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9 死に様

題名を見れば分かる通り死の表現があります。

苦手な方は自衛をよろしくお願いします!

パチリと目を覚ます。

見知ったボロボロの天井だ。

「いま、なんじだ…?」

 寝起きなので、あまり舌が回らない。

「6時…兄さんの朝ご飯と弁当作んなきゃ…」

 のそのそと起き上がる。

その際に、サラリと自身の短めな艶の1つもない黒髪が映る。

「はぁ…顔洗お…」

 ギシギシと床を鳴らしながら移動する。

声はなるべく押し殺すのはもう慣れた。何で声を押し殺すかって?

それは、ここがアパートで、しかも2階だからだよ。ドタバタと移動するのは絶対に駄目。1階に住んでる人に殴られちゃうから。

あとは…

「ただいま〜!」

 酷く酔っ払った女性の声が響き渡る。


(帰って来ちゃったかぁ…)


「ん!?このあたしがかえってきたっつーのに迎えなしなんt」

「お帰りなさい。母さん」

 ニパッと笑う。

本当は嬉しくも何とも無いのに。

「たいせーい!」

 鈴木太星。小学4年生。2つ上の兄がいて、父親はいない。これが僕。

「たいせいはいい子らねぇー!」

 酒臭い息で僕を褒めちぎる。

この後に続く言葉は決まって…

「ほんと、『りくと』とはおおちがいだわ!」

 陸斗。僕の兄の名前。

「りくとはむかしのあのひとそっくりで…!ヒック!」

 あの人とは父親の事だろう。

キャバ嬢に金を貢ぎまくって家を破綻させた糞野郎。顔を見たのは数回程度だが、()()が兄にそっくりだと?目が腐っている。兄は美形だ。対して、あの糞野郎はハゲてるし、酒やらなんやらで腹もたゆんでる。


_でも、僕は反論出来ない


「褒めてくれてありがとう。母さん」

 もう少ししたら、母さんは寝に行くだろう。我慢だ。我慢…!

 

_これが僕の日常だ。


「おはよ…」

 ボサボサの黒髪でも美しい兄さんのお目覚めだ。

「おはよう、兄さん」

 先程母さんが大暴れしてたのでちょっと疲れたが、それは全て隠し通す。

だって、兄さんは優しすぎる。

僕が耐えれば全部終わるんだ。

「お!今日のご飯も美味しそうだなぁ…!流石母さん!」

 作ったのは僕。でも、母さんがいつも朝ご飯を作ってるんだと胸を張って言い続けてるのを知っているので、黙る。

多分、兄さんに恩を売りたいだけなのだろう。でも、否定すると殴られるので仕方が無いのだ。

「弁当まで!ホント、母さんには頭が上がらないなぁ…」

 キラキラとした笑顔だ。


(僕が作ったのに…)


 でも、それを口にしてはいけない。

「うん。凄いよね」

 自分の口から音が出ていく。


_あれ?自分って何だっけ?


 でも、僕には楽しみがある。

兄さんが寝ていて母さんが夜遊びしている時だけしか遊べない。

いそいそとテレビにゲーム機を取り付け、とあるゲームを起動させる。

それは…


【3人の王子と奇跡の乙女】


 母さんに見られれば取り上げられるし、兄さん見られれば自ずと母さんの耳に入る。

つまりは、誰にも見られてはいけない。

さて、ここで問題。この貧乏な家になんで乙女ゲームなんてものがあるんでしょーか?

チックタックチックタック…

正解は、この生まれに同情した(心優しい)友人に貰ったから、でした!分かる訳無いだろってね!あはは!

でも、このゲームをしている時だけは不幸に嘆かなくて良かったからか、ズブズブとハマっていった。

中でも好きになったのは…

「はわっ…レラーヌちゃんだ…!」

 レラーヌ・ツイッツル公爵令嬢。良くも悪くも強い意志を()()()()()ところに憧れを持った。

「僕とは大違いだ…」

 涙が溢れていく。


_母さんはクズで、兄さんには良い顔をしている。理由は父さんみたいになって欲しくないから、だそうだ。

そして、兄さんに良い顔をした時に発生するストレスや不満は全部僕にくる。

その方法は様々だが、気絶するまで殴ってきたり、尊敬する兄の愚痴を聞かされる。

ハッキリ言って地獄だ。

でも、それに対して何も出来無い自分に腹が立つ。


「あはっ…救いようがないや…」

 自嘲的な笑顔を浮かべた。



その日はなんだか色々おかしかった。


(昨日眠くてゲーム出来なかったなぁ…でも、今日から僕も中学生だ!)


 何も変わらないが、少し息が弾む。

そして、いつも通り弁当作りに勤しんでいたの(下準備をしてあった唐揚げを揚げている時)だった。

「おはよー」

 兄が起きてきてしまったのだ。

朝が弱く起きにくいあの兄が。

ヤバいと焦った。それはそうだろう。まさか、母親が作ったと思っている料理が実は弟に作らせてました、なんて、笑えない冗談以外何者でもないだろう。

「…太星?」

 一度、この事がバレかけた時に『僕、お料理出来ないんだー☆』って大嘘をついて逃れた事がある。そんな僕が料理を作っている。

「え!?料理出来るようになったんだ!凄っ!お兄ちゃん出来ないからちょー羨ましい!」

 アホで良かった。

ホッと息をついたのも束の間。

「ただいまー!」

 酔っ払った母さんが帰って来てしまった。サッと時間を見るといつもの帰宅時間だ。ヤバい!

「お、お帰りー!」

 お出迎えの為に玄関へと走る。

なんと、母さんが空っぽのちょっとお高いワインボトルを持っていた。

「え!?」

 そんなものを買うお金は我が家にはない。なんだかとても嫌な予感がする。

「ね、ねぇ、それ、どうしたの…?」

 その言葉にパッと顔を明るくして答えた。

「これね、たいせいの部屋にあったゲームを売り払って買っちゃった!美味しくてさ、ぜーんぶ飲んじゃったんだよー!」

 僕の部屋にあったゲーム。

ズシャリと膝から崩れ落ちる。

母さんが上機嫌で何か言っていたがその言葉全て耳に入らず絶望の海に沈む。

「な!?母さん!?」

 酔っ払った母さんを見た事がない兄さんの慌てた声が聞こえる。

その声で、絶望の海から現世に呼び戻される。

「母さん、大丈夫!?」

 優しい兄さんは母さんに歩み寄る。

駄目だ。今、この状況でそれは悪手…

「ひっ…!近付かないで!!!」

 ヒステリックな甲高い声と共にワインボトルが兄さんに向かって振り下ろされる。

兄さんは一瞬の事に身構えてギュッとキツく目を瞑っていた。

そんな兄さんを見て僕は…

「カハッ…!」

 間に割って入ってワインボトルを頭に受けてしまった。そのまま床に倒れる。

「わ、私、そんなつもりじゃ…」

「太星!」

 1歩2歩と下がる母さんを尻目に駆け寄ってきた兄さんは酷く狼狽えていた。

「だ、大丈夫!大丈夫だから」

 そこまで痛くはない。気絶させられるほどの暴行を受けた事がある僕からしたら、だが。

「それよりさ、兄さん。学校に行く準備して来なよ」

 ほら、早く。と言う言葉と共にトンと背中を押す。

嫌がっていたが、無理矢理リビングに押し込めた。

直ぐに玄関へと戻り、しゃがみ込んで謝罪の言葉を繰り返している母さんに駆け寄る。

「母さん。大丈夫、大丈夫だよ」

 覆い被さるように抱き締める。


_少し落ち着いたら、他の部屋へと移動させ、そこでずっと慰める(因みに頭は応急処置だけやった)。


「はぁ…よ、漸く落ち着いた…」

 現在、午後1時。大遅刻どころでは済まない。

「早くしないと…!」

 中学校に電話をかけて、謝罪と今から行く旨を伝える。

そして、学校へと走り出した。


_その後、僕は居眠り運転をしているトラックに轢かれ殺された。


そして、目が覚めたら…


「すごっ!」

 天界っぽいところにいた。

「お帰りなさい」

 しずしずと歩いてこちらに向かって来たのは、金髪碧眼の女神様。

「女神様だ…」

「はい。女神様です」

 あ。本当に女神様なのね。

「僕、死んだらしいんですけど…」

 ちょっとその辺気になるよね。

「えぇ、貴方が天命を全うせず死ぬのは2回目です」

 なんだかとても怒気を孕んだ声音だ。

「2回目…」

 

(僕、前世?でもこんな中途半端に死んでるんだぁ…)

 

「貴方の家族の様子を見てみますk」

「あ、大丈夫です」

 ハッキリ断る。どーせ、見たって戻れないんだろうし。悲しくなるだけだ。

「そうですか。

えぇっと…次の来世には前世の記憶を引き継がせるので、ちょっと頭が痛くなると思いますが気にしないで下さい。

それでは、良い来世を」

 え。何かサラッとヤバい事言ってるよこの女神様。

「ちょ、ちょっと待って!」

「何ですか?遺言でも?」

 いや、僕死んでるから遺言とかないと思うけど…

「ぼ、僕!成人男性で酒飲み過ぎて死んだ事にして!!トラックに轢かれて死ぬなんてテンプレは絶対に嫌だ!!」

 せめてものワガママだ。

「え?分かりました。そうしておきますね」

 良い来世をーと手を降る姿を最後に僕の、鈴木太星の記憶は途絶えた。

後1話で一度終了とさせて頂きます…!

最後までどうぞお付き合い下さい!

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