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2-5:母とユーシャを尋ねて……いたはずですが

 パタン……という物音に気づき、ゆっくりと目を開けたのはムイだ。


 部屋のベッドではなく、クッションの上で丸まりながら眠っていたムイは、猫のようにぐーっと背伸びをすると、耳をピンと立て、周囲に気を巡らす。


(いえのなか、ケハイ、ゼロ)


 ムイは部屋を出て、まずはリザの部屋を確認し、次にアロンの部屋を確認した。


(……あ。ユーシャ、へやみるな、いってた)


 ムイはアロンの部屋の中を見てから、そのことを思い出し、


(ま、いいか)


 と、すぐに思い直すと、念のため家中を駆け巡り、リザとアロンがいないかを隅々までチェックしてから、リビングでちょこんと座り込んだムイはひと言呟く。


「母もユーシャも、いない」


 ムイは耳をしゅんと下げ、


「ムイ、ひとりぼっち」


 ――目に涙を溜めはじめた。


「ムイ、またすてられた……?」


 ムイは頭を横に大きく振ると、パンと思い切り自身の頬を叩いた。


「まだ、わからない。も、もしかしたら、母、ユーシャにトーバツされてるかもしれない……!」


 ムイは言って玄関へ移動すると、ひょいと跳ねて高い位置にあったドアノブに手を掛け、外へ飛び出した。


「母、たすける!」




 ◇




(マイゴなった)


 ムイはとある街の中で、呆然と座り込んでいた。


(母とユーシャのニオイ、おってたはず……しかし)


 ムイはギロリと街中に止められた馬車を睨みつけた。


(アレのだす、ウマそうなニオイのせいで、かんぜん、マドワされた……!)


 ぐぬぬ……と悔しそうに唸り声を上げるムイ。


 ――そう、ムイはリザとアロンのニオイを追って二人を探し出そうとしたのだが、途中で現れた馬車に目を奪われ、何よりもそこから放たれる香ばしい匂いに釣られ、すっかりここまで来てしまったのだった。


(アレはなんだ……? ウマのニオイ、チガウ……?)


 ムイは馬車を観察していると、馭者(ぎょしゃ)の年配の男性は、荷台に掛けられていた布を取った。そこには焼き魚が並べられていた。


 おそらく、香ばしい匂いとはこれだったのだろう。


 ムイは興味を惹かれ馬車に近づくと、馭者の男性はムイに気づき、「おはよう、お嬢ちゃん」と声を掛けた。


「それ、サカナ?」


「そうだよ。ここで毎朝魚を売りに来てるんだ」


「サカナなのに、ウマそうなニオイ、する」


「塩漬けにして焼いてるんだよ。お嬢ちゃんもよければ食べるかい?」


「いいのか! ……あ、でもムイ、おかね、ない……」


「あれま。じゃあこれをあげるよ。形が悪くて売れないやつだからね」


「ありがとう!」


 ムイは男性から焼き魚を受け取ると、早速かぶりついた。旨みが凝縮されたそれは、ムイを朝から幸せな気持ちにさせてくれる。


「ん〜! ムイ、こんなウマいサカナ、はじめて!」

「よかったよかった」


 男性はムイを見て微笑ましそうに頷いてから、ムイに優しくこう尋ねた。


「ところでお嬢ちゃん、こんなところに一人で来て、どうしたのかな?」


 ムイは焼き魚をすべて飲み込んでから、答える。


「ムイ、母とユーシャ、追ってた……けど、とちゅうでまちがって、ここきてしまった」


「んん? それって迷子になっちゃったってことかな?」


「うむ」


「そっか、迷子か……って、お嬢ちゃん、今ユーシャ……勇者って言ったのかい?」


「ん、そう。だけど、なんで?」


 首を傾げるムイに、男性はさらに質問を重ねる。


「勇者って……あの勇者様かい? ブレヴィ家の……」


「うん。たしかユーシャ、じぶんのこと、アロン・ブレヴィ、いってた」


「……! 勇者様、独り身だと聞いていたけど……いつのまにか奥さんもいて、子供もいたってのかい!」


「オクサンってなに?」


「お嬢ちゃんのお母さんのことだよ」


「へー」


 ムイはそこでハッとあることに気づき、男性にこう問う。


「なー。もしかして、ユーシャのこと知ってる?」


「そりゃあもちろん! この国の有名人だもの」


「そしたら、母もわかる?」


「お母さんまではごめんねぇ。……でも、勇者様に会えば、お母さんにも会えるだろうし……ひとまず、マホーリア様のとこへ行ってみるといい」


「マホーリア?」


「勇者様のお仲間の魔法使いさ。この道を真っ直ぐ行くと、赤い屋根の家がある。そこがマホーリア様の家だ。そこを尋ねれば、きっと勇者様の元まで連れて行ってもらえるかも」


「! ありがとう、いってみる!」


 ムイはかわいらしくお辞儀をし、男性の指さした方向へすぐさま駆け出した。


「マホーリア、あかいやね……」


 ムイは忘れないように、教えてもらった情報を呟きながら、赤い屋根の家を目指して走るのだった。

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