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後編・良村勇人視点

 (じん)さんも俺も予想外の出来事にポカンとしていた、と思う。

 なにしろクルクルクルッと後ろに三回転した後、二本足で立って舞台俳優のように優雅にお辞儀してみせたのだから。


 ()()()()()()()()()


 ◇◆◇


 ことの起こりは3日前。

 俺、良村勇人(よしむらはやと)に、霊能者で俺にとって太い依頼人である迅さんから連絡があった。


「ある家の一家全員が霊障で体調不良となった件の解決を依頼されたんですよ。犯人の狙いはその家が代々保管してきた『上人(しょうにん)の小指』の盗取だと思うんですが、犯人確保のサポートをお願いできませんか?」

「『上人の小指』、ですか?」

「昔の高僧の小指の遺骨なんですがね。霊力を高める効果がありまして」

「それが盗まれるのを防ごうと」

「いえ。どうせ式神でも使ってくるんでしょうからあえて盗ませて術者のところまで連れていってもらおうかと思います」


 そんなわけで体調不良で入院しているその家の住人に代わり、『上人の小指』を保管している部屋を迅さんと二人で見張っていると小窓を開けてカエルが入ってきた。

 カエルは前足で引き出しを開けると中から小さな木箱を取り出す。

 最初はその木箱を抱えていこうとしていたが持ちずらかったらしく、前足で器用に箱に結ばれた紐をほどくと中身を取り出して口に咥えて窓から部屋を出ていった。


「鳥獣戯画か!」


 とツッコミそうになりながらも迅さんとカエルの後をつける。

 最初は跳ねていたカエルが疲れたのか次第にノソノソ歩くようになった。


「あの式神、術者のとこまで辿りつけるんですかね?」

「……あれは式神ではありません」

「へ?」


 迅さんの顔から表情が消えている。

 ガチで怒っているときの迅さんだ


「式神は『持ちにくいから紐をほどいて箱から取り出して中身だけ』なんて臨機応変に判断できません。また、疲れて動きが鈍くなったりもしません。霊力が切れたら消えるだけです」

「じゃああれはなんなんです?」

「カエルに死にかけた人間の魂を憑かせたのでしょう。やってはならない外法ですよ」


 やがて廃屋に着き、迅さんの仕掛けた罠が発動したタイミングで飛び込んで犯人を確保したという次第だ。


 ◇◆◇


 挨拶を終えたカエルはカエルらしく四つん這いになっている。

 さっきまでの人間味を感じない。


「これってもう成仏したってことっすかね?」

「ええ、そうでしょうね。もう人間の魂は憑いていないようです」

「その水って聖水とかなんか特別な水なんすか?」

「いえ、コンビニで買った普通の水です。何故か今日必要になりそうな気がしたので」


 霊能者の勘というやつだろうか。


「死に際にカエルに憑かされるなんて酷い目に合った方でしたけど。最期にこの水が少しでも救いになってくれたならと思うのですが」

「そりゃあ救いになったでしょう。でなかったらあんな挨拶してくれませんって」


 あのアクロバティックな挨拶は渇きから救ってくれた迅さんへの感謝を最大限に表したものだろう。

 術者を罠にはめて気絶させたことに対する感謝もあったかもしれない。


「そうですよね。そう思うことにします」

「そのカエルはどうします?」

「近くに同種のカエルが生息する沼があります。もともとそこで捕獲したものでしょうし帰してあげましょう」


 そう言って迅さんはカエルをそっと両手で包み込んだ。

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