1-3:ピンチは回避できたけど
「――ムイ!」
ムイは二人の兵士から首に槍を掛けられ、身動きが取れないようにさせられていた。ムイは目に涙をいっぱい溜めて、わたしに助けを求めていた。
わたしは次に兵士を睨みつけ、咄嗟にお願いする。
「離してください。その子は、わたしの――」
……一瞬悩んで、わたしはこう言い切る。
「――わたしの子です。離してください」
長々とこの子との経緯を話している場合ではないし、ここは嘘も方便だ。
すると、兵士たちは途端にわたしを見て動揺しだし、そのうち一人の兵士が、
「ま……魔王……!?」
――と、呟いた。
「……魔王……?」
わたしは訳もわからず首を傾げる。
一方、兵士たちはムイを離して、すぐにこの場から離れていった。
……よかった、ひとまずムイは解放してもらえたみたいだ。
「ムイ、大丈夫!?」
わたしはすぐにムイの元へ急ぐと、ムイも震えながら立ち上がって、わたしに抱きついてきた。
「母ー! ごわがっだー!」
「ケガはない? 大丈夫?」
「いだいとご、ないぃ……!」
「……よかった。ムイ、これからは勝手に一人で走っていっちゃダメよ?」
「……うん」
わたしはムイを一度強く抱きしめてから、優しく離した。ムイはしばらく嗚咽を上げていたけど、やがて涙も引っ込んでいった。
ムイが落ち着きを取り戻したところを見計らって、わたしは何があったのかを聞いてみることにした。
「ムイ、さっきのあれは……どうしたの?」
「……ムイ、はじめてみるとこみつけて……おもしろそーでいったら、いきなりつかまった……」
「そんな、どうして……?」
ムイは小さく首を横に振った。きっとムイ自身も、事情がわからないのだろう。
――しっかし……兵士側の事情はよくわからないけど、こんな小さな子にいきなり手を上げるなんて、それは余程の事情があるんでしょうねぇ……?
フツフツを湧き上がる怒りを抑えつつ、わたしはふと兵士の言葉を思い出す。
兵士がわたしを見て言った――『魔王』という言葉を。
「まさか……本当にわたし、魔王に転生して……?」
「母、どーした?」
わたしは「なんでもないわ」と言って、ムイの手を取った。
とにかくこの町へは近寄れない。また違うところへ向かうとしよう。
「母、ここいかないのか?」
「うん。ここはちょっと危なそうだから、違うところへ行きましょう」
「……そっか」
しゅんとするムイ。そんなムイの姿を見て、ちょっぴり心が痛むわたし。
本当は連れて入って、ムイについて聞いて回りたいところでもあるけど、また兵士と鉢合わせしたら危険だ。何をされるかわからない。
ここはひとまず離れておくというのが、無難なはず。
寂しそうに町を見つめるムイ。わたしは膝を折り曲げて、ムイと目線を合わせて伝える。
「……今は入れないけど、しばらくして……安全になったら町へお出かけすればいいわ。今はムイの、本当のお母さんを探しにいきましょ?」
ムイは、また泣きそうな顔になる。
――やっぱり、町へ入りたいのかしら……。でも、今近づくのはやっぱり危険だし……。
……なんて考えていると、ムイはわたしの横を黙ったまま通り過ぎてしまった。
とぼとぼと先を歩くムイ。わたしはただ、半歩後ろをついて行くことしかできなかった。