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58話、公国に外道あり

 

「――少しは戻ったようですね」

「てめぇ、コラぁぁー!」


 想定よりも数ヶ月早く現れたシズカに飛び付いた。二ヶ月の集大成を神足通に見せて、大迫力に膨らむ胸へ突撃。


「ですがまだまだ弱い」


 予想通り、難なく頭を掴まれ宙吊りに。

 たとえガスコインに勝てるとしても《烏天狗》には手も足も出ない。今日も後頭部で束ねた黒髪が揺れている。目付きも鋭くて、信じ難い神秘的な美しさも健在だ。


「これではお話になりません。悪霊の方は増えましたか?」

「ヨル、オルディアス、フリード」

「……」


 無駄に踏ん張り返って報告してやると、シズカが微かに目を見開いた。流石に三体も取り戻しているとは考えていなかったに違いない。日頃の行いから幸運が重なっていたので、気持ちも分かる。


「……そちらは見事です。この短期間で二体も増やせたのなら上出来でしょう」

「もっと褒めろやコラぁ」

「――口が悪い」


 大自然さえ沈黙させる鋭い眼光で睨まれる。俺以外なら泡を吹いて気絶しているだろう。あの《烏天狗》から睨まれるのだから。今もシズカの怒りにより生き物どころか風は止まり山は静まり、川のせせらぎすら失せてなくなる。神様となにが違うのだろうか。


「早く褒めんかい、女ぁ」

「……ふう」


 効果無しなものだから、あからさまに溜め息を吐かれる。

 切れ長の目でジトっと眺め、俺を下ろして生意気にも見下ろしてくる。眉も寄せて恐ろしい限りだ。


「……よくできましたね」


 頬にキスして(ねぎら)われる。極上に柔らかい唇が日頃のストレスを吹き飛ばした。


「こういうこと。また明日からやっていこうって気になる。お返しに今から抱いてやろうかな。俺の気は乗らないけど、遠路はるばる会いに来た女のために」


 ウキウキと手を伸ばすが割と強く叩き落とされる。虫を見る目に戻ったシズカは、まるで頭を悩ませるように額に手を当てた。


「本当にあなたという人は……」

「思ってたよりずっと早かったな。でも盆栽がすぐに動けないんじゃないか? お前と会ったっていう情報が色んな国に伝わったはずだ」


 真面目な話で気を逸らす。そのあとでもう一回試す。十三歳は多感な時期だ。


「……例の計画はまだ先です。ですがその前に一度は会いに来るつもりでした。それでもまだ一ヶ月以上は先にするつもりでしたが……」

「その口振りだと予定外の事態があったんだな。で、それは俺の耳に入れたいか、もしくは力か知識が必要になっていると」

「相変わらず話が早くて助かります」


 シズカは視線で河原の岩を指した。座ってゆっくりと話そうと提案される。


「単刀直入に言います。あなたに悪霊としてもらいたい者がいます」


 岩に座った俺に、変わらず凛と立つシズカは言う。殺人鬼かそれに比肩するクズを見つけたと。


「いいぞ。どんなやつかは判断材料として聞くけどシズカが言うなら余程だな。お前が殺して死体を持って来いよ」

「できません。私は不介入を守らなければならない」


 今の発言から面倒ごとの香ばしい匂いを感じ取る。不介入と言えば国際的情勢への不干渉を示す。


「どこかの国の要人か軍関係者か。それとも貴族? 王族?」

「貴族です」


 悪事を働いているのは貴族らしい。聖国は聖母関連以外の国家運営は議員制なので外国だ。


「新聖シリウス帝国の子爵です」

「遠すぎぃ。三頭公国のそのまた上じゃねぇか。流石に行けないって」


 思わず空を仰いだ。国を二つ(また)いで北側にある新聖シリウス帝国は、言わずもがな遠い。

 しかも騎士国と異なり、三頭公国と揃って入国が非常に厳しく審査される。仮にこの両国の出入国ができたとしても履歴に残り、後々疑われる可能性もある。


「問題ありません。あなたの弟であるフーガが(おこ)した新聖シリウス帝国。交流のある国が一つだけあります。貴族は今そこに向かっている」

「……三頭公国だったかな?」

「はい。公国のトップである三人の貴族の内一人と強い結びつきがあるようです」

「ヒヒ爺じゃないだろ?」

「カワザは悪事に加担するような人ではありません」


 公国を支える三貴族の一人は《ノアの方舟(ノアズアーク)》である《狒々公(ひひこう)》カワザ。もう一人は《金羊の船団(アルゴノート)》の《山界(さんかい)》アグン。最後は人類王時代の子爵位であった人物だ。


「それはまだ分からないだろ。俺は昔を基準には考えない。立場や環境、自国の置かれた状況から考えが変わっても不思議じゃない」

「カワザは変わっていないと思いますが……それは自分の目で判断してください。あなたはそうしなければ納得しないでしょうから」


 公国は騎士国北にある。聖国の北東。行けない距離ではない。

 ただし、手段は限られる。これはシーザーによる政策が関係しており、一平民の俺では易々といかないだろう。


「……話は変わりますが、この際だれかを引き入れるのはいいのではないでしょうか」

「駄目だ」

「しかしモトイも含めて三人ではあまりに動きにくい。例えばシーザーならば信用できます」

「シズカ、駄目だと言ってる」

「……っ」


 本気の意志を込めて目を合わせる。譲るつもりがない。

 一層低めた声音から決意の固さを悟ったらしく、息を呑むシズカへ訳を説明する。


「一番信頼しているシズカでさえ最終判断のレベルだ。モトイでも半々。試している段階だ。仮に今の俺が自白剤でオードーンの()()を吐かされたらどうなる。最高位龍なんてのを手に入れたら世界はそいつの自由自在だ。俺がそうだっただろ?」

「……すみません。浅慮でした」

「シーザーも王だ。シズカが我が子みたいに愛していたのは知っているけど、自分の国を守るなら何をしてもおかしくないのが王だ。それを忘れるな」


 愛が深いシズカに、輪廻龍を引き合いに出して私情を挟むことがどれだけ危険かを説いておく。シーザーや仲間達を信じたいのだろうが、それは徹底して禁じる。


「この際だから言っておくけど、盆栽には数年は会うつもりはない。俺の情報も変わらず秘密にしておいてくれ。あいつのマナ・アーツは危険だ」

「……分かりました」

「以前の家族も仲間も今は敵だ。お前が本気で大陸を落ち着かせたいなら、奴らは全員信用するな。どれだけ人が良かろうが、どれだけ親しかろうが、もう敵なんだよ」


 俯いて黙り込んだところを見ると、反省しているように感じる。自戒しているのだろう。目を(つむ)って数秒程度の熟考を挟んだ。


「一つだけ気に入らないことがあります」

「なんだよ。俺のパーフェクトな説教のどこに指摘する点がある」


 意外にも反論が返される。予想されるのは子供達……家族さえも敵と呼んだことを叱るつもりだろう。たとえ軽蔑されても改めることはないが。優先すべきは大陸に生きる人々だ。


「――」


 驚くことにシズカから唇を寄せて、チョンと軽くキスをされる。顔を挟み持って唇を合わせられる。


「……未だに私を信じていなかったのですか? それは聞き捨てなりませんね」

「信じることにしよっかそうしよう」

「よろしい」


 シズカ必殺のデレ。これで惚れない男はいない。希少価値も高くて引き出せることは滅多にない。


「真面目ポイントが無くなったから先に抱かせてくれ」

「それは構いませんが、後でまた話を聞くこと。約束できますか?」

「分かったよぉ、聞く聞く」


 軽い返答に嘆息しながら刀などの装備を外し、上着などを脱いで情事の準備を始めた。

 この時間は例えるなら、年末のカウントダウン。優美で溌剌な花火が打ち上がるのを待つ時の気分。


「浮気してないだろうな。俺はしてない」

「私がそのような心配がいらないことは周知の事実です。あなたは部位差別だと(のたま)って他の女性にも(みだ)らなことをしていましたが」

「……」

「その沈黙。またお触りと(さえず)って、女性に手を出したのですかっ……?」


 藪蛇を突いてしまい、お触りを悟って叱責の眼差しを向けてくる。厳しい説教が始まるやもと思われたが、思いの外にシズカはすぐに視線を外した。


「……どうして私以外の女性に手を出す必要があるのですか。あなたには私がいるでしょう」


 嫉妬でほんのりと顔を赤くし、(まゆ)(ひそ)めて()ねてしまう。鼻血が出そう。


「その反応が可愛すぎて止められる訳なくね?」

「いけません。私がいるのだから他の女性に性的な行為をすることは許されない。いいですね?」

「……生意気っ!」

「んんっ!?」


 甘える嫉妬天狗が可愛すぎて生意気。なのでキスして黙らせ、服を半分だけ脱がして真っ白でど迫力な胸や尻を拝む。恥じらいから小言を言うシズカの巨乳を揉みながら、容赦なくイチャイチャの刑に処した。


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