2-9:先の思いやられる捜索
「それで、勇者様と魔王様は、一体なんの用でウチのとこニャんかにきたのかニャ?」
やや皮肉交じりに話すソラムギさんに、わたしはしかたないことだと理解しても、少し悲しさを覚えつつ、今置かれている状況を説明した。
ひととおり話を聞き終えたソラムギさんは、ひとつ大きく頷いてから、まずひと言。
「アンタら、そんな小さい子を一人にさせるなんて、危機感なさすぎるニャ」
「ご、ごめんなさい……」
「……すまん」
わたしとアロンは、声を揃えて謝った。
「ま、これを機にしっかり反省して、二度と繰り返さないことだニャ。……と、叱るのはこんくらいにして、早くその子を探さないとニャ」
ソラムギさんは言って、首から下げていた緑色の玉のネックレスを外した。
それをテーブルの上に置いて、手をかざす。
その所作は、まさに『占い師』って感じだ。
「んで、迷子の子――ムイちゃんだったよニャ? その子の特徴とか言ってもらえる? 探すのに、ある程度情報がいるもんでニャ」
目を瞑り、集中モードに入りだしたソラムギさんから問われ、わたしは答えていく。
「ムイはとにかくモフモフしててかわいらしくて……でも、手足からは鋭い爪が生えているの」
「ふむふむ」
「目はクリクリで大きくて、金色の瞳が特徴的かしら」
「ニャるニャる……」
「……ああ、そうそう。それでムイは、『邪神の幼獣』って言われてて……」
「うんう――んぇっ!?」
ソラムギさんは突然顔を上げた。その目は大きく見開かれていた。
「じゃ……邪神の幼獣とか言ったニャ!?」
「……? ええ」
「そそそ、そんな幻獣レベルの幼体を野放しに……!?」
「……ごめんなさい。気の緩みで目を離してたことは本当に反せ――」
「――反省とかは今はいいニャ! ってか、そんな回りくどい言い方しないで、そうだったら初めからそう言えニャ!」
ソラムギさんは肩で息をしてからアロンを睨みつけると、
「……ってか、自分は関係ないふうにいるけど、アロンも同じだからニャ! 知ってたら言えニャ!」
と、まっすぐと指さしてから、今度は目を回しはじめ、「ニャわわ〜、は、早く見つけないと、もし幼獣自体が暴れ出したら……!」と必死に玉に力を向けていた。
コロコロ変わる表情がかわいらしいな、とつい思ってしまったけど、今こうなっているのもすべてわたしのせいなので、ニヤけそうになる顔をぐっと堪えた。
「ああ……道を示す宝玉よ、我に求めし場所を示したまえ……」
ソラムギさんは何やら詠唱していく。ソラムギさんが手をかざす緑色の玉は、まるでソラムギさんの念に呼応するかのようにどんどんと光を強めていき――やがて、パッと内側から光が弾けた。
「ニャニャ!」
ソラムギさんは玉を覗き込むと、こう叫ぶ。
「――見えたニャ! 赤い屋根の家……そこにムイちゃんはいるニャ!」
わたしはムイの居場所がわかり、ひとまずホッとした。
しかし、なぜだかアロンは気まずそうな表情を浮かべている。
「赤い屋根……って、まさかとは思うが、もしかしてってことはないよな?」
アロンはそう聞くと、ソラムギさんも同様に気まずそうな顔をして答える。
「そのもしかして……ニャ」
二人の表情を見て、わたしの中でどんどんと心配が募っていく。
――……その『赤い屋根』って、よからぬ場所だったりするのかしら?
ま、まさか……ハンターのアジトとか!? そうだったとしたら、すぐ助けにいかないとだし……!
そんなわたしの不安な表情を見てか、ソラムギさんはこう話す。
「ああ。ちゃんと教えとくと、ムイちゃんは無事のはずニャ」
「ほ……本当?」
「ホントニャ。……ただ、その赤い屋根の住人ってのが、魔法使いの……まあ、ウチの仲間の一人でニャ」
「そうなの! よかった、アロンたちのお仲間さんなら安心ね」
わたしはにこやかに話したが、アロンとソラムギさんの表情はまったく晴れなかった。
「うーん……だけどニャ、そのたまたま保護してくれた――いや、保護してくれたのかもわからニャいけど――ソイツは、ちょっとひと癖ある奴でニャぁ……」
「ひと癖……ある?」
わたしは次にアロンを見てみれば、アロンは頭を抱えつつも、こう話す。
「……なんと言ったらいいのか。その……正直、あの子は少々……。……いや、今はそんなことはいい。とにかく、ムイに会いに行こう」
アロンは気を重そうにしつつも、家を出ていく。
「あ、待ってニャ。ウチもここは同行するニャー」と、ソラムギさんはコートを羽織って、アロンのあとをついていき、わたしも事情は飲み込めないまま、二人の後を追うのだった。