表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

前編・???視点

 水だ。水を寄越(よこ)せっつーんだ。

 身体が乾いて干上がっちまいそうだ。

  とにかく今すぐコンビニにでも飛び込んで水を手に入れてえ。

 そんなオレの思いとは裏腹に脚は勝手に前へ向かって進んでいく。


 体感時間で三時間ぐらい前だったか。

 ふと気がついたら見たこともねえ廃屋の中だった。

 俺の目の前には暗がりでもそれとわかるド派手なスーツを着た男が一人ポーズをつけて椅子に腰かけていた。

 伸ばした口ヒゲと顎ヒゲがそのチンパンジーに似た顔にまるで似合ってねえ。

 そのヒゲチンパンが俺に向かって口を開いた。


「ふむ。無事に『降りてきた』ようだな。では早速役目を果たしてもらおうか。なに、お前でもできる簡単な任務だ」


 その後、俺はヒゲチンパンに命じられるままにでかい屋敷からブツを盗んで、今はその帰り道というわけだ。

 なんで行ったこともねえお屋敷までの道やブツの隠し場所を知ってるのか、そもそもなんで命令に従わなきゃならんのか俺自身にも訳が分からねえ。

 オレに命令した、あのやたら芝居がかったヒゲチンパンが催眠術でも掛けやがったんだろう。

 芝居がかったとはいっても舞台役者の端くれだった俺からみれば芝居なんていえたもんじゃねえ。

 ありゃ自分に酔ってるだけだ。

 自分をイケメンとでも勘違いしてんのかあの野郎。

 乾いた身体にムチ打って脚を引きずるように前へ進むとどうにか元の廃屋にたどり着く。

 ドアが壊れて閉まらない入口を抜けて奥の部屋に進むと忌々しいヒゲチンパンが背中を向けて椅子に座っているのが見える。

 更に近づいたところでヒゲチンパンが椅子を回してこっちを見た。


「遅かったではないか我が下僕(しもべ)よ」


 誰が下僕だコラ。

 と文句を言おうとしたがしゃべれねえ。


「物は手に入れたのであろうな?さあ、早く我に差し出してみせよ」

「ペッ」


 俺は口の中に含んでいたそれをヒゲチンパンの顔面に向かって吐き出してやった。

 が、残念ながらそれは奴の顔には届かず『カツッ』という音をたてて床に転がる。


 俺の涎まみれになったそれを、ヒゲチンパンが厭そうな顔でティッシュで拭き取って拾いあげた。


「どれ……おおお……この神々しき溢れる霊力。間違いない。これこそかの『上人(しょうにん)の小指』の骨。これで我は神にも等しい力を手に入れた」

 

 人骨だったのかよ⁉口に入れちまったじゃねーか!ふざけんな!

 睨み付ける俺に改めて気づいたヒゲチンパンが、視線をこっちに向けてニタリと笑う。


「ふむ。ちょうど良い。神として生まれ変わった我の霊力を一番に受ける栄誉を貴様にくれてやろう。あの世での土産話にするがよい」


 そう言ってヒゲチンパンが何か呪文を呟き出す。

 すると骨に何かの力が集まりだし、その周囲の空気がグニャリと歪むのが見えた。

 あ、あれ、ヤベえやつだ。

 逃げなきゃならんのはわかってるがもう体が動かねえ。

 更に骨の周りの力が濃くなりついに


 パアンッ!

「ウボオッ!?」


 溢れた力がヒゲチンパンの顔面を弾き飛ばした!

 え?なんで?そっち?

 予想外の出来事に俺は呆気にとられる。

 と、入口からスーツ姿のニイちゃんと簡素な狩衣を着た優男の二人組が入ってきてあっという間に気絶したヒゲチンパンを縛り上げた。

 床に落ちた骨を拾い上げた優男にニイちゃんが声をかける。


「それが『上人の小指』っすか」

「ええ。無事に取り戻せましたよ。勇人さんもお疲れさまでした」

「こいつが狙いどおり迅さんの仕掛けた罠にはまってくれたおかげでたいして仕事してないっすけどね」


 どうやらヒゲチンパンを気絶させたのは、この優男の仕掛けた罠だったらしい。

 と、その優男がこちらに歩いてきた。

 優男は俺の前で立ち止まると懐に手を入れ、ミネラルウォーターのペットボトルを取り出してキャップを開ける。

 そして中の水を俺の頭からぶっかけてきた。


 ……


 ……()()()()()()()()()()


 いや~、生き返ったようだぜ。

 改めて優男に目を向けるとやけに悲しそうな顔をしていた。

 おいおいそんな湿気たツラしなくていいんだよ。

 まあ俺はもうあの世に行かなきゃならんようだがな。

 それでも最期にヒゲチンパンが間抜けに気絶したとこを見られて俺は結構いい気分なんだぜ。

 って言いてえとこだがしゃべれねえ。

 そうだ。俺が舞台役者だった頃の終演挨拶を見せてやろう。

 それで俺の感謝の程もわかるだろ。


 クルクルクルッ、ピタン。


 俺はその場から三回バク転をしてみせる、つもりが最後は勢い余ってバク宙になっちまった。

 さすが跳躍力あるなこの身体。

 ともかくその後両手を斜め上に挙げる。

 そして左手を背中にまわし、右手を斜めにゆっくりと振り下ろしながら深々とお辞儀をした。

 視線を上げるとポカンと驚いた優男の顔が見えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ