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77話、言語道断な不敬行為

 手首には手枷(てかせ)。がたごとと揺られる馬車。同席するのは死戦を共にした騎士達。ストレスフル。


「……」


 約束の検問所までのんびりやってきた。すると取っ捕まった。エルフを助けた代わりに俺が馬車牢入り。こんな皮肉があるとは。


「……はあ? なめてんの?」

「すまん。だがあの文書を意図的に破くのは犯罪だ」

「言っておくけど牢屋になんか入らないよ? 聖国に逃げるから。もう騎士国には来ないだけ」

「牢屋には入れられないから安心しなさい」

「前科も付けるなよ。騎士国への印象は悪くなるばかりだよ君ぃ」


 腕の骨を折って首から布で吊るすヒューゴ・バレンタイン隊長。俺も左腕と肋骨が折れていたがシズカによって完治。これが人脈の差だ。いや愛の力だ。


「向こうの騎士とは気持ちよく別れたんだぜ? こっちはこの扱いかよ。恩知らず共が」

「そうイライラするな。今は何も言えないが心配するような状況ではない」

「お偉いさんが呼んでるとかかな。だから嫌なんだけど。間違いなく次から騎士国には来ないよ?」

「悪い話ではなさそうだ。そんなに寂しいことを言うな」


 この人類王様に馴れ馴れしいヒューゴ。まだ戦場で少し話した間柄でもう友人感覚。他の騎士みたいに俺のライドクロスとの激闘ぶりを見ていないからだろう。敬意のレベルが違う。


「すぐ近くの街だ。そこで手枷も外されるだろう」

「だったら今外せ。あんたらを救った英雄だぞ? なあ?」


 周りの罪悪感と同情を引く。今後の隊内連携を破壊して疑心暗鬼を創造する。


「あんなに殴られてそれでも殴って勝って。俺はこんな関係になるために戦ったのか?」

「……隊長。僕は間違っていると思います」


 成功。怒りすら露わにヒューゴへ食ってかかる隣人。よき隣人だ。


「勘違いするな。それは私情でこれは命令だ」

「その命令とやらが騎士国のためになるかは別だけどね」


 怪我をまだ引きずる俺は、(かゆ)い背中をかきたくて苛立ちを感じながら目的の街へ。すぐにとある屋敷へ向かい、領主の元へ通される。


「こんにちは、ジェイク君」

「……ご機嫌よう」


 室内には領主ではなく見覚えのある男がいた。騎士国で人類王降誕祭の際にシーザーと共にいた青年だ。


「私はグラン・U・クライジェント。この国の王子だ」


 俺を呼び出したのは孫だった。孫に祖父さんが呼び出されていた。ガキの時には会ったので、こうして顔を突き合わせてみれば何となく面影がある。


「……ジェイク・レインです」

「手枷を外してあげるんだ。バッハ伯からとても自由な人柄だと聞いていたから念の為にここまで拘束させてもらった」

「俺に何の用ですか?」


 護衛らしき人物を二人連れて。王子がはるばる公国寄りの街まで来たらしい。俺を目当てに来たと推測する。

 暇な奴だ。少しは稽古でもしろ。


「ライドクロスを倒したんだってな。ただこれは正直信じていない。ヒューゴ隊長と向こうの隊長が弱らせていたものを倒したんじゃないかな」

「あ、そうです」

「やはりね。それでも信じがたい実績ではある。本当に……」


 背後の騎士達が身動(みじろ)ぎする。命の恩人を前に物申したいのだろう。結構だが王子相手に口を挟むことはできない。

 疑念を持っているところを見れば、グランはライドクロスの恐ろしさを知っているようだ。だから信じられないのだろう。この解釈がされるならば有り難い。また変に声をかけられたくない。


「だけど僕は君がオークを倒す策を打ち出したという点は疑っていない。君が提案したんだろう? こちらはヒューゴ隊長も認めている」

「記憶は(おぼろ)げです。かなり殴られましたから」

「そうか……」


 孫が手振りで着席を促す。大人しく席に座って解放されるその時を待つ。


「今ね。聖国と騎士国でエリゴールを討伐しようという動きがある。エリゴールは知ってるかな」

「キングオークだとか」

「知っているね。なんでもエリゴールが聖母候補者を狙っているとかでね。もう見逃せないと考えている」

「それで?」

「君に討伐隊への参加を頼みたいわけではない。作戦会議に参加してほしい」


 面白いことを言う。騎士国の人間が聖国の人間に頼むものとは思えない。聖国が要請するなら分かるが騎士国の王子だ。俺の孫は頭が悪いのだろうか。


「言いたいことはわかるよ。ただ私の参謀として参加してほしいんだ」

「そんなの許されるんですか?」

「個人的に雇えばいい。欲しいものを言ってごらん」

「平穏です。酪農家としての平穏」

「上手いことを言うね」


 読めた。跡目争いだろう。成果を出して他の候補者達よりも確実に王太子となるためだ。

 エリゴール討伐作戦はそれだけ大きな規模の戦争になるということ。ここで存在感を示したいのだろうと見た。進んで王になりたいとは、変な奴。


「作戦っていつですか?」

「今のところ二年後が目標だ。だけど本音としてはエリゴールを倒すまで三、四年はかかるんじゃないかな」

「まだまだ先ですね」

「ああ勿論。徐々に削らないと手に負えないからな」


 エリゴール。予想よりも強大な魔物のようだ。これは悪霊化も検討しよう。おそらくだが特殊な能力を持って悪霊になるタイプ。


「とりあえず今回のことでトラウマになったので暫くは表立って動きたくありません。精神を癒やす時間が必要なんです」

「そうは見えないが?」

「俺は公国の街でこのトラウマを抱えたまま、部屋に女を呼んで(なぐさ)めてもらってました。十三歳の小僧がですよっ? あっていいんすかぁ!?」

「……むしろそれは元気なのではないのかな?」


 一先ずは断っておいた。作戦会議は何度もあるようだ。またいずれ考えると返答する。少なくとも一ヶ月は行動することなく息を潜めるつもり。


「はあやれやれ。やっと戻ってきたか」


 首都スクーイトまで戻って一旦休憩。なんでも騎士学校で報告しないといけないらしい。

 まだ朝だ。報告したらすぐに聖国行きの馬車を買う。ウィンター家は経由しない。何か面倒を押し付けられる予感がしている。


「ジェイク君!」

「あらあんたは騎士隊の人」


 合同演習の騎士隊にいた学生が駆け寄ってくる。


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