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80話、親子の時間

 久々に親子で同じ釜の飯を食ったことを知らずして、シーザーが帰っていった。息子とも話せて、俺は上機嫌で風呂に入りスキップで自室へ向かう。

 しかもなんと王城と学校の宝物庫と保管庫を見せてもらえることになったのだ。浮かれもする。


「ドングリドングリドングリドォン!」

「旦那様……ウィンターの屋敷で変な真似をしないでください」

「なんだよ。俺の部屋の前になんの用事?」


 踊り回りながら戻ると、部屋で待っていたカティアに苦言を呈される。用件は分かっているが、あえて(たず)ねる。


「小石を拾ったので、よろしければどうですか?」

「……」


 善意を装うカティア。俺は無言で白い手袋を取り出す。次に宝石鑑定用のルーペを用意。カティアから受け取った小石を査定する。


「……う〜ん。回数の度に質が落ちていますな。初心に立ち返ってもいいかも。河原に向かいなさい」

「受け取っているようですが……」

「あと綺麗に洗うのやめて。水の中で軽く揺すって泥とかを落とすくらいに留めて。味がなくなる。そういう作業はこっちでやるから」

「……」


 そわそわするカティア。俺の注意も右耳から左耳に抜けている。心ここに在らずな彼女は早く室内に入りたがっている。何か企んでいるところを見れば、殺人鬼の卵を完全に虜にしてしまったと分かる。


「……せっかく来たなら寄っていく?」

「私は構いません」


 自動回収システムを無下にはできない。自室の扉を開いて招き入れる。俺が帰った後にも騎士国で集めてくれるだろう。苦労なく良質な石を探す事が可能となったのだ。


「お早いお帰り、ありがとうございます」

「どういたしまして。で、何?」


 扉を閉めて振り向いたら、早速用件を聞いてみる。聞くだけ聞いてみる。

 するとこのメイドさん。相変わらずデカい胸を露出させて、圧巻の谷間を見せ付けながら答えた。


「旦那様の初めてを頂きに参りました」

「怪盗みたいに言うんじゃねぇよ」


 小石を並べたり、コレクションに加えるかの議論を一人で重ねなければならない。

 だと言うのに、聖国から送り出されたグロリアやさっきのサマンサに焦りを覚えたらしく、慌てて抱かれに来たみたい。


「心配すんなって。お前だけは放置できないから、どうしたって長い付き合いになるんだよ。マセガキがそういうのを早くから覚えたって、ろくな事にならないの」

「私もメイドとして、旦那様に精魂尽き果てるまで性欲を注いでいただきたいです」

「そろそろメイド協会とかから怒られるぞっ? そういうのを出来る限り言わないようにして行こうって世の中になってるっていうのに……」


 年齢からは考えられない色気を放ち、大胆かつ直球で誘惑してくるので、『石一個につき、三十分のお触りチケット』を作る事で合意。

 一緒に寝ようとする背中を押し出して送り出す。扉を開けて自動回収システムを再び野に放った。


「よっしゃ。明日は悪霊が回収できるといいな」


 マナを増やせる悪霊なら大当たり。使い勝手のいい【婦人】辺りでもいい。とにかく取りこぼさないように近くの悪霊には目を配らなければ。

 翌朝。俺はアーロンと迎えの馬車で王城へ。バッハは出張らしい。


「……あんた、強いよな。シーザー陛下にも場合によっては勝てそう」

「私など陛下の足元にも及びません。けれどしばらくはジェイク様の踏み台となれるでしょう。いつでもお声がけください」

「謙遜しちゃって。分かったよ。これあげる」

「……」


 あのアーロンを困らせてやった。昨夜失敗した押し花をアーロンに押し付ける。


「他心通の達人なんだって?」

「日々極みを目指していますが達人というには稚拙な技です。他心通にはまだ誰も見たことがない先がある」

「他心通だけじゃない。どの技もそうだ」

「無論です。もっとも使用されている神足通でさえ新たな技が生まれている。そしてこれは属性技にも同じ事が言えるでしょう」


 頷いて面白くもない話題を終わらせる。押し花の助言が欲しかったところ。


「来たな。すまないがあまり時間はない。じっくり観せてやりたいが軽く回るだけで満足してほしい」

「観られるだけで不足なんてありません。光栄です、陛下」


 王城東館からシーザーと二人で地下の宝物庫へ。シーザー本人よりも厳重な警備だった。輪廻龍が隠されている可能性もある遺産だから無理もない。警備隊は精鋭ばかり。隊長に関しては特権まで持たされている。


「誰も入れるな」

「仰せのままに」


 豪華な建物は警備隊の意識を高めるためか。誉れがあれば誘惑にも対抗できる。一部例外への対応もしてあるだろう。重罪は言うに及ばず。


「こちらだ。騎士学校の方とは違って触れたりはできない。私と距離を一定に保ち、歩みを止めることなく一周する」

「分かりました」

「質問があれば止まって説明する。ただその分だけすべてを見て回れなくなるかもしれない」

「理解できています。大丈夫」


 深く頷いたシーザーは親父を連れて親父の遺品を見て回る。重厚な扉はシーザーが神足通を使わなければ開かないほどだ。両開きで左には騎士国。右の扉には俺の帝国を象徴する模様が描かれている。結構。


「おおっ!」

「早速回ろう」


 言葉とは裏腹に内心で肩を落とす。俺が使用した武具や衣服が中心だ。室内に一歩踏み入ってから判明。ここに悪霊はいない。


「うわ! この石、いい形!」


 その代わり以前にコレクションしていた物も少しだけ保管されている。


「……正直に言うとこのような趣味は父上以外には伝わらなくてな。当時から見せてやると自慢げにされるのだが、それよりも稽古をつけてほしいのですと何度も言おうと思ったものだ」

「ほう……?」


 変人の父親を教材としか思っていなかったと死後発覚。


「他の人達は喜んでいたんじゃないですか?」

「よく呼び出されていた《烏天狗》様でさえ、部屋が汚れるだけなのではとよく仰られていた」


 変人の彼氏をゴキブリか何かのように言っていたと死後発覚。


「……ならこれは譲ってもらえません? 価値が分からないんでしょう?」

「価値を見出す者に譲りたい思いはある。だがならん。ある理由でこれらは永久に保管しなければならないのだ」

「そうですか……」


 今世は今世の出会いを期待せよとの神様からのメッセージらしい。まだ納得の逸品には出会えていない。自動回収システムと共にこれからも励もう。


「これ……シーザー様がオードーンと戦った時の剣ですか?」

「よく分かったな……。そうだ、以前に使用していた王器の残骸だ」


 前騎士王剣。アグンが打った剣だったがオードーンの吐息で溶解してしまった。記念に取ってあるのだろう。未だに熱を放っていて特殊なケースに立てかけてある。


「これを見てもどれだけ輪廻龍が馬鹿げた存在であったか分かるだろう」

「……怖くなかったんですか?」

「恐ろしかった。輪廻龍はただ殺すだけではない。魂や次元、時や空間すら自由自在だ。なにをされるか……もしくはされた者を見ただけに震えは止まらなかった」


 強い弱いは関係ない。オードーンにはすべての生命が屈していた。世界は輪廻龍の意志により回っていた。


「だが人類には父上がいる。いてくれた。だから勝利できたのだ」

「……」


 俺の覆した最大にして最高の不可能。あらゆる手を尽くして輪廻龍を殺した。しかもオードーンに死や消滅はない。悪霊化するしかなかった。


「ジェイクも父上を研究するのはいいが、あの御方を真似して無茶はするな。父上は無茶はするが無謀ではなかった。計算があっての行動なのだ」

「……気をつけます」

「私もバッハも期待はしているがな」


 忠告したいのか発破をかけたいのかよく分からない我が子。他には特に目を引く品はない。悪霊もいないのでシーザーと軽く回って観覧を終えた。


「学長のオーフェンには今朝手紙を送った。すぐにでも観られるだろう。ここよりも機密度は遥かに低い。触れることもできるはずだ」

「格段の温情をありがとうございます」


 親子二人の時間を終えて少しの寂寥感を抱く。別れを告げて馬車に乗り、再び騎士学校へ乗り込む。

 向かいに小難しい顔のアーロンを据えて、次なる俺の遺品の元へ急いだ。


「……あまり好ましい成果は得られなかったようですね」

「そんなことはない。むしろ思っていたより有意義な時間が過ごせた」

「それは何より。騎士学校にも期待しましょう」

「オーフェンの管理だからなあ。あんまり期待は持てないな」


 と思っていたが騎士学校の保管庫には()が眠っていた。かなり特殊な方法で人々を殺しまくり、百八年もの間も誰にも罰せられる事なく生きた罪深き殺人鬼だ。

 強大さで言うならヨルやオルディアスを優に上回り、故に諸刃の剣であった厄介な悪霊でもある。


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