29 バイバイ
(扱いは罪人じゃないんだね)
ここの生活は大分快適だ。目隠しと手枷は直ぐに外してもらえたし、好きな時間に筋トレが出来て、本も読める。魔法の練習も見張りが居ない時にこっそりとやってたよ。
ご飯も1日3食だし、おやつも2食ある。
水も『欲しい』と言ったら、直ぐに出てくる。
「失礼します」
そんな生活を送って、3日目の朝。衛兵が牢に入って来た。
カチャリと足枷を外し、僕を軽々と持ち上げる。
(いよいよ処刑か。どうやって逃げようかなぁ…)
水の魔法と火の魔法の合わせ技である幻影魔法も習得したので、幻影を見せて逃げるってのもありだ。
そんな事を考えていたら、本邸の外に出た。
「あの、何処へ行くんですかね?」
一応聞いておこう。
「ルルシア様は建国から続く3大公爵家と言われている内の、ヴァイデット公爵家に養子として行く事になっております」
淡々と伝えられる。
「処刑場では無く?」
「はい」
「何故?」
「知りません。私はただの衛兵ですので」
「因みにその話は本当?」
「はい」
ヒョイと降ろされる。
そこには、ヴァイデット公爵家の紋章付きの馬車が止まっており、見送るつもりであろうフランリーラも居た。
「さて、家の者としてなら最後の挨拶をしてきたてはいかがです?」
「そうだね…」
スタスタとフランリーラに向かって歩く。
「フランリーラ」
「ヒッ…!化物、近寄るな…!」
サッと侍女の後ろに隠れられてしまった。
「怖がらせてごめんね。直ぐに出て行くから」
クルリと踵を返す。
馬車に先に乗っていたイリアが手を差し伸べてくれた。
それを掴み、乗り込む。
「今生の別れでは無いし、僕の事も忘れて構わない。でも、これだけは覚えておいて欲しい。僕はずっとフランリーラの幸せを願っているよ」
(上手く、笑えているだろうか…)
フランリーラがこちらに手を伸ばしながら歩み寄って来た。
「あ、姉さ」
バタンと馬車の扉が音を立てて閉まり、走り出す。
(ごめんね…僕では無く、ルルシアとして、1人の姉として、心から謝罪するよ…)
温かい雫が頬を伝った。
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