのか。期待外れだな」

 期待外れとまで言うか。そこまで言われると俺がつまらない人間みたいだ。

「じゃあこれも嘘なのか。時和さんと付き合ってるって」

 そう聞こえた時、瞬時に篠崎が俺の方を向いた。目付きがまるで悪戯をする前の子どものようだ。いや、実際そうなんだろう。

「その噂はどうなんだろうな、五月女」

 意味深な言い方で話題を振ってくる。

 それで高根沢も感付いたのか、「ほほぉ~」と俺に近づいてくる。

 この二人気が合わなそうで実は合うんじゃないか。噂好きってところで。

「五月女くん何か隠してるんだ」

「隠してない。俺と時和はそんな関係じゃねぇ」

「でも火がないところに煙は立たないって言うし、何かあるんでしょ」

 じりじりと詰め寄って来る。まるで獲物を狙う獅子だ。そして獅子は間合に獲物が入るとバッと襲いかかってきた。

「なっ!」

 実際は腕に抱きつかれた。

「ほらほら、お姉さんに教えてごらん」

「お姉さんって歳一緒だろ!」

 振り解こうとするが、がっしり両手で巻きついていて離れない。逆にもがくと離れまいとして更に強く巻きつく。

 腕に何か柔らかいものが当たる。

 コイツ狙ってやってる。目がそう言ってる。

「こんなにサービスしてるのにダメ?」

 終いには上目遣いで不安そうな顔して言う。

 助けを求めて篠崎に視線を送るが、こっちを見て呑気に笑ってる。助ける気はないらしい。

 ここで妥協したら俺がコイツに負けてみたいで嫌だ。どうにかならないかと考えていると、後ろから声が掛かった。

「縁くんから離れなさい!」


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