1-1:来世は幸せになりたいなぁ
都内マンションの1LDK。
わたしは彼と夢を見て、同棲をはじめて五年が経った。
いっしょに暮らしはじめて、毎日が楽しかった。
だからこそわたしは、次のステップへ進みたい。
わたしは家庭を――家族を持ちたい。
わたしももう30歳目前。……そろそろ、わたしだって。
本音を言えば彼から言ってほしかったけど――わたしから、ついに切り出してみることにした。
「ねぇ……わたしたち、いっしょにいてもう五年経つしさ……」
「ん? 何?」
「そろそろ……その、けっ、結婚、とか……」
わたしがそのワードを口にすると、彼は心底めんどうくさそうな顔を浮かべた。
「あ〜……いや俺、今仕事忙しいからさ……」
――あ、ダメだ。
わたしは咄嗟に立ち上がって、「うん、そうだよね……ごめんね」と謝って、フラフラとした足取りで部屋をあとにする。
「……わたし、ちょっとお散歩してくるね」
外へ出て、夜風に当たりながら、わたしはただ目的もなくひらすらに歩いた。
あんなにいっしょに過ごしてきたのに。
あんなにお互い愛してると確認したはずなのに。
――あんなに大好きだったのに、今わたし、彼のこと信用できなくなってる。
そんなに、わたしじゃダメなのかな……。
もう彼との関係は、諦めたほうがいいのかな……結婚はゴールじゃないと言うけど、スタート地点にもいっしょに立ってくれない人なんて、わたしにはやっぱり……酷すぎるよ。
……なんて、考えながら歩いていたら。
パパー……と、突然大きなクラクション音が聞こえて。
何事かと思って右を向いたら、目の前にはトラックが差し迫っていた。
早く避けないと――なんて考えている暇もなく、激しい衝撃とともに、視界はブラックアウトした。
どんどんと遠くなっていく意識。
このまま死んでいくんだと、本能的に悟った。
――あーあ。来世は幸せなお嫁さんになれたらいいなー……。
ああ、そうそう、子供が持てたら、もっとうれしいな。温かい家庭を築いて、家族と楽しく暮らしていくの。
ああ、素敵だなぁ……。
……はは。でも、そんなのないか〜……。
来世なんて、わたしには……。
そんなことを考えながら、わたしはついに意識を失った。