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最強


神奈川から東京までで一時間と三十分。じいちゃんへの墓参りと荷物の整理をしてから新天地へと足を運んだ。流れていく神奈川の景色を見ながら、じいちゃんとの思い出が垂れ流れていく。


「おい。降りるぞ」


「あいよ」


新宿。来たことはないが、やはり人の数が他の比じゃない。すると、サングラスをかけた黒髪に銀メッシュが入った高身長...190センチはあるであろう男がこちらに歩み寄ってきた。


「誰か来るぞ」


「あ?あぁ、来てたのかあの人」


「へ?」


男はニヒッと口角を上げると一回転したのち、花束を俺に渡してきた。てかどっから出した?


「君が例の炎天使い君だね?」


「え?エンテン?なんそれ?」


「教えてないの?」


「先生から教えた方がいいと思ってたんで」


「ええー」


サングラスを取った男の目は美しい紫色の目で、深い青が奥で薄らと輝いていた。綺麗な顔立ち、一瞬男ながら美しいと思ってしまった。


「まずは自己紹介を。僕は天叢(あまぐも)雄也(ゆうや)、彼と同じで黄泉人の人間さ」


「ヨミビト?」


「それも教えてないの?」


「めんどくさくて」


「最初からそう言えよ」


男は面倒臭そうに頭を掻くと、丁寧に詳細を教えてくれた。


「まず、僕たち黄泉人は骸を倒すために政府から編成された特別機関だ」


「ほうほう」


「黄泉人の僕らには一般ピーポーとは違って人間離れした能力が産まれた段階から備わってる。その家系とかもあるしね」


「はへー」


「お前分かってんのか?」


「なんとなく?」


呆れたように桂馬が聞いてきたが雄也さんは話を続けた。


「その中でも千年前、骸を倒し続け、その王を封印した人間がいたんだ」


「そいつは...一体?」


あんな化け物を倒し続ける人間なんて想像できない。怪物を倒す怪物がいたという事実に身を震わせる。


「その人間が持っていた能力が君の持つ"炎天"なのさ」


「!てことは...」


「勧誘だよ。君を黄泉人として」


だから荷物を纏めろと。桂馬の奴何も説明せずにここまで来させたから単に傷心旅行と思ったじゃねえか。


「どうする?なる?黄泉人」


「....」


じいちゃんの言葉が脳裏にチラつく。『強い奴は優しい心を持ってないとならねぇ。守るのも、強い奴の責任だ!次喧嘩してきたら飯抜きだからな!』あのジジイはいつまでも俺の心で怒鳴ってる。心なしか、少し強張った肩の荷が降りた気がした。


「なる!なんか、じいちゃんもそれの方が喜ぶだろうし。それに、力があるなら俺はそれを人を助けるために使いたい!」


「...いい目だね。地獄を見ても挫けなそうだ」


「おら、ぼさっとしてねぇで行くぞ」


「え?どこに?」


「これからお前が住む黄泉人(俺たち)の本部だよ」


そう言ってまた三時間。東京とは名ばかりの田舎までつくと、そこには馬鹿でかい施設がそびえ立っていた。


「デカ!」


「それじゃあ俺はここで」


「しっかり休みなよ。それと恭子のところに行っときな」


「分かってます」


二人並んで施設へと向かう石垣のある、林がお茂った道を歩いていると、雄也さんが施設の説明をしてくれた。


「ここは本部だけど学校と同じようなことも兼任してるんだ。元より教養と青春を何より大切にする会長だからね、見た目はオネェだけど僕に次ぐ実力者さ。僕のことは先生とお呼び!」


「...先生ってどんだけ強いの?」


素朴な質問をすると先生は立ち止まり、サングラスをかけ直してこちらに向かってきた。


「会長との話が終わったら稽古しようか」


「...うっす」


何か冷徹で、重く、強い圧を感じたが数秒後にはあっけらかんとしていた。何だこの人?掴めない。


「よく来たわねぇ!炎天使いちゅわーん!」


「ど、どうも...」


「会長、がっつき過ぎっすよ」


「あっといけないアタシとしたことが...」


そう言ってまた手を両手で優しく包み込むように掴んでくると、男は自己紹介を始めた。


「初めまして、私は志門(しもん)(わたる)。ここの会長兼任の青春を貪りし永遠の28歳よ!」


「...」


「キャラ濃いね、相変わらず」


「進学手続きと、組織団体への入団書類の受け取りをしてもらいたかったの。話は特にないわよ、疲れただろうし自室でお休み」


「あ、ありがとうございます」


「元気でよろしい!」


会長室を後にしたのち、宿泊先に向かおうとしたが、会長がそれを止めた。


「雄也!」


「なんですか?」


「その子のこと頼んだわよ」


「...勿論ですよ」


自室に荷物を置いていると、玄関に寄りかかっていた先生から話しかけてきた。


「それが終わったら少し訓練室に行こうか。さっきの答えを出すよ」


「よし!」


訓練室まで歩いて行くと、そこには桂馬と他の人達が何人かいた。その人達は俺を見ると物珍しそうにしていた。


「アレが炎天使いの新入生です」


「体つきもいいな」


「コーカサスオオカブトといった感じか」


「テメェのその表現気持ち悪いからやめろ螺子巻!」


ショートヘアのスレンダーの女性。逆だった髪の毛に季節外れのマフラー。そして骸骨。骸骨!?中に入るとバカ広い体育館二つは入るであろう範囲があった。


「それじゃ始めようか。ソウルの出し方はわかる?」


「桂馬が言うには、胸に力を集中して発露させるって」


「そこは教えてんのね」


長い静寂が二人を襲う。伝う汗が溢れたその時、俺は駆け出した。


「炎天!」


(速い!運動神経は高い方だね)


「オラ!」


高熱の炎を先生目掛けて放つ。しかし、先刻まで先生のいた所には焼き焦げた地面の残骸しかなく。気づけば俺の背後に立っていた。


「こっちだよ」


「は!?」


困惑しながらも殴り続けるが、全て避けられるか流される。どうなってんだ、まだ捉えられないくらいに速い。


「炎天には階層があってね。その段階が大きくなるたびに強くなる。君はまだファーストステージにすら立っていない。弱いね」


「クソ!」


「遅い」


またこれだ。時間を止められたみたいにこっちだけの攻撃が当たらない。


「僕の能力は時間を操る、時空制御(クロノスタシス)。僕はこの能力と体術で...」


やっぱり、この人は...


「歴代最強の黄泉人と呼ばれてる」


最強。


「強すぎるってっ、先生っ!」


「ま、これから強くなればいいさ。君は僕を超えられる素質があるよ」


先生はそう言うと巻物を取り出し、それをこちらに投げつけてきた。それも何十個も。


「ワブ!」


「それには炎天について詳しく書かれてる。しっかり読んで戦力になってね、シンジ」


「分かりました...」


こうして、俺の長い黄泉人として生活は幕を開けた。









東京 某所


「復活しましたか」


「あぁ、我が王の御降誕のようだ」


「なら我らも動くほかあるまい」


「さてと」


四人の影は雨の中の東京を見下ろしながら、微かに笑った。


「戦争の開幕だ」




檜山真司


年齢16歳


物心つく前に両親が行方不明になり、その間父方の祖父母に育てられた。小6までは喧嘩三昧の日々で、地元高校生も全員薙ぎ倒し、地元だと結構知名度のある人間だった。

趣味は料理とお笑い鑑賞

男前。モテてはいたが裏で好きな人間が多かったイメージ。女子男子関係なく関わるため天然人間たらしと言われている。

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