2-6:勇者様公認の魔法使い……?
馭者の男性に言われたとおり、しばらく道なりにまっすぐ走っていると、一際目立つ赤い屋根の家が見えた。
ムイは扉のノックして、「たのもー!」と声を掛けた。
中から人が出てくる様子はなく、ムイはもう一度扉をノックして、さきほどと同じ声掛けをした。しかしそれでも誰も出てこないので、ムイはもう一度ノックし、声を上げようとしたときだった。
「あー、もう! 聞こえてるわよ、うるさいわね! 今何時だと思ってんの!?」
ダン、と勢いよく扉が開かれ、中から赤毛の女性が出てきた。
吊り目でいかにも気の強そうな女性は、クルクルの巻き髪を振り乱しながら、キョロキョロと辺りを見回し――やがて足元にいたムイの存在に気づき、「ひょわっ!?」と驚きの声を上げ、ぴょんと後ろへ飛び退いた。
「な、な、な……なんなの、アンタ?!」
警戒する女性に、ムイは落ち着いた口調で答える。
「ムイはムイだ。おまえ、マホーリア?」
「いきなり失礼な物言いね、このガキ……!」
女性はため息を挟んでから、
「そうよ。アタシがマホーリアよ。かの有名な勇者、アロン様公認の魔法使い、マホーリア・スカーレット!」
自慢げに自己紹介したマホーリアを、ムイはただ静かに聞き流しながら、こう話す。
「ムイ、マイゴなった。たすけてくれ」
「はぁ? 何このガキ……少しは驚いたり、尊敬したりしてよね」
マホーリアは不満を垂れつつ、「……で、迷子、ですって?」とムイの話を聞く姿勢に入ってくれた。
「お生憎様だけど、アタシ、迷子の子は受け付けてないから」
「でも、サカナのおっさん、おまえにあえばユーシャのとこつれてくれる、いってた」
「はぁ? 何、サカナのおっさんって……ん? ってか、待って……アンタ今、勇者って言った?」
「うん。ムイ、マイゴ。ユーシャさがしてる。それと母」
「え? え? え? ……ちょっと待って、母ってどういうこと? アロン様を探してて? 母を探してて? え、でもアロン様は……。母って、誰のこと?」
「母は、ユーシャのおくさん!」
「〜〜〜〜〜っ!?」
マホーリアはムイの言葉を聞くと、その場で膝から崩れ落ちてしまった。
「……マジ?」
「なー、ユーシャのとこ、つれてってくれ」
どうやらマホーリアの耳に、ムイの声は届いていないらしい。
すっかり意気消沈してしまっているマホーリアを見て、ムイは困惑状態だ。
「マホーリア、ムイのこえ、きこえるか?」
「あ、アロン様……」
「これ、ダメなやつ」
ムイは悩んだのち、マホーリアの腕を掴むと、そのまま家の中へ引きずっていった。
それから床に寝転がせ、家の中から枕と毛布を探し持ってきて、マホーリアの頭の下に枕を敷いてやり、さらに毛布を掛けてあげると、毛布の上からトントンと尻尾で優しくさすった。
「げんき、もどーれー」
数分して、それはようやく効果が現れ、マホーリアは突然身体を起こした。
意識を取り戻したマホーリアの瞳は、さきほどの生気の抜けたものとは正反対で――すっかり、執念に燃えたぎっていた。
「アロン様を横取りした女……絶対に許さないッ!!」
怒りで身を震わすマホーリアを見て、ムイはやれやれと、こう呟くのだった。
「……これ、めんどうなヤツ」