オマケ2 アリア君の過去
血の表現があります…!
苦手な人はブラウザバック!!
_物心付く前から俺は大きい別邸に1人だった。
でも、望めば玩具も本も手に入る。当然、誕生日になったらケーキも出てくるし、誕生日プレゼントも貰える。
だからこそ、俺は会った事も無い両親に愛されていると思っていた。
転機が訪れたのは、14歳になったばかりの頃だ。
「はじめまして!ワタシはブルーアワ国の第1王女、ミア・ブルーアワ!貴方のお姉さんよ!」
フリフリのドレスを着たやけに可愛らしいお姫様は胸を張って俺にそう伝えた。
(誰…?)
チャラリと片足に繋がれた鎖が音を立てた。
_それから、可愛らしいお姫様は毎日やって来た。
「貴方、こんな所に閉じ込められているのに血色は良いのね」
マジマジと俺を見つめてくる。
少し恥ずかしくて顔を背けてしまったら、可愛らしいお姫様は悲しそうな顔をしていた。
_あれは、可愛らしいお姫様が通い詰めてくれて何日目の事だっただろうか…?
「ミア姉さん」
何気なく発した1言だった。
その1言に顔をパァッと明るくして、近くに寄り、俺を強く抱きしめた。
「初めて『姉さん』って呼ばれたわ…!こんなに嬉しいのね…」
ポロポロと涙を零すミア姉さんに俺は酷く困惑したのを今でも覚えている。
_その数カ月後、何日も何日も通い詰めてくれていたミア姉さんがパタリと来なくなった。
始めは忙しいのかなと心配した。だけど、待てど暮らせど来ず、しびれを切らした俺はこっそりと両親とミア姉さんが住む本邸に忍び込んだのだ。
(何処に居るんだ…?)
キョロキョロと辺りを見渡しながら、進んで行く。
そして、大きな赤い扉から光が漏れているのに気付いて、そっと覗いた。
ゴテゴテしたドレスを纏ったおばさんと同じくらいゴテゴテした服を纏った草臥れたおじさんが2人で話していた。
「そろそろ、別邸に閉じ込めているアレを六芒星様の生贄に。全く苦労したわい。生贄は、怪我1つ無い状態で渡さなければならないからな」
「そうですね。でも、あの不吉な子をやっと処分出来て清々しますわ」
オホホホホと笑い合う2人が何故か遠く感じた。
別邸に閉じ込めているアレとは俺の事なんだろう。
_俺は愛されてなどいなかった。
ただ生贄にする為に丁重に扱われていただけだった。
その後の記憶は曖昧だ。
多分、フラフラと家に帰っただけだったと思う。
(不吉か…この瞳の事なんだろうな…)
左目に居座る忌々しい真紅。
まるで吸血鬼みたいだ、と心の中で自嘲する。
もしかしたら、ミア姉さんもこの瞳が嫌になって来なくなったのかも知れない。
(もう良いか…。全てどうでも良い…)
果物ナイフを手に取り、真っ先に左目を瞼の上から切りつけ、次は腹に刺す。
ポタポタと瞳の色と同じ赤色が雫となって落ちてくる。まるで、涙の様に。
_その後、俺は失血で死にかけた。
朦朧とする意識の中、ミア姉さんの声が聞こえた。
「ワタシは貴方に死なないで欲しいのよ…!だから、生贄になるのを変えようとしていた矢先に…!」
_やっぱり知っていたんだ。
「ごめん…ごめんね…!寂しい思いをさせちゃった不甲斐ない姉で…ヒック…しかも、貴方が貴方を傷付ける事も止められなくて…!うっうっ…」
_うん。寂しかった。でもね、ミア姉さんが俺の為に試行錯誤をしてくれたって聞いて嬉しかったんだ。
だから、泣かないで
ゆっくりと瞼を開ける。
「傷が付いたお陰で生贄も回避出来るだろうし…俺は大丈夫だ…。だから、笑ってよ…」
あの時の笑顔は酷いものだっただろう。痛む傷を全部無視して。それでも笑って欲しかった。ミア姉さんの笑った顔が好きだから。
✼
「……うっ…」
見慣れない真っ白な天井。ここは何処なんだ?
「あ!起きた!?」
優しい聞き慣れた声だ。
ミア姉さんが居るなら、場所などどうでも良いか。
「ミア姉さん。心配かけてごめん…」
ワッと泣き出すミア姉さんの頭を優しく撫でてあげる。俺が泣いた時にやってくれたのだ。
「生贄は中止だってお母様が言ってたわ…」
やっと泣き止んでくれた後の一言めがこれだった。
でも…
「良かった…」
へにょりと笑ってしまう。その顔を見たミア姉さんはガバリと俺に抱きついた。
「これからはワタシが守るから。絶対、ぜ〜〜〜〜〜〜〜〜ったい、傷付けさせないわ」
グッと俺をきつく抱き締めてくれた。その言葉に安心したのは、ミア姉さんには内緒だ。
_それから俺は、左目を隠す様に前髪を伸ばした。
より不気味がられたが、ミア姉さんもその方が良いと言っていたし…まぁ、これで良いだろう。
しかし、困った事が起きた。
「お前を、ホワイトナチ学園に入学させる。そこで、婿入り先を見つけて来い」
ホワイトナチ学園。貴族の子供達が通う学校だったか。
婿入り先と言う事は、ミア姉さんがこの国を継ぐのだな。ならば、余計に気合を入れて探さなければ…!いつまでも居座ってしまうと、迷惑になってしまうから。
_ミア姉さんも応援してくれたので、張り切ってホワイトナチ学園に入学したまでは良かった。
「ヒッ…!こっちに来るな!!」
入学して1週間経ったくらいだっただろうか。窓から入って来る風で、俺の左目が顕になってしまったのだ。
バツ印が付いた左目は、平民みたいらしい。
「平民が我等と同じ部屋に居れると思うな!!」
と言う言葉と共に、追い出された。
少しは弁明させて欲しいものだ。
_それから、俺は昼飯のみで生きていた。侍女や侍従が居ない時点で、これは王からの嫌がらせなのかもなと思い始めていた矢先に…
(昼飯を食い損ねた…)
それも何日も、だ。先生の呼び出しによって、昼飯の時間が潰されていったのだ(それで、チャチャッと済ませたら『天才だ』と騒ぎ立て、他の先生にも呼ばれる様になったからだ)。要するに腹が減った。
(ん?甘い匂いがする…)
それに惹きつけられる様にフラフラと匂いのもとを辿る。
「上手く出来たッス!」
オレンジ髪の男子生徒が、菓子パンを見せびらかしている。
「これで、ル…ルシア様も狂う程喜んでくれるでしょ!」
侍女服を着た茶髪の女はそれを見て喜んでいた。
「あの女の子を部屋に入れちゃった事をこれで許して貰えるッスかね?」
「このパンを食べられるなら寧ろ喜んで、許してくれると思いますよ!」
キャッキャッと話しながら、菓子パンをラッピングしていく。
(美味そうだな…)
グゥゥと腹の音が鳴り、2人が近づいて来る。
「あ。お腹が減ってるんですか?」
「じゃあ、これあげるッス!」
先程、ルシアとやらにあげると言っていた菓子パンを差し出される。
俺は、迷う事なく受け取り、齧り付いた。
「良い食いっぷりッスね!これもあげちゃうッス!」
食べる。
「これもどうぞッス!」
また食べる
「次もイッちゃいましょうッス!」
まだまだ食べる。
「あ!ルルシア様のパンなくなっちゃいましたね」
「あ…そうッスね…でも、美味しく食べてくれたから良しとするッス!」
「そうですね!」
ポワポワとした2人だなと俺は思った。
「部屋にまだあると思うんで、行くッスよ!」
グイッと腕を掴まれ、コイツ等の部屋に連れて行かれた。
✼
暫くパンを食べていると、カチャリと部屋の扉が開いた。
「イリア!オーウェン!たっだいまー!今日はね、レラーヌちゃんと会えたんだぁ!めっっっちゃ可愛くて思わず逃げちゃったよ!
その後ね…って、誰?」
赤髪の男子生徒は俺を見てから、2人を順に見ていた。
「「…………」」
フイッと2人揃ってそっぽを向く。誤魔化し方が幼児のそれだ。
「………」
赤髪の男子生徒が黙ったのを良い事に2人は俺にパンをくれる。
美味い。もうちょっとくれ。
「あ゙ぁ゙ぁ゙ぁぁぁ…!もう!!」
と叫ぶ赤髪の男子生徒は、公爵令息だった。それを知った時は品位の欠片も無いなと思っていた。
_ルルシア・ヴァイデット。俺の大切な友人であり、王族の事情で理不尽に殺された人。
俺はルルシアを殺した奴を未来永劫許す事は無いだろう
次はいつもの16時30分です!!お楽しみに!




