1話「この中に魔王がいる」
パソコン壊れてスマホで作成しているので1話辺りが短いですが、よろしくお願いします。
アーシラト学園。
この世界でも最高峰の教育機関の一つであり、勇者を育成する学科が存在する唯一無二の学園である。
ここを卒業出来れば、自分の夢を自力で叶えられるとまで言われている程に己を最高の人材に鍛え上げてくれる。
その為かどうかは分からないが入学試験は難しくさらには適性試験もあり、貴族や王族ですら簡単には入ることが出来ない。
しかし、逆に元奴隷や農民でさえ実力があれば入ることが可能という何ともめちゃくちゃな制度の教育機関なのだ。
そんな学園の入学式である今日、この学園に入れることに誇りに思っている人間がほとんどである、俺一人を除いて。それにしても俺の着ている校章の入った白色のマントがダサくて堪らん、どうせなら魔王っぽい色が良かったのに。
「――であるからして皆さん各々の夢を叶える為に頑張って下さい。私達もできる限りのサポートはしていきたいと思っています。」
「ねぇ見た? あの人達って勇者学科よ。」
「えっ! 今年度って勇者学科ってあんなにいるの? 」
「“双剣のメギル”さんとか“剣銃のリエル様とか有名な人もいるね。」
「他の人たちもマントを着ているから同じくらいすごいんでしょうね。」
「それはそうでしょ。アーシラト学園の勇者学科の人達よ? 校章入りマントが何よりの証拠よ。」
円形脱毛症の禿野郎の校長か理事長辺りが演説している中、他の学科の入学生がひそひそと密談しているはずの声すら大きく聞こえてくる程に凄然としているこの場所で何故こんなことになってしまったのか頭の中で整理していた。
まず俺は魔王だ。
多種多様の魔物や魔族を従えて、城の奥で肩肘を立てて座って偉そうにしているあの魔王だ。世間的に「勇者よ、よく来たな。」とか威張り散らしているあの魔王という存在で間違いない。
まあ正確に言えば完全に魔王という地位を受け継いだという訳ではないのだが次期魔王候補の最有力候補なんでそう言っても過言ではないだろう。
そんな俺がこのアーシラト学園に入学しようと思った理由は別に勇者を抹殺する為だとか、勇者を洗脳する為などと考えて来たわけではない。
学科を間違えたから…いや正確には勝手に学科を決められたからである。
「何考えてるんだ? ここの学園は……」
おもわずそんな声が出てしまう。そもそもこのアーシラト学園は商学学科、武芸学科、魔術学科、研究学科、そして勇者学科の5つの学科に分かれている。
俺としては魔術学科で魔法の勉強をしたかったのでわざわざここを受験した訳なのだが勇者学科に合格しているとは……
ここの学園は非常に変わっており受験時に自分で学科を選べない。その代わり合格してから希望する学科を選択するという制度を取っている。そのせいで年度や学年によって学科の割合が大きく違う事もあるらしいが普通はそこまで大きく変化することもないらしい。
しかし、アーシラト学園の一番の目玉である勇者学科は学園側が受験生の中で相応しいと思う人材しか入れない。というか学園側が勝手に決定するので俺も入学手続きしてる際は全く気付かず、入学式になって初めて知った。
いや確かに誓約書に「勇者学科に合格した場合、勇者学科に自動的に入りますがよろしいですか? 」とかいう一文もあったけどまさか魔王の俺が勇者学科に受かると思わないじゃん?
そもそも、魔王が魔法の勉強というのもおかしな話なのだが、勉強しないと魔法は使えないから仕方ない。魔法は学文であり知識を使い、法則に従って初めて発動するからである。
俺の世界で魔族が使う魔法や人間が使う魔法はほぼ完全に頭の中に入っているのだが、このアーシラト学園の魔術学科は術式の構成が俺の知っている魔法の術式とは全く違うのだ。
そんな話を聞いて魔王とは魔法の王でもあると持論の俺としては行くしかないと思ったのだが、こんな事になっているとはなぁ……
親父やら母やらに卒業するまで実家に帰らないと言ってしまった手前絶対に帰りたくないし、勇者学科は勇者が勇者として強くなる為の訓練をすると聞かされてるし、勇者専用魔法や魔術もあるとも聞くので修得したい。
まあ魔王ってバレなきゃ何とかなるか?
そこが一番問題だよなぁ~
「ねぇねぇ、白いマントのキミ。」
そんなことを考えている内に隣に座っていた長い赤髪の女が話しかけてきた。エルフ族の特徴である長い耳がシナっと垂れており元気があまりないようだ。どうやらこのやたら長い演説に飽きたらしい、その気持ちは分かるが勇者候補と魔王候補が仲良くするのイクない。
「キミも勇者学科でしょ? 」
「ああ。」
「私はフーリエ、異界出身なんだ。だからこの世界のことあんまり分からなくてちょっと不安なんだ、だから色々よろしくね。」
不安と言いながらもそれを表に出さない柔らかな表情、小柄だが女性らしいとは言えない鍛え上げられた肉体。視線をふと手にやると岩のようにゴツゴツとしており何度も拳を壊して作り上げられた戦人の拳であることが容易にわかる鍛錬したのが伺える。エルフ族特有の膨大な魔力もあるだろうし、コイツ、相当強いな……
「ああ、分かった。」
思わず返事をしてしまったが、そもそも魔王と勇者って仲良くできるのか?
よくある話に魔王が「世界の半分をやろう。」というものがあるが勇者は必ず断る。
その話を持ち掛けた魔王がどんな事を考えてそんな事を言っているのかは分からないが魔王は仲良くしようと思っているのに食い気味に断わるのは勇者は魔王と仲良くする気は皆無なのだろう。そして勇者は魔王に勝つとかマジ理不尽。
「よし、じゃあ移動するから勇者学科の7名はついて来い。」
そんな会話をしている内に長かった演説が終わり、黒髪の痩せた男が勇者学科に選ばれた面々を先導して足音もなく歩く。
「流石は勇者学科の先生ですよね、その高難度スキルをスキルとしてではなく自分のものとして身につけているのは流石です。」
金髪の身の丈はある一本の長い剣を背中に担いだ生徒が関心したようにそう言った。
スキルは大なり小なり魔力を使う。しかしスキルを極めると魔力を使わずに行使できるようになるのだが、その代わりどんな低難度のスキルであろうが極めるとなると途端に修得困難になる。それ程に何かを極めるという事は難しいのだ。
しかしだ、勇者かどうかになると話が違ってくる。
「ああ?」
先頭を歩いていた男は金髪の方に向かって振り返り苛立った表情をしていた。
「 何を言ってんだ、俺は武芸学科の教師だぜ? 勇者学科の教師は勇者にしかなれないんだよ。」
勇者とは魔王を倒す存在、ただ強いだけではまず成れない。
「勇者は誰でもなれるが、誰でもなれない。お前等は勇者学科に選ばれたが、勇者になれるとは限らねぇんだ。その辺を肝に銘じろ。」
ごもっともな意見です。小さく俺が頷くと黒髪は少し驚いたようにおれを見ていた。何故に?
まあ魔王だから勇者になれるかどうかはご遠慮させていただきたいがね。
そんな事があって金髪は少し落ち込んでいたが、まあどうでもいいので放っておく。別に勇者が落ち込もうが俺には関係ないんだもん、何故なら魔王だから。
「ここで待ってたら勇者学科の教師が来る。ったくアイツは毎度のことながら遅れすぎなんだよ。」
教室に着き俺たちを着席させると黒髪の男はそう漏らした。
言葉では怒っているように感じるがその表情は穏やかであり、優しさが滲み出てその人間に対する親交の深さが伺える。
そんな中、教卓から紅い魔光が輝き始め教卓の上には複雑な魔方陣が浮き出たと思ったら人間が現れた。
「いや〜、遅れてゴメンゴメン。ちょっと異魔界の魔王を倒しに行ってて遅れちゃった。」
燃え盛るような紅い髪にそれに相反する深い蒼い目、背中にはレイピアを背負っている男が現れた。
「遅えぞ、アルス。俺は武芸学科に行かなくちゃいけねぇから後は勝ってにやれ。」
「あいよ〜、サンキューなマルティンク。助かったよ。」
マルティンクと呼ばれた男は、背を向けて手を振ると扉から出て行ったが、ア、アアアアア、アルス!?マルティンク!?
聖天勇者の“勇聖アルス”!?と"剣無のマルティンク"!?
倒した魔王その数、驚異の10。しかも魔王ランクA以上の大魔王を倒したこともある最強の勇者の一人とそのパーティじゃあねぇか!? マルティンクとか顔出しNGで有名だから知らね〜し、というか勇者学科凄過ぎだろ。これ魔王オワタレベルだぞ?
聖天勇者の登場にざわつく勇者学科の面々。そんな中、咳払いをしながらアルスは話し始めた。
「ええ、ごほん。受験者数37564名中合格者数427名、内今期の勇者学科7名。その7名に選ばれた君達は言わばエリート中のエリートだ。世界中に蔓延る魔王達を倒し世界に平和を勝ち取れるように我々も全力でサポートさせてもらうよ。」
アーシラト学園“勇者学科”
共通世界にある勇者連合が創立した、異世界中の魔王撲滅の為に創られた勇者による勇者の為の勇者の学園で魔王の俺はどうしたら良いのだろうか?
ハッ!
い、今気付いたのだけれど俺って卒業するまでの4年間ぼっち生活しなくてはならないのでは?
というか生きて故郷に帰れるのか?
………どうやら俺の明日は昨日終わったっぽい。