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幸せの定義を知らない

作者:目田 不識
最終エピソード掲載日:2025/11/09
 二十歳の春、大学二年の主人公は突然の体調不良に悩まされ、病院で「うつ病」と診断される。
 医師の口から発せられたその言葉は、彼の世界を一変させた。名を与えられた瞬間、彼の存在は“患者”へと変わり、日常のあらゆる光景が意味を失っていく。講義へ行く気力も失せ、眠りは浅く、朝が訪れるたびに息苦しさが増していった。

 それでも大学を辞めることはしなかった。哲学科に籍を置く彼は、「幸福」という語の意味を学ぶ中で、自身の苦痛を理解しようとする。功利主義の「最大多数の最大幸福」に違和感を覚え、ベンサムやミルの思想を読みながら「幸福は痛みの消滅ではないのではないか」と感じ始める。だがそれを言葉にできず、ただ日々の不調の中で、「幸福の定義」を探すように生きる。

 ある日、倫理学の講義でカントの「幸福に値する者となれ」という一節に出会う。それは、幸福を与えられるものではなく、行為を通して“値する”ものとして捉える思想だった。彼はその一文に強く惹かれ、「幸福に値する」とは何かを問うようになる。そんな折、同じゼミに所属する女性と出会い、初めて他者と共にいる時間に安らぎを見いだす。彼女の言葉や笑顔は、わずかながら生の手応えを取り戻させる。しかし関係は長く続かず、彼女の別れの言葉――「君の香りが好きだった」――を最後に、彼は再び深い孤独の中に沈む。

 それでも彼は思考を続ける。幸福とは愛によって得られるものではなく、愛することの中に宿る何かではないか。苦痛を避けるのではなく、苦痛の中で意味を見いだすことこそが幸福なのではないか。そう考え始めた彼は、卒業論文のテーマとして「幸福の哲学」を選ぶ。書くことが、彼にとって唯一の“呼吸”となる。恩師との対話、図書館での長い冬の日々を経て、彼は次第に「幸福とは定義できないもの」であることに気づく。

 そして二十二歳の誕生日の朝、彼は静かに目を覚ます。
 手帳の最後の頁にこう記す――「幸福とは、語りえぬもの」。
 幸福の定義を知らないまま、それでも生きているという事実。
 それこそが、彼が辿りついた唯一の答えだった。
プロローグ
2025/11/09 16:50
診断の日 ―「名づけられた痛み」
沈黙の待合室
2025/11/09 16:56
名前の重さ
2025/11/09 16:59
帰り道の光景
2025/11/09 17:00
幸福論Ⅰ ―「痛みのない世界」
倫理学の講義
2025/11/09 17:03
他者の幸福
2025/11/09 17:05
愛について
2025/11/09 17:06
別れの予感
2025/11/09 17:09
幸福論Ⅱ ―「意味ある生」
教授の言葉
2025/11/09 17:13
図書館の午後
2025/11/09 17:15
小さな行為
2025/11/09 17:16
愛と他者 ―「君がいない世界」
出会い
2025/11/09 17:18
別れの夜
2025/11/09 17:20
希望と記憶 ―「生きることの証」
図書館の冬
2025/11/09 17:23
恩師との対話
2025/11/09 17:25
終章 ―「幸福の定義を知らないままでいい」
二十二歳の朝
2025/11/09 17:28
手紙
2025/11/09 17:29
エピローグ
2025/11/09 17:31
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