表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/133

55話、ジジイにデレる若い女

 

「……世話になったね」


 キメラの運搬や後始末など落ち着いた頃にハフナを訪ねた。まだ丸一日しか経過していない。作業は明日からも続き、今は現状を受け入れようとしている最中だ。

 ハフナは少年少女や団員に囲まれて、サーカス団を立て直す会議を終えたばかりだった。


「大丈夫かよ」

「大丈夫なわけあるかい……一人なら何もかんも投げ出して(あきら)めてるよ……でもこの子達がいる内は(くじ)けずにやっていくしかないさ。駄目でもみんな体力はある。身に染み込むまで鍛えた技は嘘をつかないよ。働き口を探してツテを回ってみるさ」

「いいことを言うな」

「そうだろうよ……仲間もそうだが、客が犠牲になったのが辛くて死ぬまで引きずりそうだけどね」

「罪悪感を感じてるのだとしたら間違えちゃいけない。罪を背負うべきは犯人だ。理不尽に晒されたあんた等じゃない。俺でもグロリアでもない。だろ?」

「……あんたもいいこと言うね」

「おう。あんたも被害者だからな。休めるときに休みな」


 力のない笑みを見せたハフナへ背を向けて助言を送る。グロリアを連れて宿屋へ戻ろう。次にまたタリナを訪問時には、サーカス団『エピロ』が見られることを期待して。


「……あの紅い霧はもしかしてジェイクがやったのか?」

「どうやって? 王器もないのにできるわけないよな」

「そうなのだが他に可能性がないだろう……説明ができない」

「利用したのは俺だけど霧は俺じゃねぇよ。自然現象を作り出すなんて、天使じゃあるまいし」

「……それもそうだな。考えすぎていたらしい」


 勘のいい女だ。広場を行きながら若い女を連れ歩く。時刻は夜。帰宅は明日の朝になるだろう。リュートが暴れる様が頭に浮かぶ。今から恐ろしくはあるが考えないことにしよう。


「……」


 キャロルの言っていた《八頭目》という組織はキメラの魔術を使えることもあって、必ず壊滅させてやる。

 尋問して得た情報は騎士国にも共有されると聞いた。潔癖なシーザーも動くだろう。最終的な目的が不明だが、俺の遺産を集めている風なことを言っていた。やはり世の大多数と同じく、悪霊を手に入れたいのだろうか。

 危険な悪霊はまだまだいる。中にはオルディアスやヨルよりも強く、フリードよりも凶悪な能力を持つ悪霊もいる。俺以外に取り出せるとは思えないが、始末しておくに越した事はない。


「流石に疲れたか? 昨日は事件で、今日は後始末の指示だ。今夜は宿屋でゆっくり休んでくれ」

「それより腹へった。とりあえず解決はしたし、なんか美味いもんでも食うか」


 まだ未知な部分が多く、情報がなければ動けない。奴等は腹立たしいが、謎の組織について当面は聖国と騎士国に任せよう。

 俺の目標は変わらず悪霊回収と鍛錬だ。


「いやぁ、それにしてもいいコンビだったな。謎の悪党共の手がかりに加えて、とんでもないキメラを倒したんだから上司にも褒めてもらえるぞ」

「ジェイクから褒めてもらいたいものだな。そちらの方が自分としては誇らしい」

「……!?」


 騎士然とした凛々しいお姉さんが甘えてくる事件が発生する。浮気警報が発令されています。しかし冗談を言っているのだろうがジジイたる者、()められてはいけない。

 シャキっとした顔で横目を見上げ、大一番を決めてみせた騎士を褒めてつかわす。


「一緒にいたのがグロリアでよかったぜ。またなんかあったら頼むわ。グロリアが隣にいてくれたら、ほんのちょっぴり頼もしい」


 感謝の意を形ばかりだけ込めて言葉を贈る。実際グロリアの活躍は大きい。実力派で雷霆技の威力も高くて助かった。


「ぷにぷに、ぷにぷに」

「……」


 耳たぶをぷにぷにして鼓膜辺りから脳へ振動を送り、触覚でも感謝を伝える。引き締まった表情が崩れて驚いているが、柔らかくて止まらない。


「……すまない。ジェイク……」


 他人の耳たぶに夢中になっている手を取られる。包み込まれた手をそのまま繋いで向き合った。真面目な顔付きのグロリアは、それでも悩ましげに顔を赤らめて言う。


「……愛している」


 愛されちゃった。


「なので任務通りにアプローチをする事にした」

「光栄だな。でも二日で判断するには早くないかな? 恋に恋する青春女子なんじゃないかな?」

「時間も大切だが、それはどれだけ相手のことを知れたかが重要だからだろう? ジェイク以上に尊敬できる人はいない。一時の恋愛感情もあるのかもしれないが、尊敬できる相手かどうかはそれよりも大切だと考えている」


 理解はできる。他の誰でもない俺なのだから。うんうんと頷く。


「でもまぁ、俺には彼女がいるしな」

「まだ婚姻が成立したわけではないだろう? 別れることだって考えられる。そのまま続く方が珍しいとも聞く」

「普通に考えたらそうだろう。兄貴なんて毎年、違う女と歩いてる」

「それに認めてもらえるなら……愛人でも構わない」


 相変わらずの大真面目な顔で何を言うかと思えば、愛人申請を届け出たいと言う。《烏天狗》窓口までお問い合わせがあるらしい。


「あの嫉妬女が許すとは思えないけどなぁ。いやでも、基本的に俺以外には砂糖より甘いから有り得ないとも言えんな」

「そうなればその時に考えよう。私はどちらにしてもジェイクを振り向かせる努力をするつもりだ。なによりもジェイクに愛されなければ意味はない」

「それは確かに一番大切」


 前提として俺が好きにならなければならないことを忘れていた。基本的にお触りに限れば、来るもの拒まずだった前世が災いする。

 配下の審査を通った女ばかりだったという理由もある。むしろ子供を作れと急かされていた。その子供と配下が揃って大陸で暴れ回っているわけだけれども。


「それでなにをしてくれんの?」

「まずは……市場を改めて見て回ろう。逢い引きとしてな」

「いいね。羊肉リベンジだな」


 これは浮気ではない。約束した以上はグロリアに誘われようと浮気はしない。これは接待という。バッハ達から受けてグロリアを拒否はできない。


「では行こう」

「よし行こう」


 この腕を絡められるのは俺が疲れているから。まずお触りまでは握手と同じだから。部位差別はしない主義。


「もうすぐ聖国祭がある。ジェイクと過ごせたら楽しそうだな」

「聖国祭か。聖国祭は事件とか起こらないだろうな……」


 立て続けに事件が起きている。聖国祭くらいは穏やかに過ごしたいものだ。


「……」


 凛々しく背筋を伸ばして歩むグロリアを見上げ、昔だったら失神する女ばかりだったのに……と一般人化した事実を再認識する。などと、しみじみ思っていると、グロリアは胸に手を当てて小声で呟いた。


「……こうやって恋人のように歩くのは、思ったよりもドキドキするものなのだな」

「初々しっ! 何それガキの恋愛みたい!」

「ジェイクは十三だろう?」

「最近の十三歳児は進んでんだぞ」


 美乳と美尻の二択で迷い、グロリアの引き締まった尻を揉んでみる。人妻達と比べると……若過ぎて指が跳ね返って来る。張りが凄い。でもこれはこれでとも思えて来たような……。


「……!? ……こら」

「あふん」


 軽く飛び上がったかと思えば、耳を軽く引っ張られるだけで終わる。羞恥に顔を赤くして、「悪戯は程々にだぞ」と満更でもなさそうな顔と物言いをしている。もうこいつに何やっても許される気がする。

 こうして実家に着くまで、毅然とする女騎士とイチャイチャしながら楽しんだとさ。


2章終了!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ