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2-1:勇者の家

 アロンの家は、それはそれは森の奥深くにあった。


 木漏れ日に照らされた、レンガ造りの立派な大きな家が見えたとき、わたしは嘆息を洩らした。


「……入れ。中を案内する」


 アロンは玄関の扉を開けて、わたしたちを先に中へ入れてくれた。


 玄関を入ると、すぐに螺旋階段と吹き抜けがあって、見た目以上に広々と感じる造りになっていた。


 なんだか、すごい豪邸に来ちゃったみたい。


「デケー! ムイのスアナ、おおちがい!」


 ムイはその大きさに大興奮のようだ。尻尾を大きく揺らして、辺りを楽しそうに走り回っている。


 奥へ案内され、まず案内されたのはリビングだった。


 部屋の中央には四角い大きなテーブルがあって、そばにはアイランドキッチンが。壁には本棚が並び、ソファなんかも置かれていて、まさに憩いの場といった感じだ。


 部屋はとてもきれい保たれていて、よく言えば清潔感があっていい、悪く言えば――本当にアロンが住んでいたのか疑ってしまうほど、あまりにも生活感が感じられなかった。


「ここに……本当にひとり暮らしをしていたの?」


 わたしは周りを見回しつつ、アロンにそう聞くと、アロンの返事を聞く前にあるものが目に止まった。


 壁に掛けられた、たった一枚の写真に。


 写真には幼い男の子と、おそらくその子の両親と祖父母が映った、大家族が写されていた。


「この子……アロン?」


 わたしは写真の前に立ちながらアロンに聞くと、アロンはわたしの隣に来つつ、「ああ、そうだ」と答えた。


 ムイも興味を持ったのか、わたしの身体をよじ登って来て、わたしの肩越しに写真を見つめる。


「アロン、ちんちくりん」とムイは言うと、アロンは、「ああ、ムイといっしょだな」と返し、ムッと頬を膨らませるムイ。


 微笑ましいやり取りを横目で見つつ、「アロンの家族?」とわたしは聞いてみた。


「ああ。最初で最後の家族の集合写真だ。珍しい魔道具を持っている行商人と、父は偶然にも出会ったらしくてな。家に来てもらって、こうして撮ってもらったんだ」


「そうなんだ」と相槌を打ちつつ、この世界は写真の類は一般的なものではないんだと知る。


 ムイは写真に映る一人ひとりを指さしながら、「これは父? これは母?」なんて聞いている。アロンはそのたびに頷いて答えていて、写真をきっかけにアロンとムイの距離は少しずつ縮まっているように思えた。


「なー、ここのひとたち、いえ、いない?」


 ムイはアロンに見つめ聞いた。わたしも内心、それについては気になっていたところだ。


「……」


 アロンは少し黙ってから、


「……いない。祖父母は寿命を迎えて、俺の両親は流行病(はやりやまい)に罹って、三年前に亡くなった」


 と答えた。


「さんねんまえ……」


 ムイはしゅんと耳をダラりと下げた。


「……さみしいな」


 ムイは呟くと、アロンは一度ムイを見てから、再び写真へ視線を戻すと、言う。


「もう慣れた。……それに、これからは君たちとここで暮らすことになるんだ」


 アロンはわたしたちを見ると、こう話す。


「寂しさなんて、感じる暇もないだろうさ」


 アロンは真面目な顔をしてそう言うものだから、わたしは思わず笑ってしまった。


「なぜ笑う?」と聞くアロンに、わたしは「ごめんなさい……でも、なんか気が緩んだって言うか」と、答えるしかなかった。


「アロン。これからいっしょに生活していくことになると思うけど、よろしくね」


 わたしはそう言うと、アロンはただひとつ頷いた。


「決して百年前と同じようなことはさせまいからな、魔王」

「言われなくても、そもそもそんなことする気はないわよ、勇者」


 わたしたちは互いに意思表示を示すと、「ムイ、おなかすいた!」と、ムイの元気な声が割り込んできた。


 そういえば、なんだかんだいろいろあって、食事なんて取れていなかったわ。


「アロン、キッチン借りていい?」


「借りるも何もない。今日からここは君たちの住まいでもある、自由に使え」


「……ふふ。ありがとう、アロン。じゃ、自由に夕飯作らせてもらうから、待ってて」


 ――アロンって冷たい口調ではあるけど、なんだかんだ言ってくれることは優しいよなぁ。


 不器用な人なのかしら、とわたしは思いつつ、夕飯の支度を始めた。

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