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勇者学科の魔王様  作者: どん底羊
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2話「魔王は一撃目で倒れてはいけない。」

聖天勇者。

二つ名に"勇"の文字を入れる事を許された共通世界の勇者の中の勇者の名称であり、魔王にとってはできるだけ会いたくない存在に殿堂入りを果たしている程に厄介な勇者である。


「聖天勇者が先生!? 勇者学科頑張り過ぎだろ。」


その事実に単純に驚く者、


「私よりも魔力制御が上手い人族がいたなんて……」


圧倒的な実力を目の当たりにして言葉を失う者、


「お手合わせ願いたいものだな、いや全く。」


闘争心に満ちていく者等、それぞれが多様な反応をしている。


因みに俺は内心めちゃくちゃ驚き、ビビっているが顔には出していない。何故なら魔王は常に平静を保たねばならないからだ。

王はブレてはいけない、ブレると他の者にその不安が広がるからだ。だから過ちを犯してはならないし、間違いを認めてはならないとそう教えられてきた。まあ間違いを認める度量もいるのだがその辺りの判断は結構難しい。


そんな騒ついている教室の中、



「皆さん、まだまだ"継承の儀"を受けられる器ではないですねぇ〜、油断しすぎ。」


にこやかな表情を真剣な表情に変えてその言葉を話すと同時に魔方陣を展開するアルス。氷や炎、雷、風、土、光、闇の魔法弾を同時展開する。

高難易度の魔法、"セプテムアトリビュート"

この魔法を無詠唱で発動する辺り、聖天勇者の名前は伊達ではないのがよく分かる。よく分かるのだが、何故に俺達に向かってそれぞれの魔法が飛んでくるんだよ!?


普通の生徒なら被弾は確実である。だが、ここの生徒はアリシート学園の勇者学科の生徒達。


「"プロテクト"」

「"ガーディアンソウル"」

「"炎結界弌式“火之夜藝(ひのやぎ)”"」


三人の生徒が、魔法や術を展開し被弾を防ぎ、


「ハッ!!」

「………」

「くだらん。」


後の3人は武器を使ったり、避けたりして魔法弾を防ぎきる。流石は勇者学科に選ばれた生徒達だ。


因みに俺は術式を展開させる事はせずに普通に魔法を受けた。勇者の一撃を受けて「この程度か?」というのが俺的な魔王の美学だからである。

しかし、そのまま倒れる可能性も無きにしも非ずなので回復魔法の準備は万端だ。

俺はバレないように自己回復魔法は無詠唱かつ魔方陣なしで展開できる。伊達に魔法オタクの魔王候補と揶揄されている訳ではないのだよ。


それにしても"七属(セプテム)魔弾(アトリビュート)"か……

アレをああも簡単に使えるとは流石は聖天勇者だな。

この魔法が難易度が高い理由は全く異なる属性魔法を7つ同時に使うからである。

人には適正属性というものがあり得意な属性魔法は生まれながらに決まっており、それ以外の属性魔法は習得するのが困難であるのだ。

にもかかわらず、全てが魔弾が同等の威力、スピード、大きさを維持していた。これだけ完全な魔力制御ができるのは共通世界と異界を合わせても両手で数えて足りるだろう。最低ランクのF級魔王ならこれだけで倒せるレベルだ。


「やっぱりねぇ〜、君達甘々。甘納豆よりも甘いよ?」


両手を上げ首を横に振る。どうやらアルスの思った通りの結果らしく、少し残念そうである。

どうでもいいが例えがそれって分かりにくくねぇ?


「そうだね〜、まず金髪の君から。」


「はい!! 」


金髪の男は元気よく返事をする。やる気満々だな。


「自分はメギル・ブライダルと申します。二つ名は"双剣"と呼ばれています。得意な事は剣技、嫌いなモノは魔王です。聖天勇者のアルスさんに指導してもらえるなんて感動であります。指導よろしくお願いいたします。」


「君は剣で土属性の魔法を木っ端微塵に切り刻んだよね?」


少し残念そうな顔しながら、アルスはメギルの顔を見る。


「ダメだよね〜、土属性の魔弾は氷属性を使わないと。一般の人に被弾するかもしれないよ?」


土属性の魔弾は鋼鉄の弾丸である。込める魔力により硬度が増していく魔法だ。

それを剣で真っ二つにしたり粉々にしたりしたら周りに味方がいれば被弾するだろう。なので氷属性の攻撃で全体を覆い魔弾を撃ち落とすのがベストなのだ。


「お言葉ですが、今回は一般人は誰もいなかったではないですか。」


そう言って食い下がるメギル。まあ助ける人間がいなければ基本どうやってもいいと思うわな。けど勇者がそんなじゃダメだろ?


「まぁ、今は居ないよね。でも町中で魔王と戦う時だってあるんだからね? その時君はどうするの?」


「そ、それは……」


「咄嗟の判断で君は魔弾を粉々にした訳だよね?なら君は町中で同じ状況になったとしてそうしないと言い切れるの?」


「………」


黙り込むメギルに対してさらにアルスは話し続ける。


「だから甘いんだよ。勇者は勇気があるだけじゃ務まらないんだから。剣は何の為にある?」


「人々を守る為です。」


優等生の答えだが、それは剣の本質ではない。剣は武器なのだ。


「違う、剣は敵を倒す為にあるんだよ。使い方次第で勇者にもなれれば、魔王にもなるんだ。それを忘れないでね。」


「……はい。」


アルスのその答えにメギルは頷くが、顔はちょっと泣きそうになっている。勇者になろうって奴がこんなんで半泣きになるなよ。

人の事言えた義理ではないけどな。勇者にビビる魔王も情けないし……


「まぁ、太刀筋は良かったから勇者の気構えを一緒に勉強して行こうね。」


アフターフォローは忘れないところはこの人間、教え慣れてるな。


「はい! これから御指導御鞭撻の程よろしくお願いします。」


真面目な奴だな、アイツの事はこれから優等生というアダ名にしよう俺の心の中だけで。


「じゃあ次は、髪の紅いエルフの子。」


「フーリエ・セシウムです。武器はこの拳ですが魔法も多少は使えます。」


お、さっきのエルフだ。

ん?

魔法が多少しか使えない?

エルフはどこの世界であろうと産まれると同時に精霊に祝福される。その事からエルフは人間の数倍〜数十倍の魔力保有量を持っていて、多種多様な属性魔法を使えのが普通だ。

しかし、そのエルフが多少しか魔法を使えないという。となれば、謙虚なだけで普通に魔法を使えるか、それとも……

まあ人の事を気にしても仕方ないか。

そんな事を思っている内にアルスが先程の駄目出しを始めた。それにしても駄目出ししている時の顔が凄く良い顔しているのは何故なんだろうか?


「"プロテクト"ですか、防御魔法の中では使い勝手が良い魔法ですね。」


"プロテクト"は前面だけにシールドを発生させて攻撃を遮断させたり、攻撃を受けたりする魔法だ。魔力に差があったとしても大概の攻撃なら受けきれることが可能で強敵と戦う際には便利な魔法だ。


「いやそれなら、土属性の魔法なら受けても周りに被害は出ないよね。」


ニッコリと笑うアルスだが、ダメ出しをする事は止めないらしい。



「ただね、残念ながら私が君に撃ったのは火属性の魔弾なんだよね。熱気や冷気は防げないから"エアジャケット"系の魔法を足して使うか、全面包囲系の防御魔法を使った方が良いよ。」


"エアジャケット"とは断熱、断冷の魔法を身体の表面に張り付ける魔法で、高位の"エアジャケット

"系の魔法になるとマグマの中を散歩できたり、極寒の地でも裸で眠れて気持ちよく起きられるという魔法である。

魔弾とはいえ熱気や冷気を帯びているし、魔法を使いこなしている奴だと魔弾を爆発させて一気に冷気や熱気を敵に浴びせて相手の行動を鈍らせたりする事が可能なのだ。


「分かりました。以後気を付けたいと思います。」


素直にその事を受け止めるフーリエ。素直に受け止める人間には何も小言的な事を言わないらしく、そのまま他の生徒達のダメ出しに入っていった。

素直に受け止める奴や反抗してボロカスに言われる奴、何を考えたのか勝負を挑んで返り討ちにあった奴等、自己紹介をしながらこの学科の面子は個性が豊かというか、キャラが濃い事が判明した。

そして何故か最後に残されたのが俺である。

はて?何故だろう?


「ーーさて最後に、黒髪の白マントの子。」


先程のダメ出しの時とは違って少々怒っているようである。何もしてなかったから怒ってるのか?


「君は何で闇の魔弾を受け止めたの?闇の魔弾は危険度が高い事は知っているはずだよね?」


ああ、そう言う事ね。

闇の魔弾をそのまま受け止めた事に怒っているようである。


「闇属性は私には効かないので、そのまま受け止めました。」


「闇属性が効かない!?聖魔属性持ちか?」

「現役勇者の中でも一握りしか持ってないっていう聖魔属性を持ってるなんてウソでしょ!?」

「アイツ無傷だぜ?もしかしたら……」


ざわざわしているが、俺が闇属性が効かないのは俺が魔王候補だからなのだがその事は気付かれてないだろう。…たぶん。


「効かないから?それだけの理由なの?」


真剣な表情で俺の目をしっかり見つめてくる。

止めろよ、テレるだろ?

と言いたいのだがそんな事を言う雰囲気ではない。

仕方ないな、ボカしつつ真面目に答えないとダメな気がする。


「この程度の魔法で倒れるようなら俺は自分の思う理想の自分にはなれないからです。」


魔王ならどんな攻撃を受けても初撃で倒れる訳にはいかない。第一段階目が強ければ強い程良いんだからな。


「それが俺の理由です。」


最高の魔王、あの勇者にも屈する事のない本当の魔王に俺はなると決めたんだ。

例えそれが勇者の力だろうが利用できる物は全て使ってやる。

それが俺の意地であり目標だ。


「……闇属性は基本的に毒を付加を付けられる事のできる属性です。それを受けてちゃ駄目でしょう。」


まあ普通の奴ならそうだろうが、仮にも俺は魔王候補筆頭。毒は効かない、というか毒を栄養として変換できる能力を持っているので問題ない。


「問題ありません。毒は毒を持って制しています。」


「ガス系の毒ならアウトです。」


そういやこの人、一般人に被害を与えないようにしろとか言ってたな。

俺は魔王だから基本的に戦う時は魔王の城で一人なんだよね。だから別に被害はないし、闇属性使う勇者とか滅多にいないしな。

まあここは適当に言っておくか。


「分かりました、闇の魔弾は光属性で中和します。もし使えないなら凍らせればよいですか?」


魔弾系なら対の関係で基本的には防ぐ事が可能なのでそう言っておく。


「…まあ、それで良いよ。凍らせるのは無機質系の闇の魔弾だけっていう事は忘れないでね。」


何か言いたそうな顔をしているが、言われないからセーフと言うことにしておこう。


「まあこれで一通りの自己紹介は済みましたが、4年間ここで一緒に学び、鍛え、高め合う仲間です。もっと深い仲になって欲しいので私は今日魔王を倒してきたんですよね、明日の為に。」


腹黒い笑いに見えて仕方ないアルス。

…なる程ね。"アレ"の準備をしてきたと言うことか。

アーシラト学園勇者学科のオリエンテーション的なものでありながら重要度は比較的高いとされる行事。

通称"遠足"の準備を……!!


「明日予定の遠足ですが、武器は一人4つまで、防具は何でもありですよ。」


「先生、魔弾装備の籠手は武器に含まれますか?」


「うーん、微妙だね。まあ今回は防具で良いと思うよ。」


アーシラト学園に入る人間なら誰でも知っている勇者学科の歓迎行事通称"遠足"

正式名称"異魔界遠足"

遠足とは名ばかりの魔王討伐戦へ行くことになった。



……やべえよね。

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