入学試験
「入学試験参加の方はこちらまでどうぞ~」
噂の入学試験当日。楽な生活を夢見て俺は入試会場まで来ていた。まぁ会場といっても場所は普通に学園だが。
校門では上級生らしき人物たちが交代で入試の受付をしていた。俺も混雑しないうちにさっさと受付を済ませる。
「どもども~、入試希望っす~」
「はいはい、入試希望の方は此方にお名前の記入をお願いします」
俺はもちろん偽名でアシュ・ノーカスと記入しておく。どうせ偽名でもフルリナが何とかしてくれんだろ。
「あれ…?アシュさんじゃないですかぁ」
後ろから聞き覚えのある声が掛かる。振り返るとそこには先日会った美少女二人組がいた。名前は確か………アレだアレ。俺の子孫とボクっ娘。
「やぁやぁ!また会えたなぁ。君たちもこの学園に入学しに?」
「そうです!ボクは憧れのフルリナ様の下で指導を受けたくて!」
「私は…フォーカス家がここに代々お世話になっているので」
ボクっ娘は単純に歴史ヲタなので生ける伝説のフルリナに飛び付いたのだろう。子孫の方はフルリナが俺の家系と懇意にしてくれていたという事だろう。フルリナは義理堅いな。
「アシュさんはどうしてここに?」
ボクっ娘が質問してくる。まぁこれ以上は嘘を言うのも良心が痛むので本当のことを言おう。
「ヒモになれなかったから退屈しのぎにね!」
二人からドン引きされてしまった。しまった。正直に話し過ぎた。
「と、言うのは嘘で~単純に面白そうだったからさ」
「は、はぁ…」
「ノーカスさーん。プレート出来たんで忘れずにお持ち下さーい」
際どいタイミングで受付から声が掛かった。ナイス!そう思って俺は自分の受験番号の書いてあるプレートを受け取る。
その番号は……
443番
「444番じゃないんかいっ!!」
思わずつっこんでしまった。受付の人と二人から笑われる。
「あはははは…ナイス一人コント!」
ボクっ娘に笑われながら俺たちは三人で行動することになった。
話を聞いているとどうやら試験内容は魔力測定、実技、筆記とのことだ。筆記に関してはかなりのレベルが必要らしく、毎年ここで涙をみる者が大勢いるようだ。俺は神様だしフルリナは学園長だから何とでもなるだろう。
実技は毎年、上級生が見学に来るらしい。勧誘とか色々あるんだろう。
俺たちはまず最初に魔力測定を受けることにした。俺はさり気なく二人の後ろに回る。なるべくこの二人と同じクラスになりたいので、二人の魔力数値を知ってからそれに合わせる作戦だ。
「次の方どうぞ~。はい、420番のシャリー・フォーカスさんね。それじゃコレに手を当てて」
俺の子孫改めシャリーは言われた通り、透明の球体の上に手を置く。すると数字と球体の色が変わる。
212 赤
「魔力ランクはCで得意属性は火ですね」
シャリーはランクCと言う言葉にガクリと肩を落とす。得意属性が火だから肩を落としたんじゃないからな!…多分
「419番のトリエ・ランバンさんどうぞ~」
ボクっ娘改めトリエも球体に手を置く。
222 黄
「魔力ランクはCで得意属性は雷ですね」
トリエも魔力ランクを聞いてガクリと肩を落とす。二人とも分かりやすいなぁ。
「443番のアシュ・ノーカス君どうぞ~」
俺も二人に習い球体に手を置く。もちろん魔力制御装置を付けている。これは微調整が可能なので魔力数値を大体二人と同じになる位まで下げる。
256 赤
「魔力ランクCで得意属性は火ですね」
とりあえず俺も肩を落としてから二人と並ぶ。二人も俺の結果を見ていたようで快く受け入れてくれる。
「アシュさんって意外に魔力低いんだね」
「アシュでいいよー。まぁ俺は基本剣士だからな!」
するとその台詞にシャリーが目を輝かせる。
「アシュさんも剣士なんですか!?実は私もなんです!」
思わず知ってるよ!とツッコミを入れそうになってしまった。しかもシャリー、アシュでいいって言ったのにさん付けのままだし。
「でもアシュ剣持ってないじゃん」
トリエが俺の全身を眺めてから言った。確かに今剣は持ってないね。
「いつでも召喚できるのさっ」
「…魔剣なんですか?」
シャリーが驚いたように尋ねてくる。俺はチッチッチッとウザい感じで指を振る。
「いや聖剣」
「「えええぇぇぇ!?」」
二人にめっちゃ驚かれてしまった。確かに聖剣は数が極めて少ないからな。現在確認されている聖剣は六本だ。
俺の持っている炎秋は炎春、炎夏、炎秋、炎冬の四本で一本の扱いとなる。ただし使用するにはどれか一本持っていれば充分だ。
「何て剣なんですか?」
パッと見控え目な感じのシャリーが興味津々で尋ねてくるが正直に答えようか迷う所だ。
「企業秘密だゾ♪」
とりあえず何も言わないでおく事にした。ふふん、これが親心ってやつだな。
そんな話をしているうちに次の試験の受付に付いたので三人ともプレートを渡す。ここは筆記会場だ。
「試験時間は一時間だ。始め」
筆記試験を終え、最後の試験会場へ向かう。ちなみに筆記試験はむっちゃ簡単だった。神様だからね♪
「よーし、最後の実技も頑張るぞー!」
トリエはやる気が満々だ。シャリーと俺はそれを微笑ましく見ている。トリエ子供みたいで和むなぁ。
「プレート預かりますよー。はい、419、420、443。三名様ご案内~」
妙にテンションの高い受付にプレートを見せる。対戦相手はどうやら教師たちのようだ。
と思ったら二人だけ制服の人物がいた。一人は赤い髪と赤い眼の鋭い顔つきをしたポニーテールの美人。背丈は女性にしては高い方だ。腰には黄色い鞘に収まっている剣がある。
もう一人は緑でショートの髪型をした小柄な美少女だ。手には魔銃を持っている。魔銃とはその名の通り魔力を込めて撃つ銃だ。もちろん各属性の弾も撃ち出す事が出来る。
「なぁシャリー、あっちにいる赤い奴ってお前のねーちゃんか?」
「え?あ、はい。そうです。ここの生徒会長をやってるんで多分手伝いをしてるんでしょうね」
てことは隣の小柄な方は副会長とかそんな所だろう。
「くくく、決めたぜ!実技の対戦相手はアイツだ!」
「ええ!?止めた方がいいですよ。お姉ちゃん強いですし…」
「だいじょーびっ!俺の方が強いもんね~」
俺はすたこらとシャリー姉の方へと向かう。後ろからシャリーの制止の声が聞こえたが無視した。
「へい、せんぱーい!実技のお相手よろしーですか?」
すると周りが急にざわつき出す。
「まじかよ、死んだなアイツ」「無謀じゃん」「会長に挑むなんてバカねぇ~」「なんか面白そうなんだなっ」
シャリー姉は俺を一瞥してから口を開いた。
「私が女だから勝てると思ったんなら止めときなさい。死ぬから」
試験なのに死ぬかもしれないのっ!?というか凄い自信だな。果たしてそんなに強いのか。
「それって先輩が死んじゃうって事ですかい?」
ニヤリと笑いながらシャリー姉の方を見つめる。それに彼女は軽く笑ってから鞘から剣を抜き構える。
「一度やられなきゃ分からないようね。覚悟はいいかしら?」
「かまんベイベー!」
俺はてきとーに構える。
「では、443番アシュ・ノーカス。実技始めっ!!」
審判のスタートの合図と共にシャリー姉が一気に間合いを詰め斬りかかってくる。
「はああぁぁ!!」
俺はそれを最小限の動きでかわす。するとそこに更に追撃が来る。俺は手で剣の腹を叩き流していく。
そこから剣を大きくはじき隙を作る。シャリー姉は打たれる前に俺との間合いを空ける。
「…なかなかやるみたいね」
「そーゆー先輩はなかなかやらないみたいっすね」
ギャラリーがざわついているのが分かる。俺はそれを気にせずにシャリー姉に意識を集中させる。
闘いは始まったばかりだ。




