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勇者学科の魔王様  作者: どん底羊
3/4

3話「魔王は回復するとズルいらしい。」


突然ではあるが、世界は一つではなく星の数程存在する。


異世界という言葉があるようにこの世界は俺達が暮らしている星とは別の世界があるのだ。例えば文明や文化は全く同じなのに大陸の配置等が違っていたり、空を見上げると月が2、3個あったりする世界も存在するし、その逆に文化や文明は全く違うのに世界地図どころか、自分の住んでいた所の地図さえも全く同じ世界も存在する。


この事が最初に発見されてから1000年以上経った今では魔力さえあれば誰でも隣町に行くぐらいの気軽さで異世界に行けるようになった。そしてその異世界は今では3種類に分類されている。


誰でも気軽に入る事のできる世界である共通世界。

異世界を認知している世界の半分以上がこの共通世界である。


そして隔離されていて異世界の存在自体を知らなかったり、ほんの一握りしか知らない等の為に入界に制限がある異界。

異世界の文化が入ってくると困る世界や自分達がいる世界のみだと思っている世界がこれに当てはまり約2/5の異世界が異界である。


最後に魔王が統べる世界、異魔界である。

異魔界は魔族だけが住んでおり、この世界の住人は決して外界に出ないと言われその事から他の異世界の住人も入界させることがないと言われているのが異魔界である。


共通世界、異界、異魔界、この3種類の世界のどこにでも魔王は存在し、人に仇なす魔王を討伐する為に勇者が存在するのだ。


「異魔界かぁ〜、私初めて入界するから緊張するな。」


初日の授業は自己紹介と今後の授業の流れ、そして明日の遠足についての話で終わった。

で何故か分からないが、金髪の優等生や赤髪のエルフに食事に誘われて、学園の食堂で海老フライカレーを華麗に食べながら遠足の事を話していた。

いや本当にどうしてこうなった?


「大丈夫だと思うよ。アルス先生が魔王倒してくれたから低ランク魔王しかいないんじゃない?」


優等生は紅髪のエルフの不安をフォローしながらザルソバなるものをフォークで食べていた。なんかシュール。


「そうかな〜?魔王ランクB以上の魔王に会ったら不味いよね、ルシアン君はどう思ってるの?」


今更ではあるが、俺の名前はルシアン・サタリエルということになっている。まあ本当にどうでもいいことなのだが、親父の家名を言うと当然面倒臭いし母親の方もしかりなので母親の母親、つまり婆様の方のファミリーネームを使っている。言っちゃ悪いが俺の父親も母親もある意味有名人なので言いたくない。だから婆様のファミリーネームを使わせてもらっているという訳なのだ。


「ランクには興味ねぇな。なあお前もそう思うだろ?ルシアン。」


黒い鱗の皮膚の亜人のような男がライスカレーというものを持ってきてエルフの横に座った。因みに席順は俺と優等生が隣に座っていて、紅髮と俺が向かいに座ってる。


「駄クロ君には聞いてないんだけど、そして何で勝ってに私の隣に座ってるの? 羽が邪魔だから切り落としていいかな?なのかな?」


「フーリエさん、落ち着きなよ。そもそも何でそんなに怒ってるんだよ?」


「うう…だって生理的に無理なんだもん。カラス嫌いだし…」


「おいおい、いくら何でもそれは俺も傷つくぜ?それに俺は堕天使的なもんだって自己紹介の時に言っただろ?」


いや堕天使ならダメだろ。とツッコんで欲しいのだろうか?

ダーク・クロノカル。

この男は魔族の象徴の一つとされている羽のない翼を持っている。

黒い髮に黒い鱗の皮膚、本来白い筈の眼白が黒くなっており、逆に瞳が白くなっていて俺よりも魔王的な雰囲気を醸し出している。

羨ましい限りだ。

あのアルスに剣一本で勝負をし掛けていった酔狂な野郎である。当然すぐに負けていたが。


「どうでもいいだろう……」


思わすその言葉が出てしまった、本当にどうでもいいから仕方ないだろう。

お喋りは好きだがボロ出しそうであまりしたくはないが何か言わないと収集がつかなさそうだし…


「はっ、馴れ合いは嫌いか?

まあこれから4年間嫌でも顔を合わせるんだから仲良くしようや。」


「そうだよ。ダメクロ君の事はどうでもいいけど、ルシアン君には親近感感じるだよね私。」


「フーリエさんは意外に毒舌だね。まあルシアン君は無茶しそうだから僕達がフォローしてあげるよ。」


なんとも勇者らしいお答えである。確かにこの2人は強いし、もしも俺がヤバかったら助けてくれるだろう。しかし、遠足に限って言えば期待は全くできない。


「お前等は違う班だろうが、まあ仲良くする事に越した事はないがな。」


ダークの言う通りで、今回の遠足は7人全員で行動する訳ではなく、3人〜4人のグループで異魔界に行く事になった。

俺達のグループは勇者学科の武芸専門の先生が担当し、他のグループはアルスが担当するとの事だ。

それにしても、勇者学科の入科基準が本当に分からん。いかにも勇者っぽい奴もいれば、コイツみたいに勇者に見えない野郎もいる。


戦闘力だけなら武芸学科主席の奴とかは"剣無のマルティンク"相手に手傷を負わせたらしいので少なくとも今の俺より相当に強い。

魔王ランクAの側近を倒すような人間にケガを負わせるとかマジでやべえだろ。

なのに俺が勇者学科に入っている。本当に不思議な話だ。


「同じ班だしよ。俺とお前と髪の蒼い女の3人で仲良くやろうや。」


本気でそう思っているらしく言葉には棘がなかった。


「髪の蒼い女とはアタシの事かしら?」


黒いローブを頭からすっぽり被った女、顔もチラっと見え隠れし長い蒼い髮がはみ出している。、どうにも魔力の仮面を被っているらしく、本当の顔ではないようで、すごく平々凡々な顔をしている。


魔力の仮面は扱いが難しく普通の魔術使いなら本当にタダの仮面のようにしかならないのだが、魔力の繊細なコントロールができるとどんなモノにでもなれるという代物で、それをここまで扱うのは当然コイツも凄いだろう。


「おう、てめえの話をしてたんだ。というか後の2人はどうしたんだ?一緒にいたんじゃねぇのか?」


「アタシにはイース・シルバニアという名前があるの。イースって呼んで頂戴。」


不満そうな顔をしているイース。それにしてもダークは人の機嫌を悪くさせるのが得意なようだ。悪い奴ではないと思うんだけどな……


「まあ、1人は逃げられて、1人はあそこでバカ食いしてるわ。あの身体のどこにあんなに入るんだが……」


イースが顔を向けるテーブルには見渡す限りの肉と牛乳。そして山のように積んである皿と瓶があった。軽く20人前は超えている。

アーシラト学園の勇者学科に入科できた生徒は学費免除の他に食堂がタダになったりする等の特権がある。まあ他の生徒も普通の学園よりは低い授業料なのであまり文句は言わない。

なのに何故経営できているかは不思議な話なのだが、膨大な数の受験者から取る受験料もあるし、勇者連合の寄付金もあるからなんとかなっているのだろう。


「……タダだからって食い過ぎだろ。あれのどこに栄養が行ってるんだ?」


「さあ?成長期なんだからじゃないかな?」

「お腹ではないよね。私には分からないわ。」

「アレ見て胸焼けしてきたのよね。」


胸の大きな膨らみに関しては皆スルーしている。まあその気持ちは分かるし、なんやかんや言っても勇者候補として選ばれているという事なのだろう。


「まあ、アレは放っておくとして、メギルって言ったか?お前等の班の打ち合わせはいいのかよ?


「まあ何が得意かは全員に聞いたし、僕とフーリエさんの2人が前衛で残りの2人が後衛って事になったから特にやる事もなくてね。」


実際にそうなのだろう。いくら仲間になるとしても今日会ったばかりの奴等相手に自分の攻撃手段の全て話せる訳がない。

だから現場で判断しながら、陣形を見極めるのだろう。


「まあ俺等の班は俺のワントップだろうな。魔法やら魔術の扱いは圧倒的にイースが上手いし、ルシアンも回復系の魔法が得意らしいしな。」


「アタシもそれでいいと思うわ。聖天勇者に剣一本だけで向かって行く様な人間は突撃がお似合いでしょ?」


「まあな、聖魔属性持ちのルシアンを前衛にする手もありっちゃありだがそれだと俺等の出番がなくなるだろうしな。」


「俺はどちらでも構わないぞ?」


実際、回復系の魔術も魔法もこの中の誰にも負ける気がしないし、低ランク魔王なら闇属性の魔法しか適正がないから余裕だしな。


「まあ、今回は俺に前衛は任せてくれよ。アルス先生には軽くいなされたけどCランク以下なら負ける気はしねえからよ。」


「私も大丈夫よ?というか一人で魔王を倒せるくらいの勇者になりたいのかもしれないけど、仲間がいるなら役割分担する事も大事だしね。」


いや、勇者には断固としてなりたくはないのだけど……

まあ、そういう事ならそうしておくかな。


「分かった。」


「あっ、でも魔王の使う魔術や魔法には興味あるから一撃で倒しちゃダメよ?闇属性の魔法なんて適正者が少ないんだから見ておきたいのよ。」


「んなもん、Eランク魔王なら余裕で殺せるから仕方なくね?Bから上になると流石に俺等じゃ難しいだろうが…」


「あらあら、そんな弱気で遠足に行って大丈夫なのかしら?


「魔王は強えんだよ。魔族の俺が言ってるんだからそれは事実だ。お前も舐めてると死ぬぞ?」


ダークが真剣な表情になっている。コイツ魔王を知っているのか?魔族でも魔王の実力をしっていのは限られてくるからコイツは相当な実力を持っているのだろう。


「……分かったわ。分かったからそんな真剣な顔しないで頂戴、気持ち悪いわ。」


「えっ?何で俺そんな事いわれるんだ?」


「気持ちは分かるよ、イースさん。ダメクロ君は生理的に無理なんだよね?」


「まだ会ってから数時間しか経ってないのにそんな事言わないであげてよ。流石に可哀想だよ……」


……いやマジでコイツ等勇者候補なのか?

イースはたぶんテレ隠し的な感じなのかもしれないが、フーリエはマジで酷い。



「まあとにかく、今回の遠足はDランク級の魔王って言ってたから大丈夫だと思うよ?」


「まあ、Cランクから上なんて滅多に現れないからな。魔族ランクの2つ上が魔王ランクと同等な訳だし。」


「それもそうだね。」


まあ、確かに一口に異魔界と言っても色々種類あるしな。最初の遠足だし、比較的弱い魔王しかいない異魔界に行くのだろう。


色々言ってるがコイツ等の戦闘力は魔王ランクで言えばBの下位はあるし、この中じゃ俺は今は最弱レベルだからな。まあ戦闘は任せておきますかね。


「うりゃ!!」


そんな時だった。

誰かのその言葉と同時に爆発音が鳴り響き、食堂の入口の扉は黒焦げになり向こう側には人影があった。


「ガハハハ、ミスったミスった。弱い素材使ってるからこうなんだよ。事務の姉ちゃんに文句言っとかんとなあ〜」


そこに現れたのはガタイの良い初老の爺であった。白く長い髭を蓄えており、オデコはとても広いというかハゲている。


「おっ?テメエ等が問題児の3人か?」


瞬きと同時にこちらのテーブルの前に現れた。魔力は使われていない。という事はキワミ!?なんつうデタラメな爺だ。


「いや、アンタは誰だよ?」


ダークが誰もが思っている言葉をその爺に向かって言った。いや本当に誰だよ。


「うん?儂か?儂はディアル・B・ドラス、一応勇者でお前等グループの担当の先生じゃ、ガハハハ!!」


大声の低い濁声で笑う勇者と名乗る男の強さは確かなのは感じるのだが、明日の遠足が不安になったことも確かである。

やべえよな……

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