表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/53

2-7:占い師の元へ

 わたしとアロンは家に帰り着くと、玄関の扉が開かれていた。


 サーッと血の気が引いていく。


 ――まさか……まさか、またすぐにこんなことが……。


「ムイ……! ムイ!」


 わたしは家の中を駆け巡り、ムイの姿を探した。

 だけど、ムイはどこにもいない。庭も確認したけど、どこにもムイのいる様子はなくて。


 もしかしてムイは、わたしたちがいなくなったことに気づいて、わたしたちを探しに一人で外へ出かけてしまったというのだろうか。


 ムイはまだ眠っているし……少しくらいの間、平気だと思っていた。


 完全に、油断していた。


 わたし……ムイがハンターに連れ去られたあの日から、なんにも学んじゃいない。


「……もし、ムイが一人で出かけたんじゃなくて、ハンターに誘拐されていたとしたら……?」


 最悪の展開が頭に浮かび、身が震える。


「……わたし、母親失格――」

「――ムイは誘拐されたとかではないと思う」


 わたしの言葉に被せるようにして、アロンはそう言った。


「誰かから侵入された形跡はない。ムイ自らが外へ出かけたと見ていいはずだ」


「……アロン」


「大丈夫。ムイならきっと無事だよ」


 アロンに励まされ、わたしは少しだけ落ち着きを取り戻す。

 でも……わたしの不注意が招いた結果は、変わらない。


「……ごめんなさい。わたしのせいで……こんなことに」


 わたしが言うと、ふと頭に優しく大きな手が置かれた。


 大きくて、頼もしくて、温かな手。


 わたしは顔を上げると、アロンは言う。


「そもそも誘ったのは俺のほうだ。こちらこそすまなかった。だから、自分ばかり責めるんじゃない」


 アロンはほんのり微笑んで。


「……傍若無人の魔王様――と、噂に聞いていたが、やはり君はそんなことないな」


「……え」


「謙虚で、自ら責任を持って、何より人を心から心配して想って――魔王なのに、魔王らしくない」


「……アロン」


 アロンは手を離すと、わたしにこう話す。


「とにかく、今はすぐにでもムイを見つけ出そう。俺の知り合いに占い師がいる。もしかすると、彼女ならムイの居場所を見つけることができるかもしれない」


「……っ! 本当!?」


「ああ、今すぐ行こう」


 アロンはわたしの手を引いて、すぐさま家を出た。


 家を出てからも、アロンはずっと手を握っていて――こんな状況ではあるけど、それがとても愛おしく感じてしまった。




 ◇




 アロンの知り合いの占い師がいるという家までやってきた。


 占い師というから、何か怪しげな雰囲気が漂ってたりして……なんて想像もしていたけど、そんなことはなく、見た目は至って普通の素朴な木造の家だった。


 アロンは玄関の扉をノックした。

 早朝だから、もしかしたら眠っているかもと不安だったけど、すぐに扉の向こうからは返事が返ってきた。


「はいはいニャー。今開けるから待っててニェー」


 猫撫で声……というか猫みたいな鳴き声混じりの、のんびりとした口調だ。


 どんな人なんだろう……と思っていると、中から現れたのは、口調のイメージどおりの姿の女性だった。


 ふわふわな栗毛の頭からは猫耳を生やし、小柄で愛嬌のある顔立ちの、半獣人の美人。

 いかにも寝巻きであろうノースリーブの白のワンピースを着ていた彼女だったけど、その首からは拳くらいの大きさの緑色の玉を下げていた。


「んニャ〜、アロンか。久しぶりだニャ。今になって、魔王を倒しに冒険でも行くってんのかニャ?」


 寝ぼけ眼を擦りながらそう話す彼女。それから、ふと視線を横にずらし、わたしの存在に気づいた彼女は、その大きな瞳をさらに見開いて、目を丸くした。


「……はニャ?」

「お……おはようございます」


 わたしはとにかく彼女の警戒心を解かなくては……と、とりあえず挨拶をしてみたけど、どうやら彼女が驚いていたポイントはそこじゃなかったようで。


「――アロン! アンタいつの間にカノジョ作ったニャ!?」


「は……カノジョ……?」と怪訝そうにするアロンに対し、さらに彼女はこう畳みかける。


「朝から手なんて握ってやってきて、幸せの押し売りかニャ!!?」


 彼女に指摘され、アロンはハッとし、視線を下ろし――わたしと繋いでいる手を見て、パッと顔を赤くさせた。


 急いで手を離し、アロンは腕組みをして、わたしに向かって、小声で言う。


「……すまん」


 無意識で繋いでたんだ……とわたしは思い、なんだかおかしくって、笑ってしまった。


「いや……だから、アンタらニャんニャのニャ!?」


 彼女はもう一度、そう声を張り上げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ