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葬送

それは一人の少年の物語。


じいちゃんが死んだ。

真夏の一番暑い日のことだった。セミの鳴き声がうるさくて、鬱陶しい汗を拭っていた時だ。学校を飛び出して病院に向かった。両親が行方不明なってから俺のことを一人で面倒見てくれたじいちゃんは、うるさくて怖いけど優しい人だった。


「それじゃあ、書類の方に名前と住所書いといて」


「はい」


看護師さんが渡してきた物に名前と住所を書いていく。

檜山真司。そう書類に書いて看護師さんに渡した。知り合いは少ないから、葬式はするなと言いつけられていた。一人、火葬場に行ってじいちゃんの遺骨を待った。


(お前が拾ってくれればそれでいい。満足だ)


脳裏にじいちゃんの顔がチラつく。燃やされたじいちゃんの骨を拾うのは結構心にきたけどなんとか耐えて全部詰め込んだ。それが、俺の長い高校一年生の生活の始まりだったのだ。


「怪奇現象が起きたのよ!」


「「...」」


ここは県立鳩山第三高校のオカルト部の部室。いつもなら静かにオカルト本を読み漁っている部長の三年、夏川優樹菜は記事をこちらの顔面に押し付けてきた。


「また噂話か?信憑性ないモノばっかもってくるからなお前」


「今回は別よ!信憑性ありまくり!話題性ありまくりの超絶ビッグなオカルトなんだから!」


そう反論されたのは副部長三年の松川高貴。柔道部だが、兼任で部員が少ないオカルト部に席を入れてくれている優しい人だ。ちなみに黒帯。


「それって一体?」


記事を退けながら俺が聞くと、優樹菜先輩は生地に指を突きつけて示す。


「死者と出会える霊峰山の謎の秘境!あった人間全員が死者と会ったって噂よ!夜になると現れるらしいし、行くしかないでしょ!」


「なんか嘘くさいな」


「そんな事ないわよ!」


「死者と出会える?」


「お!興味ある?シンジ!?」


霊峰山はここら辺の地域で一番でかいいわく付きの山。多くの霊が昔、この山を棲家にしていたという言い伝えから霊峰山。面白がって入ったこの部活だが、二人とも怖いモノは苦手で現象を確認するのが好きなだけなのだ。


「お爺さんに会いたいんだろ?」


「え?」


「いいじゃない!もしかしたら会えるかもよ?おじいちゃんに」


「そんなこと!?あんなジジイ...」


「しゃあない、この反抗期だけじゃ心配だし、俺も行くか!」


「怖いくせに...んじゃ、放課後にレッツゴー!」


窓を見てみたら、俺の顔は笑顔になっていた。この人達といると、知らぬ間に表情が明るくなっている。そんなこんなで、三人で霊峰山まで行くことになった。


「はい、霊峰山まできました。はい、分かりました」


まさかこんな所に大勢の人が出入りしているとはな。霊峰山、ただの山じゃないな。この秘境に入った人間が全員間抜けの殻になってるって聞くし、確実に"骸"関連じゃねぇか。


「一先ず、人払いの結界を...」


「着いたわね...やっと」


「険しかったな」


「中入りましょうよ」


「な!?」


後ろを振り向けば、そこには高校生くらいの男女三人が横を通り過ぎて行った。


「馬鹿!そこに入るんじゃねぇ!最悪死ぬぞ!」


「なんだ?あの人?」


「偶にいるのよね、あぁやって自分は見えてますアピールする変態」


「...俺、ちょっとトイレ行ってきます」


無視して秘境の奥に進むと、そこには小さな湖があった。そこに小さな祠を確認した優樹菜と高貴は近づいて中身を確認しようとした。


「おい優樹菜!あんまりそうゆうことしない方が...」


「いいのよ!これくらいしないと怖くなんないでしょ!」


そこに慌てて追いかけてきた先ほどあった男。男は咄嗟に叫んで、祠を開けようとしている優樹菜を静止した。


「やめろ!祠を開けるな!」


「ほら言われてるぞ」


「関係者じゃないでしょ。ちょっと開けて中身見るだけよ」


「やめ...」


開いたその瞬間、中身に溜まっていた青い光のようなモノが秘境の奥地を埋め尽くし、その爆心地にいた優樹菜たちは魂に飲み込まれてしまった。


「クソが!古い秘境だ、封印されてた魂は絶対...」


そこにいたのは二体の化け物。所々制服が破れている所を見ると、それがさっきまでの学生だったのだと判断できた。


「"骸"化したか。クソが!」


空中に巻物を放り投げると白い煙が辺りを包む。そこから龍が現れ、秘境のくらい洞窟の光に照らされたその白い龍は喉を鳴らして標的を狙う。


「権限、白龍。喰い散らせ」




「ふいー、スッキリスッキリ」


手を拭きながら洞窟へと向かうと、何やら騒音が中から聞こえてきた。何かあったのかと、急いで駆けつけるとそこには先刻の男と、見たことのない生物が戦っているところを目撃した。


「なんだ?ありゃ?」


「クソ!魂吸収しすぎだろ!曇天級はあるぞ」


白い龍が化け物を食い破り、それを化け物が掴んで投げ飛ばす。すると、男は印を結び始め、龍に乗って洞窟の最高高度まで飛んだ。


「そろそろ終いだ。食み穿て、龍星十拳!」


とぐろを巻いた龍が螺旋回転しながら化け物を穿った。そこから青い光が噴出し、化け物は消滅した。


「!先輩たち!?」


驚いた事に、青い光がはけた所には俺の先輩達が倒れていたのだ。すぐさま駆けつけて、息があるか確認する。


「まだ生きてるぞ。"骸"化はしたから三日は寝たきりだがな」


「アンタは?」


黒髪のセンター分けのこの男は嫌そうな顔をしたのち、名前を教えてくれた。


「桂馬」


「俺は檜山真司。ありがとな、カツラバ!」


「礼はいいからさっさとここから立ち去...」


瞬間、俺の頭上からもう一体の化け物が飛び出してきた。桂馬は俺を突き飛ばし、一言叫んだ。


「逃げろ!」


衝撃で砂煙が舞う中、その中で荒い息をあげていたのはまた化け物だった。しかも桂馬を掴んでいる。でも、何でか見覚えが。


「クソが!さっきの魂の噴出に誘き寄せられたか!」


「そいつを離せ!」


思いっきりぶん殴ったが反応は無し。化け物はこちらに気付いて片方の拳を振り下ろしていた。間一髪避けて、そのまま腕を登ってもう一発顔をぶん殴る。


「この野郎!」


「ブブ...爺ヲ...」


「?」


化け物は桂馬を離した途端、両手で俺を殴りつけた。勢いよく洞窟の壁に激突すると、胃酸が逆流して全て吐き出た。しかし、あの言葉は


「舐メルナ!」


「お前、じいちゃんか?」


じいちゃんの口癖だ。生前、舐めた態度をとるとよくぶん殴ってきた。でも、じいちゃんは死んだはずで。


「そいつは骸」


「ムクロ?」


「未練や悪意、そういったモノが残った魂が行き場の無い虚無感に襲われて変異する異形の怪物だ」


「そんなのどうやって倒せば?」


「ソウルって言うエネルギーがねえと奴らは倒せない」


「ソウル?」


「生命エネルギーみたいなもんだ。虚無の存在の骸に生のエネルギーをぶつける。そうすれば奴らのマイナスエネルギーを相殺できて奴らを葬送できるんだ」


「それが俺にもありゃいいんだな?」


「は?」


要は俺の魂をじいちゃんにぶつければいいんだ。そんなの簡単だ。気持ちを込めてぶっ飛ばせばじいちゃんも成仏すんだろ。


「何言って!?お前にはそのソウルが発露できないから...」


その時である。真司の体を白いモヤが包み込み始め、さらに激しく波打った。


「お前、さっきまでソウル出てなかったじゃねぇか」


「じいちゃん...」


『あのな、シンジ。お前は力が人一倍強いんだから、喧嘩は手加減しないとダメなんだぞ』


『でも、アイツらがイジメてたから』


『それでもだ!優しい人間になれ、力のある奴はそうゆう気持ちを持ってないとダメなんだよ...それでも』


拳を握る。胸の中で熱いモノが、拳に移って迸る。振りかぶったその正拳を今放つ。


『守んねぇととか、助けねぇととか、そうゆう思いが込み上げてきたら』


「あの力は...伝承の...」


「ブチかます!」


炎が拳から飛び出し、異形の怪物になったじいちゃんを飲み込んだ。魂が吐き出し、半透明のじいちゃんがそこにはいた。


「じいちゃん...」


「体...気をつけろよ」


「!」


「ちゃんと飯、食えよ」


「...うん、うん!俺、元気でいるから!だから心配しなくていいよ!じいちゃんが心配にならないように、ちゃんと頑張るから!」


「...そうか!」


そう言うと、じいちゃんは満足したように消えていった。疲れたからか、目の前が真っ白になってそのまま地面に倒れた。頭から血を流している桂馬は、祠に向かうと中に何もないことを確認し、小さく舌打ちした。スマホを取り出すと、ある人物に連絡する。


「先生、良い報告と悪い報告があります」


『僕、好きなものは後に取っとくタイプなんだよねー』


「...悪い報告は例の"ブツ"は祠の中を見ましたが見つかりませんでした」


『そこじゃなかったか、まあしゃーないね』


「良い報告は...伝承の炎天使いが現れました」


『...マジ?』


「マジです」


電話越しの人物は嬉しそうに笑うと、その人物は嬉々として言葉を弾ませた。


『その人物をこちらに一緒に来させてね。迎えに行くから』


「なるはやで」


『期待すんなよー』


彼らは魂を解放し、骸を葬送するモノ。人は彼らをこう呼ぶ。



手繰る者、黄泉人と。








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